出発前夜
18話二章に入って早々、照弥が脱落しました。
今回は、まだ出発迄展開しません
それでも最後迄読んで頂けると嬉しいです。
医務室ヘと運ばれた照弥を抜いて、四人はネルメーツェ教会跡地に向かう前に、今日はクリアリッド族の住処の部屋を借りて、疲れをとる事にした。
「まさか、miracleがあの後訪れていたとはね」
miracleの来訪を雲は三人に知らせていた。
四人全員が驚くほどmiracleが彼らの近く接近していたのは珍しい事だった。
次の目的地となる場所にふと疑問を持った紅那は雲に対して訊ねた。
「ネルメーツェ教会跡地って確か封鎖状態じゃなかったっけ?」
投げ掛けられた疑問に、瞳を閉ざしたまま雲は応えた。
「無断で入ったんだろ。miracleはそういう奴だし」
三人が疑問を話し合っている中で雲は違うことを考えていた。そんな事よりも、気になることがあったからだ。
「癒し人かぁ……どんな人なんだろう」
華が口に出したが、確かにどういう性格の持ち主かは大切だ。
相性が悪い人物ならば、行動を共にした際チームワークにばらつきが出てしまうからだ。
だが、最重要視すべきなのは、そこではなかった。
「問題は協力関係になってくれるかだろ」
響が言うように雲が気にしていたのは、協力してくれるかどうかだった。
例え、miracleが見つけた抗神者であっても、協力的でなければ、照弥の傷を治す事が難しくなるからだ。
雲はネルメーツェ教会跡地に向かう際、あることを思い出した。
周りが、新な抗神者の存在について話をしている中、雲はその口をゆっくりと開いた。
「なぁ、一ついいか?」
「「「?」」」
「ネルメーツェ教会跡地に向かう前にシャルデモーツに寄りたいんだが」
「シャルデモーツ?」
「酒蔵の街?」
「理由は勿論あるんでしょ?」
三人が疑問に思うのは仕方がない。
何故なら、シャルデモーツとは、現在地から東側にあるクノゥル大陸の北部に位置していて、そこから西方に山、川、草原を越えた位置に、ネルメーツェ教会跡地は存在する。
明らかに、目的地よりも離れた場所ヘと長距離を歩いて行く必要があるからだ。
「雷が居るかもしれない」
雷と名前を口にした雲に、華が疑問を投げ掛けた。
「雷が?でも雷が向かったのは反対方向のメタノルギアなんじゃ──」
「防壁省リンリア支部の中に潜入したとき、シャルデモーツの落雷異常気象と書かれた記事を見た」
落雷異常気象という言葉を耳に入れた三人が呆れた表情をしていた。
「それは明らかに......」
「雷ね。間違いなく」
溜め息混じりで、手で頭を抑えながら下を向く華と紅那に続き、響は苦笑いをしながら雲に訊ねてきた。
「何をしてんだよ。あいつは」
「俺もあいつが何考えてるか、今回ばかしは理解不能だ」
全員が再び大きな溜め息を吐く。
暫くして、部屋と扉をノックする音が聞こえた。
扉の近くの壁に寄りかかっていた響が、扉を開けると扉の前には、先程、部屋へ案内される前にクリアリッド族の長と名乗る老人が居た。
四人は知らぬ間に、その老人に苦手意識を持ち始めていた。
それもその筈、老人はリフトから我先へと一目散にパラシュートを使って逃げた本人だからだ。
「イヤー先程ハ、スマナカッタナ」
「別に過ぎたことだ。気にしなくていい」
「用件はそれだけでしたか?」
響が用件を伺うと思い出したかのように、手をポンと叩き続けた。
「実ハ、miracleカラノ言伝テデ、言イ忘レテイタコトガアッタノデナ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
クラリフォール北側外壁に静かに佇む焼死体。
ゆっくりとその死体に近付く人影があった。
その人物は、背丈全体を覆い隠すほどのマントを着ていて、顔をフードで隠していた。
その後、死体の頭部を靴の裏で軽く蹴った。
「いつまで寝てんの?フェロニア」
呼び掛けられた炭化した肉体が、皹を入れ砕け散った。中からは、眠りから眼を覚ましたような呻き声を上げるフェロニアが出てきた。
「いやー今日一日で二回も死んだわよ」
「流石は【無の使徒】常人場馴れした特別な力の持ち主」
「『憧憬』の代行人っていうのには、気が乗らないけれどね」
閉じていた眼を開けて、じっと目の前にはいる人物を眺めるフェロニア。
その視線が気になったようで、見つめられている本人は、フェロニアに『何か変か』と訊ねるも彼女は頭を横に振る。
「っていうか。なんでケルノが居るの?」
「上からの命令。今度は二人で行動して、【無の使徒】『救済』の代行人 ミチヤの捜索に当たれってさ」
「へぇー。遂に二十六人の精鋭が二十五人になるのね」
ケルノと呼ばれた人物は、顔が隠れるほど深く被っていたマントのフードを取り、襟足を伸ばした暗めの茶色い髪が露になった。
彼は、フェロニアの他人行儀な発言に戸惑った様子で訊ねた。
「辛くないの?元パートナーの殺害命令だよ」
「MMがどういう理由で裏切ったかは知らないけれど。〔裏切りには死を〕それが私達のルールでしょ」
「以外とスッパリと切り捨ててるんだね」
「元々気に入られていた訳ではないのよ。やっとの思いで発見された、【無の使徒】の候補がヒモト出身で、得た能力が七優越に匹敵する能力だったから」
「故に『裏切りのM』か」
「どんな力を持っていたとしても、私を殺すことは不可能よ」
「MMの力を持ってしても?」
「えぇ」
「さてと」と言いながら立ち上がったフェロニアは、次の目的地は何処かをケルノに訊ねた。
「MMの現在地はおそらく、≪水の都─アグネリア─≫もしくは、≪霊峰─ヤルザンデン─≫の二ヶ所」
「それなら、ゲイオニーズ国境砦を越える必要があるわね」
「あ、そうだった。言い忘れてた」
何かを思い出した様子で、手をポンと叩くケルノにフェロニアは視線を向けた。
「メタノルギアで発電設備が全て停止したらしいよ。原因は電気の過度な蓄電だったみたい」
「機械都市で?電力消費の多い都市のはずでしょ。蓄電するほど電気が余ってるなんて考えられないけど」
「多分だけどフェロニアの考えてる線で間違いないよ」
「そう...取り敢えずリンリアの中に戻りましょう。こちらの戦力がどれだけ削られたのか知っておきたいのよ」
フェロニアとケルノは足を揃えて、リンリアの中ヘと向かい足を進めた。
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