帰って来て2
「となると長寿で特殊な力に長けた種族となるね――。となると、共和国一択かな?」
「確か、亜人主義の国だっけか?」
「あそこはエルフやドワーフ。さらに龍の因子が強いドラキュリアンと呼ばれる種族がいるよ。三種族ともそれぞれに優れた分野が多く、寿命、魔力、身体能力全てで人種よりも優れているからね。だから、特にエルフとドラキュリアンは人を劣等種と見下す者もいるんだ」
それが奴隷制に繋がっているそうだ。
ドラキュリアン……。
ドラキュラと関係あるのか?
「特にエルフとドラキュリアンは極めて団結制が強いから下手に手出しすると全エルフやドラキュリアンに報復される恐れもあるんだ」
なので、その二種に手を出すのは相当な愚か者とされる。
エルフか……。
この世界でまだ見たことないな。
どっちか言うとモフモフのワーウルフとかのワービーストの方ばかりだし。
棲んでる地域が固まってるのか?
マーリンに話を伸ばして聞いた感じ、金属操作に特化した魔術で鍛冶の得意なドワーフに対し、エルフはあらゆる魔法を作るのが得意でエルフ専用魔法も多く、さらに寿命も平均で300才を超えているらしい。
ドラキュリアンは謎が多く、個体数が少ないのと、共和国と言っているが実質は一人の女性のドラキュリアンが長く政権を操り、しかも勇者すら遥かに凌ぐ強さで、影で女帝と言われている。
ちなみに寿命の長さから、共和国を治める議員のドラキュリアンに至っては建国以来一度も変わっていない、と記録されている。
不老では?と疑われるほどで、800年は生きている。
……それだけ長く生きてれば召喚魔法も知ってるかもしれん。
だが、勇者よりも強いって……。
なら、その女帝が滅獣を倒せよ、と思うが、さすがに一国の主が軽々しく戦場には出れないか。
勇者を召喚しなかったなら、俺と美海が歓迎されないかも――。
異端者から次は国家反逆者とか冤罪で処刑されるとかない、と信じたいな。
もう逃亡生活は嫌ですから。
◆
「て、訳で共和国に行くぞ」
「て、訳じゃありません! 説明してください! いきなりすぎます!」
屋敷に戻って開口一番に告げると、美海に怒られた。
うん、ホウレンソウは大事だ。
起承転全部飛ばしてたわ。
「実はな――」
「正直信じられません。過去を体験する本ですか……。ちなみにその本は?」
「覚めたらなくなってた。まぁ、俺が逆の立場なら信じられないがな」
「ただ、そのマトがこの世界や地球での敵なら、何故、この世界に現れていないのでしょうか? 」
「それは俺も疑問だったんだよな」
マトの戦闘力ならわざわざ使徒だの滅獣だの使わなくても単体で世界を滅ぼせる。
なのに、何故コソコソする必要があるんだ?
トキエの世界には普通に出てこれたのに?
「フハハハハ! それはマトの存在許容量があまりにも大きいからである!」
ドバン! とド派手に屋敷の窓が開かれるとともに窓の冊にゲヘナが座っていた。
「…………このキテレツな方は進君の知り合いですか?」
美海が瞬時に召喚した銃をゲヘナへ向けて訊ねた。
「あぁー、知り合いではあるか。仲間じゃないぞ? こいつも使徒だし」
俺も魔力を四肢に込めているので即座に反応できる。
ただ、気になるのはゲヘナが窓から姿を見せる前でも自分の気配を隠さなかったことだ。
事前に来ると言わんばかりだったので、即座に攻撃しなかった。
じゃなけりゃ、不法侵入だし、美海と俺で攻撃してた。
こいつの動きは今一読めない。
完全に敵だとも言い難いのだ。
「せっかく姿を見せたのに冷たい反応だな。まぁ、魔力を多めに発していたから気づいてもらえていたのだろうが、その反応は残念だな」
リアクションが冷たかったのでゲヘナは残念そうだ。
そう言えばこいつって愉快犯的な性格だったな。




