ありえぬ光景
「ん?」
俺が瞬きして目を開いた瞬間に首を傾げた。
見渡す限り瓦礫と焼け焦げ、ひび割れた大地が広がり、空はワインレッドのような深紅に染まっており、この世の終わりを思わせる。
どう考えても図書館どころか、帝都の中ではない。
幻覚か?
瞬きしてみたが、景色は図書館に戻らない。
ここはどこだ?
転移魔法が発動した気配もなかったが、なんだこれは?
「おい!! 何をぼんやりしている! 逃げるぞ!!」
鋭い女性の声が響き、乱暴に手を引かれた。
何故か聞き覚えのある声に俺が思わず振り向いた先にいた顔に目を丸くしてしまう。
「え?」
髪は銀色だし、いつも着ている和服姿ではなく、ショルダーガードや小手、具足など、冒険者みたいな格好をしていた。
だが、似ている。
双子と言ってもいいほどそっくりだ。
その姿に俺はポツリと言葉を漏らした。
「――――社長?」
「だれが社長だ? 私はそんな名前ではないぞ?」
声まで同じとは恐れ入る。
社長?は俺の手を引きながら形のいい眉をつり上げた。
その目付きまでそっくりで反射的に謝ってしまう。
「え、あ、ごめんなさい」
確かに社長なわけないよな。
社長がいるなら、地球に帰って来てることになるし、こんな世界の終わりみたいな景色なわけもない。
「それより何から逃げてるんだ?」
「何から……だと? 正気なのか、それとも何かのショックで記憶を失ったのか? 後ろを見ろ!」
社長?の視線を追って振り返った俺と社長?の頭上に影を落としながら巨大な獣が迫ってきている。
赤銅色の甲殻に三本の蠍の尾っぽと四本のハサミを振り回す蠍の化け物だ。
この禍々しい気配は――。
「滅獣かよっ!」
このわけわからん世界にもいるのかよ!
ギジャャャャャャャャ!
ハサミを打ちならしながら耳障りな鳴き声を上げて追ってくる蠍から社長?と俺は逃げているが、いかんせんサイズ差がある以上追いつかれるのは時間の問題だろう。
しかも、一匹ではない。数十匹はいよう蠍の群だ。
それに話を聞くためにもこいつらをどうにかするのが先だ。
「とりあえず、ぶっ倒してやる」
社長?の手を振り払って180度反転した俺は貨物車の如く迫る蠍の化け物めがけて走り出した。
「あ、こらよせ! 死にたいのか!?」
この程度の滅獣で死ぬかよ!
魔力を練り上げ、一気に滅龍魔法を放つ。
「雷龍の鉄拳!」
硬いはずの甲殻が粘土のように凹み、雷の魔力が大蠍の神経を焼きつくす。
ギィィィィィ!
断末魔の悲鳴をあげた大蠍はそのまま足をもつれさせて滑るように大地へ倒れると、そのままピクリとも動かなくなる。
「なっ!? あの獣を一撃だと!?」
さらにブレスと翼擊で一掃した。
「魔王種じゃないにしても脆いな。どうなってんだ?」
滅獣にしても弱い。
それに今までの見えていたステータスも見えないし、HP、MPなどの数値もなくなってる。
本当に地球に戻ってきたような感じだ。
あの世界とはまた違う世界ってことか。
「君は…………一体何者なんだ?」
社長?は得体の知れない怪物を見るような眼差しを向けてくるし、ここは名乗った方が話を進められるだろう。
秘密にする意味もないしな。
「俺は神条進。そっちこそ名前は?」
「私はトキエだ」
おい!
「やっぱり社長じゃねえかよ!!」
「だから、さっきから誰のことを言っているんだ!?」
思わず突っ込んだ俺に、トキエも緊張を忘れて言い返すのだった。




