家族に配達員が加わります
「桑田さん、荷物でーす」
そーいう事は突然に起こる。
4年、5年。何事もなく、いつも通り、間違いなくやっている時の事だ。
「コラーーー」
「はい?」
住所は合っていて、苗字名前共にその家に違いないのだが。
「息子はもう引っ越しとるんじゃ!それぐらい分からないのか!?」
いや、一昨日。荷物渡した時、何も言わなかったやん。
ってツッコミ。
相手は軽く言っているんだろうが、なにやら読めん怒声調。大方、家族内で上手くいっておらず、何かできないモノ、コトがあると怒り出してしまうんだろう。
そーいう原因の1つに家族内の変化がある。
「息子さん越したんですか」
感慨深い事である。12年前からこの地域を配達し、息子さんがまだ中学生ぐらいかな。そんな子がもう立派な大人になって、独り立ちしているのを知ると時間の流れは早いなぁと思い。荷物を渡す時ぐらいしか声をかけないが、頑張れよーって応援したくなる。
やってて良かったって思う仕事だ。この一瞬だけは……。
「今度から息子の荷物、息子の方に届けてくれぇ」
「へいへい。まー、住所を直すの伝えてくださいよ。これじゃあ、こっちの方に来ちゃいますから」
そんなわけで息子さんの荷物は新住所に届けるわけなのだが……。
「おーい!住所変わってねぇぞ。同じ地域だから良いけどよ」
「どーします。山口さん」
「……親父の奴が息子の荷物は、息子の家に届けろって言うしな。そっちに行くしかねぇだろ」
「でもあそこ、宅配BOXないし。不在になるんじゃないっすか?」
「かもなー、ま。怒られるよりか良いだろ」
とはいえ、息子さんは独り立ち。つまりは配達員と同じ働いている者。当然、昼間にいるわけもない。夜の再配達でよーやく会った時、息子は言う。住所を指差しながら。
「あー。親父がなんか言ってたみたいですけど、実家でいいんすよ。そーしてくれ」
「はい?」
「再配達って大変じゃないですか。親父、退職してずーっと家にいるから荷物の受け取りぐらいやって欲しいんだよね。分かるじゃん、自転車で3分くらいの距離なんだぜ」
「………ごもっともですね。感謝します。じゃあ、住所通りに配達しますね」
仕事をする身だからこそ、分かるものだ。仕事の苦労を知ってくれているから、息子さんは荷物を実家に送っている。独り立ちという形で両親と近くで別々の暮らしをするのは、珍しい事でもない。
そんな息子さんのご好意と、配達の基準に沿って、実家の方に配達しに行けば。
「だから息子の荷物は、息子の家に届けんかーーい!!」
こうなるのである。
「どーいう仕事をしてるんだ!お前は!!ここには住んでないって言ってるだろうが!!ポンコツかテメェ等!!」
俺達が悪いのかよ。なんだよ、この無限ループ。
こんな家族騒動に振り回されるのが、我等が配達員である。
「お前等みたいな小学生以下にも分かるようにしてやる!”桑田の息子の荷物は、息子の家に届けろ”ってポストに書いておいたからな!!読めるよな!?」
字を読めるかどうかは聞いてないんだよ。あんた等の関係がどーなってんだよ!!
そもそも住所はこっちなんだぞ。息子が住所直すか、親父が受け取るか。が問題なんだろうが!住所違うから荷物を返してもいいんだぞ。いないって言うから、荷物を返してもいいんだぞ!
