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龍樹――ユグドラシル


「出てきたのがユグドラシルで正直、焦ったが、なんとかなるもんだな」

 

 権能の一撃で倒せた。

 

 拍子抜けするほどにあっさりとだ。

 

 記録にあったのと同名で実は別の厄獣だっただけなのかとさえと疑ってしまう。

 

 『曙』のメンバーが何故倒せなかったのか疑問になるくらいあっさりとだ。

 

 にしても――。

 

「亀裂がおさまらない?」

 

 生き残った冒険者の誰かの声が嫌に響いた。

 

 不気味な輝きを放っている空は相変わらず変化していない。

 

 ユグドラシルを倒した――はずだよな?

 

 俺が振り向いた途端、それが起きた。

 

 ドクン――!

 

 メリメリと焦げた部分を吹き飛ばし、恐ろしい勢いで幹が天へと伸びあがったのだ。

 

 まるでマグマが噴き上がるかのような勢いだ。

 

 樹齢数千年はあろう巨木が瞬く間に育ち、その先端は禍々しい龍の顔へと変化していた。

 

 そのまま重力に引かれるように胴体から上を大地におろして、俺達を見下ろしている。

 

 しかも、首が九本。

 

 まるでヒドラだ。

 

 さっきとは違う明確な憎悪を宿した赤い瞳が俺を見据えている。

 

(さっきのが第一形態ってか! ざけんな!!)

 

 そんなゲームのラスボス展開は求めていない。

 

 倒したならそのまま倒されとけと叫びたい。

 

 だが、現実は無慈悲だった。

 

 ゴォルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!

 

 天地を揺るがす咆哮をあげ、ユグドラシルが動く。

 

 巨大な腹に削られた大地は大河の水が干上がったかのように深い溝になっていた。

 

 あんな重量で轢かれればミンチになるのは免れまい。

 

 くそっ!

 

 本格的にまずいぞ!

 

 正直、戦えそうなのが俺しかいない!

 

 しかも、権能はあと一発が限界だ。

 

 それも通じるのか保証がない。第三形態とか出てきたら詰む。

 

「くそっ! 雷龍の羽衣!」

 

「――雷光龍の羽衣!」

 

 背後で急激に魔力が膨れ上がった。

 

 見れば、俺と似たように魔力を纏っているティアがいた。

 

「妾も加勢するぞ! 首を狙え!」

 

「! わかってる!」

 

 俺とティアは同時に踏み込んだ。

 

 魔法はティアの方に一日の長がある。

 

 ティアの方が速いが、ユグドラシルとの距離が近い分で俺と並んだ。

 

「ガァァァァァ!」


「ラァァァァ!!」

 

 金色の雷を纏った俺達は弓矢のようにユグドラシルへと迫る。

 

 直後に頭上に落ちていた影が蠢いた。

 

 食い千切るなんて生易しい。

 

 圧倒的な重量で押し潰し呑み込まんと口を開いた頭が四つ。さらに左右からティアと俺をまとめて潰さんと迫る口が二つ。

 

 計六個の洞窟のような口が迫ってきたのだ。

 

 回避できそうにないぞ!

 

「くそっ!雷龍の鉤――」

 

「雷光龍の咆哮!」

 

 迫ってきた頭を切ろうとしたが、それを阻むように、ティアの最大火力のブレスが纏めて四つの首を消し飛ばした。

 

 これが本来の龍のブレス。

 

 とんでもない威力だ!

 

「足を止めるな! 死ぬぞ!」

 

「わかってる!」

 

 そのまま走る。

 

 直後に強風とともに、背後を身の丈ほどもある太い首が掠めた。

 

 少しでも足を遅くしてたら、左右からの口で挟み潰されていただろう。

 

 ティアが魔法を使ってなかったら、走る速度が落ちて巻き込まれてた。

 

 グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!

 

 首を跳ねられた痛みか怒りか残る三つの頭が荒々しく吼え猛る。

 

 だが、それよりも驚いたのは頭を消されたはずの四つの首だ。

 

 高密度の雷に焼かれて炭化していたはずの頭がみるみる再生している。

 

 ヒドラって傷口を火で炙ったら再生しないんじゃないのかよ!?

 

 だが、火属性だろう太陽神の槍でもユグドラシルは倒せなかった。

 

 炭化するレベルでも倒せのは道理か――。

 

 それこそ分子単位で消す必要がある。

 

 だが、なんで異能力集団の『曙』がこいつを仕留められなかったのかわかった。

 

 再生能力が桁違いだ。

 

 頭を潰されて、即座に再生。大地を溶かす熱量を受けても復活となれば倒しきれまい。

 

 しかも、この巨体――。

 

 あっちの世界の人間なら掠めるだけでも手足がもげるだろう。

 

 権能持ちは限られてるし、さらに火属性の権能があるかなんて記録にもなかったしな。

 

 もしかしたら、北欧にはいなかったのかもしれない。

 

 権能の範囲外にいた魔法使いが、援護射撃をしているが、まったく効いてない。

 

 氷の矢は分厚い皮膚に傷すらつかないし、水の刃でついた浅い傷は瞬時に回復している。

 

 電撃も効かないし、斬擊も再生可能。水も氷も効果なしって無理ゲーだろ。

 

 弱点が火だとわかっても、回復力が高すぎて通じない。

 

「頭が無理なら胴体を叩いてみよ!」

 

 ティアも頭の再生能力に驚愕しつつも怯まずにユグドラシルに攻撃をする。

 

 俺も攻撃した。

 

 MPの減りも気にせずにとにかく攻めた。

 

 迫ってくる頭を何度か切り飛ばし、鱗を抉り、胸や脇腹なども切り裂いた。

 

 だが、それらは数秒もしない内に塞がり、しかも、時間を追うごとに硬くなっている気がする。

 

 不死身で時間経過による強化ってどんな鬼畜なんだよ!

 

 思わず叫びそうになる理不尽さだ。

 

 ガァァァァァァァァァ!!

 

 ユグドラシルも羽虫のように邪魔な俺達を叩き潰せずに苛立っていた。

 

 雷龍の羽衣で反応、動体視力、身体能力があがっているので、なんとか避けられてるのだ。

 

 最初のような全方位への杭などはしてこずに噛みついたり、首を振り回す単調な攻撃なので、今のところは無事と言えよう。

 

 だが、この攻防――じり貧なのはこちらだ。

 

 MPがつきて、雷龍の羽衣が消えたら――。

 

「撤退だ! 一旦下がるぞ!」

 

「わかった!」

 

 ティアもそれを思ったのかあっさりと同意してくれた。

 

「眼を閉じよ! 雷龍の威光!」

 

 ティアが掌から眼をくらます光を放ち、その間にユグドラシルから大きく距離をとったのだった。

 

 

 


 

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