別世界5
それだけではない。
天空を貫いていたはずの塔が消え去っていたのだ。
あの巨大な建造物はどこに行ったんだ?
「また、空間転移か?」
しかも俺達の二人も含めて発動の素振りもなかった。
抵抗する暇もなかったほど発動が速いのだ。
「もう寿命の尽きた世界の君達など構う必要もないが、特別に最強の使徒たる僕の力を見せてあげるよ」
中空に浮びなから俺たちを見下ろすマトからは今まで対峙したどの滅獣王よりも強大な存在感が放たれている。
チリチリと肌が焦げるような熱気と肌を刺すような痛みは意識を逸らしただけで命を刈り取らされそうな圧力があった。
「寿命の尽きた世界……だと。ふざけるな! 私達の世界がもう死んでいるとでも言うのか!?」
「その通り。もう世界の全ての記憶はなくなった。空っぽな世界は後は消滅するだけさ」
「貴様! ふざけるな!」
「受け入れられないのかい? もう世界が死んでいるのが、わからないのかな? それとも現実を受け入れられないのかい?」
話してる間にも地響きや地割れの音が木霊しているが、まるで断末魔の悲鳴の様に背筋を寒くさせる。
「ほざくな! テラスラッシュ!」
激昂したトキエの放った斬擊はユーリの数倍の威力はあっただろうが、マトは煙でも払うように手を振ってそれを弾き飛ばす。
弾いた手には傷ひとつ負っていなかった。
「くだらないな……。星も揺らせぬ程度でこの僕に傷をつけられるとでも?」
「なら、星を揺らせる一撃なら通じるんだな?」
神龍力解放。
アナザーコスモロジー解放。
全異能力を解放。
保有する全力を一撃をマトめがけて叩きつける。
「滅龍の星拳!」
「っ!?」
咄嗟に腕を交差させてこちらの拳を止めたマトだが、その顔に苦悶の顔が浮かんだ。
だが、驚愕に顔を歪めたの俺の方だった。
(こいつ……なんて重さだ)
重さ数百トンもの鋼鉄の塊――いや、大陸そのものでも殴ったかこの様な途方もない巨大な何かを殴り付けたような衝撃がこちらを襲ってきたのだ。
拳が砕けそうな痛みが俺の腕を貫くが、マトは数ミリしか動かなかった。
ありえねぇだろ。
見た目は俺と大差ない人間なのに、どれほどの重量を秘めてんだよ。
「なんだ……その身体能力と魔力は――それに、神力だけでなく龍の魔力だと!? 何故、人間ごときにこれほどの力が備わっているんだ?」
マトは自分の震える腕を見つめながら訝しげにこちらを見据えていた。
(とるに足らないはずの羽虫が何故、これほどの力を!?)
「人間を見くびるなよ、マト!」
「ありえない。この世界には龍の力はもういないはずだ。それに滅獣王の力を得られる人類など――。貴様はまさか……異世界人か!?」
マトは、ハッとした表情でこちらを見据えて目付きを鋭くした。
「それがどうした?」
「なるほど……。まさか龍と世界の力を持つものに会うとはね。君は滅獣王を殺してその力の一部を得たんだね?」
「その通りだ。よく知ってるな」
権能は滅獣王を倒した時に得られたものだ。
どういう条件かは不明だが、現在の三つは全て滅獣王から簒奪している。
「当然だよ。滅獣王は僕が慈母の力の一部から産み出したからね」
「お前が……産み出しただと!?」
その言葉に俺の中で線が切れる音がした。
こいつが俺の家族を――。社長の全てを奪ったのか!
美海の大切な物を壊したのか!
俺の人生を狂わせた元凶か!!
「そうか……。お前が――俺の敵かぁぁ!」
瞬時に頭が沸騰した俺は怒りに任せて攻撃を放つ。
手加減など考えずに放った拳だが、
「それは僕の台詞だよ。まさか、その二つの力を持っている存在がいては困るんだよ」
マトもまた莫大な魔力を解放してそれらを受け止める。
「てめぇだけは許さねぇ!」
何があってもぶっ倒す。




