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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
8/119

第七話 戦闘中毒者

グラたん「リアルネタですが、PCが不調のため修理に出そうと思います」

グラたん「そのためしばらくはスマホからの投稿になると思います!」

グラたん「それでは第七話です!」

 その数時間後のこと。

 美鈴が教えるのは太極拳を実用化した拳法だ。動きはゆっくりとしたものが多く、しかし長年培ってきた武術のため力強さがある。長年の成果か、本来の太極拳とは違い美鈴独特の技がいくつかあるのだが、それらは美鈴自身が戦いの中で会得した技でもある。


「ふっ、ふっ、ハッ!!」


 ただし、何処にでも天才という人種はいるもので、今回はパルがその例に当てはまってしまっていた。埋もれていた才能と言えばそれまでだが、たったの五時間で型の習得してしまうというのは何処ぞの戦闘民族でも難しい。


「馬鹿な……」


 ――や、ヤバイヤバイヤバイ!! まさかこんな天才だったなんて! こ、このままじゃあたしの地位が最下位に落とされるっ!! いや、焦るな美鈴。まだ基礎の基礎。拳法の神髄は拳と武器を自在に使ってこそ一流だ。

 美鈴は酷く焦り、狼狽した。しかしまだ戦いを経験したことのないパルに教えることはまだまだある。特に武器を使った武術は美鈴でさえも極めていない。否、極められない。そもそも極めたこと自体未熟者の証拠だ。


「なら次は自分に合った武器を使った型をやってみようか」

「武器ですか?」

「使ったこと無い?」


 迷いを見せるパルに対して美鈴は驚く。

 この幻想郷であれば武器の一つ二つ使うことは珍しくないし、人間でも妖怪と戦うための獲物を持つことだってある。もっとも人間が妖怪と戦う前にどっかのクソニートが動くため戦う機会は滅多にない。

 流石に見かねた咲夜が助け船を出した。


「そもそもパルは外来人ですから武器を使うことはあまりない国から来ていてもおかしくはありません」

「ボクの国は比較的平和なので武器は使いませんね」

「羨ましいなぁ……」


 ふと、美鈴は呟いた。美鈴が地球に居た時はまだ戦争も多く、平和には程遠い戦国乱世の時代だった。今こそ平和を享受している美鈴も昔は酷い目にあったこともあり、親や兄弟、親戚が目の前で殺されることもあった。咲夜もそれを知っているからこそ美鈴の呟きは心を痛ました。パルも二人の表情から少し察して話題を変えた。


「そっかー、なら三角昆や棒よりは使いやすい刀の方が良いかな」


 パルが話題を変えたのを機に咲夜と美鈴もそれに乗った。


「刀でしたら倉庫に山積みになっていると思いますよ。あと、私は少し席を外します。美鈴、あとを任せますよ」

「はい!」


 後は二人でも大丈夫だろうと咲夜は判断し、夕食を作るため厨房に向かった。


「武器は持ち手を選ぶって言うし、パルが選んだ方が良いと思う。良し、ついて来て」

「はい」


 咲夜を見送り、美鈴とパルは武器庫へと向かった。武器庫内部は本当に武器しか置いていない。しかしその種類は美鈴が集めて来たものやレミリアが酔狂で買った物がいくつもあり、実に数は万を超えるだろう。


「好きなのを選んで良いからね」

「うわぁぁ……凄い沢山ある……」


 美鈴の声も聞こえないほどパルは武器を眺め、目を輝かせた。

 ――初心者ならカトラスとか三日月刀でも良いと思うけど……パルなら日本刀が似合いそうだなぁ、と美鈴は思う。それと同時に美鈴はパルに対して一つ気がかりなことがあった。普通の女の子であれば武器に目を輝かせることはあまりない。なのにパルの目は真剣そのもので、それは生来の真面目な性格から来るものではない。

 その可能性はあれど美鈴は現実から目を背けて知らぬふりをした。


「あ、これ良さそうですね」

「どれど――れ……」


 ただし、目を背けられたのは実に五秒という短すぎる時間だった。


「おぅ……初っ端からそれに目を付けるとは……」


 仮に武器を好む女の子だったとしてもそれは選ばないだろう。否、それを選ぶこと自体パルのセンスは飛びぬけているのだろう。


「でもこれ珍しい形状ですね」


 パルが手に取ったのは鮪包丁と呼ばれる包丁だ。ただし、その大きさは斬馬刀並に大きく実用性が全くない上に包丁としても使えない物だ。

 部類としては大剣に属するだろう。


「それは元々マグロを解体する包丁を模して私が作った奴だったんだけど、ほら、咲夜さんがナイフ使いだから刃の無いナイフはナイフではないとか何とか言って刃をつけたんだよ。しかもそれなら模造品じゃなくて一から作れってレミリア様に無茶振りされましてね……香霖堂で作って来たんだけど、あまりにも大きすぎて咲夜さんが使えない上にそもそもマグロを斬ること自体無いからってことでお蔵入り。しかも重量あるから拳法には合わないよ」


