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消えかけの人々  作者: 蓮之都
一章 死線を越えて
14/22

潜みし炎

今回は紅那VSフェロニアとなります

街の外の東門の前で三人は立ち尽くしていた。開けてほしい訳ではなく、中に侵入したい訳でもない。只何故、雲が門を閉じたのか理解できなかった。見間違いではなく雲は自主的に門の扉を自分の手で閉じた。


「な、何してんの?全員でここを出るんでしょ。ねぇ雲聞いてんの!」


扉越しに華が雲を問い詰める。しかし、何も言って来なかった。暫くしてから大きな溜息を吐いてから雲が返答してきた。


『うるせぇなぁ。どのみち誰かが中に残って、門を通さないようにしなきゃいけないだろうが。その中でも一番、生存率の高い奴が残った方がいいだろう』


「華、この状況を打破するために誰かが残らないといけないのは事実だ。そして、この中で一番その役が適任なのは間違いなく雲だ。それはずっとパートナーとして組んできた華が一番解ってるんじゃないか」


「雲、先に行ってるわよ。華を一人にしないでよね。私達は不可能ではない限り二人一組以上で行動しなきゃいけないんだから」


『わかったから。はよ行け』


三人は雲に言われていた西門の山道へと向かい始めた。西門へ向かう際に門の無い北側を通ることにした。そのまま真っ直ぐ西側へ向かおうとしたが、三人は走り出した。北側の街壁に入る曲がり角を曲がった矢先、進行方向から銃弾の数発が足元の手前に飛んできた。


「やっぱりねぇ~。この街で唯一門が無いのは北側だもの。逃がさないわよ」


「な、なん...で。無事でいられるわけが」


銃弾が飛んできた方向からは現れた人物に華は驚いた。本来ならばその場にいるはずがない相手が三人の目の前に立ちはだかった。


「えぇ確かに。全身を氷漬けにされたのよ。無事な訳があるわけないでしょう。一回死ぬ羽目になったんだから」


「響、照弥を連れて先に行って。私が相手をする」


紅那は率先して前に出た。一人では無茶だと思ったのか華も加勢しようとした。


「私も手伝うよ」


「華は脚を怪我してるでしょ。無理はしないで響と一緒に行って!!」


紅那の言葉にフェロニアは、両手のリボルバーの銃口を三人に向けた状態のまま笑った。


「逃げられるわけがないでしょう。氷のお嬢さんは特にね」


「貴女を退かして、二人には先に行ってもらう。例え貴女を倒せなくても、足止めぐらいならば可能なはずよ」


紅那は肩幅に脚を開き、両手を自分の胸の前で合わせて瞼を閉じた。


「薙ぎ払う、刃が纏う、焔を振るう 和道わどう月術つきすべ


紅那は言葉を発すると、同時に会わせていた手を横に広げた。次第に茜色の光が彼女前に集まり始め、光の集合体から一本の刀が姿を現した。


その刀は柄も鍔も鞘も鮮やかな茜色で彩られて、刀は地面に落下することなく紅那の前で宙に浮き続けた。


紅那は閉じていた瞼を開け刀を手に取り、瞬時に構え刀身をいつでも抜き出せるように鞘と柄を掴んだ。


「貴女の得物は、よくわかっていなかったけれど。要は、間合いに入りさえしなければ斬られることはないと思うのだけれど違うかしら」


「言ったはずよ。貴女を倒せなくても足止めぐらいならば可能だと」


フェロニアは静かに引き金を引いた。左右交互に驚くべき速さで。銃から放出された弾丸は、紅那の後ろの左右にいる華と響を目掛けて飛んでいった。


紅那は自分の左右を通過する弾丸を視認して、鞘から刀身を抜きそのまま自分の左右の弾丸を一振りで斬り落とした。


フェロニアは紅那の一連の動作を見て「おぉ」と言って軽く驚いた反応を示した。


「へぇー。凄いわねぇ。私の弾丸の軌道を読んでから斬り落とそうとする人達は何人か居たけ れど。実際に弾丸の軌道を見てから一振りで斬り落としたのは貴女が初めてよ」


紅那はフェロニアの言葉を耳に入れず、刀を構えた体勢から一瞬にしてフェロニアの懐に潜り込み、下に構えていた刀を上へと斬り上げた。


フェロニアは上半身を後方へと倒し、それにつられるように下半身を持ち上げて後方へとバク転した。


「危なかったわねぇ。ギリギリ見抜けて良かったわ」


「!?」


フェロニアの体を見て紅那は驚いた。彼女の異変にその場に居た三人の中で唯一気づいてしまったからだった。


「そんな、どういうこと」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



───リンリア東門───



一人残って門を塞いでいる雲と、その周辺で倒れ込んでいる多くの兵士達。そして雲を見詰めながら立っているブレッグリアが残っていた。


「これで全員っと。さて、あんたが相手してくれんのか殲滅部隊『剣狼』ブレッグリア殿」


「他の道から残りの方々を追いかけても良かったのですが。貴方を放置しておくと街の中にいる兵士が全滅してしまいそうでしたし、私が居なくなったとしても、貴方は私を彼方へ行かせてはれないでしょう」


