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煉獄4


「けひ……ひひひひ!」

 

 煉獄は苦しげに喉をかきむしりながら笑っていた。


 笑っている間にも煉獄の肉体には明確な変化が起きている。

 

 元々巨大だった肉体は急に空気を入れた風船の様に膨れあがり、膨れた肉体は内側でバキバキと骨が折れ、身体の構造そのものが変化していく。

 

「これガ魔を超えシ力……」

 

 くぐもりながらも歓喜に震える声が不自然な程辺りに響いていく。

 

 歪に膨らんだ肉塊はやがて縮まり、一つの形へと変貌していった。

 

 肉塊から出てきた煉獄はサイズこそ変わらぬが、見た目は大きく変貌していた。

 

 禍々しい悪魔を思わせる蝙蝠の翼。しなやかな尾。闇を凝縮した様な四肢に生えた鉤爪が生え、全身溶岩が形をとったかの様に橙色に輝いている。

 

 『龍鬼血』が宿ったように真紅の双眸が俺たちを射ぬき、肩口には左右に牙を剥き出しにした龍の頭が生えている。

 

 溶岩が変化そのものが悪意をもって変化したかのような禍々しい姿。

 

「おいおい…………」

 

「あれは――悪魔? それとも龍ですか?」

 

「どっちもじゃねぇのか?」

 

 ジャバウォックは西洋龍に近かったが、煉獄は悪魔と龍が融合した様で――龍魔皇と言うべきか?

 

「クククク……悪魔龍と名乗るべきカ」

 

 さっきの魔力が可愛く思えるほどの魔力を秘めてやがる。

 

 悪魔龍――煉獄は左右の細長い口を開き熱気を放ちながら嗤う。

 

 吐き出したり熱だけでも汗が吹き出す。

 

 熱だけではない。圧力と緊張でだろう。

 

「死ぬがいい!!」

 

「ざけんな! 滅龍の剛拳!」

 

 重力、腕力、身体能力の異能で一気に強化した拳のアッパー。

 

 当たれば首から上を吹き飛ばす一撃だが、拳は振り抜けなかった。

 

 拳から伝わる感触は途方もなく重い鋼鉄の塊。不動の山。

 

 びくともしない塊を殴った感触に骨が砕けた音が響く。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!」

 

 灼熱の痛みと痺れが右手から広がっていく。

 

 完全に砕けやがった。

 

 防御力も比較にならんぞ。

 

 ジャバウォックより強いかもしれん。

 

「ふん!」

 

 視界の隅で何かがぶれた。

 

 直後、肘からボキリ、と嫌な音と背中まで抜ける衝撃が身体の内側で炸裂した。

 

 煉獄の尾が俺を殴り付けたのだ。

 

 右手を犠牲にして背骨が折られるのを防げたが、内臓が負傷したのか、血が喉の奥からせり上がってきた。

 

 右手があったのは完全に偶然だ。

 

 何よりほとんど眼で追えなかった。

 

 強さの差がありすぎる。

 

 まずい…………。

 

 強すぎるだろ。

 

 激痛と動揺に演算が乱れて俺は一気に海へと落ちていく。

 

 それを見下ろす煉獄の肩口から龍の顎が開かれ――。

 

「獄龍波!」

 

 無造作に放たれたブレス。

 

「ちぃ!」

 

 俺は即座に演算式を組んで瞬間移動して美海の側へと逃げた。

 

 圧縮した熱のブレスは狙いを大きく外れ、小島の一つに着弾。

 

 山を木々を砂浜を抉り飛ばし、海に沈めてしまう。

 

 どんな大魔法だよ!?

 

 しかも、詠唱もなく撃ちやがった。

 

 あんな規模の魔法を気軽に撃つほど力が上がってるのはやばい。

 

「さて、次は鬱陶しいハエでも落とすとするか……」

 

 ギョロリと目玉が動き、俺と美海に狙いをつけていた。

 

「こりゃヤバイな」

 

 冗談抜きで。

 

 ぶっちゃけ、空間転移で逃げたい。

 

 俺と美海だけなら離脱は簡単だが――。

 

 島に逃げたとこで、制空権を取られてる以上勝ち目はない。

 

 上空からあのブレスを放たれれば為すべなく倒されるだろう。

 

 となると煉獄だけでも倒す必要があるんだが……。

 

 俺と美海で戦っても勝てる気がしないんだが――。

 

「消え去れ人間――!」

 

 煉獄の両肩の顎が開き、チロチロと真っ赤な火が漏れている。

 

 溶岩にも匹敵し、地上の全てを焼き払うほどの火力が秘められている。

 

 島を吹き飛ばした閃光が再び解かれようとした瞬間――。

 


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