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廃村


「それにしても人の気配がしないな」

 

「墓石も苔むしておるぞ。人の手が入らないようになってそれなりの月日が経っておるな」

 

 ティアは近くの墓石に近づいて調べている。

 

 確かに雑草も繁ってるし、蔦が巻き付いてる墓石もある。風雨にさらされて欠けたり、偏食して彫られた名前も読めそうにないぞ。

 

 とても管理が行き届いてるとは言えないな。

 

「ふむ……。国境が変わるほどだ。この町は廃棄されたのだろうか?」

 

「そこは――調べてみないとわからないね」

 

 墓地の外にでると街道があるが、やはり整備されていないらしく草が伸びている。

 

 街中に飛ぶよりはよかったのか判断に迷うな。

 

「ふむ……何かに襲われたといった感じたかな?」

 

 墓地を抜けて着いた町は酷い破壊の後が刻まれていた。

 

 中央の噴水は砕けちり、家々も半壊したものが多く、さらに教会に掲げられたシンボルはへし折れて地面に突き刺さっている。

 

 わずかに鼻をつく臭いは腐敗臭だ。

 

 食い千切られた死体が転がっている。

 

 しかも、逃げ遅れたのか鋭い何かで切断された死体がそこかしこに転がっており、死体にはハエがたかっていた。ピンク色のはずの内蔵は腐敗し、黒紫に変色していた

 

 う……グロい。

 

「これは――魔物に襲われたのか?」

 

「おかしいね。ここまで街が崩壊するなんて災害級の魔物の仕業だと思うけど。そんなの僕の時代でもいなかったよ?」

 

 マーリンは訝しげに首を捻っていたが、上半身しかない死体に近づき、

 

「………………なるほどね。ありがとう。安らかに眠ってくれ。ファストファイヤ」

 

 死体を燃やしてから不快げな表情を浮かべて戻ってきた。

 

「どうやら、亀裂の魔物の被害を受けたのが最初の街だったらしいね。勇者と騎士団の到着が遅れて、壊滅したらしい。復興しようとしたが、ボス以外の魔物が残っていて冒険者は全滅。住民は他の村や町に逃げたようだ。ボスだけ倒して終わりだったのか……」

 

 マーリンは死体――というか死体に残っていた魂に話を聞いてたらしい。

 

 リッチーの固有能力だそうだ。

 

 死者との会話か……。アンデットの王らしい能力だな。

 

「勇者――ユーリか。ちゃんと最後まで面倒見ろよな」

 

 ボスだけ倒したら他の魔物は消えるとでも思ったのか?

 

 異世界勇者ならともかく、この世界で育った勇者ならそれなりの知識はあるだろうに……。

 

 この世界出身なのにゲーム脳なのか?

 

 アフターケアぐらいちゃんとしろよ。

 

 この惨状を見ると胸がムカムカしてきた。

 

 ティアを傷つけたこと、教会の抱える勇者となると俺を嵌めたのにも絡んでいるかもしれない。

 

 あいつは敵としておこう。

 

「とりあえず、供養くらいはしてやるか」

 

 廃墟になった村の死体を俺達は埋めたり火葬して供養した。

 

 廃村となった村の供養を終えた俺達は街道を抜け、さらに国境へと足を進めていると――。

 

「ふむ……囲まれたかな?」

 

 マーリンが不意に足を止めた。

 

「聖騎士か!?」

 

「いや、この気配は魔物……かな?何か歪な感じがするけど」

 

「この世のものとは違うのが混じっておるな。亀裂から出てきた魔物の生き残りではないのか?」

 

 マーリンとティアは妙な気配を感じ取ってる。

 

 マーリンはアンデットで生者の気配に敏感だし、ティアは獣の勘で察知できるみたいだ。

 

 俺?

 

 ……人間だから。

 

 亀裂の生き残りとなると、厄獣の生き残りなのか?

