赤蛇盗賊団
大きく広けた場所は盗賊団のアジトの最下層で、四人の男達が酒盛りをしていた。
その奥には大きな檻に捕まっている――王女がいた。
なんつーベタな。
「さぁ!俺たちの勝ち組人生に!」
「乾杯!」
「ヒャハハハ!」
「………………」
盗賊団は油断して酒を飲んで大声でしゃべっている。
クククク馬鹿め……残念ながら勝ち組にはクラスチェンジさせるつもりはない。
マーリンに手で合図すると地面に手を当てて――。
「ゼクスアースウォール」
マーリンの魔法が発動した瞬間、大地が脈動したように波打った。
ゴゴゴゴ……と地面が揺れだした。
「ん? なんか揺れてるのか?」
ボスと思われる眼帯の大男が首を捻っていた。
筋骨隆々のボディービルダーみたいな体系で強面のハゲ頭に無精髭と山賊を絵にかいたような見た目だ。
まさに典型的な盗賊だな。
「酔いすぎですかね?」
大男にいたネズミっぽい男は濁った目で辺りを見回していた。
大男とは真逆で線は細くガリガリの男は何かに怯えているようにビクビクしていた。
「これは――いけません! 魔法の気配!」
太ったローブをきた魔術師っぽい男がだみ声で叫んだがもう遅い。
俺と四人の盗賊団を囲むように土の壁がせりあがり、王女を奴等から分断する。
「閉じ込められたぞ! トード!!」
大男がメイスを握りしめて吠えた。
「スネーク様! 敵襲です!」
「知っとるわ! ラットの馬鹿者!」
盗賊のお頭はスネークと言うのか……。
となるとひょろい男がラットかな?
蛇にカエルにネズミか……。なら、全然会話に参加してない覆面髑髏はマングースとかか? 蛞蝓もありうるか?
……全部仲の悪い生き物じゃねぇかよ!
ネタのような名前に吹き出しそうになる。
「ふん! この塒を見つけたのは誉めてやろう。だが、一人でノコノコ現れ、自ら壁の中に入るとは自殺行為もいいとこだ!」
スネークの言うとおりだが、内部に魔法使いがいれば、土壁に穴を開けてでれる可能性もあり、内部に詳しいこいつらなら俺たちが王女と女騎士を連れてる間に追い付けるかもしれない。
抜け道とかあるかもだし。
なので、こいつらを戦闘不能にするか、足止めしておくのは必須らしいのだ。
遠距離からの奇襲でもよかったが、マーリンは俺がこいつら倒すのが必要だと言ってた。
それに俺達がここに来たのは帝国へ抜けれる坑道のためもある。
力ずくで聞き出さなきゃ教えてくれそうにないだろうし。
こいつらがそれを知ってれば万々歳だ。
「俺たち赤蛇盗賊団に挑んだことを後悔するがいい! 俺は盗賊団首領スネーク!」
「同じく参謀トード!」
「そして、俺が盗賊団の目とは鼻であるラット!」
「…………」
「「四人合わせて赤蛇盗賊団!!」」
トードが何やら唱えていたらしくポーズとともに音と土煙があがる。
どこの戦隊もんじゃ。
一人ノリが悪いのがいるが、ポジション的にはブラック的な、寡黙で馴染めないキャラっぽい。
スネークとトードとラットはまるっきり戦隊キャラだ。
赤、緑、黄色的な。
「行くぞ!」
「ハッ! ネタ盗賊団が、かかてっきな!」
俺が指を立てて挑発すると、赤ら顔にピクリと青筋を立て、スーネクが側にあった金棒を持ち上げ、襲いかかってきた。
レベルは――スネークが24、トードが22、残る二人は20か。
今の俺が34なのでかなり差がある。
よほど油断しなければ勝てると言ってたマーリンは嘘はついてないな。
(今回は異能を使わないように意識しなさいって言われてたな)
滅龍魔法の練習台にもうってつけの実践だ。
俺は新しい力を得たことに久しぶりに少し興奮していた。
獰猛な笑みを浮かべるとともに地面を蹴ってスネークへと距離を詰める。
「フィーアフルブースト」
トードが援護魔法を使いスネークの身体能力を大幅に増強させる。
ソーマと同じ魔法だが、あれの上位版だ。
互いに距離を詰めていたが、スネークの速度が二段階以上は上がった。
「戦技・兜割!」
踏み込みの勢いを乗せ、金棒が唸りをあげて俺の脳天へ振り下ろされる。
ほぅ……レベル差があるのにかなりの速さだな。ただ、対応できない速さでもないな。
「雷龍の鉤爪!」
それを掌で往なす。
魔力を雷にして纏うことでただ魔力を纏うよりもさらに強い能力上昇が可能になるのを聞いてきた。
雷や風の魔力はスピード型らしい。
火だと攻撃力とかだそうだ。
この辺はわりとよくある属性付与みたいなもんだな。
色んなゲームをしたことがあるから馴染みやすいし、イメージしやすい。
イメージと魔力を同調させる。
魔法は異能と違い演算式ではなくイメージだ。
理論派と感覚派的な感じか?
