第X話 大晦日・下
グラたん「今年最後の投稿です! 皆さん、よいお年を!」
~レミリア~
色々、色々と思うところはあるわ。先日のデート中にヤバイ攻撃で富士山やら他国が吹っ飛んだり、渋谷に飛行機が墜落して大量に死人が出たり。多分だけど私の預かり知らないところでメンタたちが何かをしているとしか思えないわ。
急いでFQハイランドの駐車場からスルトが用意していた車に乗って逃げ、予約していた宿に戻ってきた。
しかし、この宿に泊まるはずだった人たちもさっさと地元に帰り、従業員も逃げ出してしまった。オーナーはハワイ旅行に行っているらしくいない。つまり私とスルトと二人きりというわけになるんだけど……。
扉が音を立てて開き、浴衣姿に着替えたスルトが無線を持ちながら入ってくる。先の渋谷事件で携帯電話は完全に使えないらしいんだけど、軍用の無線なんて一体何処に隠し持っていたのやら。
「あっちもこっちも大騒ぎだ。富士山が抉れたせいで溶岩が溢れ出して周囲は全滅。こっちまでは届かないみたいだけど高速道路はしばらく渋滞だ。帰りは下道になりそうだが……大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」
スルトはそっか、と言って無線を鞄の中に仕舞った。
「さてと、従業員もシェフもいないとなると勝手に厨房を借りて作るしかなさそうだな。レミリア、お腹空いているか?」
「それなりに。でも貴方に合わせるわ」
「分かった。なら夕食を作っている間にお風呂に行って来たらどうだ?」
「後で良いわ。それより貴方の手際の良い調理を見ていた方が楽しいもの」
本当に気遣いも良くできている人だと思う。ってか、むしろ最近は咲夜の方が雑になってきている気がするわ。いっそスルトを貰っちゃおうかしら。
「そんなに見るようなものでもないと思うけどな……ま、いいや」
私たちは厨房に行き、私は邪魔にならない場所に椅子を置いてその上に立ち上がって見学し、スルトは冷蔵庫にある食料を見て挽肉や卵を取り出した。それに野菜が数種類と調味料はケチャップにコンソメ、塩コショウ。
「よし」
三角巾とエプロンを装備した彼はどこぞのコックさんのように野菜の下処理をし始めた。スルトと付き合うようになってからは多少なりとお弁当を作ってみたりもしているが元が元なだけにあまり上手いものは作れていない。黒焦げ6割、マシな奴3割、上手くいったのが1割くらいだから三日に一回くらいのペースでしか食べさせてあげられない。やっぱり咲夜に教えて貰おうと固く決意する。
タタタ、タタタン、タタタンと心地よいリズムで野菜、肉が切られていき、卵もかき混ぜられ、フライパンでは野菜、肉、調味料がライスと一緒に炒められていく。その隣の鍋では野菜スープを作っているようだ。
卵の良い香りが鼻に飛び込んでくる。砂糖も少量混ぜているらしく甘い香りが漂ってくる。
「よっと」
私には出来ない卵を空中で綴じる技が繰り出される。私も以前真似したことがあるが、勢いよくやりすぎて卵が換気扇に直撃した。普通の女子はフライパンを持ち上げるのは難しいとか雑誌に書いてあったけど流石に嘘だと思ったわ。少なくても私の知っている奴らは岩とか持ち上げたりするし。
「出来上がりっと」
今日の夕食はオムライスと野菜スープらしい。あと私に見えないように冷蔵庫に手作りアイスクリームを隠していたけどバレているわよ。ま、サプライズは嫌いじゃないから黙っておくけどね。
私は一足先に席に座り、スルトが二人前を運んできてくれる。手伝う? 480年近くお嬢様をやっている私に手伝うなんて文字は無いわ。ま、自主的にフォークとスプーンを並べたり、お水入れるくらいはやってあげるけど。
スルトも席に座り、両手を合わせた。
「それじゃ、食べようか。いただきます」
「いただくわ」
