サカマキトキエ4
闇が世界を支配する人のいない場所。
かつて龍がいたそこには彼方に滅んだ骸だけが残っていた。
「私以外の使徒は離れ、反旗を翻しましたか。所詮は旧種族達ですね。あの方に従っていれば新世界にいけたものを」
アビスは愛しそうに屍を撫でた。
頭蓋の半分を失い、風化して身体も残っていない骨は風でさらさらとまた崩れていく。
「世界への穴もあの少し。あの方の降臨も近い――」
星の光も届かぬ暗がりで恍惚とした声だけが不気味に響いていた。
「その時こそ、この世界を壊していただけますよね? マト様」
アビスにとってこの世界は憎むべきもの。いらないもの。
人間のやり方に沿ってみたが、所詮は異種族。やり方など合わないのだ。
転生しても本来の種族の考え方が根本に染み付いている。
ジャバウォック、煉獄、ユーリ、ユグドラシル、モビーディック……多くの逝ってしまった犠牲で目的はすぐそこまで来た。
「最終決戦の時は近いですよ? 新世界と旧世界。どちらが勝ち残るか楽しみですね」
外套がまるで生き物の様に身体のまとわりつき、前世の姿をとろうと変化していっている。
本来の姿になれば、この身体は持たないが、目的が果たせるならどうでもいいのだ。
「私のクサリクの本来の姿を彼等に見せてあげるとしましょうねぇ!」
クサリクも本来の姿を出せば、恐らく現世に留まりきれない。
だが、それでいい。
我々はどのみち滅ぶため、滅ぼすための存在なのだから。
憎悪を世界に向けながらアビスは闇へと姿を消す。
彼もまた最終決戦に向け、覚悟を決めていたのだった。




