時恵の力
最強のカードも手に入れた俺だったが、まだ不安は消えなかった。
いくらステータスやレベルがある世界でも俺が召喚された時、この世界の人間と比べて能力値は高かった。
異世界人でも差があるのだ。
それが異世界神ならその差がどれほどのものかは想像できない。
当然権能だってあるはずだ。
時恵の秘策がレベルによる縛りだけで勝てるとは思えないのだが――。
「なんだ眠れないのか?」
「あぁ、ちょっとな……」
「不安か?」
「マトの強さがレベルだけでどうにかなるとは思えないんだよな。世界の欠片が滅獣王ならそれを束ねるマトが権能をもってないわけもないだろ?」
あれは理不尽の塊だ。
魔法とか技術でひっくり返せるものでもない。
「権能持ちは俺だけだ。美海はもってない」
あの奇妙な本での世界で俺はマトに一度敗北している。
虚無の力ですら届かなかったのだ。
このまま勝てるか?と訊ねられれば不安は大きい。
「ふむ。それはそうだな。私もお前たちの力は知らない。せっかくだ試してみるか」
今、不穏な呟きが――。
「互いの力量がわからねば不安になるのも通り。私と進の互いに成長を見せあうとしよう」
直後に世界が反転。
景色が渦巻き、異なる世界へと俺は引き込まれる。
「私の結界の中へ招待だ」
瞬きした瞬間、屋内から屋外へ移動していた。
地動説の世界を思わせる地平の果てから滝のように水が落ち、水平の世界はまるで盤上の様に整っている。
「この世界は幻影と現実の狭間。殺すつもりでくるがいい。迷いなど抱く余裕などないほど全力でな。夢現故にこの世界での事象が現実に及ぼす影響は少ないからな」
向かい合う形になった時恵からは圧力が増している。
纏う魔力は世界の護り手であるはずのティアよりも濃い。
滅獣王よりも間違いなく強い。
なるほど……マトを倒すと言い切っただけはあるな。
なら――。
「はっ! いいぜ。何も教えずにここまで巻き込んでくれたツケもあるしな」
この世界で多くの滅獣王を倒した。
俺も成長してきたのだ。
その力――見せてやるよ。
「手加減はしないぞ?」
「そんな余裕があると思うのか?」
上から見下す時恵の言葉に俺は獰猛に笑った。
この世界に来てそんな口を聞かれたのは初めてかもしれない。
あぁ、上等だ。
俺の成長――見せてやるよ!




