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異能力社会

 

 アメリカのニューヨークで宙に浮かんだ赤子が話題となってから早、半世紀が経ち世界中で超能力――異能をもつ人々が当たり前の超常社会となった。

 

 しかし、世界は未だにその急激な人々の変化に対応しきれず異能犯罪は激化し社会は荒廃すると誰もが怯えてきた――。

 

 そんな中、異能犯罪に対して公的な異能を使うことを認められた組織があった。

 

 『曙』。

 

 荒廃の世を新たに照らすべく立ち上げられた組織――。

 

 この都市――燈都にもまた曙は存在する。

 

 ◆

 

「今日も閑古鳥がないてるな。暇だ」

 

「そうですね。まぁ、でも日常風景ですから落ち着きますね。異能犯罪の解決依頼も来てないですし」

 

 俺の前にお茶を出してくれたのは、『曙』燈都支部の事務所で事務員(なぜかいつもメイド服)の月島美海だ。

 

 俺と同じく社長がどこかからスカウトしてきた。

 

 パッチリ二重だが、片方の眼は前髪で隠れていて、陶磁のような白い肌をしている。

 

 見た目は俺と同じで高校生くらいだが、まぁ、この事務所には年齢と見た目がかけ離れた人間がいるのでわからないが……。

 

 女性に歳を聞くのは大変失礼なので美海に年齢を聞いたことはない。

 

前に社長にボコられたので、タブーなのはわかるからな。


 依頼のチェックから接客、書類整備……この事務所――曙・燈都支部『昴』の全てを取り仕切っている。

 

 そんな美海は困った表情で今月の家計簿をつけながらため息をついた。

 

「でも、仕事がないとこの事務所の支払いが困ります。そろそろガスと電気が――」

 

 なるほど、今月も火の車らしい。

 

「まぁ、仕事がないなら仕方ない。平和だからな」

 

「でも、進君と私のお給料が――」

 

「仕事だ! 仕事! 事件でも何でも起きろ!」

 

「相変わらずですね……」

 

 呆れる美海だがこっちに被害が出るなら仕方あるまい。給料がでないのは、死活問題だ。

 

「ならば仕事をやろう! 平和ボケした貴様にはちょうどいい!!」

 

 バン! と勢いよくドアが開かれ、一人の女性が事務所に入ってきた。

 

 十人中十人が振りかえる美女だが、奇妙な格好をしている。

 

 そう――俺と美海の上司であり、二人しか従業員がいないこの曙――事務所の社長、逆槇時恵だ。

 

 現代で和服を着るのは仕事でそっちのお仕事をしている人かコスプレとかだと思うがこの女は普段なら和服を愛用しているのだ。

 

 しかも、足元は下駄ではなくなぜか黒いブーツという奇異な姿。

 

 ただ、見た目が絶世の付く美女であり、長い髪は金色に染めているので、コスプレっぽい感じもあって目を引くのだ。

 

 だが、彼女の経歴の前にはこの見た目など塵にも等しい。

 

 異能についてだけでも規格外であり、命の恩人でもあった。

 

「おかえりなさいませ、社長」

 

 美海はすぐにお茶を用意して彼女の前に出す。

 

 さすが事務員の鏡。できる秘書って感じだ。

 

 対して、俺は未だにスマホでアプリゲームをしていた。

 

 あと一球でゲームセットだったので、手が離せないのだ。

 

「なんだよ? 依頼なんて珍しいな、おし! 三振だ」

 

「社長には敬語だ。あと、ゲームはやめろ」

 

 時恵のもってきた書類で頭を叩かれた俺はしぶしぶゲームをやめて顔をあげた。

 

「で?」

 

「まったく口の利き方がなってないな。美海を見習ってほしいものだ。だが……」

 

 時恵は口の端を緩やかに上げて笑みの形をつくり、

 

「それを強制させるのも面白そうだがな」

 

「勘弁。俺はそっちじゃないから」

 

「それは残念だ。それとこの依頼はもしかしたら、厄獣が絡むかもしれん」

 

 厄獣……。

 

 その言葉に俺と美海の眦がつり上がり真剣な表情になった。

 

 美海も厄獣の被害者なのだろう。

 

 ただ、互いにそこは触れていないし、俺も話していないので美海も俺が厄獣を憎悪する理由は知らない。

 

 厄獣……人類最大の災禍にして、『曙』が存在している真の意味だ。

 

 ただし、『曙』の中でも厄獣と戦えるのは一握りの異能力者であり、一般には厄獣の存在は知られていないので、この存在自体知る者は少ない。

 

「どんな依頼なんだ?」

 

「詳しく聞かせてください」

 

 真面目な雰囲気になったのに満足した時惠はテーブルに持ってきた書類を広げ、

 

「昨日、『曙』の異能具保管施設が襲撃され、施設に勤めていた職員七名が死亡。保管庫にあった封印指定異能具が盗まれた」

 

 異能具――文字通りの異能の力が宿った道具だ。

 

 なぜ、道具に異能が宿ったのかは未だに解明されていないが、封印指定ともなるとその脅威は計り知れない。

 

 封印指定具は例外なく、危険だからだ。

 

例えば、ソドムの瞳は放った光線で都市一つを塩の塊に変えたり、樹化の種は人をも補食する食虫植物を無限に育てるなどロクでもないものが多い。


「どんな種類の封印指定異能具なんですか?」

 

「リストでは二種類確認されている。『龍鬼血』と『ギャラルホルン』と名付けられているそうだ。前者は一滴で対象をBランク相当の異形の怪物に変えてしまうものと、後者は厄獣――それも魔王種を召喚するほどの代物とされている。まぁ、後者は実験することすらできないから想像の域はでないがな。ちなみにSランク指定の封印異能具だ」

 

「魔王種を召喚する……だと? それって厄獣の王どもか?」

 

「異形の怪物に変えてしまうもの異能具……」

 

 身の毛もよだつ異能力に二人は絶句した。

 

 この世界にとって存在することすら忌避されるだろう異能力。

 

 人類の不倶戴天の敵たる厄獣をこの世に呼び出すものと、人間を違う化け物へと変えてしまう能力など……。

 

 もはや、呪いとも思える異能が宿ったその二つを破壊しなかったこと自体に俺は不快感を隠せなかった。

 

 もし、それが悪意ある者の手に渡ればどれほどの被害になるか――。

 

 その悪意が間違いなく今回の事件を引き起こしたのだから。

 

「その封印指定異能具の回収が依頼……ですか?」

 

「そうだ。手段は問わず、犯人の生死も問わないそうだ。可及的速やかにこの事件の解決をせよ……とのことだ」

 

 尚、この依頼は政府からの強制であり、燈都全ての『曙』に依頼が出されているらしい。

 

 なので、断ることはできないのだが……。

 

「防犯カメラに写っていた、その犯人の写真だが――」

 

 最後の書類に添付されていた写真を見せられ、俺は目を丸くし、美海は目を大きく見開いた。

 

 そこに写っていたのは――。

 

 

 

 

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