episode->1
魔族とは、魔物を従え、人間に害をなす天敵。
それを駆除することが長きにわたる人間の命題であり、使命だ。
今日、その命題に大手がかけられる。
「Gaaaaa」
雄たけびを上げながら迫る二対の魔物。
しかし、一秒後には、一対は、眉間に大きな風穴を開け、その片割れは上半身と下半身がきれいに分かたれていた。
「さすが、稀代の魔術師様だな。このまま、頼むぜ!レイア」と、紅い装備をまとった男。その手には紅くきらめくオーラを宿した大剣が握られていた。
「これくらい、当然です。リオ」
淡い水色のローブをまとった美しい女性。その煌めく黄金の杖の先には大きな魔石が置かれている。
「お待ちください」と、平凡な装備の兵士が走ってくる。
「何ですか?」
先に走っていた二人が立ち止まる。
「恐れながら、お二人のスピードに部隊は疲労しております。かなりの速度で魔大陸まで来たわけですし、もう少し速度を落とされてはいかがでしょうか?」
「はぁ?黙ってろよ、オルクス。俺たちだけで問題ない」
「・・・ですから、私たちだけで十分と、司祭様に伝えましたのに。」
止める兵士を置いて、二人は猛スピードでかけていく。
ため息をつき、オルクスは二人についていった。
魔王の玉座には一人、男の魔族が座っていた。
後ろのステンドグラスから煌々と日の光が差し込んでいる。
男は苦しそうに立ち上がった。
「よくも、あいつらを・・・・」
リオが大剣を構え、灼金の魔力を大剣に込めた。
「魔王・・・ってのは、こいつか」
魔王が苦しそうに構える。
「クッ、魔族を殺せば、魔物がコントロールを失い、この世界が滅びることを忘れたのか」
「そんなものはただの伝承だろ。大体、魔物くらい、俺たちの敵じゃない」
「なっ・・・・・・・、俺は、みんなに約束したのに・・・・・・・」
「終わりだ。やるぞ、レイア!」
「わかってます」
二人の武器に、極限まで魔力が込められていく。
「これで」
「終わりだ」
剣から放たれた斬撃と、大きな炎の塊が魔王に迫り、魔王は、悔しそうに眼を閉じた。
「え?」
魔王は、いつの間に移動してきた兵士に抱えられ、攻撃の範囲外に移動していた。
「なっ、てめぇ、オルクス。これは何のつもりだ」
「話を聞いていなかったのか。こいつが、人間に広まっている伝承と同じことを言った意味を理解していないのか?」
「何を言っているのですか?魔王を倒すことは、私たち人間の悲願なのですよ!」
「我々には、戦争以外の交流がない。それなのに、人間も魔物も同じ伝承を伝えていることは妙だと思わないか?」
「知るか!そこをどかないなら、お前も殺す」
リオが再び大剣を構えた。
確かに、俺は二人に比べれば圧倒的に弱い。
「足が異常に速いだけの兵士」、軍では実際そういう認識だ。
だが、
「手段がないわけじゃない」
「余裕、ですわね。なら、遠慮なく。安心して、ちゃんと戦死者として村に死体を届けさせますわ」
さきほどと同じ攻撃をしようと、彼らが力を籠める。
「逃げろ!もう、無理だ。俺の眷属はすべてやられた。もう、なにもできない」
確かに、魔族は己の眷属の数に比例して力を増す存在。
最も魔物に愛されたものが魔王となる。
彼にとって、魔王城の魔物が全滅したことは力を失うことと同義、絶望して当然だ。
だが
「お前は、魔王だろう。それでいいのか?」
「どういう・・・」
「お前があきらめることは、世界の滅亡を意味する。その意味を、責任を放棄するな」
「っ・・・・」
魔王が、悔しそうに顔をゆがめる。
わかっているのだろう。自分の状況を。
だが、、
「ふっ・・・ハッハハハハハ」
「な、なにを笑っている」
「決めた。俺は、魔王側につこう」
「なっ」
魔王の顔が驚愕に染まる。
「魔族の滅亡は、この世界の崩壊につながる。俺は二度と・・・・、世界を滅ぼさないと、そう決めている」
「何をいって・・・・」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!死ね!!」
「はぁああああああああ」
リオとレイアが攻撃を放つ。
視界を覆いつくさんほどの、灼金の斬撃と黄金の氷魔法が迫ってくる。
だが、まだまだ許容範囲内だ。
「教えておこう。一流のアサシンなら、絶対的な強者と戦うとき、常に逃げる方法を用意しておくものだ」
俺は、用意しておいた鉤付きのワイヤーを取り出し、魔王を抱えてステンドグラスをぶち破りながら飛び出した。
「うわああああああぁあああ」
「心配するな。お前は俺が守ろう」
俺は、窓枠に向かって、鉤をかけて、下に降下した。