美味い、とだけ言っておくわ。一々感想を文書にしていたら時間が勿体ないわ。
用意していたデザートも平らげて夕食を終え、私は満腹感に浸りつつスルトが食器を洗い終わるのを待つ。食後には必ず紅茶も入れてくれるから少しずつ飲んでいるわ。
「お待たせ」
「うん」
ようやく終わったらしく、スルトは紅茶セットを手に持って食堂を出た。旅館は二階建てなので持っていくのはそんなに苦痛じゃない。
部屋に戻ってきて、まずは紅茶セットをテーブルにおく。それからスルトは手荷物を持ち上げた。私はそれがちょっと不可解に思い、留める。
「あら、何処かいくの?」
「隣の部屋に。流石に年頃の男女二人きりは不味いだろ」
ああ……なんだ、そんなこと。
「別に良いわよ。どうせ二人きりだもの」
「いや、だから……」
まだ何か言おうとする。私は無言でその背に回り、腰に手を回した。身長差もあって完全には回しきれないけど止めることくらいは出来た。
「今日は一緒に居て。……あんなことが何時起きるか分からないし、貴方がいないと命がいくつあっても足りないわ」
先の件、両方が奴らの仕業だという確信はある。前は渋谷にいた誰かを狙った。今回は私。偶々かもしれないし必然かもしれない。でも少なくてもこいつと一緒にいる間は比較的安全なのは確かね。
あと……こっちの肉体は吸血鬼じゃなくて人間だから予想以上に脆い。体は当然のことだけど心もヤワになっている、と思う。
「……良いんだな?」
「……特別。良いわよ」
普段のレミリア・スカーレットならあり得ないと思う。でもこれは私であって私じゃない。なら今の私がやりたいようにする方が私らしいわ。
バッグを置き、スルトは少し困りつつも嬉しそうに笑んで私の手を握った。私はもう少しの合間だけこうしていた。
ここの銭湯は大浴場が一つと岩風呂、サウナ、水風呂、そして露天風呂がある。
「それじゃ、何かあったら声を上げてくれ」
「ええ」
当然男女別。二人だけだからスルトも少しくらい我儘言ってくれても良いと思う。
内心で溜息を吐いて私は暖簾を潜った。脱衣所は電気こそついているけれどあまりにも寂しい。壁一枚を隔てた隣の部屋から布を脱ぐ音さえ聞こえてきてしまう。
トクン、と心臓が跳ねる。頭にはちょっと……いや、かなりヤバイ事柄が浮かんできてしまう。落ち着け、と自分に言い聞かせて浴衣の帯を緩める。
浴衣一枚を脱ぐと後は下着だけ。咲夜やパルみたいにブラは必要ないからキャミソールだけで良いんだけど……女性的魅力は完全に無いわぁと思う。
向こう側からガララと浴場への扉が開く音がする。不意にドキッとしてしまったことに顔が勝手に赤くなっていく。
同時に、でも――とも思ってしまう。多分、もうこんなチャンス二度とない。二人きりという蠱惑的なワードが変に拍車をかけているのかもしれない。
「~~っ」
下着を籠に入れ、タオルを巻き付けてパタパタと浴槽へ向かう。スルトは長風呂が好きらしいけど、男子の長風呂は10分あるかないかくらいと雑誌に書いてあったわ。私が全身を洗うのに約8分。そこから脱衣所で軽く拭いて移動したとして2分。ギリギリね……。
冷静じゃないとは分かってる。馬鹿なことを考えているのも知ってる。でも、こうしたいって思っている自分がいるからしょうがない。私は気持ちに嘘を付きたくない。
多分、最速の記録で洗い終わり、シャワーで良く流してタオルでお湯を拭きとりながら駆け足で移動する。ペタペタという足音さえ嬉しそうな気がする。
籠を手に持ち、男子更衣室の前で一つ深呼吸。
「いくわよ」
気合を入れて一歩踏み出す。スルトじゃなかったら自分からは絶対入らないだろう境界線に踏み込む。一歩動いてしまえばあとは持ち前の度胸で進める。中にはスルトしかいないと思うけど一応警戒してスルトの隣に籠を置いておく。
浴場――露天風呂からチャポンという温泉に入る音が聞こえた。チャンス!
