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ゼクト


 だが、二人とも何故か気を抜いていない。

 

 なぜか?

 

 俺が訊ねようと口を開きかけ、やめた。音が聞こえたのだ。この場では場違いな音が……。

 

 パチパチパチパチ……。

 

 場違いな拍手の音とともに神父っぽい出で立ちの男がどこからともなく現れる。


 まったく気配が感じられなかったぞ?

 

 マーリンとティアが警戒したのはこいつがいたからか?

 

「まさか勇者様の取りこぼした滅獣を一撃で倒すとは、さすがは悪名高きドラゴンですな」

 

 さらに無数のローブをきた集団とフルプレートの聖騎士達が突如として姿を見せて俺達を囲む。

 

 包囲網は三〇メートルほどの円になっており、俺達はその中心にいた。

 

「あの服装――滅竜教会の司教ですね」

 

「嫌な臭いじゃ。竜対策の魔道具で武装しておるな」

 

 マーリンもティアも警戒したまま司教を睨んでいた。

 

「……一人増えておりますが、まぁ、問題ないでしょう。そちらの魔法使いが仰った通り、私は滅竜教会の司教――いえ、今は大司教の座を預かるゼクトと申します」

 

 ゼクトは仮面のように終始にこやかな笑みを浮かべて挨拶してきた。

 

 普通ならば穏和で好感の持てる表情なのに、今は不気味さしかない。

 

 そして、同時に腹の奥で黒い怒りが沸き上がってきた。

 

 こいつらが俺を嵌め、ティアを傷つけた連中であり、あの村を廃村へと変えた元凶の一つだからだ。

 

「勝手に召喚して異端者とはずいぶんな扱いだな。身勝手にもほどがある」

 

「あなたが滅獣を倒さなければ我々も動かずに済んだのですが、本当に余計な事をしてくれました」

 

「あぁ? どういう意味だ?」 

 

「言葉通りですよ。あの白き滅獣は異世界の勇者ではなく、我らの勇者であるユーリ様が倒す。それにより異世界の勇者など必要ないとしなければならなかったのですよ」

 

 つまり、俺は当て馬として召喚されたってことか?

 

 やはり、滅竜教会にとって異世界の勇者は都合が悪いらしい。

 

 その勇者が予言の獣に敗北し、それを教会が認めた勇者であるユーリが倒す。

 

 まぁ、確かに信仰を集めるにはいいだろうな。

 

 そういうのはドラマがあって観てる連中は惹かれるだろう。

 

 考えてみればレベル1でボスに挑ませた時点で怪しむべきだったのか?

 

 だがな――――。

 

「なら、嵌める相手を間違えたな」

 

「えぇ、まさか滅獣をあっさり倒すとは思いませんでしたよ。おかげで我々の派閥に敵対する愚か者どもが調子づく始末ですらね」

 

 どこまで身勝手なんだか……。

 

 怒りを通り越して呆れてしまった。

 

 自己中心的もここまでいくと怒りすら感じられなくなるのか……。

 

 だが、許すつもりはない。

 

 勝手に召喚して、嵌めた挙げ句に命を狙われたのだ。

 

 それを受け入れるほど、俺は聖人ではない。

 

「さて、邪神に心を奪われた異端者には神の慈悲によって浄化を行わなければなりません。汚れた魂もろとも消えなさい」

 

 ゼクトの言葉とともに上空に三重に重なった幾何学模様――魔方陣が描き出される。

 

 何かくる!?

 

「「集団魔方陣!?」」

 

 慌てたティアとマーリンが防御か反撃をしようとした瞬間、俺達を見えない力が地面に引き倒した。

 

「重力檻ですか!」

 

「事前に仕掛けておったのか!?」

 

 重力の罠かよ!

 

 ならば相殺するまで――。

 

『ディバインセイバー』

 

 敵の魔法の発動の方が早い。魔法が完成し、天空から光の柱が降ってきた。

 

 漫画とかである極太ビームを縦にしたようなものだ。

 

 天から放たれた放たれた光は雲を引きちぎり、俺達めがけて迫ってくる。

 

 やばい!

