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滅龍魔法


 国境付近の山――。

 

 追撃してきた連中を返り討ちにしつとは言え、第二波、第三波がこないとも限らない。

 

 なので、急いで帝国へ亡命したいのだが――。

 

 日もとっぷりくれて辺りは真っ暗だ。

 

 砦まではまだ半日くらいかかるそうなので、俺達は夕方に偶然見つけた炭焼き小屋を拝借していた。

 

 俺の砕けた拳の治癒もする必要があったし、野営より遥かにましなので、早めの休息にしたのだ。

 

「ふむ……あの連中が奇襲できたので不審に思ってましたが、砦の警備が増えていますね」

 

 マーリンが遠見と言う魔法で遠方の国境にある砦を見てきた話によると、戦争でもありそうな物々しい警備が敷かれていたらしい。

 

 大司教が俺達を仕留められればよし。敗けても時間を稼がせて警備網を強化するつもりだったのか?

 

 あいつら捨て駒かよ。

 

 反吐が出るな。

 

「ただ、私達に対する対策にしては兵士が弱すぎますね」

 

「ん? というと??」

 

「先程のゼクトの連れてきた騎士とは違い装備も一般の支給品で信者も見当たりません。騎士はいましたが、城に仕えるほうでしたね。もし、私達の対策でゼクトが倒されるのを見越していたならもっと大戦力を置くのが普通です」

 

 つまり、俺達に対する戦力にしては弱すぎるか……。

 

 まぁ、あの機械天使めいたゼクトを倒したんだから、それこそ勇者でも配置しそうなもんだよな。

  

「罠とかではないか? 油断させていた妾達が来たところを設置型の魔法で仕留めるとか」

 

「いえ、それも見てみましたがなかったですね。どちらかと言えば捜索隊に近いイメージでしたよ?」

 

「捜索隊ってやっぱり、俺達のじゃないのか?」

 

「もう少し詳しく調べてみますか」

 

 マーリンは立ち上がると小屋から出て外に出てしまった。

 

「一人でいくつもりか?」

 

 慌てて追いかけると、マーリンは出てすぐの所で立ち止まって何やらブツブツと魔法を唱えている。

 

「サモントレーサーレイス!」

 

 ボンヤリと青白い炎が2つ出てきた。

 

 チラチラと揺れる炎は怪談で出てくる人魂に似てる。

 

「これは?」

 

「この辺の地縛霊ですよ。落成や砦建設の事故で亡くなった方ですが、供養されずにさ迷っていたそうです。あ、悪霊とかではないからご心配なく」

 

 こわっ!


 俺は思わず半歩下がってしまった。

 

「そ、そうか……」

 

「浄化して天に旅立たせる代わりに情報提供してくれますか?」

 

 人魂はマーリンの言葉がわかるのか、フヨフヨと首を振るみたいに上下させている。

  

 マーリンが人魂と話をしてる間に俺は小屋に戻ってティアの治癒をかけてもらうことにした。

 

「マーリンはどうした?」

 

「なんか地縛霊と話してる」

 

「ふむ。死者と話せるとは便利な魔法じゃのう」

 

「便利なのか?」

 

 現代なら遺族と話ができたりする異能者は喜ばれるが、逆にとりつかれたり、未練のある霊が、四六時中集ったりするから、自分の徐霊代がばかにならないって嘆いてたぞ。

 

 それにティアだって魔物と話そうと思えば話せるから便利だろう。

 

 ただ、知能が低い魔物は無理らしいが……。

 

「そう言えば、ティアとマーリンの魔法ってなんか違うくないか?」

 

 マーリンの魔法は階級みたいなのがある。ソーマも使ってたフルブーストの魔法だったが、前者はツィード、後者がツヴァイトだった。

 

 魔法の前についたのは数字なので、段階があるのだろうことは予想がつく。

 

 メ◯、メ◯ミ、メ◯ゾーマ的なノリで、もしくは、ファ◯ヤ、ファ◯ガ、ファ◯ラか?

 

 だが、ティアの魔法は違う。

 

 どちらかと言えば技名っぽい。

 

 俺の異能に近い気がするし。

 

「当たり前じゃ。マーリンは人間の使う魔法。妾の魔法は龍や魔物、亜人が使う魔法。魔法体系が根本的に違うからのぅ」

 

「つまり、俺だとティアの魔法は使えないってことか?」

 

「滅龍魔法なら使えるぞ?」

 

「滅龍魔法?」

 

 すげー物騒な名前だ。てか、龍が滅龍魔法を使うって矛盾してるんだが。

 

「自らに龍の特性を合わせることで龍の力を扱う魔法じゃ。修得は簡単じゃが、古代上位魔法で失われた魔法じな」

 

「なんで修得が簡単なのに失われてんだよ?」

 

「滅竜魔法は龍と契約しなければ使えん。龍の数が激減しておるのだから、使い手がおらぬのは当たり前じゃろう?」

 