ガララ、と勢いよく扉を開き、その目でしっかりとスルトの姿を確認する。勿論、あいつも気付き、眼を限界まで見開いて驚いている。
「お、おお、お邪魔するわ!」
「ちょっ――!? こっち男湯だぞ!?」
知ってる。知っていて入っている。恥ずかしさをこらえていることに気付け、と言いたい。しかし私にもう退路はない。露天風呂に向かって一直線に駆け足で進んでいく。
「と、特別に一緒に入ってあげるわ――」
緊張し過ぎたせいか足がもつれた。しかも露天風呂一歩手前で。
目の前には岩。しかも顔面直撃コース。普段の私なら痛みと引き換えに岩を砕くんだけど……とそこまで考える頃にはもうぶつかっているはずなんだけど何故か痛みは来ない。思いっきり瞑っていた眼を開くとザパーンという音が鳴った。そこはお湯の中。
何故、と問うより早く呼吸をするために浮上する。
「ぷはっ」
「かはっ! はぁ……」
そして呼吸を整えるとスルトと目が合った。視点が一緒ということは珍しいためちょっと覗き込む。
――相も変わらずぐちゃっとした色。幻想郷でも、この日本でも法律がある限り人は人を殺さない。そのためか割と綺麗な眼をしている人が多い中でこいつは澱んでいる。ゾクリとするような黒の中に潜んでいるのは憎悪と虚飾。虚飾は飾り。自らを飾り付けていることを差すのだけれど、スルトの場合は顔だと思う。
人としての顔、王としての顔、勇者としての顔、邪神としての顔、殺人鬼としての顔。色々な面を持ち、望むものを何でも手に入れられる。
それはきっと羨ましいこと。でも、本当は多分違う。前者も彼ではない。
全て流されるままに彼はなっている。その顔全てが彼を構成している。それが全て剥がれ落ちた時、この人はどうなってしまうのか私でも分からない。
ううん、それも違う。
「ああ……」
――誰かに望まれたのがスルトなのね。
両親に望まれて、それは一部あると思う。でもその本質はもっと大きな流れ。もっと孤独な誰かに作られた存在。同じ闇に住まう者だから分かるのかもしれないわね。
「素敵」
だとすれば私が手に入れるのは筋違いなのかもしれない。本当はその孤独な誰かの物なのかもしれない。でも、ここにいるってことは最低一回は手放したわけよね?
もっと間近で見る。覗き込むように、唇が触れ当たっても構わない。別にそれは大したことじゃないから。
「っ!?」
あっ、もう、動かないで欲しいわ。目も瞑らないで。
右手で顎を上げ、左手でホールドする。眼を見るだけでゾクゾクと背筋が震える。後退する彼を背もたれするまで追い詰める。膝を立てて太ももで足をしっかりと挟む。もっと密着して離さない。
「――ねぇ、要らないなら貰っちゃうわよ?」
「な――」
何を、と彼は至近距離で答えた。それは求めた返答では無かったけど、返答がないってことは要らないってことで受け取るわよ。
「ま――って!」
頂きますをしようとしたところで彼は両手で私を引き離した。それに加えて自然過ぎるくらいな力の流れがあった。その一部は今の私では捕まえることは出来ないけど――戻ったら逃がさないわよ。もう感覚は捕まえたんだから。
さてと、実を言うともう一つ気づいたことがある。
「れ、レミリア、近い! 近いから!」
「何よ、ダメ?」
このスルトは、多分リアルと繋がってる。あの首輪もどきがこの世界のAIに影響を与えているわ。当然スパコン並みの超情報処理能力がなければ死んでしまうだろうけど、彼なら出来るわ。勿論フィードバックもしていると思うし、ね?
