煉獄2
今ので俺と美海が奇襲を狙ったのがばれ、艦隊から矢や魔法を放とうとしているが届いてはこない。
「はっ!いきなり親玉がお出ましか! ラッキーだな!」
頭を潰せば魔皇軍は瓦解する。
戦いが始まる前に片付けられるかもしれない。
権能が無効化されたことは想定外だが、ここで倒す。
「おこがましいぞ、人間風情が」
「魔皇っての人間の勇者に倒されるんだぞ? 有名なゲームじゃ、定番だからなぁ!」
「ならば、所詮それは空想の願望だと思い知らせてやろう」
煉獄の魔力が可視化できるほど密度を増し、瘴気のように禍々しい雰囲気を放っていた。
それだけではない。
バリィィィィィィィィ!
ガラスの割れる音とともに空から亀裂が広がっていく。
使徒の時点で予想してたが――。
「やっぱり、お前も滅獣かよ!なら、尚更だな。魔皇退治とするか! ――美海!」
「当然です!」
風の異能で四本の竜巻を背中に生やした俺は叫ぶと共に煉獄へと突っ込む。
「ソウルブレイク」
煉獄は掌を俺へと向けると目に見えない何かを潰すように手を閉じる。
直後に強烈な眩暈がし、演算が乱れる。
状態異常の魔法か、いや、異能か?
だが、俺には状態異常は効かないはずだが――。
「ほぅ……即死攻撃を耐えたか。レベルの高さは認めよう」
即死攻撃だったのかよ!
あ、あぶねぇ。
耐えても気絶させたり、ふらつかせたりする効果があるようだな。
「氷帝葬!」
ドッ!と海面が爆発したようにはぜ、そこから巨大な水柱が煉獄を飲み込む。
伸び上がる水柱は忽ち氷の柱へと代わり、煉獄を閉じ込めた。
「デモンフレア」
が、内側から押し広がる炎が凍った煉獄を溶かし、氷柱をへし折る。
折れた氷柱が重力に引かれて落ち、そのまま海面を激しく叩きつけた。
急な高波で艦隊が木の葉のように揺られている。
お、二隻ひっくり返ったな。
思わぬ棚ぼただ。
「よそ見とは余裕か?」
下に視線を外した俺へと煉獄を膨らませた火球を投げようとしている。
余裕? そんなものはあるわけない。
だが、問題はない。
「冥皇斬!」
煉獄の視界に入らないように迂回して迫っていた美海が煉獄の死角をとっていたからだ。
青白い冷気を帯びた刃が太い煉獄の首筋を切り裂くが――。
「硬い……。皮膚は金属並ですか……」
呻く美海の握る刃が欠けている。
見た目通り高温の体温のおかげか、凍結効果がある斬擊も効果が薄い。
水系統は効果が薄いのか?
分かりやすいくらい炎を纏っているのに?
それにあの魔力のせいか、美海の刃が錆びている。
腐食? 劣化?
「たかだか人ごときの刃がこの煉獄に通じるとでも思ったか!」
火山弾のごとき拳を振り回した煉獄から慌てて離れた美海。
「なら――龍の力ならどうだ! ――滅龍の鉄槌!」
神龍力を纏った俺は背骨が軋むほどの風を推進力にして煉獄めがけて突撃した。
「ぐぅぅぅぅぅぅ!」
衝撃で大気がはぜる炸裂音とともに煉獄の巨体が吹き飛ぶ。
「ぬがっ!」
海面に叩きつけられる寸前に空中で止まった煉獄だが、顔をあげた瞬間、追い付いた俺と至近距離で目があった。




