煉獄3
「龍の魔力だと――人間がまさか……!?」
ギョッと見開かれた煉獄の金色の瞳に獰猛に笑う俺の顔が映っていた。
「滅龍の鉤爪!」
「滅龍の剣角!」
「滅龍の翼擊!」
滅龍の魔力が刀を弾く皮膚を切り裂き、包んだ魔力が煉獄の炎と瘴気すらも消滅させ、肉体を破壊していく。
「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫して俺から離れようとした煉獄だが、俺の方が速い。
「権能が効かなくてもこっちは効くようだな! 滅龍の咆哮!」
とどめとばかりに貯めたブレスで煉獄を海中へと叩き込んだ。
(人間ごときが滅龍魔法を会得していようとは――失われた魔法のはずだが……)
ジュウジュウと己の熱で周囲の海水が煮える中、煉獄は暗い海中へと沈んでいた。
魔皇として復活した肉体。
にも関わらずそれを上回る力を得た勇者がまた障害として現れた。
しかも、この世界最強の存在である龍の力を操る魔法を得ているのだ。
いや、そもそもあの太陽の力もありえん。
人間がもつ異能や魔法を超えている。
(龍自体に会えるのが奇跡であり、さらにその龍が自らが衰退する原因となった人間に再び滅龍魔法を覚えさせただと?)
しかも、この世界に来てからの短期間で滅龍奥義を扱える人間などいるのか?
それこそ、異能力とも言える異質さだ。
だが、こちらとて叩き潰されるわけにはいかないのだ。
あの方の願いを叶えるのが使徒の使命なのだから――。
目を見開き、魔力を練り上げた煉獄は一気に海面を目指して水中を蹴った。
莫大な飛沫とともに空中に戻った煉獄は肩で息をしながら俺を睨んで、唸る。
「貴様……なぜ滅龍魔法を使える?」
「そりゃ、龍から習ったからだが?」
「ふざけるな! 滅龍魔法を人間が容易く会得できるものか!」
会得できたんだから仕方ないだろう。
吠えられても困る。
(そう言えば、ジャバウォックと戦った時にティアも魔力を全て吸収できたのは異常だって言ってな。龍の因子があるのかとか聞かれたが……)
正直、そんな因子があるのか知るわけがない。
「それにそんなのどうでもいいだろうが……。煉獄、お前はここで倒す」
地球でもこの世界でも敵でしかないのだ。
ここで倒さなければ何をしでかすかわからない。
使徒について聞き出したかったが、権能すら無効にする耐性がある相手だし、捕縛とか無理。
「ククククハハハハハ! かつての戦った勇者すらここまで強くなかったぞ! 」
追い込まれたはずの煉獄は何故か笑っていた。
自暴自棄になったのか?
いや、それにしては錯乱した様子も諦めた様子もない。
まだ奥の手でもあるのか!?
「よもや、この手を使うことになるとは思わなんだが……。使命を果たすためならば喜んで我が身を至高なる慈母に捧げよう! 慈母の血よ我をさらなる高みへと導きたまへ!」
空に叫んだ煉獄の手にはいつの間にか真紅の液体に満たされた瓶が握られていた。
「血? まさか……」
初めて会ったときに煉獄は『龍鬼血』で魔人化の力を引き出せた、と言っていた。
本来は人を魔物にしてしまう異能具だが、煉獄は力を引き出すだけだった。
もし、引き出した力が限界でないとすれば?
もし、その限界を越える量を接種すれば?
ガリ、バリ、ゴリ!
煉獄は躊躇うことなく小瓶もろとも中身を呑み込んだ。




