煉獄6
「であろうな。脱出できる気がせぬわ。……時に人間よ。異世界は楽しめたか?」
「こんな世界楽しめるかよ」
召喚されて滅亡寸前なんてふざけんなって話だ。
しかも、いきなり犯罪者扱いだぞ?
即座に帰りたくなったわ!
「ケヒヒヒ……それはよかったな」
「よくねぇだろうが!」
まったく会話が噛み合ってないぞ?
バカにしてんのかよ。
そうしている間も風の檻は徐々に狭まり、煉獄を虚無へ還さんとしているが、不気味なほど落ち着いている。
「クククク、貴様は危険すぎる。我らの――慈母の悲願の障害になりかねん。故にこの世界に存在させるわけにはいかぬな」
「はっ! 何をする気かは知らんが、そいつからは逃れれんぞ?」
当たれば終わりの切り札だ。
俺のSP全部使った暴食の風の威力は最大。
因果律を歪める能力か避けるしか防ぐ手はない。
「逃れれぬのはわかっているわ。だが、黙って倒される魔皇ではないぞ?」
煉獄が虚空から取り出したのは巨体から見ると玩具に見えるほどの小さな笛だ。
古びた小汚ない角笛。
見覚えがある。
忘れるわけがない。
ギャラルホン――俺達がこの世界に喚ばれた原因にもなった異能具だ。
「あれって……」
「あぁ、間違いないだろう」
「本来は異世界から異なる獣を召喚するものだが、不安定な空間で別の空間を開けばどこに飛ばされるかはわからぬ。人間、願わくば貴様が次元の狭間で永久にさ迷うこと願うとしよう」
「なっ!?」
こいつ――自爆する気かよ!
「ざけんな!」
「ギャラルホン――発動!」
俺は暴食の風を圧縮して煉獄を滅ぼそうとしたが、それよりも早くギャラルホンを握りつぶした。
直後、得たいの知れない圧力が撒き散らされ、景色が歪んでいく。
内部に納められた異能が制御を失って暴れだし、暴走の力場が広がっていった。
眼下に広がる海も、亀裂の広がる紅い空も、小さく見える島々も、それら全ての景色が高速で回転し、色彩の坩堝が渦を描いている。
召喚されたあの時と同じ抗えない見えない鎖のようなものが、絡みつき渦へと引き込まんとしていた。
「くそっ!? 逃げられねぇ!」
全魔力と異能を使っても抵抗できない引力が俺を引っ張っていく。
「進君!」
「く……るな! やば……すぎ……る!!」
手を伸ばした美海に近づかないように叫んだ。
煉獄はギャラルホンの破壊の余波で空間の繋がりを狂わしたのだ。
あの渦の先が本当に次元の狭間やまったく別の異世界もありえるのだ。
「ハハハハ!残念だな!勇者よ!貴様もこれで退場だ!」
「畜生がぁぁぁぁぁ!」
暴食の風に喰らい尽くされる煉獄の高笑いを最後に、渦に呑まれた俺の意識はブッツリと断ち切られた。