 そう言えば出合った時にティアは唯一の龍魔人だって言ってたな。

 

「もう現存する龍っていないのか?」

 

 それだとティアが死んだら世界が崩壊することになりそうで怖いのだが……。

 

「いや、いることはいるが、人間とは交流をもたぬように火山の奥地や、大海の底――人の足を踏み入れぬ秘境におるものが大半じゃな。それでも数柱じゃ」

 

 絶滅危惧種もびっくりの個体数だ。

 

「それって滅竜教会のせいでか?」

 

「あれが倒せるのは龍ではなく、雑種の竜がせいぜいじゃ。龍同士の戦争が主な原因じゃよ。均衡を保つ者と全て支配下に置こうとした者とのな。その時に同族を討つために滅龍魔法が生まれたのじゃ」

 

 龍同士の国の権力闘争みたいな戦争があったのかとぼんやりと考える。

 

「……それで、滅龍魔法はどうやって使うんだ?」

 

「ん? 使いたいのか? お主にはすでに別の力があるじゃろう。しかも、あの闇は妾すらも恐怖を感じたぞ? あれはなんじゃ?」

 

「暴食の虚無のことか? あれは権能って異能力とは別格の力だな。神すら殺す能力だぞ。実際俺の世界で一柱倒してる」

 

「神殺しか……。神の眷属たる妾にしてみれば嫌な響きじゃな」

 

「まぁ、異能にせよ権能にせよ、この世界だとSPを使うんだが、正直回復がめっちゃ遅いんだよ。消費は激しいのに……。それにせっかく異世界に来たから魔法を使ってみたい」

 

 SPの件がなくても後者は誰もが思うだろう。

 

 異世界ファンタジーなら魔法は憧れる。

 

 俺も異能力者だが、当然使ってみたい。

 

「どちらかと言う後者の意見が強そうじゃが、勇者の固有の力も限度かあるようじゃな。ならば、進が新しい力を得るのは悪くない。それに滅龍魔法を妾が教えるのもな」

 

 なんかティアが赤くなったぞ。

 

 照れる要素があったのか?

 

「とりあえず契約じゃな。それで滅龍魔法が使えるようになる。ただ、魔力は妾のを一部貸し出すから一気に使いまくると枯れるぞ」

 

「はやいな!? てか、精霊使いみたいな感じに思えるんだが」

 

 てか、簡単すぎじゃねぇ?

 

 龍と契約したら即使えるってお手軽すぎだろう。

 

 いや、龍と契約するのが難しいのか本来は?

 

 聞いてたら秘境のさらに奥とかにいるみたいだし。

 

 あまりに簡単に修得できるから不安になってきたぞ……。

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 おぉ!

 

 契約後にステータスを開くと滅龍魔法を修得済になってる。

 

 これで俺も魔法が使えるのか!

 

 などと感動して魔法を使ってみたが、何も起こらなかった。

 

 火花一つ、光も起こらない。

 

「魔力を使わないと魔法は発動せんぞ?」

 

 それくらいわかってると突っ込みたい。

 

 だが、それよりも問題がある。

 

「…………魔力って、どうやって使うんだ?」

 

 俺の質問にティアは首を傾げてまじまじと俺の顔をみていた。

 

 そんなに変な質問だったか?

 

 しばらくしてティアは理解したように手を叩き、

 

「あぁ、進は異世界人じゃったな。だから、魔力の使い方がわからんかったのか!」

 

 その通りです。

 

「しかし、使い方と言っても息の吸い方を教えるのに近いぞ。この世界の生物は無意識に使っておるからな。死体ですら魔力を持っておる世界じゃからのう」

 

 まじかよ!

 

 ファンタジーだめじゃん!


 いきなり壁にぶつかった。

 

 魔力の使い方がわからないとダメなのに、教え方がわからないなんて……。

 

 この世界の人間って本能的に魔力が扱えるってことか?

 

 いや、諦めるな。

 

 白髪の監督も諦めたらそこで試合終了って言ってたじゃないか!

 

 MPがあるのだがら、魔法も使えるはず――なんだ!

 

 ティア曰く、自分の魔力をまずは感じないとダメらしいが、まったくわからん。ただ、他人の魔力はなんとなくわかるのだ。

 

 あの半透明っぽい力の塊――密度が濃いとビリビリと感じるのだが、自分のとなるとさっぱりだ。

 

 もしかして才能とか素質がないのか?

 

 才能はともかく素質だとどうしようもないんだが――。

 

 俺とティアがうんうん唸りながら魔法の練習と言うか、まずは発動の仕方について考えていると情報収集を終えたマーリンが帰って来た。

 

「…………何をしてるんですか?」

 

「「魔法の練習のための練習」」

 

 ちなみにマーリンに訊ねたら、すぐに魔力を感じる方法を教えてくれた。

 

 さすが賢者様! エルダーリッチー様! 万歳!

 

 

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