「違うな。あんたは俺と戦いたいんだろう。だから此処に残った。そうだろう?」


「おやおや、これは私も気が緩んでいたのでしょうか。本心を見抜かれてしまうとは。」


本心を知られているという雲の発言に「流石は彼に重症を与えたお方だ」と言い再び口を開いた。


「ガンリューが遅れを取った相手、彼は真っ黒野郎と言ってましたが、黒いコートに黒いパーカーそして黒い髪と片眼を隠した男。そういう事でしたか。剣を何故持たないのです。あるのでしょう黒い柄の剣が」


また雲自信も、ブレッグリアの発言で正体がばれていると悟った。ガンリューとの交戦では、暗闇の中で剣の色までははっきりと知られてはいなかった。ブレッグリアも同様にの彼眼の前では一度も剣を抜いていない為色は知られていない。


「ガンリューから聞いたのかい『剣狼』」


「えぇMIDNIGHTミッドナイトTWINSツインズの片割れ。そして、黒剣士殿」


「そういえば思ってたことでさ俺の懸賞金って結局4億シャラン?」


雲が自分の賞金について訊ねた。


ブレッグリアは、「いいえ」と答えて両手に剣を握りながら一歩一歩と歩き出した。その歩幅は徐々に大きくなりながら、それに続くように速度を上げながら雲に向かって走り出した。


MIDNIGHTミッドナイトの4億シャランとTWINSツインズの片割れ分4億シャラン。そして、クラリフォール騒動の件を含めてトータル10億シャランの首となりました。昇格おめでとうございます」


賞金に関わる会話を褒め言葉で終わらせると同時に、片方の剣を雲に向かって振り下ろした。


「ありがとよ」


雲は、その一振りを避けて先程と同じくらいの距離を取った。


足元にある兵士の持っていた剣を拾いブレッグリアに向かって投げた。


ブレッグリアは雲へ向き合い、飛んでくる剣を避けた。


避けられた剣は刃が十三等分に、横から斬られてた様なきれいな断面を残して散乱した。


すると、雲の顔の横を通り過ぎるように、ブレッグリアの方から風が吹いた。それと同時に、後ろにあった建物が誰かに斬られたかのような綺麗な断面作ってから崩れた。


「十三太刀」


雲がボソッと呟くと、今度はブレッグリアが左の剣を鞘に収めて兵士の剣を拾い、自分の剣を抜いた雲へと向かって投げた。


雲も当然避けるが、先程と同じ様に避けられた剣の刃が全く同じ状態に綺麗な断面を残して散乱した。


しかし、今度は雲の方からブレッグリアに向かって風が吹いた。彼の後ろにあった建物は何者かによって斬られた断面を作ってから崩れた。


「十三太刀ですか」


雲と同じ様にブレッグリアは呟くと、雲は大きな溜息をついた。


「よく見ろ。十五太刀だよ」


雲の言葉を耳に入れたブレッグリアの顔の左頬には、浅い二本の切り傷ができていて、そこから血が流れた。


「どうやら、手加減もしていたようです。ですが、ここからは真面目に相手をさせていただきます」


ブレッグリアの雲を見る眼は、得物を見つけ狙いを定めた狼の眼と同じだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


───リンリア北側街壁前────


フェロニアに違和感を感じながらも紅那はひたすら弾丸を斬り落とし、距離を詰めては刀を振っていた。


「またギリギリで危ないわぁ」


「はぁはぁはぁ」


「あらあら、息が上がってるわよ」


(やはり、おかしい。この人には確実に刃は当たってる...なのに何故か...傷ができない)


フェロニアは傷を負わせることができない紅那を煽り始めた。


「二人を護りながら戦うのは大変じゃない?」


「まだまだ万全よ」


強気に返すが紅那自信も、現状維持だと切りがな無いことを実感していた。


「紅那!太刀を使え!!俺達はすぐに駆け抜けるから!!」


後方の響からの言葉に紅那は耳を疑った。それは、紅那が一番使いたくはない状況だからだった。


「何、言ってんのよ。バカ響。今ここで使ったら皆にまで被害が出るでしょ」


「紅那、私がいるから構わず使って」


「でも、そうしたら」


「余所見してる暇があるのかしら」


フェロニアは話に集中していた紅那の至近距離にまで自分から迫っていた。


「しまっ」


紅那が気付いたときには、両手のリボルバーの引き金を華と響に向かって引く寸前だった。


「今度こそ!!」


フェロニアを斬りつける、その瞬間に紅那の両隣を弾丸を通り過ぎた。そして、フェロニアは紅那の間合いギリギリの外にいた。


「!?」


紅那はフェロニアを視認するとすぐに弾丸を止めるために走り出した。しかし、届くことは限りなく0に近い話だった。


(仕方無い!!)