「だ、ダメだ! こういうのはまだ早いというか……その……」
「あら、こんな美少女と混浴という夢のようなシチュエーションなのに?」
自分で言っておいて何だけど私は体型以外はそこそこイケると自負しているわ。
「だ、だからこそだ。……あと、前が見えてる」
それは知ってるわ。だってスルトに手を引かれてお湯にダイブさせられて受け止められた時に剥がれ落ちたからね。距離を詰めたのも見られたくなかったからというのもある。勿論、わざわざ引き離したのはこいつよ。
「う~」
なので、今まで出したことのないくらい甘い声で抱き付いてみる。どうせこれは夢なわけだから、R18恋愛ゲームなわけだからありなのよ。
「ひぅ!?」
何よ、その怯えた声は。ああ、そういえば嫁に斬殺されたり矢で全身を貫かれてハリネズミにされた経験があるんだっけ。ならここは優しく抱擁してあげるのが正解ね。
「むぎゅっ」
……ちっ、鉄板だって言いたげね。無いんだからしょうがないでしょ。
少しするとスルトは大人しくなり、優しく私の腰に手を回した。ぎゅーっと少し強めに抱き返してくる。
「んんっ」
まるで子供に戻ったかのように頬を擦りつけてくる。……というか、これ早苗とか嫁たちにもやってるのかしら……? そう思うとちょっと妬ける。
体を離すとスルトは少し惜しそうにしていた。でも体が冷えたからお預けよ。
「……」
「……」
特に会話は無いけど背中を合わせているだけで温かみがある。
「あ、熱くなってきたし俺はそろそろ出るぞ」
やはり男性の長湯は10分程度らしい。
「私も出るわ」
一人で男湯に残るわけにもいかないし。
脱衣所には先に入って着替えを素早く取り、裏手に回る。着替えも手っ取り早く終わらせ、ドライヤーで髪の毛を乾かしておく。
……さっきの混浴のせいか、ちょっと恥ずかしい。我ながら大胆なことをしたものね。
ドライヤーも終わると借りている部屋に戻り、布団を隣り合わせにしておく。
「も、もう寝るのか?」
「そ、そんなわけないでしょ……」
と言っても実はもう寝る準備万端だったりするが、こ、こういうのは慣れないこともあってかちょっと踏ん切りがつかない。
「貴方は……嵩都はどうしたいの?」
結局丸投げしちゃうんだけど……スルトの奴も困ったように頬を掻いている。視線を右往左往させ、また私を見た。
「一緒に、寝たい」
「な、ならそうしましょう。ほら、早く、電気消して!」
「は、はい!」
パチンと電気が消され、スルトが転ばないようにゆっくりと歩いてくる。
私も先に布団に潜り、背中を向ける。ちょっと、いやかなりドキドキしながらただ縮こまる。それ以外に選択肢なんてない。そもそもこういう場面とか展開とかはスルトの方が場数踏んでいるはずだしリードしてくれた方が助かるというか……。
「……くー」
……まさかと思って振り返るとスルトの馬鹿は疲れたのか一瞬で寝入った。その安らかな寝顔を本当に安らかにしてやろうかとさえ思った。
何よ、期待した私が馬鹿だってこと?
「くー」
……馬鹿のようだ。否、忘れていたけどスルトは超が付くほど奥手だったわね。ならこうなることの方が普通なのかもしれない。……女の子としてはちょっと不満ではあるけれど、安心出来る。
「馬鹿……」
一言だけ呟いて私は寝返りを打ってスルトの手を握る。これは夢、と自分に言い聞かせる。こんな都合の良い夢はいつまでも見られるわけがないもの。
瞼を閉じ、眠りに落ちる。
もうすぐ約束の一か月が来る。せめてそれまでは良い夢を見ていたいわ。
3月2日。
遂に最終日。ま、デートもしたし攻略も出来たので概ね満足な結果と言えるわ。
「卒業生、卒業!」
入学式に出ていないのに卒業とはまた不思議なものだけど、こうしてたくさんの人に見送られるのは悪くないわね。
並び順はスルトが先で私が後。あいつは苗字が朝宮だから出席番号一番なのよね。ちなみに私はスカーレットが先にくるから中間くらいの番号になるわ。
「高校生活も終わりかぁ……」
校門を出て帰路に着くなりスルトは背伸びをしながら呟いた。
「そうね」
私たちの関係もこれで実質的に終わり。例えこのまま居たとしても私は母国に戻るからどうしようもないわね。
「ま、でもこれからずっと一緒だし気楽と言えば楽だな」
「……はぁ?」
ちょっと待って。何? なんでそういう話になったの?