そんな憤りを心に留めながら
「ワ・カ・リ・マ・シ・タ」
カタコトで承諾する山口兵多であった。
「分かるわけねぇーーだろうが!!こっちは荷物届けに行くだけなんだよ!!家族構成以上の事なんか分かるわけねぇーだろうが!!」
客の前ではとてもとてもキレられない。
こんな荷物のやり取りを気に、家族の仲はさらに悪くなったという。息子さんはとりあえず、荷物を受け取りたいので宅配BOXを買ったそうだが。この購入は親父のせいだという事で親父と喧嘩をしたらしい。親父は親父で息子がちゃんと受け取らないのと、配達員の不手際があると言う。
そして、両方から配達員の悪さを指摘される。まぁ
「なんでどっちも配達員が悪いとか、関わっているとか言うわけ!?関係ねぇーだろ!!どー考えても関係ねぇ!むしろ、被害者だわ!!」
理不尽なものである。ある一定の家族からすると、家族の状況は周りも知っていると思われているんだろうか。そんなこんなで息子の荷物は、住所が実家だとしても、息子の家に行く事で解決した。ただ訪れる箇所が違うだけなのだが、ちょっとした労力が掛かるものだ。
そんなこんな事件から約2年後。
「およ?」
「どーした」
一度起こった、妙なクレームは消せないものである。まーた、桑田さんの家に荷物なのであるが。
「奥さんの名前ってこれでしたっけ?」
「あー?いや、この名前は聞かねぇな。なんだろな。とりあえず、しょうがないけど。親父さんに聞いてみるか」
「えー」
「奥さんが出てくるかもしれねぇよ」
とは言っても、そー上手くいかないもの。
頑固親父は知らないのかと相変わらず、怒鳴り気味。あの頃よりもさらに息子との仲は悪化しているらしく、
「これは息子の奥さんのだ!!名前の載せねぇーっとわかんねぇのか!!このバカ共は!!」
2年経っても、住所を代えない息子と似てるんだよな。
そして、また。そんなミスなのか、ミスでもないのか。クレームを挙げられ、挙句の果てにさらなる家族の仲の溝ができ、配達員が怒られるという始末。いやもうなんなんだ。
「今度から知らない桑田の荷物は、息子の家に届けよう。もうコリゴリだぜ」
「そーっすね」
そこから1年後。
まーた、知らない名前の桑田さん宛の荷物。迷うことなく、息子さんのお宅に届けに行くか。あいにくのご不在。そして、荷物は
「生ものか。宅配BOXに入れるわけにもいかねぇな」
しょうがなく、不在票を入れてその場を去る山口。どうせ夜の再配達でまた訪れるだろうと、思っていたが……珍しく来なかった。奥さん共々、帰宅できなかったのだろうか。
だが、翌日。
「儂の孫宛の荷物が、なんで息子の家に届いておるんじゃーー!住所見てんのかーーー!!」
「いや、知らねぇーーよ!」
ご丁寧にクレームが入る。
どうやら息子さんの子供。つまりは孫の荷物だったようだ。中身が出産祝いの商品だったのは分かるが、
「ポストに名前書いてないのは、息子の家に届けてくれって……」
「そんなもん付けとらんわ!!桑田と書いてあったら、桑田の家に届けるのが当然だろ!!住所も読めんのか!?それでプロなのか!?恥ずかしくないのか!?」
こいつ、外しやがったな。そもそも毎日、見てるわけねぇーだろ。
「これからは息子達と孫と一緒に暮らすんじゃ!!いつまでもロクな仕事ができん奴等が地域におっては、その地域の子供達に示しがつかんじゃろうが!!分かってんのか!!」
それから桑田さんの家は、親父と奥さん、息子さん、その奥さん、そのお孫さん。仲良く5人暮らしで生活している。あれこれあったけれど、息子の成長と結婚、孫の誕生を気に息子さんから和解の挨拶をし、穏やかに暮らすようになったとさ。親父さんもこの電話を最後に、優しい性格に戻ったという。
家族が増えるとは、それだけ人を変えて、幸せにするものなのである。
「おーーーい!ここに不幸しか背負ってない連中がいるんですけどーーー!!」
人は人に振り回されながらも、幸福のために集まり、許し合うものなのであった。
家族の絆とは誰が想う以上に、光り輝いて強いのだった。
「全然許されてねぇーから!!いい感じに〆ようとしても、俺!不幸だから!!なんでこいつ等が救われてんだよ!」
それもまた人生なのである。他人を悲願でばかりじゃ、幸せはやってこない。
「理不尽こそが人生だろうがーー!」




