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魔王種


 バイオプラントナイト――レベル50。

 

 ……レベルだけなら俺より強いぞ。

 

 どうやら、こいつに足止めされたようだな。

 

 バイオプラントナイトは警戒するようにこちらに身体を向けた。

 

 さらに腕を肩から生やし、大きく膨らんでいく。

 

「下がってくれますか?」

 

「え? あ、は、はい……」

 

 Aランクパーティーの戦士っぽい女性は何やら顔を赤くして素直に下がってくれた。

 

 何かしらの状態異常にでもかかってたのか?

 

 バイオプラントナイトのレベルならAランクパーティーなら余裕で突破できたのに、できてなかった。

 

 何かしらの特殊能力があると見ていい。

 

(SPを気にせずに権能を使うか? 一撃で倒せるなら使うべきなんだが――)

 

 神殺しの勘が使うなと訴えかけている。

 

 あの種が気になるのだ。

 

 それに、SPの縛りがあるので乱発できない。

 

 だが、足踏みしてる時間はない。こうしてる間にも被害が広がっているのだ。

 

「進! あれは私が相手をします! ティアとあなたは進みなさい!」

 

 マーリンの声とともに水の刃が走り、バイオプラントナイトの身体を斜めに切り落とす。

 

 ズルリ、と音を立てて地面に落ちた上半身と微動だにしない下半身だが、斬られた部分から蔦が延びあって何事もなかったかのように繋がった。

 

 なんつー再生力だ。

 

「不死身かよ……」

 

「驚くな!粉々になって再生できる魔物はおる。あの程度何てことはないわ!」

 

 ティアが活を入れるが、俺の世界なら即死ものだ。

 

 プラナリアもどきはそんないて欲しくない! 何てことある!!


「それより、あの体液。気化性じゃな。煙に触れれば何らかの状態異常を受けるぞ!」

 

 再生能力に状態異常は面倒だな。それで、攻めきれなかったのか……。

 

 だが、

 

「それは問題ないぞ。ティアは大丈夫なのか?」

 

 俺に状態異常は効かない――はずだ。

 

「ふん! 誰に向かっていっておる。妾は最古の龍種ぞ?」

 

 傲然と言い放つティアは見た目とは反した威厳があった。

 

 そこまで言うなら心配は余計か。

 

「そんじゃま……いくか」

 

 俺が拳を鳴らして犬歯を剥き出しにして笑うとバイオプラントナイトも迎え撃つように肩口からさらに腕を増やした。

 

 蔦が絡み合いより身体が歪に巨大化している。

 

 かかってこいと言いたげだな。

 

 悪いが、お前は眼中にねえ。

 

「悪いがお前の相手は俺たちじゃねぇんだよ」

 

「アハルフロストシール!」

 

 マーリンが背後で唱えた魔法により、バイオプラントナイトの足元から霜が走り、一気に凍結させていく。

 

 だが、バイオプラントナイトは即座に凍結してない部分を自ら切断。登ってきた凍結部を切り離して全身を凍らさせるのを防いだ。

 

 大地に落ちた上半身が再生し、大地に根を張って体勢を立て直すまでわずか数秒――。

 

 だが、俺とティアがバイオプラントナイトを通り抜けるには、それで十分だ。

 

 背後で今度は火の手があがるが振り返らない。

 

 マーリンが必ず倒すだろうから。

 

 そのまま俺とティアは種の下まで到達した。

 

「でかいな……」

 

「人の身だと尚更よな」

 

 俺とティアが見上げるのは巨大な植物の種だ。

 

 世界樹でも育つのか? とも思えるそれは近づくほどにその威圧感を増した。

 

「何が育つか知らんが、モノは試しだ!雷龍の鉤爪!」

 

「雷龍の閃擊!」

 

 俺とティアの斬擊。

 

 バイオプラントナイトを容易く切り裂けるだろう双擊は表面を軽く傷を着けただけで弾かれた。

 

「恐ろしく硬いのう」

 

 ティアは弾かれた手を痛そうに振って呟いた。

 

 確かに硬い。

 

 鉄とか比じゃない硬さだ。

 

 どんな植物なんだよ。

 

 こいつは今のもってる魔法だと通じそうにない。

 

「硬いだけなら貫けるか?」

 

 俺は右手を種に押し当てて――。

 

「炎神の息吹」

 

 ジュゥゥゥゥゥ!と中華鍋に油を広げたような音がしたが貫けない。

 

 僅かに溶けた表皮だが、下には分厚く太い繊維の束がみっしりと詰まっていた。それがモビーディックの体毛と同じようにこちらの異能を防いでいるのだ。

 

 分子振動が通じない。

 

 物理的に万物を溶解させる異能力が通じない。

 

 物理法則ではない何かに防がれている。

 

 魔法世界だからさもありなん。だが、こっちならどうだ?

 

「重星」

 

 僅かに見える繊維の中へ超重力の玉を生み出す。

 

 幼体とは言え、モビーディックの身体を抉った威力のある技だ。

 

 何かがひしゃげるような音とともに繊維が引きちぎれる音が聞こえてきた。

 

 このまま重力球を広げていけば、内部から押し潰せる。

 

 最悪、暴食の虚無で食いつくすのも考えたが、SPが絶対足りないのがわかったので、よかった。

 

 動かないならこのまま倒せる。

 

 そんな甘い考えが俺の脳裏を過ったが、直後に後悔することとなった。

 

 突然、種の上部が弾けとび、新たな滅獣が姿を現したからだ――。

 

 グルォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 

 世界に轟かすような咆哮に雲が吹き飛び、遥か下にいたはずの俺達までも鼓膜が破れそうになり、思わず耳を防いだ。

 

 種が急速に色を失い、崩壊する中で新たな生命が芽吹いたのだ。

 

 直後に全てのバイオプラントナイトとプラントバードが絶命した。

 

 いきなり生命を吸い付くされたように色を失い、カラカラに干からびたのだ。

 

 ユグドラシルに命を吸われたかのように――。

 

(孵化するまでの時間稼ぎだったのか!?)

 

 全身が樹でできた竜に見える。

 

 彫刻ではなく、木々が奇跡的な育て方を何万年も経てそうなった様な、樹そのものが意思と命を得たかのような神々しさすらある。

 

 同時に俺はこの滅獣の姿が記憶にあった。

 

 かつて、歴代の『曙』が戦った記録に画像があった。

 

 たった一度だけ現れ、都市三つを廃墟に変えた後に忽然と姿を消した最強種――魔王種の称号を与えられた一体。

 

 ユグドラシル。

 

 世界樹の名を冠せし、人類の天敵。その王が俺達に再び牙を剥く――。

 


 

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