帰って来て
◆
「はっ!?」
俺の意識は唐突に覚醒した。
視界に広がっているのは高い本棚とそこに並ぶ本の数々。
図書館?
さっきまでの世界から戻ってきたのか?
幻覚ではないように感じたのだが――。
手にしていたはずの本は失くなっていた。
本能的に本物の世界と感じていただけに妙だ。
もしかして死んだから戻ってきたとか?
俺は何気なくステータス魔法で自分のパラメーターを見て確信した。
さっきまでの世界は現実だ。
「六つの世界が発動してる」
蘇生回数が減っているのだ。
同時にこれの恩恵かレベルがあがってる。
神条進
レベル185
権能でのレベルアップの上がり加減がわからんが、かなり強くなってる。
それに――。
「あいつが元凶か……」
マト――。
俺、時恵、美海、そして世界の敵。
やっと黒幕の正体に大幅に近づけて喜ぶべきなのだが、同時に絶望も大きかった。
頭に血が昇っていたとはいえ、マトの強さは桁違いだった。
レベルが上がってどうこうなる次元じゃなかったぞ?
あいつは最後まで遊んでいた感じだったのだ。
どうやれば勝てるんだ?
まず権能を集める?
これは必須だろう。
マトが見せた権能は俺に合わせて、二種だが、どれだけあるかわからないのだし、こちらもカードは増やす必要がある。
だが、権能はそう簡単に手にはいる物でもない。
それと――。
(社長を召喚する……)
あのトキエは社長だ。
これも感覚だが、本人だ。
どうやってかあの世界から転移したのだろう?
「にしてもあれはなんだったんだ?」
開いていたはずの本も消えてるし、閉館時間になったらしく鐘の音が響いている。
とにかく出ないと館長が困るからな。
俺は人の掃けた図書室から出て慌てて図書館の外に出たのだった。
そんな俺の姿を図書館の屋根から見下ろす一人の男の姿があったのを知るよしもなく。
「ふむ。過去を体験する魔本を用いたが勇者は生き延びたか……」
仮面をつけた男の名はゲヘナ。
見た目こそ成人男性の姿だが、中身は魔族だ。
怪しげな仮面をつけた魔族を名乗る男だが、煉極の侵略行為も不参加であり、動向は今一謎だった。
ゲヘナが用いたのはかつて使徒である自分が見た世界崩壊の一つ。
あの魔本は過去に起きた事象へ読者を引き込み、過去世界へのタイムスリップを体験させるものだった。
無論、その世界で死ねば精神も肉体も死ぬ。
勇者の魂と縁のある世界に引き込み、最強の使徒とぶつかれば死ぬ可能性は高かった。だが、あの男ならば、蘇生の力があるから耐えられると踏んだのだ。
結果は予想通り、勇者は生き延びた。
「ふむ。魔龍、煉極は滅び、残る使徒は我輩とアビスと――なるか……。現代の勇者は実に優秀」
これなら我輩の悲願も叶えられよう。
「それに煉獄亡き今、魔族の契約も解けた。我輩も好きに動くとしよう。フハハハハ!」
最も、まだまだその道のりは遠いのだが――。
アビスは仮面越しにクク、と笑い闇へと姿を消した。
◆
翌日――。
俺はマーリンの所に来ていた。
この世界で困ったらマーリンに聞く方程式が頭の中で出来ている気がするが仕方ない。
一々調べるより、物識りな人間に聞くのが手っ取り早いのだ。
マーリンってリッチーだけに長生きしてるからな。
「なぁ、この世界で特殊な能力とかある種族っているのか? あと、古い魔法に詳しい種族だな」
召喚魔術は古の魔法だといっていた。
だが、異世界からの召喚魔法はマーリンですら修得できてない。
より長く生きてる種族なら古の魔法について知ってることも多いだろう。帝国や王国内でも情報は集まってこないのだから、人間以外からの情報もいる。
獣人や鬼人は人族と寿命が大きく変わる訳じゃないし、魔法にも詳しくなかった。
「唐突だね。何かあったんのかな?」
「あー、言葉にするのは難しいな。とりあえず、異世界からの召喚魔術について調べたくてな。あと、俺の異能の強化のためにな」
人以外の異能は覚えられるのか試してなかった。
考えてみれば人以外が普通にいるファンタジー世界なのに試してないことが思ったよりある。
……もっと広い視野で対抗策を考えていかないとマトには勝てない。
「進の異能? あぁ、勇者の魔法か。君の魔法は対象の魔法を覚えるんだっけ? でも、僕の魔法は使えなかったよね?」
「人間の魔法はな。もしかしたら、種族特有のものなら可能かもしれん」
この世界の超常現象は魔法で済まされるから、実は異能力って線もあるのだ。




