ドラキュリアン4
そのまま歩くこと二十分――。
新しい国の首都観光に俺たちは特に飽きなかったので楽しかったので、問題なかった。
見えてきたのは何故か近代的な都市からかけ離れた巨大な洋館だ。
城かと思えそうな五階建ての横長の巨大な館だ。
壁には蔦が絡み付いているし、何故かここだけ天気がどんよりしている様にも見える。
「ホ、ホラーで出てきそうですよね」
「美海も思ったか? 俺も思った」
不気味な雰囲気の館。
まさに二時間サスペンスででてきそうな舞台にぴったりの見た目をしている。
「カーミラ様はすでにお待ちだ」
ヒルダは慣れているらしく、特に感想はもってないのか気にせず門のノッカーを叩いた。
「親衛隊第一部隊隊長のヒルダだ! 異世界の勇者殿をお連れした!」
ヒルダを出迎えたのは彼女と同じ深紅の瞳をした銀髪のメイドだった。
彼女の肌も白と言うよりも青白いし、ヒルダと同じドラキュリアンだろう。
「私はカーミラ様にお仕えする侍女長のナーべと申します。ようこそ、異世界の勇者様。カーミラ様も心待にしておりました」
スカートの端をあげて、片ひざを軽く曲げて挨拶する姿はまるで貴族だ。
この国には貴族はいないそうだが、ドラキュリアンやエルフは特権階級的な部分がある。
彼女もドラキュリアンだろうから、そういう教養もあるんだろう。
「カーミラ様がお待ちです。どうぞこちらへ」
ギギギ、と分厚い鋼の柵門が開き、俺たち一行は中に招かれた。
不気味な見た目に反して中は掃除が行き届いており、埃も汚れ一つない。
深紅の絨毯がひかれ、精緻な柄のかかれた調度品の花瓶や、純金の輝く調度品。真っ白く細やかなところまで彫られた女神像などがある。
この女神像――なんか見覚えがある気がする。
他にも水晶を削った輝くシャンデリア、魔力水晶による灯り、透明度の極めて高い窓ガラス――どれも平民には目玉が飛び出る額のものばかりだ。
窓ガラスや女神像とかって転生者か勇者が考えたのかな?
この世界の窓ガラスって技術不足で曇ってるんだよな。
「勇者様、カーミラ様はあなたが来るのを殊の他楽しみにしております。あの様に楽しそうにしているカーミラ様を見るのは久しぶりです」
ナーベは何故か頬を赤らめて語っている。
なんか恋する乙女みたいなんだけど……。
ナーベってそっち系じゃないよな?
「それは光栄ですね」
そんな期待されても困るが、罠とかじゃなければいい。
まぁ、罠でもこのメンバーなら物理的に潰せそうだけどな。
そのまま大きな通路を抜け、一際大きな扉が見えてきた。
馬車でも通れそうな金箔と銀の装飾に宝石が埋め込まれた扉はそれだけでもかなりの金になるだろう。
共和国で最も権力があるってのは伊達ではないのだろう。
財力だけでも皇帝の城並の調度品などがあるのがわかったし。
「カーミラ様、勇者様をお連れいたしました。入室して宜しいでしょうか?」
「許可します」
打てば響くような美しい美声が聞こえた。
心に染み込むような美しく深みのある声に警戒心が緩みそうになる。
「失礼いたします」
ナーベが恭しく扉を開き、俺達を中へ誘う。
長いテーブルの先――たった一人上座に座って俺達に視線を向けているのが、カーミラだろう。




