ドラキュリアン7
「トキエの召喚は協力するが、とっとと話を進めようぜ」
警戒のために口調が砕けてしまったからか、俺をカーミラの側に立っていたヒルダの顔が僅かにピクリと動いた。
たぶん、主に対する口調について咎めたいのだろうが、知ったことか。
会談で裏工作してきたのはそちらなのだから、払う敬意などいらないだろう。
本来なら反撃や訴訟問題にもなりかねないのだから。
下手に小細工するならこちらは帰ると言外に告げると、カーミラはまた肩をすくめ、
「構いませんよ。私も創造主に会える日を心よりお待ちしておりましたから」
◆
カーミラに案内されたのは屋敷の地下だった。
方向感覚が狂うほどの長い螺旋階段を降りていくと、講堂を思わせる巨大な空間が広がっていた。
「地上では何かあった時に召喚陣が破壊されてしまいますし、私に何かあっても後継者が起動できるよう、知識としてではなく、現物を残されいったのです」
石床に深く消えないように刻まれた魔方陣は幾何学紋様を幾重にも複雑に重ね合わせ、さらにそれらが一つの陣を描いている。
何人もの芸術家が生涯を賭けて作った様な精緻で巨大な曼陀羅の様で、見るだけで圧巻だ。
しかも、すでに起動できるのか魔力で魔方陣が淡く光って地面から僅かに浮かび上がっている。
恐らく、床に刻まれた陣を破壊しても大丈夫な様に半起動状態になってるのだろう。
条件さえ揃えば発動する誘発型の異能でも似たような状態がある。
あれも能力者に独特の雰囲気が漂ったり、空気がそこだけ違ったりするので、慣れると肌でわかるのだ。
「フフフ、これを使うのは初めてですが、ワクワク致しますわ」
白い頬を上気させ、艶かしく唇を濡らすカーミラは人間を惑わせ、餌にする吸血を彷彿とさせる色香があった。
じっと見てると変な感情が芽生えそうなので、俺は魔方陣に目をやり、
「どうやって召喚するんだ? 魔力は足りてそうだけど?」
「口伝では選ばれた方――つまり、勇者様が陣の中心の台座に魔力を注げば発動できるはずですよ?」
「まぁ、やってみるか。美海とティアは何かあったらすぐに動けるようにしといてくれ」
万一罠だったら、と暗に告げると二人とも頷いてくれた。
頼りにしてる。
カーミラも使徒だったらしいから馬鹿正直に信用するのも危険だしな。
俺に何かあってもあの二人なら実力でこの場を切り抜けれる――と思う。
俺は淡い光を放つ魔方陣の中に足を踏み入れた。
いよいよ社長に会える……。
この世界についても、俺の過去について、社長が何をしようとしてるのかも、色々聞かないと――。
俺は魔方陣の中心まで歩き、台座に手を触れる。
直後に大きく魔力が身体から流れ出した。
「うっ?」
反射的に抵抗しようと力んだが、そんなものは関係なくズルズルと魔力が吸われ、MPがどんどん減っている。
反して魔方陣の輝きが強くなり、正午のように眩く周囲を照らしていくのだ。
これ……レベルがかなり高くなかったら無理だったよな?
社長はどれだけこの世界で俺が強くなるかも計算してたのかよ。
心なかで社長の厳しさにため息をつきながら一気に魔力を込めていく。
早くきやがれっ!
輝きは目を焼くほどの閃光となり――。




