共和国4
迷宮都市『エバンス』。
巨大迷宮二つを目玉に冒険者が集まる一攫千金の夢のある都市だ。
武器屋には迷宮で出土した魔法武器や魔道具も置かれている。
一級の業物からガラクタまで千差万別だ。
特に解析付加が付与されてるものは買ってからしかわからないので、厄介だな。
解析防止の魔法がかけられていて、使わないと大当たりかゴミなのかわからない。
福袋みたいなノリで買うにはちょっと高いぞ。
金は潤沢でも贅沢はしたくないからな。
迷宮のマッピングされた地図屋、武器屋、回復薬などの薬屋、宿屋などの冒険者向き施設だけでなく、カジノや夜の店に大浴場、劇場などの娯楽施設も多い。
歓迎都市って感じだな。
そんな感想を抱きつつウインドウショッピングを楽しんだ俺達は冒険者ギルドへと向かったのだが……。
「騒がしいの」
「喧嘩か?」
「何も聞こえませんけど」
「お二人とも耳がいいですのね」
首を傾げる美海とアデルだが、俺とティアは冒険者ギルドに集まった人だかりの方で野太い声が響いているのが聞こえていた。
観客は冒険者や通行人で冒険者ギルド前の広場で喧嘩があったらしい。
「おらぁ! 逃げるだけか!」
「はっ! その程度か」
片や山賊にジョブチェンジしそうな
大柄の髭ずら熊男で、片や細身の日本人っぽい顔立ちの青年だ。
得物は大男が棍棒で、青年の方は素手に見える。
耳が尖ってるしエルフなのか?
「てめぇこそ口だけか!」
巨体を生かしたスイングは当たれば
青年の体格なら間違いなく吹っ飛ばされるだろうが、涼しい顔してかわしている。
「アカリ! 素敵よ!」
「そんな熊野郎なんかやっちゃって!」
青年の取り巻きなのか女冒険者二人が黄色い声援を飛ばしてる。
二人の耳はアデル同様に尖っていてエルフなのがわかった。
青年は棍棒を避けながらドヤ顔をそっちに向けてる。
余裕出しすぎたろ。
ただ、身のこなし的にレベルは高そうな感じだ。
何度か棍棒を掻い潜っていた青年はスッと冒険者の懐に飛び込み、
「終わりだな」
「かはっ!?」
青年が冒険者の胸に触れた途端、ビクンと身体が不自然に震えてそのまま地面に倒れた。
おぉー! と観客から歓声があがる。
「え? 何が起きたんですか?」
「電撃系の魔法? ですかね。掌底とともに零距離で放ったみたいです」
レベルが低いアデルは今何が起きたか見えてなかったらしい。
美海はちゃんと見えてたみたいだな。
青年が手を押し当てた瞬間、わずかに青白い光が出てた。
「スタンガンに似てるよな」
「 私も思ったけど、スタンガンなんてこの世界にはないですよ?」
魔物がいる世界であんなもん役に立たないだろ。
考えるまでもない。
そもそも電気って概念があるのかすら怪しいし。
中世ファンタジー世界だからな。
「スタンガン? 異世界の道具ですか!? ぜひ、教えて下さい!」
研究者の目になったアデルが鼻息荒く訊ねてきた。
「スタンガンってのはな――」
などと話してる間にアカリとその連れは人込みを割りながら颯爽と何処かへ行ってしまった。
興奮覚めない通行人や冒険者はさっきの戦いを話ながら散っていく。
倒れた冒険者放置してやるなよ。
「俺達も行こうぜ」
ついでに、気絶した冒険者が邪魔にならないようギルドに放り込んで俺達は中に入った。
「ほぅ……やはり迷宮絡みの依頼が多いようじゃのう」
ティアがボードに貼られた依頼書を眺めて呟いた通り、素材の多くがこの迷宮でとれる魔物ばかりらしい。
人工のダンジョンと自然のダンジョンはボードで左右に分けられているので分かりやすい。
「人工と自然ならどちらがよい?」
「もち、自然だな」
「妾も同感じゃ」
「それだと『三日月』の迷宮がいいですかね。『満月』と『新月』は中級ダンジョンですから。『新月』はかなり新しいダンジョンです」
「安心せい、アデルよ。妾達はこれでも常人ではない。慣らしも中級からで十分じゃよ」
「だが、依頼だと時間がどうなるかわからないし、普通に潜るだけにしないか?」
「それもそうですね。それなら地図だけ買いますか?」
「そうだな」
せっかくだし、新しいダンジョンがいいと俺達は『新月』のマッピングされた地図や保存食諸々を買い込み、迷宮へ向かうのだった。




