サカマキトキエ
「ほぅ……予想通りの結果か。相変わらず遅いぞ、進」
光が収まりつつあるなら聞き覚えのある声で上から目線の言葉が耳に響いた。
ったく、誰もこんな事態は予測してねぇっての。
異世界召喚されて勇者になるなんて誰が思う?
こっちら色々聞かせてもらいたいところだよ!
心の中で文句を言いながら魔力を一気に流し込んでいくと周囲の空気が不自然に揺らぎ、ゆっくりと見覚えのある姿がこちらへ歩いてきていた。
満月を溶かしたような輝く黄金の髪。この世界では見慣れない和服に刀。
何人にも屈しないような強者のオーラはまるで女王の様だ。
腕を組み、凛と立つ姿はいきなり召喚されたにしては堂々としすぎている。
予想通り……俺がこの日に召喚するのは予知してたのか?
まぁ、それも聞かせてもらうか。
「ようやくかよ……」
「ふっ……主役は遅れて出てくるものだろう?」
……むしろ、黒幕とかの間違えじゃね?
俺と美海の会社の社長――逆槙時恵は堂々と姿を見せたのだった。
「つーか、予想通りってどこまで仕組んでたんだ? 全部聞かせてもらうぞ」
「当然だ。進、美海、お前達二人にとっても重要な話だからな。なかなか個性的な仲間も連れてきたな」
時恵は順に俺、美海を見てさらにティア、カーミラに視線を向けていく。
「あぁ……女神様。遂にお会いできましたね……」
時恵を見るカーミラは眼を潤ませて頬を赤らめている。
まるで、恋する乙女かアイドルに出会ったファンみたいだ。
「ドラキュリアンか……。よく契約を護り通してくれたな。礼を言う」
「勿体ないお言葉です」
ザッ、と膝まずくカーミラにとっては時恵は信仰する神様って勢いだ。
亜人にとってのティアみたいな位置付けなのかもしれない。
信仰の熱さには差かあるがな。
狂信者の単語が頭に浮かんだが、考えないようにしよう。
宗教はもうこりごりだし。
――地下から出た俺達は再び応接間に戻った。
アデルはどこに行ったんだ?
聞いたらヒルダが別室に案内したらしい。
勇者に関係しない者には色々と聞かせられないからだそうだ。
当たり前の様に上座に案内された時恵は平然とその席に座る。
社長だったし、誰かの下にいるってイメージはないから、逆にしっくりくるわ。
他の面々は適当な席に座り、カーミラは近衛兵みたいに時恵の背後に立った。
「さて、どこから話そうかな」
時恵は昔を思い出すように天井を見上げ、
「社長が地球でもこの世界の人間じゃないってのは知ったぞ」
「そうか……。私がここまでの絵を描いたのはあの世界で進に会い龍と神の力がマトを倒すのに必要だと知ったからだ。……マトについて知ってるな」
俺はコクリと頷き、ティアと美海は首を横に振る。
「この世界でまだあいつは出てきてないんだから知らないだろ?」
「それもそうか……。マトは滅獣を操る黒幕だ。あれを倒せば世界崩壊は止められる」
「では、それを討つために社長はこの世界に来られたのですか?」
「無論だ」
美海の言葉に時恵は応用に頷いた。
「異世界、過去で私は奴に及ばなかった。だが、この時代で奴を倒す。その為の準備は整った」
「準備ですか?」
「戦力のことか?」
俺、美海、ティアだけでもない。高いレベルの戦力はかなり整ってる。
「それだけではないのだが、今はいいだろう……。私がわざわざ地球ではなく、この世界でマトを倒そうとしてることを考えれば理由がわかるのではないのか?」
「わかるかよ」
んな読心能力者じゃねぇんだから、察しろと言われ理解できるほど頭はよくない。