「ん? どうした?」
「どうしたって……私は母国に戻るのよ? もう会えないかもしれないってのに……」
すると彼はへっ? と間抜けな声を上げた。
「な、何でそんな話に? もしかして別れるつもりだったのか?」
……あー、これどっか食い違ってるパターンね。
「そ、そんあわけないわよ。一応言っておくけど私はフランスの超一流大学に通う予定だから日本にいる貴方とは会える機会は物凄く少なくなるわ」
それを聞くや彼は『ああ』と呟いて納得した。そして後頭部を数回掻きつつ答えた。
「そっか、レミリアには言ってなかったっけ。俺は将来パティシエ希望だから4月からはフランスで修行するつもりなんだ。それに外国の方が仕事しやすいし」
「あら、そうだったの? 初耳よ」
しかもその仕事の方って裏の方でしょ? 確かに日本は武器の仕入れや殺人は厳しいから仕事はしにくいわよね。
「でも夕夏はどうするつもり?」
スルトには夕夏という妹がいるわ。しかもスルトはシスコン、夕夏はブラコンという一歩間違えたら薄い本一直線の関係。私的には美味しいけど。
「夕夏は中高一貫の私立だから寮に入るらしい。将来も剣道一本みたいだし、伸平たちもいるから大丈夫だろ」
それで良いのかと思わなくも無いが深く突っ込むのはよそう。あと、これがクリアサービスなのかどうかリアルの方のスルトに尋ねておかないと。
「そう。なら、良いわ」
私は気分よく先を歩いていく。スルトはその隣に駆け寄り歩いてくれる。
そんな私たちを祝福するかのように桜が舞った。
~博麗神社~
「ケェー! 甘酸っぱい! 吐き気がします!」
「ペッ! ペッ! ドクペくれ! 胸妬けする!」
「あんたら酷いわね」
ゲームクリアと書かれた画面を見つつ起き上がったレミリアは同士の馬鹿二人を半眼で睨んだが、まあいつものことなので放っておき、スルトの前に座った。
「ねえ、スルト。貴方、本当にフランスに行くつもりだったの?」
その問いにスルトも先ほどのことか、と思い出して肯定した。
「うむ。異世界転移しなければ俺は悠木を連れてフランスに留学する予定だった。向こうには師匠の二号店や三号店があるから、師匠も俺たちと一緒に戻って腕を磨くつもりだったらしい」
ピシリ、と辺りの空気が固まる。スルトは爆弾発言に気づいていないのか、流れた不穏な空気に戸惑いを見せた。
「……その悠木って誰?」
「地球を管轄している余の嫁で本名はバウゼンローネという」
「えっ、バウゼンローネ様って初めから一緒にいたんですか」
メンタも地球制圧の際に魔族であるバウゼンローネに拾われた経緯があるが、元々スルトと同じ学校にいたことは聞かされてないため驚いていた。
「うむ。ただ、異世界に行こうと行くまいと必ず余の嫁になる運命にあるのは彼女だけだ。こういうのを俗に運命の赤い糸と呼ぶのだったな――」
スルトは思わず背を逸らして正面から迫る鋏を避けた。
シャキン、とレミリアが鬼の形相でスルトが立てていた小指を鋏で刈り取った。
「あら、手が滑ったわ。頸動脈を狙ったんだけど」
「驚いたぞ。いきなりだな」
「悪いけど乙女の純情を弄んだ罪は重いわ。あとこれを作ったっていう馬鹿も殺す。大方そのバウゼンローネって人は私と同じロリね」
「その通りです」
刻夜に向かって全力オーバースローで投げた鋏が飛んでいく。彼はそれを指二本で受け止めてテーブルに置いた。
「死ね! この腐れ外道! 外道と書いてメンタ!」
「オレもですか!?」
「落ち着け、レミリア」
レミリアが殺人グングニルを顕現した所でスルトが復活した左手を向け、零の領域を放つ。零の領域は魔法及び能力を無効化する空間を作り出すためグングニルを封じることも出来る。
「何よ! 私とは遊びだったんでしょ! その首輪が直接内部リンクしてることくらいお見通しよ!」
