使徒対神器勇者
「コソコソするのが好きみたいだな。やはり君は陰険なのか?」
「強獣を倒すには弱らしてから、と思ったんですが、手強いですね。まだ戦えるとは。あと陰険とは失礼ですよ。しも、やはり、とは――慎重と言っていただきたい」
髑髏の仮面に漆黒のローブと死神を思わせるアビスは自分の優位を確信しているのか余裕の態度だ。
MPは一割以下。HPも五割を切っているし、疲労も溜まっているからな。
不利は否めない。
「勇者を甘く見るなよ。これでも一国最強の戦士だぞ? それにまるでこの事態を貴様が放ったかのようだな」
「正解です。まさか他にも腕のいい冒険者がいた様なので少し派手に作戦を進めましたがね。それにしても、四つの島の魔物の駆逐してしまうとは勇者とは恐ろしいですね」
「貴様……。どれほどの死者を出したと思っている!」
槍をバトンの様に振り回して構え直すが、槍が重く感じられる。
やはり、相当消耗している。
「目的を達成するためには手段は選ばない主義でね。まぁ、どの道この世界が辿る最後の結果は同じですし、遅いか早いかですよ」
「ほざけ! この外道が!」
この男は野放しにできない。
魔物を操り、謎の魔法を操るだけでも危険なのに、さらに思想までも危険なのだ。野放しになどできるはずもない。
「はは! 外道ですか――――。人の道がそれほど崇高とは思いませんがねぇ! 出でよ……黒狼群」
衣服が再び狼の頭になると五匹も襲いかかってくる。
「戦技・全技解放」
一気に能力向上戦技で自分を強化。
アハトフルブーストをするMPがない。
槍をバトンの様に振り回して群がる狼を蹴散らす。
「知ってますか? 狼は群れて狩りをします。時間差をつけ、隙をつくり、疲労を狙う」
槍を振り終えて好きが出た瞬間を狙って他の狼の頭が懐に飛び込み牙を剥き出して迫ってくる。
槍は斧と同じで振るった後は隙ができるのだ。
「甘い。螺旋槍波!」
両足のスタンスを広げて踏ん張ったアンジェラは渾身の力を入れて突きを放つ。
ゴッ!
大気を穿つ槍は直線に並んだ狼群を消し飛ばし、アビスへ迫るが、
「亀甲壁」
今度は繊維が六角形の盾を描いてそれを弾く。
「互いに防御タイプとは面倒ですね」
瞬間攻撃力はアンジェラが上だが、手数はアビスの方が圧倒的に上だ。
やはり見たことがない魔法故に対応も遅れてしまう。
「その不可解な魔法と魔物もお母様から与えられたのか?」
「魔法はお母様ですが、魔物は違いますよ? 彼らは同僚である魔皇から貰ったんです。最も今回の件で全部なくなっちゃいましたがね」
口封じするつもりなのだろうから、ペラペラと話してくれるな。
お母様――この男のボスか。
しかも仲間にいるのは――。
「まおう……だと」
魔王――法国に置いて、その名前ほど畏れられる存在はいない。




