episode->3
隠し通路を抜け、魔王城を囲む岩山を抜けると、真夜中の月夜に照らされた森にでた。
「黒森・・・、魔王場を囲む、高ランクの魔物が住まう難所だったか」
「ああ、魔王である俺の支配もここまでは及ばない。魔族の数が少なくなってしまった以上、相当危険なゾーンになっているだろう。だが、ここを抜ければ吸血鬼の領土、ライセンに行ける。あそこはまだ、人間の攻撃が及んでいないはずだ」
「ライセンを目指すのが、最も効率的だろう。ところで、魔王」
「デルクでいい。側近はそう呼ぶ。もう、誰もいない・・がな」
デルクは、悲しそうに笑いながら、そういった。
その時だった。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAA」
巨大な鬼のような二体のモンスターが雄叫びをあげて迫ってくる。
一つ目の鬼は、その手を振りかざし、二人を潰さんとしている。
「サイクロプスか。下がっていろ。俺が・・・おい!」
デルクが止めるが、俺は走り出した。
「俺には確かに身体的能力、魔力がこの世界の人間に比べてはるかに劣っている。だが」
手に持った小石をサイクロプスの一つ目に放つ。
「GOOOooooo」
苦しげにサイクロプスが目を抑える。
「一流のアサシンなら常に、自分よりも強い敵を排除する手段を用意しておくものだ」
腰の短剣を抜くと、怪しく光る翡翠の剣が光った。
苦し紛れの攻撃か、サイクロプスが腕を振るう。
最小限の動きでそれをかわしながら、その腕に短剣で小さな傷をつける。
「そんな短剣で何を・・・・っ!?」
サイクロプスがのたうち回りながら、倒れる。
「死んでいる・・・のか」
もう一体のサイクロプスが仲間が殺されたことに激昂したのか、飛びかかってくる。
しかし、速度には自信がある。
攻撃をかわしつつ、再び足に短剣で傷をつける。
攻撃の刹那、短剣が翡翠色の光を強くする。
「GAAAAAaa・・・aaa」
サイクロプスが事切れた。
「何が・・・それは、毒なのか?」
「ああ。王国の宝物庫から盗んだものだ。この翡翠石は、かつて人間の国を滅亡寸前に追い込んだ毒龍の素材を加工したものらしい。奴を撃退したかつての人間の英雄との戦闘で落ちた奴の爪を当時の最高の錬金術師と鍛冶屋が協力して作り上げた一品で、魔力を通すと毒を発する。大抵の魔物なら一撃だ」
「・・・・・それは、お前が敵でなくて助かった。とでも言えばいいのか」
デルクが呆れたように笑う。
「それと、一つ訂正させてもらう。一流のアサシンでも死を与えることはできない。確かに肉体的に殺すことはできるが、その信念、想いを消さない限り、本当に殺しきったとは言えないのだ。だから、お前の仲間たちが死んだと言うならば、その信念、想いを背負い、これから戦ってゆけばいい」
「・・・オルクス。そう・・・だな。俺が、あいつらの想いを絶えさせなるわけには行かない」
「その調子だ。必ず、魔族を復興させるぞ
「ああ」
そのとき、虎のような化け物が森から飛び出してきた。
雄叫びをあげ、デルクに迫る。
「俺がやる」
デルクが腰の剣の柄に手をかける。
「・・・・見事だ」
剣を抜いたデルクが、宙を飛び、剣を振るうと、虎の首は羽飛んでいた。
「配下を失い、力の多くを失っても、魔王であることに変わりはないからな。その身に刻んだ剣術はそのままだ」
「そうか。頼りにしている。いくぞ」
俺たちは黒森に足を進んでいった。