中二病経験者ならこの魔法はしっくりくる。
ティア曰く、滅龍魔法は人間の魔法のように理論やら詠唱はいらないそうだし、俺に合ってる。
一撃必殺を狙ったスネークの金棒を往なされて体勢を崩した瞬間にカウンターを食らわそうとしたが、背筋に走った悪寒がそれを踏みとどませる。
「しっ!」
視界の端でラットがクナイを俺めがけて投擲していた。
お前は忍者かよ!
クナイが濡れているはの毒か。
状態異常無効化はあるが、あれって本当に大丈夫なのかイマイチ信用できないし、クナイに刺さってみたいとも思わない。
なので、防がせてもらあ。
「はっ! 通じるかよ! 風龍の翼擊!」
魔力を左右に一気に放って暴風を巻き起こす。
「ぬぉぉ!?」
クナイもろともスネークまで吹っ飛ばしたが構うまい。
中空にいるスネークを倒そうと踏み込もうとした瞬間、足元がいきなり沈んだ。
硬いはずの感触がなくなり、いきなりヌルリとした泥沼に変化したのだ。
踏み込みの勢いもあって一気に沼に沈みこんでしまう。
「フィーアマッドスワンプ」
トードが俺の足を止める魔法を使ったらしい。
しかも、この沼、深いぞ。
足首が沈んだと思ったら一気に膝の下まで沈んだ。
しかも、さらに深く沈みんでいってる。
「きき! かかった!」
「よくやったぞ! トード! このまま頭まで沈めてしまえ!」
「わかってますよ! ブラッドボアも捕らえる特性の沼です。レジストし損なった以上、抜け出すのは不可能ですよ!」
三人は勝ちを確信している。それほど自信があるか。
現に、このままだと十秒くらいで頭まで沈んで窒息する。
沼地は半径二メートルはあり、俺の手は地面には届かない。
しかも、この沼地は粘度が高いせいか、絡み付くように俺の両足を捕らえていた。
確かに普通なら脱出は難しいのだろう。
だが、こう言う事態は慣れていた。
『曙』時代でも土やアスファルトを操作して足場をなくす犯罪者との戦いはあった。
あの時は重力そのものを操って浮かんで無効化した。
だが、生憎とティアから習った滅龍魔法に重力系は含まれていない。
今回は魔法での戦いをする様にマーリンに言われている。
だが、問題はない。
「はっ! しゃらくせぇ!」
俺は足に魔力を集めて風を巻き起こした。
そのまま爆風で一気に泥沼から飛び出たのだ。
「なっ、なにぃ!?」
(危なっ!)
勢い余って天井に激突するところだったぞ。
まだ威力の調整が難しいな。
イメージが武器となり、魔力が燃料みたいなもんだ。
燃料の量で威力が変わるので、その加減を考え使わなければならない。
俺が泥沼からあっさり脱出したのを見て、スネークとラットとトードは驚愕に口を開けて俺を見上げていた。
「さて、今度はこっちからいくか……」
俺が獰猛に笑うのと三人が戦意を喪失して白旗をあげたのは同時だった。