 

 あんなのが一体でも残ってたら大災害なんだが――。

 

 いや、王種でなければ倒せない魔物じゃないと思う。

 

 もしかして、あの村を滅ぼした魔物か?

 

 また、モビーディックの子供とかだったらヤバイが。

 

 俺達が警戒して足を止めると待っていたかのよう左右の茂みから魔物たちが姿を見せる。

 

 牙の生えた犬ほどもあるウサギ――検索すると、ウォーラビットと言う名前の魔物らしいのの群れ。

 

 だが、一匹だけまったく違う種類の魔物がいた。

 

「やっぱり厄獣かよ」

 

 見知った姿に俺は舌打ちした。

 

 7メートルほどの苔色の肌をもち、バッファローのような顔つきと額と左右にネジくれた角。腰辺りから広がるのは孔雀の羽――厄獣、アドラメレク。

 

 厄獣王とは比べられないが、群体で動くので厄介な厄獣だ。

 

 恐らくはアドラメレクの能力で、このウサギの群れを束ねているのだろう。

 

 あれは一定範囲の魔物を従える能力があった。

 

「厄獣? 君の世界でも魔物がいるのかい?」

 

「さぁな。俺達は別の次元の怪物と思ってるよ」

 

「ふむ……興味深いな。二つの世界を同じ種類の魔物が侵略しているとは――」

 

 マーリンはアドラメレクを初めてみたらしく解析しようとしてるが、レベルなどは出ていない。

 

 ウォーラビットはレベル15。

 

 敵にもならんな。

 

 モビーディックも出なかったのだろうか?

 

 その時はステータス魔法すら知らなかったから試しようがなかったが、次の滅獣には試してみるべきだろう。

 

「さっきの村の弔いだ。全力でお相手させてもらうよ」

 

 アンデットのはずのマーリンは正義感に燃えながら、魔力で周囲を震わせている。

 

 あの惨状を見てなにもかも思わないのは外道だろう。

 

 俺も正直弔いだ、と言う思いがあった。

 

「魔物風情が妾に挑むとは愚かな」

 

 ティアも敵には容赦ないからな、戦闘する気満々だ。

 

「はっ! かかってこい!」

 

 中指を立てて挑発してやるとアドラメレクは意味を理解したのか瞳を見開いた。

 

 ヴォルフ!

 

 低い鳴き声を合図にウォーラビット達が俺達めがけて殺到してくる。

 

「ツェーンズヘルフレア!」

 

 事前にマーリンが詠唱していた魔法が炸裂。足元から吹き出した火柱がウォーラビット達を一瞬にして飲み込んだ。

 

 キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!

 

 カミキリ虫みたいな鳴き声と肉の焼ける臭いとともにウォーラビットの群れが一掃される。

 

「村で散った彼らの怒りです」

 

 マーリンからはピリつく怒りが感じられ声をかけるのも躊躇われた。

 

 普段は温厚だから怒らせたら怖いタイプなのか。

 

 ヴォォォォー!

 

 だが、アドラメレクは吹き上がる火柱を抜けてこちらに突っ込んできた。

 

 纏う青白い光が炎から身を守っただろうが完璧ではなく全身が爛れている。

 

 確かにアドラメレクは水系統の力も使えたよな。

 

 だったら電撃系で倒せばいい――。

 

「力の根元たる我が命ずる。雷帝の裁きよ!龍神の呼び掛けに応じ、かの者を穿ち、滅ぼせ! 雷帝投擲槍!」

 

 異能を使おうとした俺の真横を閃光が掠め目映い光とともにアドラメレクを貫いた。

 

 ――――!

 

 声にならない悲鳴をあげたアドラメレクが宙を舞い、手足をばたつかせたと思ったらそのまま炭になって息絶える。

 

 俺の出番は――ない。

 

 てか、まじで強すぎるんだが……。

 

 厄獣まで一撃とか俺の世界に来て欲しいくらいだ。

 

 二人の強さを改めて認識した俺はそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

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