開戦
ガラスを叩き割るような音が何処からともなく鳴り響き、空の青色が割れた。
まるでキャンパスを後ろから破るように楕円系の裂け目が生まれ、みるみる広がっていく。
前回参加してみたものは顔を青くするもの、憎々しげに空を見上げる者がいるが、今回初めて参加する冒険者は根が生えたように動かず、それを見上げていた。
「みなさん! きますよ!」
この集団の中で最強の冒険者、帝国が誇るAランクパーティー『白い百合』のリーダー――ケーティアが叫んだ。
彼女の声に呆然と空を見上げていた冒険者も正気に戻る。
魔法使いは各々が詠唱を初めて魔力を練り上げだした。
先手必勝。
亀裂から魔物が出てきた瞬間に叩くつもりみたいだ。
亀裂は外側からの圧を受けるかのように広がり――。
幾重にも重なる色の次元の裂け目から異形の魔物達が噴き出してきた。
ゴッ!
さらに遅れて、雲を引きちぎるように巨大な魔物が姿を見せた。
「な、なんだあれは!?」
誰かの叫び声が聞こえたが、俺も同じ感想だ。
目玉――に見えたが、違う。
種だ。巨大な植物の種。
それが地面めがけ隕石の如く落ちてきたのだ。
大気との摩擦に紅の閃光をたなびかせ大地めがけて落下してくる魔物の巨大さと速さに対応が遅れる。
一拍遅れて号令がかかった。
「撃てぇぇぇぇぇ!」
その遅れは致命的だった。
放たれる数多の魔法は莫大な速度を得た種子の表面をサイズが削るがでかすぎる。
優に50メートルはある。
モビーディックの成体にも匹敵する大きさだ。
それを楯に魔物達が次元の裂け目から攻めこんできた。
そして、着弾。
凄まじい地響きと共に巻き上げられた土砂が津波のように俺たちを飲み込まんとする。
「ツァールストルネード!」
それをマーリンの産み出した竜巻が何本も現れ、壁のように迫っていた土砂にぶつかって相殺。
土砂が霧のように広がり、散っていく。
クァァァァァ!!
植物の蔦や花を組み合わせたような鳥形の魔物がこちらへ襲いかかってきた。
開かれた口はラフレシアのようで円形の口にはびっしりと鋭い歯が生えている。
プラントバード――レベル25。
この間の赤蛇盗賊団よりも強いじゃねぇかよ!?
「雷龍の鉤爪!」
縱一線の一撃でそれを輪切りにした。
ん? レベルの割りに弱いぞ?
しかし、本家のティアはそれを見て不敵に笑い、
「まだまだ甘いの」
「なに?」
「見ておれ! 雷龍の閃擊!」
俺と同じように手に雷撃を纏わせたティアが手を軽く振るうと、軌道上のいたプラントバードが二十体近く斬り倒す。
魔力を極限まで鋭く薄くして放ったのか。
薄くすることで切れ味を増すのは刃物と同じか。しかも、消費魔力を抑えて、攻撃範囲も広げたようだ。
今の俺には真似できないな。
魔力制御は下手って言われたし。
紫色の体液を撒き散らして絶命するが、まだ百匹はいるぞ。
「高火力の魔法で薙ぎ払いなさい! 戦士職の者は援護を! プラントバードの撃破を頼みます。私達はその間に滅獣のボスを倒します!」
戦場でも透き通る声に他のメンバーも連携をとってプラントバードを倒していくが倒しても倒しても空から出てくる。
「ギャァァァァ!! 」「突くな!得物ごと呑まれるぞ!」「色違いの体液に気を付けろ!」「鎧が溶けやがった!」「状態異常のポーションを使え!」
そこら中で、悲鳴と怒号が聞こえてくる。
クソ!
『隔界』だと少人数戦だった。これほどの数での戦闘は勝手がわからない。
加勢にいけばいいのか? だが、下手に加勢して他のパーティーの連携が崩れれば、さらに苦境に陥らせてしまうし、俺が勝手に動いてティアやマーリンとの連携を崩すわけにはいかんし……。
それにあの種だ。
半分近く地面に埋まっているが、落ちてから動いていない。
あれは何故かステータス魔法でも、レベルや名前がわからない。
沸きだす魔物がプラントバードしかいないなら、あれがボスの筈だ。なぜ動かない。
色違いのプラントバードはレベル30と高い上に倒すと体液を撒き散らして状態異常を引き起こしにかかる厄介な魔物だ。
あれに歴戦のパーティーも苦戦している。
集団で襲いかかる上にレベルも高く、倒すと状態異常のおまけとかたまったもんじゃねえぞ。
しかも、ゲームと違って倒してから一旦回復アイテムを悠々使う余裕はない。
次から次へと殺到してくるのだ。
今回ボスを撃破する役目の『白の百合』と『漆黒の狼』は何をしてるんだ?
このままだと被害が広がる一方だぞ!
ティアもマーリンも同じ考えなのか目が合うと小さく頷いた。
「進、援護は任せてください」
「滅獣を倒すのは勇者の役目じゃろう。早く片付けてこい」
「お前ら――」
マーリンもティアも笑いながら背中を押してくれた。
そうだな。俺はその為にこの世界に召喚された。
役目を果たすのは今だ。
あれが厄獣である以上、逃がすという選択肢もないしな!
「いくぞ! 援護頼む!」
「えぇ、任せておきなさい!」
「うむ!」
俺達は群がるプラントバードを撃破しながら巨大な種子の下へと走るのだった。




