表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/196

別世界7


 マトが消えた後、トキエはまったく見知らぬ大地に倒れていた。

 

「うぐっはぁはぁ!!」

 

 身体中の酸素を搾り取られ、枯渇した魔力のせいで指一本動かせない。

 

 だが、生き延びた。

 

 あの少年には悪いことをしたが、勝ち目がないのを悟ったトキエはとある魔法を発動していたのだ。

 

 超超距離の転移同様に失われた魔法だったし、復元しても一度として使ったことのない魔法。

 

 半ば冗談扱いの魔法だが、成功した。

 

 次元転移。

 

 だが、賭けに勝った。

 

 トキエの倒れている大地は草に覆われ、命に溢れている世界。

 

 枯れていた自分の世界とは違った。

  

「見てろ、化け物め。必ず復讐してやる!」

 

 トキエは倒れながらも自らの身に刻むように言い聞かせた。

 

 置いてきてしまった仲間達、世界の仇は必ずとる。

 

 例え修羅となろうとも――。

 

 それを誓いながら意識を失うまいとしていたトキエだったが、不意に頭上が暗くなった。

 

「なんじゃ、珍妙な気配と思えば人間じゃと? 妙じゃのう。主、本当に人間か?」

 

 古風な声の主へと視線を動かしたトキエは絶句した。

 

 そこにいたのは、神話の創造物と思っていた存在だったのだ。

 

「馬鹿な……龍?」

 

「いかにも。我は最古にして最強の一柱――冥龍――よ」

 

 冥龍は品定めする様な眼差しで倒れるトキエを眺めていた。

 

 獲物として喰うつもりっ!?

 

「時に小娘よ。主は見所があるな。どうじゃ、我の話に乗らぬか?」

 

「な……に……を?」

 

 正直断りたい。

 

 自分はすべきことがあるのだ。

 

 どんなことでも時間は無駄にできない。

 

 だが、断って食べられたら話にもならない。

 

 一秒でも話を伸ばして魔力を回復させないと、動けもしない。

 

「何、我々は今色々と揉めておってな。人間の戦力が必要なのじゃ。もし主が協力するなら力を与えよう」

 

 力を与える?

 

 その言葉は今のトキエに深く刺さった。

 

 力――。

 

 トキエにとって最も必要なものだろう。

 

「つよ……く……なれ……るのか?」

 

「当然じゃ。我の魔法を覚えれば龍の力を得たも同然じゃからの」

 

 龍の力――。

 

 あの少年が扱っていた力だ。

 

 結果的に勝負にならなかったが、マトは少年を警戒していた。

 

 危険な力として――。

 

 マトへ届くために必要な力になりえる。

 

 ならば躊躇う理由はなくなった。

 

 この龍の話がどんなものでも構わない。

 

 復讐のためな刃を得られるなら!

 

「のっ……た……」

 

「ほう……。話も聞かずに乗るとは、馬鹿か勇者か、それとも……」

 

 冥龍は自分を睨むトキエの眼差しに言葉をつぐんだ。

 

 こいつは修羅だ。

 

 それも途方もない怪物になるだろう。

 

 それだけは予感できた。

 

 そして、それほどの存在がこの時代に現れたのは運命かもしれないと――。

 

 面白い。

 

「ならば契約成立じゃ。改めて名乗ろう。我は冥龍アルラトゥじゃ」

 

「私はトキエだ」

 

 龍同士が争う大戦を人類の勝利に導いた最強の滅龍魔導師がここに生まれることとなったが、それを知るものはいない――。

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