レティシア・ブルースフィア
赤蛇盗賊団に聞き取り――もとい、マーリンが尋問した所によると、彼らは元々はこの周辺では中堅冒険者だっだが、亀裂からの滅獣によって村が壊滅し、故郷の家も家族も財産も失い、村を守らず、魔物のもおざなりにした滅竜教会の勇者――ユーリと国に怒り、犯罪に走ったらしい。
このままだったら敵国のなってる共和国に姫を手土産にして亡命するつもりだったそうだ。
あのアビスという男が考えた話で、姫を捕らえたのもあの男らしい。
仲間になったのはごく最近で、仮面の下は見たことがないそうだ。
マーリンもティアも衣服を操作して操る魔法は知らないって言ってたな。
使徒って単語も特に知らないそうだ。
ちなみに国境へ繋がる道は昔の落盤事故で閉じられていたが、ぶち破ってきた。
赤蛇盗賊団は縛りあげてアジトに転がしてある。
後でスティファノが騎士達と捕まえに戻ることになっている。
「懐かしのバーニア平野ですね」
塞がれた道を開いて山から出ると、俺たちの前にはだだっ広い平原が広がっている。
だだっ広い平原は開拓でもしたらいい穀倉地帯になりそうだ。
近くには川も見えるし。
と思って聞いたら、昔は穀倉地帯だったが、国境の小競り合いで収穫時期にはいつも火の海になるため諦められたらしい。
その放置された跡地だそうだ。
この山の半分が今の時代の国境で、すでに帝国に入ってる。
「本当に私達を解放してよろしいのでしょうか?」
俺たちの後ろで不安そうに訊ねたのはブルースフィア第一王女――レティシア・ブルースフィアだ。
年齢は十二歳くらいで、顔立ちも幼い。
クリクリの青い瞳とそれにあった青い髪をしている。
今は疲労と緊張で荒れた肌や土で汚れてしまったドレスで台無しだが、研けば輝く原石だな。
このまま人質にする手もあるが、それだと完全に犯罪者にされてしまう。
帝国とはそれなりに仲がいい国らしいし、それが原因で帝国までも敵になったら目も当てられない。
「俺たちが無実だってのは、わかってくれたんだろ? それに国内で指名手配と冤罪の証明を働きかけてくれるなら構わないよ」
「神条進殿、マーリン殿、ティア殿、あなた達には感謝してもしきれない。この命をかけて約束しよう」
「私も恩には報いよと教えられております。必ずあなた達にかけられた罪を晴らしてみせます。母上もにとりなしておきます」
ん? 母上??
「お…………」
聞こうとしたが、スティファノとティアはそれぞれ、騎士と貴族の礼をしたので聞きにくい。
なんか完全にこのまま別れる流れだし――。
無実を証明すると約束した二人の瞳にはさっき捉えられている時とは違う強い光がある。
この二人は信用しても大丈夫だろう。
指名手配じゃなかったら砦まで送れるが残念ながら難しい。
スティファノは廃坑から出たら狼煙をあげて救助を呼ぶそうだ。
俺達は彼女達が出た頃を見計らって再び廃坑を塞ぐ。
元々、塞がってたし、この道をやつらも使ったとは思うまい。
盗賊団が俺たちについてゲロったとしてもその頃には帝国領なので、手出しできない。
これでブルースフィアとはおさらばだな。
二人が廃坑に戻っていくのを見送りながら俺は思い切り背中を伸ばし――。
「とりあえず目標達成だな」
「まぁ、無罪は晴らせてませんけどね」
「滅竜教会をどうにかせねばそれは不可能じゃろうな」
そう――とりあえず安全域に入れただけで問題は何にも解決してない。
だが、大きな協力者も得たし、今は忘れてもいいだろう。
俺が戦うの亀裂の魔物――厄獣であり、目的は元の世界に戻ることだし。
もしかしたら、帝国から元の世界に帰れるかもしれないしな!




