準備
早朝――。
未だ太陽が昇らぬ時間に、都市の正門付近には無数の者たちが集まっていた。戦士、魔法使い、神官、盗賊。ほぼ全員がそのどれかの分野に属している者ばかりで、その道に長いのが人目でわかる。
最後に到着した俺達を含めてその数は数は十二名。
ハックは五人。ドーガは四人だ。
俺達のところが、一番少ないらしい。
だが、数は問題ではない。
この場にいるその人数こそ、決戦のために選ばれた、帝国でも腕に自信のある冒険者なのだから。
依頼を受けた冒険者のハックとドーガのメンバーは互いに知ってるのか装備を軽く見た感じで、俺達に視線を向けた。
この若造がと、こんな若さで、見慣れぬ装備だ、何者なのか、実力は本物なのか……様々な感情がこもった視線で、これだけあると壮観なものがある。
「…………」
「…………」
「…………」
会話は特になく、それぞれが用意された竜車に乗り込んでいった。
やはり、今回は急ぎらしく地竜で行くようだ。
地竜はティアを見た瞬間にギョッとした顔をしていた。どうやら、竜にはティアの正体がわかるらしい。
地竜が言葉が話せなくてよかったと思う。
ひれ伏しかねない勢いでティアにお座りしていたからな。
挨拶もなかったが、昨日今日で連携をとるほどの腕が俺にはないし、構うまい。
「あれがこの都市のトップか?」
鎖かたびらにホットパンツと恐ろしく軽装なティアが呟いた。
せめて鎧でも着ろと言ったが、魔力そのものが防御力になるので、不要らしい。むしろ動きが鈍るからと怒られた。
これから怪物退治にいくには見えない。
「副都のって言ってた気がするな」
「あぁ、帝都は東西南北に四つの副都があるんですよ。それらの支配圏があるので、彼らは南エリアを代表するメンバーと言ったところですね。副都は地方から見れば帝都に近い機能を持ってるので、かなり大きいで、それぞれ四大諸侯と呼ばれる大貴族が治めているのですよ」
説明好きなマーリンが蘊蓄を語っていた。
「にしても、たった三組とは正気か?」
ティアは眉をひそめていた。
いくら被害が大きかったと言ってもこの数でどうにかなると思っているのだろうか、と。
「各地から集めるみたいだし、今回は質で攻めるんだとよ。すでに何組かは出てるらしいし、後発組なんだろ?」
「我々は栄えあるそのメンバーですか。光栄ではありますね。とはいえ、Aランクパーティーは二組だと数は少ないでしょうね。先の亀裂の魔物がかなり強かったのでしょう」
「だが、目的には大きな一歩だぞ」
これが上手くいけば皇帝に謁見する機会があるかもしれんからな。
「わかってますよ。さて、我々もいくとしますか」
マーリン、ティアに続いて竜車に乗ると、地竜が走り出した。
軽快に車輪が回り、旅路を行く。
旅路は順調だった。
俺は竜車に張ったハンモックで寝て、マーリンは何やら薬の調合。ティアは地竜にじゃれたりして時間を過ごしていた。
そうこうして2日――。
途中で幾度も補給をしながら、俺たちがついたのは、再びブルースフィア王国国境だった。
バーニア平野には思い思いテントがはられ、百人ほどの冒険者がいる。
荒くれで、鍛え抜かれた集団はギラついた眼差しで得物を磨いたり、仲間で陣形を確認したり、訓練しあったりしていた。
これらが全員が熟練の戦闘集団と思うと壮観だな。
「我々もテントにいきますか?」
「そうだな」
「うむ」
俺達は兵士に案内され、荷物を置きにいった。
亀裂の魔物がいつ現れるかはある程度しかわからないので、時間までは確定していない。
前の話だと、唐突に滅獣が現れたそうだ。
なので、手合わせなどはせず、軽く武器を打ち合う程度のウォームアップに留まっていた。
俺達は英気を養うといいつつテント回りを見て回ることにした。
商人も武器やらマジックアイテムを販売に露店も出てる。
滅獣がくるってのな逞しいな。
「おぉ! アクセサリーも販売しておるな!」
ティアも女の子だな。と思ったが、光り物なら大概目をキラキラさせるので、そうでもないのか?
俺もつられて見てみたが驚いた。値段に。
パーシヴァルで売ってるアクセサリーの四、五倍はするぞ。
ぼったくりかよ。
思わず非難するような眼差しを向けてしまうと恰幅のいい店員は何故か笑って、
「お客さん、勘違いされないでくださいよ。ここにいる商人は皇帝陛下の許可を得て販売してます。今回は国の最有事とのこので、最高品質のアイテムを用意したのです。これでも勉強させていただいてるのです」
本当か、と思ってよく見るとポーションの値段とかは都市よりも安い。
「進は目利きはもっておらんのじゃったな。安心せい。どれも一級品じゃ」
ティアはぼったくりではないのが、わかっていたらしい。
アクセサリーのデザインは似てるが、付与効果や材質が段違いでいいそうだ。
それでこの値段なら良心的らしい。
「気に入ったなら買ってやろうか?」
「よいのか!」
満面の笑みでこっちを見るティアはまじで可愛い。
花が咲くように空気が華やかになる。
よし、今までの依頼の報酬はかなりあるし、どれでも買ってやれる。
ここは奮発してやろう。
「……どれがいいんだ? なんでも買ってやる」
「そうじゃな――これがよい!」
ティアは暫く手にとって吟味していたが、赤い宝石の指輪をとった。
燃えるような炎の色は角度を変えると緑色に変わった。
アレキサンドライトみたいだな。
「わかった!」
値段は――まぁ、割愛しよう。
あっちの世界ならまず買えない値段だった。
ホクホク顔のティアはそれを大事そうに指に嵌めて笑っている。
こうして見てるとまるで子供だな――。
◆
その後、今度はマジックアイテムが置いてある店へと向かった。
マーリンはマジックアイテム一つで生死を分けることは日常茶飯事なので、絶対に見ておくように言われている。
「インスタントスクロールはほぼ売り切れですか?」
「さすが、高位冒険者様々だね。みんな気にせず買ってくれたよ」
魔女っぽいおばちゃんは懐が一気に暖まって満足げで、この戦いに役立ちそうな店の商品もほぼ売り切れらしい。
ほぼ、商品がなくなったので店じまいして退散する勢いだし。
まぁ、戦闘要員じゃないから咎める人もいないしな。
「インスタントスクロールってなんだ?」
耳慣れない単語を訊ねると魔法屋は首を傾げ、
「インスタントスクロールを知らないのかい? Bランクに上がるまでマジックアイテムはどんなの使ってきたんだい?」
逆に聞かれた。
「彼は私の弟子なので、あまりマジックアイテムを買いにいかせたりはしてなかったので、教えてなかったんですよ」
返答に困っているとマーリンが助け船を出してくれた。
インスタントスクロールとは魔法修得のためのものではなく、魔力を込めたら誰でもスクロールの魔法を使えるものらしい。
ただし、使い捨ての上に高価なので、なかなか手は出せないものだそうだ。
それを使う状況に陥らないよう立ち回るのが上級者だと言われた。
今回は撤退もできないだろうから、念のためと多くのパーティーが買いにきていたんだと……。
残念ながら俺達の分はなかったが、それでも、MP、HP回復のポーションやらステータスアップのアクセサリーも揃えれたし、準備はそれなりにできたと思う。
SP回復薬は残念ながらなかった。
この世界だと異能持ちの勇者しか需要がないだろうし、仕方ないか。
後は時がくるのを待つだけだ。
そしてその時はすぐに来ることとなった――。