ダンッ! ダンッ! と地団太を踏み、スルトは良いサムズアップで親指を立てて肯定した。
「うむ。ナイス貧乳」
レミリアは動きを止めた。メンタはその意思を汲み取って画面に混浴時の写真をピックアップして出現させた。
「なっ、あ、ああっ!!」
みるみる内にレミリアの顔が真っ赤になり、霊夢は一つ溜息を付いた。
「痴女乙」
周囲を見渡すと皆は肯定したり視線を逸らしたりしている。
「仕方あるまい。少々風に当たってくるとしよう」
レミリアが再起動する前にスルトは彼女を小脇に抱え、転移した。
それを確認したメンタはオホンと一つ咳を払った。
「次にやりたい方、枢さんと霖之助さんですね。どうぞ」
「言ってない」
「言ってません」
「拒否権なんてありませんよ。さあさあ被ってください」
ズイッとVRを差し出され、二人は仕方なく受け取って装着する。
「あとは――」
「私がやるわ」
「私も」
手を上げたのは霊夢とさとりだ。レミリアを笑い者にしたことについては何とも思っていないが、この空気を打開するために犠牲になろうというのだ。
「私もやる!」
「お供します」
残り二人の内、こいしと永琳が手を上げた。これで六人となり、ゲームのリセットボタンが押されてタイトル画面に戻った。
全員がVRを装着してゲーム内に入り、一日目が始まった。
中略。
結果から言えば女子四人はある意味納得のいく結末を迎えた。
「不貞寝する」
「ぐすん……」
万年ヒキニート属性のある霊夢とさとりはパチュリーたちと同じ結果を迎え、
「ほら、泣きなさい! カブトムシ王国のカブトムシ王子!」
「ああ! 永琳様! もっと強く! ああんっ!」
永琳は何故か新宿西口駅の前に鞭が飛び、蝋燭が垂れるSM店舗を設置してしまい、
「あはは~」
「こいしたん待て~あははは~」
元から頭がちゃらんぽんなこいしは深く考えることもなくロリコンに引っかかった。
見るも無残な結果にメンタたちはそっと目元を抑えた。
さて、残る野郎二人はと言えば――
「チェェェストォォ!!」
ガコンッ! とボーリングの玉がピンを全て跳ねた。既に2回戦5回目のストライク。身体能力こそ落ちているものの、普段から生死をかけたバトルをしている枢にとってボーリングは児戯に等しい。
「ストライクですね」
「きゃー! 流石は枢様~!」
「次は霖之助さん、頑張って!」
「ええ、負けませんよ」
伊達メガネの中央を人差し指で上げるギザッたらしい野郎は霖之助だ。
そう、これは所謂ダブルデート。設定上、霖之助は某超有名大学の経済学部に進学が決定しており、枢は柔道のプロ入りが決定している。当然二人は数々の賞やトロフィーを学生の内に得ている優秀者。そこに群がる女子は多い。
その中で選ばれたのは片や熱狂的なヤンデレ、片や熱狂的なメンヘラ。要するに好き好きアピールをされ過ぎて断れなくなった押しの弱い野郎二人なのである。
しかし付き合ってみると意外と悪くないことが発覚。元から野郎二人で行動していたためヤンデレ娘とメンヘラ娘は仲良くなっていった。
博麗神社。
「以上を踏まえてコントローラーを握る人はいますか?」
「よし来た」
デートでさえ死に絶えろと言わんばかりなのにより高度なダブルデートをするなどメンタたちにとっては言語道断だ。神奈子がコントローラーを握り、コマンドを開いた。
――特技――
→約束された勝利剣 MP300
幻想大剣・天魔失墜 MP300
天地乖離す開闢の星 MP500
流星一条 MP0
壇ノ浦・八艘跳 MP100
聖母解体 MP200
開演の刻は以下略 MP300
転身火生三味 MP100
「ん? このMP0って?」
「それは文字通りです! MPを一切使いませんが超強力な攻撃です! ただ――」
