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一話


 『異世界転生』


 と言えば昨今のライトノベルでは主流、王道とも呼べるものに発展してきている。チートを持ち、ハーレムを築き上げる主人公も居れば、女体化や人外化して大活躍する話も存在する。


 そんな中で俺の転生は少し変わったものだった。俺は中堅の会社に勤めるしがないサラリーマンだった。人並みの給料、人並みの日常、趣味は料理とかライトノベルを読むことだとか、至って平凡な人間だったと思う。


 そんな中で俺は非日常に遭遇してしまったのだ。会社の帰り道で偶然見かけた絡まれている女の子を助ける為に、厳ついお兄さん達になけなしの勇気を振り絞って声を掛けた所揉み合いになり、俺だけ車道に転がっていって事故死。


 まあ、この程度の事は昨今の転生を主題としたライトノベルであれば日常的な光景だろうと思う。しかし、転生先の事情が酷かった。


 俺の母は貧民街の娼婦だった。客との間に出来た子供が俺らしい。母は見た目も心も美しい女性で、見ず知らずの客との間の子供である俺に対して、並々ならぬ愛情を注いでくれた。


 プラチナブロンドの長い艶のある髪、整った気品ある綺麗な顔立ちは道行く皆が振り返る事間違いなしだ。それに俺を産んだにも関わらず崩れていない均整のとれた身体に、スラリと伸びた長い手足、良い所のお嬢様だと言われても信じてしまうだろう。


 男に生まれた俺でも母の美貌を受け継いでいるらしく、母の客だった男に幾度となく声を掛けられた事もある。そんな男共を騙して家計の足しにしようと小金を持ち帰ってくると母は俺の事を叱りつけた。


 人を騙すな、盗むな、傷付けるな、などの日本人の小学生が習うような道徳観を少女の様に泣きながら語り聞かせてきた。そんな事は百も承知だったが、この子供の見た目と時分から考えると妥当な教育であると伺えるし、母だと認識し、温もりと愛情を強く感じた瞬間でもあった。


 しかし実際問題、我が家の家計は非常に苦しい。母の収入がある時は平気なのだが収入が無い時も存在する。そんな時は1日に水とパンだけなんて生活はザラだ。


 母の収入はまず食品から始まり、身の回りの生活用品、それで余った分を仕事道具である化粧品や服に使うのだ。


 お金の使い道は主に俺の物に対して使われ、母の為に使われるお金は少量だった。一度それを指摘して我慢するから母の為に使う分を増やしたらどうか、と言ったら泣いて謝られた事がある。


 苦労かけてごめんね、お母さんもっと頑張るからね、と抱き締められ泣きながら言われては退かざるを得なかった。しかし、実際に苦労をかけているのは俺なのだから金をどう工面するかを考える必要があった。


 6歳の頃、母に働きたいと申し出ると却下された。理由を聞くと、子供の時は働かないで友達と遊んだり勉強をするべきだと。言ってはなんだがこの世界に転生してから友達なぞ1人も出来た事はない。


 見た目は子供だと言っても中身は大人なのだ、話や感性が合うはずもない。勉強についても、貧民街の外れにある教会で教えてはいたのだが、内容が文字の読み書き、算数などの日本人であれば小学生の低学年で習う内容をしているだけだった。


 転生した直後に言語に対する不安はあったが、全て日本語に聞こえるし日本語に見えていたので問題無しという結論に至り、教会へ行く必要も無いと結論付けのだ。


 なので俺は今、貧民街をぶらつきながら仕事を求めている。ちなみに俺が転生した貧民街はアスラ王国の王都の北、最も日が当たらない場所に位置している。


 王都は中央に王族が住む王城があり、その周りを貴族街と呼ばれる貴族、更に許可を受けた者だけが入れるエリアが囲み、北には貧民街、東と西にはそれぞれ商業区と工業区が位置していて、南に居住区が存在している。


 そしてそれらをグルリと囲むように存在している大きな壁、そして東と西にのみ存在する巨大な門。王都に入る為にはこのどちらかの門を必ず通らなければならない。


 日も落ち始め、今日は仕事が無かったと肩を落として家路に着いた。そもそもこんな貧民街の子供が出来る仕事は限られてくる。実入りの少ない仕事か、とてつもなく危険な仕事のどちらかしかない。


 仕事が有った時に得た収入は生活用品を買い足したり、母の為の物をこっそりと買っておいたりして使っている。心配されて泣かれるのが嫌だから危険な仕事には手を出さないようにしているが……そんな事を考えている内に家まで着いてしまった。


 「母さん、ただいま」


 


 


  


 


 

 

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