 

 本能があれを受けたら死ぬと訴えてくる。

 

「深淵よりも深き虚無の闇よ!万象を喰らう祖は暴食の闇。原初に還す力にて敵を打ち倒せ!」

 

 重力の相殺を諦め、SPの減りも気にせず、権能の一つを解放した。

 

 同時に権能解放時に滾る力で重力の軛を解き放つ。

 

 空間が軋み、俺達の頭上に真っ黒い闇が広がる。

 

 広がるのはどこまでも深い夜よも濃い闇。一転の光も許さない闇は渦巻くように広がっていく。

 

「そのような薄い壁で千の信徒の魔力をつぎ込んみ、五百年の月日で研鑽を重ねて、磨かれた我らの浄化に耐えられるとでも?」

 

 迫り来る光の中で大司教の嘲りが響いたが、俺は立ち上がって、逆に笑い返した。

 

「はっ! たかが千? たかが五百年? 足りんな。お前達が目にした闇は退廃の虚無。この世の果ての力だぞ?」

 

 直後にぶつかる闇と光。

 

 だが、結果はわかっていた。

 

 空から注がれる光の柱は全て俺が発動した闇に吸い込まれていったのだ。

 

 だが、吸い込まれなかった光が周りをクレーターのように抉り、俺達だけ柱の上に立ったような光景になっていた。

 

 かなりの威力なのか、地面が赤々と輝き、一部がガラス化してるぞ。

 

「ば、ばか。あれを無効化しただと!? 悪魔たる竜すら滅ぼす魔法を!!」

 

 驚愕する大司教と周りの信者と聖騎士も困惑の色を浮かべている。

 

「今度はこっちの番か?」

 

 俺はゼクトへと掌をかざし――。


「炎神の咆哮」

 

 ゴッ!と大気を震わせて紅の閃光を放った。

 

 分子振動を波形として打ち出す技であり、格シェルターの壁だろうが、いかなる障害物もろとも焼き払える。

 

 が――――。

 

 バチィィィィィィィィィィ!!

 

 ゼクトへと放った閃光が触れる手前で何にぶつかった。

 

 正八角形の壁っぽいのが揺らいでる。

 

 なんだありゃ? 某最強フィールドの心の壁に似てるんだが?

 

 やがて閃光は壁に阻まれて霧散させれた。

 

「ハハ! どうやら我らの聖壁は破れぬようですな!」

 

「どうかな? まさか俺の力があの程度だとでも?」

 

 こっちには虚無も太陽神の槍もあるんだ。

 

 SPは虚無の発動時間が短かったからそれほど問題はない――五割は切ったがな。

 

「ならば新しい手を出す前に、浄化するのみ!」


 大司教の周りの魔力が集まろうとしている。

 

 また集団魔法とやらか!


 あれは異能で防げるレベルではない。だが、虚無だって発動には限度があるぞ。

 

「私たちがいるのを忘れていないかな? ツェーンマジックブレイク!」

 

 こんな時でも人を落ち着かせる深い声でマーリンが魔法を発動。直後に大司教の周りに集まっていた魔力が霧散する。

 

 魔法阻害の魔法なのか?

 

「バカな!? 最上位魔法だと!? 貴様――何者だ!?」

 

「奇襲で少々反応が遅れましたが、二度めはありませんよ。申し遅れましたが、私はマーリン。大司教ならばご存じでは?」

 

「マーリンだと!? 逆賊マーリンなど百年以上昔の魔法使い。今も生きて――まさか……」

 

「えぇ、エルダーリッチーとして生きておりました。今は彼と世界を救うつもりなのですがね」

 

「穢らわしい邪法でアンデットに成り下がるとはやはり、逆賊。異端者に悪魔に逆賊とは――もはや、浄化など手緩いですな。神の慈悲など必要ありません。魂までもこの世から消し去るべきでしょう」 

 

 ゼクトが再び信者から魔力を集めだした。

 

 さっきとは桁違いの勢いで流れ込んでいく。

 

「無駄ですよ」

 

「「させるな!」」

 

 魔法が再び魔法を無効化しようとしたが、それをさせまいと聖騎士達から矢と魔法が放たれた。

 

「む……」

 

「数が多いですね」

 

 ティアとマーリンが二重に防御魔法を使ってそれらを散らすが、これだと魔法を無効化できないぞ。

 

 時折、俺も炎神の咆哮で大司教や聖騎士に反撃を試みたが、聖壁によってそれらは無効にされる。

 

「見せてあげましょう。滅竜教会が神より賜りし究極の魔法を――エンジェルフォール!!」

 

 勝ち誇った大司教の身体が白い眉のような光に包まれていく。

 


 

 

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