龍が動く
人の来ない溶岩が流れる火山地帯。
人が足を踏み入れず、吹き出す溶岩を恐れて魔物も住まない秘境。
普段は静かなはずのそこで絶叫が響き渡っていた。
「ショロトルゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
「弱いな。これが我らを滅ぼす力だと? 笑わせるな、愚かな魔族よ」
炎を纏った魔人は手足があり得ない方向に曲がり、身体中ボロボロで岩に叩きつけられ地面を力なく転がっていた。
「何故だ何故だ何故だぁぁぁ! 計算は完璧なはずだ! こんな簡単にはやられるはずはないいぃんだぁぁ!」
そんな姿を見ていた魔族――ファウストは髪をかきむしり絶叫していた。
力ある冒険者を殺し、さらに今後のために龍を倒しておこうとこのヴァルカン火山地帯に足を踏み入れた。
そして、目的の龍を見つけたまではよかったのだ。
まさかこんな結果になるなど予想してなかった。
「簡単なこと。我より貴様らが弱かった。それだけでしょう?」
巨体が蠢き、その顎がゆっくりと開いていく。
「くそがぁぁぁぁぁぁ!」
呪詛を吐きながら杖を構えるファウストだが、この巨大な存在の前には爪楊枝のようなものだ。
「消えよ。弱き者よ――」
溶岩よりも眩く、高温の閃光が火山を貫き、二人の侵入者を瞬時に蒸発させた。
風穴が空いた山から溶岩が溢れだし、辺りをオレンジ色に染めるが、炎龍である自分にはむしろ暖かいくらいだ。
「世界を脅かす者共が動き始めたのか? ティアの言っていた連中と言い、異次元の獣どもと言い。騒がしくなってきたか」
遥か彼方――帝国方面を眺めながら炎龍は呟く。
なん百年ぶりだろうか、人間に会うのは――。
「久方ぶりに会ってみるか。新たなる龍殺しに。最古の龍の一柱として」
龍が可可と笑うと、口からチロチロと炎が漏れ、岩を焼く。