「ほほう、面白そうだ」
→流星一条 MP0
神は面白ければ極論何でもいい。特にためらうことも無く神奈子は押した。
映像は霖之助たちから1kmほど離れたのビルの屋上へと切り替わり、そこには変哲の無い弓矢を構えた青年がいた。
「この一矢は星を砕く!」
矢を番え、彼は霖之助たちに狙いを定める。限界まで弦を引き搾り、放つ。
「流星一条ァァァアアアアアアアアアアアア!!」
それはアーラシュと呼ばれる偉大な周回の英雄が自己の命を犠牲にして放つ一撃。当然ボタンを押した神奈子はその場で落命した。
命の矢はボーリング場に突き刺さり、直径2kmを跡形もなく吹き飛ばした。
「余談ですがこの特技はMPを使わない代わりに自己のHPを全て使う技です。つまりボタンを押したが最後死にます」
げぇ、と全員が神奈子に視線を向けた。神奈子は穏やかな表情で眠っており、パチリと眼を覚まして起き上がった。
「あー、死んだ。あっはっは」
神様に死という概念はない。そも生死を超越したナマモノが神だ。
同時に爆殺されて死んだ霖之助たちとガメオベルした霊夢たちも起き上がった。
「やはり私にはヒキニートしかないってことが分かったでしょ?」
「私たちにリアルは無い。二次元こそ運命石の選択――」
「これ以上ないドヤ顔引きこもり宣言ですね」
メンタの呆れ顔に二人はさっさと元の席に座ってジュースを開けた。
「……今思うと俺たち青春してたな」
「そうですね……」
霖之助と枢も二次元に想いを馳せ、席に座った。永琳も今日は無礼講と考えているため何も言わずに満足して席に戻った。
そこへ暴走したレミリアを物理的に眠らせてきたスルトが戻ってきた。
「ふむ、二回目は終わったようだな」
「わー、お兄ちゃんだー!」
そんなスルトに抱き付いたのはこいしだ。
場が固まる。空気が悪くなる。スルトは何故こいしがそんな蛮行に走ったのか全く理解できなかった。
「ま、待て。メンタ、これは何があったんだ?」
メンタは素早く画面を弄り、四枚の画像をピックアップした。
「まず、ロリコンの嵩都さんと付き合いました」
「ほう」
「次に家に連れ帰って一緒に寝ました」
「ふむ」
「恋人になったのでデートします」
「ほほう」
「結婚しました」
「待て。ゲーム内に結婚イベントは無かったはずだ」
「イエス! 後は後略しますね!」
スルトは今の四枚の画像から必要なストーリーと内容を理解していく。3枚目までは正常通りとして最後の画像はよく見ると自分たちではないことに気が付く。実に一秒間が経つ頃、スルトは肯定した。
「そうか……」
スルトは何処か諦めたような表情になり、代わってさとりが立ち上がった。
「ちょっとスルト、何を勝手に納得して私の妹を貰おうとしてるのよ」
「むっ。ああ、すまない。義姉さんにも挨拶はしておかないとな」
「なっ!?」
さとりは唖然としつつ、スルトは分かり切ったようにニヤリと笑った。メンタたちも止める様子はなく、こいしも実は分かっているらしくニヤニヤと笑っている。
そのスルトの首に光の鎖が巻き付き、頭部からは矢が突き出ていた。
「ふむ、メンタ後は任せる」
「了解です。お勤めご苦労様です」
スルトの背後にゲートが開き、女性と思われる人の手がスルトの首根っこを掴んだ。
「浮気」
「誤解だ」
その短い説明文は通用せず、スルトの四肢にも光の鎖が巻き付いていく。ゲートの主はどうやら夕日色の髪の少女のようだ。
ゲートが閉じられ、メンタは合掌と黙祷した。きっと今日はもう帰ってこられないだろうとも思いつつ。
「では次行ってみましょう!」
わざと明るい声を出し、場の雰囲気を一新する。
ゴーン、ゴーンと何処からか除夜のような晩鐘のような鐘の音が聞こえてきた。