 美鈴としては出来ればそれは選んでほしくなかった。鮪包丁を使った拳法なんて知らないし、聞いたことも無い。しかし一番の理由は自分が作った作品だからだ。黒歴史ではないにしても気恥ずかしさがある。


「じゃあ、これにします」


 止めろぉ! と美鈴は心の中で叫んだ。


「話聞いてた?」

「はい。使い辛いのは大きさが合ってないからですよね? それなら使いやすい大きさまで長さを縮めて凝縮した密度を全体に分割して強化すれば良いと思うんですよ」

「……っ!」


 美鈴も咲夜からパルの能力のことは聞かされていたが、その発想は無かったというように驚いた。要するに、どんな扱い辛い武器武装でもパルの手にかかれば使えるようになるということだ。


「あ、丁度良くなりました」


 美鈴が危惧したのはパルの戦闘の天才性だ。純粋な戦闘センス、使う事もないような武器を選ぶ直感、基本の習得の速さ。そして何よりもパルが型をしている時の危険な笑み。あれは――。


 ――あれは間違いなく戦闘中毒者バトルジャンキー独特の笑み。


 美鈴もそういう輩と戦ったことはあるが、戦う度に強く速くなっていく厄介な奴等であり、負けても勝つまで――いや、勝っても好敵手認定されて何度でも試合を挑まれる。美鈴もその気持ちが分からなくはないため度々受けている。

 パルがどの程度なのかは分からないが、美鈴は少し危険度を上げた。


「……負けてられないわね。早速実習よ!」

「はい!」


 その鮪包丁を持ち、パルたちは前庭へと戻った。


「『要注意』する必要なかったですね」


 その影から咲夜が二人を見守り、薄く微笑んでいた。

 余談だがパルが武器を使い始めると同時に美鈴の心が一層ざわついたのは美鈴以外知る由もない。





 夕食を食べ終えたパルは大図書館へとやって来てパチュリーと会っていた。

 大図書館は相変わらず酷い有様だったが、パルが片付けを始めると十分程度で終わってしまい、いつも頑張って片付けていたパチュリーの使い魔である小悪魔が気絶したのは別の話。


「昼は掃除と稽古、夜は幻想郷の文字の読みと書き、それに魔法術式の勉強までやるの?」

「やりたいことはいっぱいあるから」

「その熱意と生真面目な姿勢は研究者向きだと思うんだけど人間だから時間が足りないわね……」


 惜しいなぁ、とパチュリーは感嘆する。

 ――咲夜の時みたいに永琳に蓬莱の薬を分けて貰おうかしら。正直、パルなら色んな所歩いて回れそうだからね。……そう、これはあくまで私の研究のため。偽善でも優しさでもないんだからね。と、パチュリーは思う。

 パチュリー自身もこの紅魔館が賑わう分には歓迎――尚、五月蠅い喧しい類は別――なので、そのためであれば永琳のいる永遠亭に行くのもやぶさかではない。


「所で貴方の能力は判明したのかしら?」

「うん、咲夜さんによると『数を自在に操る程度』だって」


 パチュリーはそんな夢物語の能力に愕然とした。


「……はっ?」

「だから『数を操る程度』の能力」


 一瞬、息を止めてから、あくまでも冷静に、表面上は落ち着いて答えた。


「――それは便利そうな能力ね」

「でも咲夜さんが見ている範囲でしか使うなって」

「ええ、それが良いわよ、きっとね」


 そう答えたはいいが反面では酷く狼狽していた。

 ――何その反則級の能力!? 咲夜の時間を操るのも大概だと思ったけどこれはこれで需要価値高すぎる能力でしょ! 下手したら物量で神殺し狙えるわよ!

