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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺には友達が一人もいない。

作者: ヒロモト

俺は泣きながら歩道にうずくまっていた。

日本人は困っている人を放っておかないとテレビでは言っていたが、あれは嘘だな。

誰も俺に声をかけない。

まぁ厄介はごめんだよな。

俺はゆっくり立ち上がり、ゆっくり歩きだした。


(今なら死んでもいいだろう)

危険なゴーサインを俺の脳が発信していた。

そこは踏み切りの前。

(ローカル線だ。今日は休日だし、遅延しても学生たちは困らないだろう)

「それに……」

(俺が死んだらいくらかは親にいくだろう。電車を止めた賠償金もそれで払えるのではないだろうか?)

死のうとしているのに頭のソロバンを丁寧にはじく。

(出来るだけ肉片が線路に入らないように角度をつけ、勢いよく飛び込もう)

時刻表と電車のスピードを確認した。

一両編成のローカル線なのでスピードに心配はあったが、頭から飛び込めば痛みなく死ねると思った。

俺は最後の作業。

遺言を遺そうとスマホを取り出しある人に電話をかけた。

「……わろけるわー」

『いつでも駆けつける』

『絶対に裏切らないから』と言っていた人からは完全に着信を拒否されていた。

止めてくれるとは期待しちゃいなかったが、遺言ぐらいは聞いて欲しかった。

親にかけるわけにもいかんしなー。


俺には友達がいない。

本当にいない。

あとは病院と命の相談センターぐらいしか電話帳に登録されちゃいない。

全くの他人は遺言をのこすには味気ない。

死のうとしている人間なのに変なこだわりがあった。

「……一人いたな」

俺はそいつに電話をかけた。


友達?……Aはイケメンで女にも男にも好かれる奴だった。

小中高と卒業したらその時作った友達全員と縁を切るスタイルの俺が唯一、高校卒業後も付き合いがあったのがAだった。

よくわからない関係だった。

一年に……時に数年に一回Aから電話がかかってきてドライブして飯をくって帰るような関係。

Aが本当に誰も友達をつかまえられなかった時に俺にかけてきたのだと思う。

最後に会ったのは三年か四年前か?

電話番号は変わっている?もう結婚なんかしてるんじゃないか?というか俺からかけるのははじめてだなぁと思っていたらAがでた。

『うぃ~。久しぶりぃ~どした?』

「おー……」

ぎこちないながら平静を装い俺は適当に世間話をした。

「でさ」

『うん?』

いよいよ本題だ。

俺は今から死ぬとこいつに言う。

何年も会ってない友達かどうかよくわからない俺からの冗談だと奴はとらえるか?それとも『なにこいつ?気持ちわるっ!』と電話を切るか?

どちらでもいい。

俺は『今から俺という男が自分の意思で死ぬ』ということを俺を知る人間に知ってほしかったのだ。

「……ってわけでさー。もう死んじゃおっかなぁーって」

出来るだけ冗談っぽく言ったはずだったがAの声色が変わった。

『今どこにいるの?』

「えっ?えっ?○○……」

『死ぬのはやめときなよ~。電話番号のメールでラインのID送ってよ。ラインでやりとりしよう。俺、今から迎えにいくからさ!○○の店の前で待ってて!』

それからのことはイマイチ覚えていない。

気がつくとAの甘いタバコの香りがする車の中にいた。

『まさか止めるとは』『まさか本気にするとは』とパニックになっていた。


「思い出もなにもないねーハハハ!」

長髪パーマにあごひげのAが

俺たちの母校を指差して笑った。

「……まぁ取り壊して立て直したらしいからね」

「よく考えたら中学時代は喋ったことなかったもんね」

「うん」

それから海にいったりファミレスで奢ってもらったりして家に送って貰った。

「まぁそのうちいいことあるよ~」

「そうかなぁ?」

Aと会ったのはそれで最後だ。

ただなんとなく『それならまだ死にたくないかもな』と思えるようになった。

「今度ソープにいこうよ」

「いいね」

「またね」

「ありがとう」



今、俺は生きている。

『死ななくちゃ』『死ななくてはならない』と脳みそが訴えてくるたび『嫌だ死にたくない』と脳内でたくさんの俺が言い争いをする日々は地獄だったが生きている。


四年書きつづけた小説が書籍化すると決まったのはそれから半年経ったころだ。


Aにもそれをラインで報告した。


『おー。おめでとう!ヒロモトセンセっ!』

『賞金で今度いい飯をおごる』

『期待しないで待ってるよー』

『生きてりゃいいことあるもんだ』

『そうだね。俺も今年一番嬉しいニュースだよ。仕事いってきます』

『また』


Aにラインするのは半年に一回ペースか?

次に会うのは二年後?三年後?下手すりゃ十年後?


できればAをまた喜ばせるような報告をしたいし、Aが困っていたら今度は俺が助けたい。


俺に友達は一人もいないと思っていたが、そう思ってる時点でAは俺の友達なんだろうなと思う。


タイトルから前言撤回しよう。



俺には友達が一人いる。








だからまだ止まるわけにはいかんのさ。

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