「華!構えて!!」


紅那の言葉に華は少し戸惑ったが、直ぐに意味を理解した顔立ちになった。


いにしえより伝わりし脅威よ、我が言霊に呼応しその力を刃に宿せ 和道わどう火炎斬かえんざん月術つきすべ 調月流剣技つかつきりゅうけんぎ 基礎ノ太刀 壱式・武月むつき


紅那が言葉を発しながらその場の地面に刀で斬りつけた。


次の瞬間、紅那を中心に炎がドーム状に包み込んだ。


「なっ!何をやってるの」


三人が炎の中入ってから、どんどん炎は広がって行き次第にフェロニアも中に呑まれた。


「あっつっっくない?炎って周りを覆っているだけ?いや違う。私の足場以外を炎が包んでいるのね、やっぱり別の何かがある」


フェロニアが炎の中で思考を巡らせていると後ろから人影が現れた。


瞬時にその人影が誰か見当がついた。この炎の中で自由に動ける者は一人だと、だからこそ敢えてその影に気付いていない振りをした。


フェロニアの予感が当たり攻撃を敢えて食らった。フェロニアは倒れる前に体勢を立て直してから後ろを振り返った。


しかし、その後ろには誰もいなかった。姿を隠す時間も追撃の時間もなかった筈だった。でも、後ろにはいなかった。


「おっと危なかったぁ」


「調月流剣技 弐式・輝鎖羅月きさらぎ


「ぐああぁぁぁぁ」


刹那、フェロニアは背後から斬撃を受けた。瞬時に居場所を移動することは不可能な程、時間はなかった。だが彼女は確かに攻撃を受けた。


攻撃を敢えて受けて、体勢を立て直すと同時に後ろを振り返る。その隙にもう一度背後を奪うことは不可能だった。だが今、攻撃を受けたフェロニアの後ろには紅那が立っていた。


「何故、後ろに」


「貴女に攻撃するとき私の刀の刃先は、ほぼ確実に貴女を斬っていた。でも貴女には傷がなかった、だから判ったのよ」


紅那の言いたい事がフェロニアにはよく解らなかった。フェロニアは攻撃を受けたが何故か傷がないという困惑を与え続けた。しかし、それが紅那がフェロニアの能力を見抜くきっかけになってしまった。


「貴女はさっき、自分から私の間合いに入ってきた。しかし、その時に貴女は私の攻撃を避ける前に引き金を引く事ができたはず、でもおかしい事に貴女は引き金を引かないで避けた。でも、いつの間にか私の左右を弾丸が通過したのよ」


フェロニアは自分が困惑を与えた事で矛盾が起きる理由がばれたことに気付いた。


「弾丸を手で飛ばしたって言ってもあんなに綺麗な軌道を描くわけがない。なら考えられるのは一つ、攻撃を受けているフェイクだと思ったのよ」


「だからって私に攻撃を当てられた理由にはならないんじゃ」


「だから、華に手伝ってもらったの。貴女にフェイクをさせて油断を作るために、貴女が受けた攻撃を仕掛けたのは其処にいる華よ」


紅那が指差した方向には、華と照弥を担いだ響がいた。


「しかし、私の動きを封じなくていいのかしら」


紅那に能力がばれたフェロニアは、自分が放置されている現状について訊ねた。


「いや、動けないでしょ。指一本も」


「!?」


「驚くことじゃないわよ。調月流剣技 弐式・輝鎖羅月は斬りつけた相手の動きを封じる技なのよ。持続時間は体に浮かび上がった鎖の模様が消えるまで」


紅那の言葉でフェロニアは自分が動くけない理由に納得がいった。


「そして、壱式・武月は...」


紅那は刀を振り上げて構えた。茜色の刀の刀身を包むように周囲の炎が集まりだした。


「えっ、ちょっと。う、嘘でしょ」


「本気よ!!」


炎が全て刀身を包み込んだのを確認してから、上に構えた刀を振り下ろした。


フェロニアの体を刃が通り、切り口から炎が広がりだし燃やした。


「ああ゛づう゛ぅぅぅぅぅいいぃぃ」


炎は次第に弱まって消え、フェロニアだったものは確実に炭の塊になった。


それを確認した紅那は、華達と西側山道に向かって走り出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


────リンリア東門────



雲がブレッグリアと一対一で交戦をしていた。しかし、雲は剣を鞘に収めてただひたすらに攻撃を避ける事を繰り返していた。


「何故剣を抜かないのですか」


「目の前の相手を見ていない奴相手に、剣を向ける気にはならん」


「何を言っているのですか。貴方はもしかして人を殺す覚悟ができていないのですか」


ブレッグリアの挑発にも聞こえる言葉に雲は黙り込んだ。

面白ければ評価の方をお願いします。


感想、ブックマーク、レビューもお待ちしてます。


次回 雲VSブレッグリア の話です

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