 事実、やろうと思えば上級の神様とでも戦える能力だ。

 能力と言ってもある程度ランク分けされており、その順位は使い勝手の良さと危険度を総合的に見て線引きされる。

 例えば紫の境界を操る程度であれば使い勝手の良さ、戦闘時の使い方、日常での使い道を鑑みても最上位に近い能力だ。逆にメンタの理性を操る程度などの精神に関わる能力はあまり良い使われ方をしないことが多いため順位は低く、逆に危険度が高いことになる。魔理沙やパチュリーの能力はどちらにも中間と言った具合だ。


「ボクとしては咲夜さんの能力の方が色々出来て良いなぁって思うんだけど」


 ――あ、ヤバイ。この娘、自分の価値を分かってない。なるほど、咲夜の条件付きも分かる気がするわ。


「……むしろ私もちょっと使わせて貰えると貴重な呪符のコピーとか魔導書のコピーとか出来て助かるんだけど……」


 と、パチュリーは考えつつ無意識に口に出していた。それを聞いたパルは特に何を思うこともなく頷いた。


「良いですよ」


 ――聞かれてた!? とパチュリーは内心で非情に焦る。普段は冷静で落ち着きがあると自他共に評判のパチュリーさんだ。そのプライド故に無様な姿は見せられない。


「――何の事かしら?」


 すっとぼけるとパルは首を傾げて先程呟いていた言葉をそのまま返した。


「えっ? 今自分で貴重な呪符のコピーとかなんとか言ってたよね?」


 ぎゃぁぁああああああああああああ!! とパチュリーは内心で叫んだ。出来れば聞かれていて欲しくなかったし、物欲高めの女の子として今後見られていくと思うと今すぐに棺桶買って来て墓地に埋葬されたい気持ちにさせられる。しかしこうなってはいた仕方がない。


「……その内お願いできるかしら?」


 開き直り、素直に頼み込んだ。


「咲夜さんに許可とってからね」

「ありがとう」


 パルの良い所の一つは悪意が無い事だ。それに加えて変に揶揄わないところでもある。これがレミリアであれば、うわっ、そんなこと考えたの、とか、うはぁ……とか言ってドン引きされることは間違いない。

 夜の勉強が始まり、魔法の理論や実技、幻想郷のことや歴史を記帳していく。それらは興味深いものばかりでパルの好奇心を強く刺激させた。パチュリーも全てを理解できるわけではないだろうと思っていたがパルの熱中ぶりに興味を引かれ、予定よりも少し遅くまで付き合ってしまった。そのおかげで次の日は昼まで寝過ごしてしまったのだが、また今日の夜も来るだろうなぁ、と考えてから起き上がった。





 それから更に一週間ほど経過したある日のことだ。パルも紅魔館に慣れ始めていた春先のことだった。今日も天気は良く晴れていて寝起きも良く気分も晴れやかだった。


「うーん、良い朝。さて、今日も働くぞー!」


 おー! と一人で盛り上がり、寝床を立ち上がりクローゼットを開けた。その中にはそろそろ十着を超えるであろう咲夜特製のメイド服が並んでいた。ヘッドドレスやカチューシャ、猫耳、帽子、犬耳等々全て違っている。今日は犬耳を選択し、メイド服を着用し始めた。

 部屋を出ていつもの様に厨房へと向かおうとすると、その途中に地下へ降りていく階段があることに気が付いた。パルも紅魔館内は一通り回ったつもりだったのだが、意外とまだ知らない部屋があるらしい。


「あれ? 地下室あったっけ?」


 階段は薄暗く、壁に小さな明かりが偶にあるだけだ。壁伝いに興味本位で降りていく。パルとて規定の時間に遅れるつもりはないため何があるのか確認したらすぐに戻るつもりだった。

 最下層にたどり着くと周りは暗くて見えず、目の前には一つの部屋があった。


「……鉄格子に、分厚い扉?」


 ――薄暗い上に変な臭いまでして……パチュリーが変な研究でもしているのかな? でもこんな地下深くで何をしているんだろう? それとも何かを飼っているとかかな? と、パルは思った。鉄格子があることから何か危険なものがあるのかもしれないと少し身震いする。


「気になる、けど――あまり遅いと咲夜さんに怒られるからまた今度こよう」


 しかし興味は尽きない。美鈴にも体術を教えて貰えているし、パチュリーからも魔法の基礎を教わっている。いざとなれば能力があるし、逃げて咲夜に泣きつくことも考えた。だが、それ以上に咲夜を怒らせたくないためパルは一度踵を返した。


「――誰?」


 突如背後から声をかけられ、パルは振り返った。


「えっ?」


 そこにいたのはレミリアと似た服装の黄色の髪の少女だ。その腰には七色のジュエルのような羽が生えており、その様子はただの子供だ。


「ねぇお姉さん、あたしと遊んでよ」


 少女は鉄格子の奥からパルに手を伸ばした。その様子にパルは困る。まさかこんな小さな子供が閉じ込められているとは思わず、困惑した。


「え、えっと――」

「遊んでよ」 


 しかし、まずは咲夜を優先すべきだと考えて首を横に振った。


「ご、ごめんね。今はダメなの」

「なんで?」

「咲夜さんが待ってるからさ」

「咲夜に?」

「また後でじゃダメ……かな?」

「後で来てくれるの?」

「うん」

「約束だよ!」


 ――あんな場所に子供を一人だけにして……これは咲夜さんに聞いてみないとね。

 そう考えつつパルは階段を上り、廊下へと出た。


「……パル」


 正面から声がしたことに気が付き、パルは顔を上げた。そこには少し怒ったような、悲しそうな表情をした咲夜がいた。


「わっ! さ、咲夜さん!?」

「何故こんな場所にいるのですか?」

「あ、えっと……気になったから――です。そ、それよりさっき子供が地下に――」


 パルの言葉に咲夜は嘆息した。


「見てしまったのですね」

「は、はい」

「何か話しましたか?」

「後で遊ぶって……」


 咲夜は本当に残念そうな表情をして、次にはもう無表情になっていた。


「……そうですか。なら、今から遊んであげてください」


 怒られる、と思っていたパルはその言葉は予想外であり、咲夜を見上げた。咲夜は相変わらず無表情だったが目には憐憫が見て取れた。


「え?」

「レミリアお嬢様には私から言っておきます」

「良いんですか?」

「ええ、良いですよ」

「ありがとうございます、咲夜さん。あの子、一人で寂しそうにしていたんです」


 お礼なんて――と咲夜は思う。次いで、パルに彼女の名前を教えた。


「そうでしょうね。あと、あの子ではなくフランお嬢様ですよ」

「フランお嬢様ですね。分かりました」


 パルは少し安堵し微笑したまま地下へと戻って行った。

 ――なぁんだ、咲夜さんもフラン様のことを心配していたんだ。というかフラン様って引き篭もり?

 パルは色々な憶測を考えつつも先を急いだ。パルの性格からして一人でいる子供を見捨ていることは出来ない。一人でいる、地下に閉じ込められているとなれば尚更だ。パルの足取りは軽く、そのパルの最後の姿を咲夜は悲しそうに見つめていた。


「なんで……よりによって見つけてしまったの……」


 見つけて欲しくは無かった。今日は咲夜がフランに会い、着替えや食事を持っていく日だった。偶々、代えのシーツを取りに行くため隠し扉を開けてしまっていたのだが、それがパルを導いてしまった。


「ともかく皆に知らないといけませんね」


 自分がパルを殺してしまったことに酷い自己嫌悪を抱えながらも咲夜は急いでレミリアの元へと向かった。

 レミリアの部屋へと来た咲夜はレミリアを起こした。レミリアの寝起きは高確率で悪いが、朝や昼間に咲夜が起こすことの方が珍しい。つまり咲夜が起こすときは余程の用件がある時だとレミリアは分かっていた。


「レミリアお嬢様」

「あら、咲夜。どうしたの?」

「パルが地下室の存在に気付いてしまいました」


 レミリアはそれを聞いて視線を逸らした。


「……そう。残念ね」

「はい」

「パチェたちには?」

「これから伝えます」

「そう。……良さそう娘だったのにね」


 最後は咲夜を想い、かけた言葉だった。咲夜を見て見れば泣きたいのを必死に堪え、メイド服のエプロンを強く握って報告していた。

 レミリアもある程度察しは良い。それに加えてエプロンを握るのは咲夜が何か大きな失敗をした時の癖だ。それがフランのこととなれば概ね分かった。


「……はい」


 レミリアは気だるい体に鞭打って立ち上がり、咲夜を精一杯抱きしめてその背を叩いた。抱擁は一瞬でレミリアはまたベッドに座ってしまった。


「……お掃除頼むわね」

「……はい」


 レミリアの言葉を受け、咲夜は部屋を退出した。


「――咲夜と同じ人間で、同じくらいの年齢で……咲夜とも仲良く出来ると思ったのに……」


 寝っ転がり、天井を見上げて小さく呟いて目を閉じた。

 その暗闇でレミリアはパルの遺体を何処に埋めるか幻視していた。


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