第X話 灼熱のハロウィン ★
グラたん「トリック・オア・トリート!」
グラたん「今日はハロウィンです!」
※後書きに画像入れました!
季節は秋。博麗神社の木々も紅葉と落ち葉が多くなってきた。
霊夢はいつも通り惰眠を貪り、メンタはせっせと冬コミに向けて同人誌を制作し続けているこの頃。
巫女仕事も落ち葉を掃く以外は特に無いためこれで問題ない。
「うーん、秋ですね~」
進めていたペンを置き、メンタは大きく背伸びをして息を吐いた。
外を見れば紅葉の山が見え、敷地内には橙やキツネ、妖精たちが遊んでいる姿が見える。玄関には地底の魔王ことさとりの姿があった。
同時にピンポーンとベルが鳴り響き、メンタは急いで階段を降りて玄関を開けた。
「こんにちは、さとりさん」
「メンタも変わりないようね。霊夢は……まあ、いつもどおりなんでしょうけど」
「そうですね。霊夢さんにご用事ですか?」
普通の依頼関係なら霊夢宛てが多いのだが、さとりは否定した。
「いいえ、今日はメンタに用があってきたの」
「オレにですか。では中で要件を伺いましょう! さあさあ入ってください! 今日は魔理沙さんが香霖堂から盗ってきた玉露が飲み放題です!」
「それ、窃盗よ」
そう言いつつ、なんだかんだで霖之助は度量もあるし心も広い人物だ。ならば遠慮はいらないだろうと思い、さとりは玄関を潜った。
居間に入るとメンタはまず霊夢をゴミ袋に詰めて外に放り、食い散らかしたお菓子を片付けてお湯を沸かした。その間にお茶請けやらせんべいやらを取り出して机に置き、お湯を少し冷却して玉露を淹れる。
「はい、お待たせしました!」
次いでテーブルに『玉露缶』と書かれた缶が置かれた。見た目はインスタントかと思うかもしれないが中身は本物の茶葉だ。
「……本当に飲み放題だったのは驚きだわ」
「腐腐腐」
メンタも怪しい含み笑いを残し、まずは一口お茶を飲んだ。
「それで要件とは何でしょうか?」
さとりもお茶請けを一口齧り、渋い表情で話し始めた。
「まあこの時期に来たことから感づいているとは思うけど、ハロウィンについてよ」
「仮装についての依頼ならお安い御用ですよ」
「んっ、まあそれも頼みたいことの一つだけど、本題はこっち」
そう言ってさとりが鞄から取り出したのは一つのファイルだ。その中から一枚の書類を見せ、一通り目を通してからメンタはニヤリと笑って顔を上げた。
「トリック・オア・チェンジ・シスターズ、お菓子をくれないとお姉ちゃんを交換しちゃうんだからね! なるほど。やはり長生きしているだけあって、こいしさんもさとりさんにいよいよ飽きたんですね。確かに妹属性を持つ者からすれば構ってくれないお姉ちゃんなんていないのと同義ですから仕方ないと言えば仕方ないのですが、ここはさとりさんに同情しておきますね。強く生きてくださいプギャー」
「すっっっっごく心にも思ってない同情ありがとう。って、そんなこと一言も書いてないでしょう」
「イエス! ノリです!」
実際に書いてあるのは、こいしがハロウィンをやりたいと言い出し、地底の町で大規模なハロウィンイベントを企画したことだ。
しかし子供に運営など出来るはずもなく周囲にダメだしされ、現在絶賛拗ねている最中というわけだ。
「ま、書面見たらわかるけど要するに地底でハロウィンしたいから協力して欲しいってわけよ。お金の方はこっちでどうにか工面してあるからその予算の中でどうにか開催したいの。頼める?」
「それは勿論構いませんが、準備の段取りとか下回りを考えるとその手のプロが必要ですね。スルトさん、召喚です!」
メンタがノリノリで叫ぶとピンポーンとベルが鳴った。
「ちょっと失礼しますね」
メンタが一旦立ち去り、さとりもまさか……とは思いつつお茶を啜った。
しばらくするとメンタが戻ってきて、その背後には見慣れた黒ローブ仮面がいた。
「守矢のゴージャスPが祭と聞いてやってきたぞ」
「……やめて、貴方が関わると大抵ロクなことにならないのは身に染みてるから」
事実、陰陽事件然り、七夕事件然り、碌なことにならない――本人は楽しんでいるが――ことは誰の目にも明白だ。
さとりのつれない言葉にスルトは不敵に笑った。
「ククク、案ずるな。察するに資金不足と運営力が必要なのであろう? 余に任せてくれるのであれば一夜で予算を200倍にして全て準備を整えて見せよう」
正直に言えばさとりとてスルトの力は欲しい。欲しいがリスクも大きいため、条件をつけることにした。
「……そうね。予算はともかくとしても準備は手伝ってほしいわ。正直なところ一日で準備出来ると思えなかったのよ」
現在10月30日。ハロウィンは明日だ。
「でも、主導権は私が貰うわ。こいしの要望はなるべく詰めてあげたいからやるなら覚悟しなさい」
「良かろう。して、具体案はどのようなものだ?」
「これよ」
さとりがファイルからメモを取り出し、トントン拍子に話は進んでいく。
概ねの要望を聞き終えた後、スルトはまとめた結果を提示した。
「案は実現可能だが、金が足りん」
「ですね」
「……そうね」
ちなみに今回の予算は地底の国庫から取り出しているのであまり多くは無い。
「仕方あるまい。資金面は余が何とかしよう」
「お願いするわ。でも、必要以上に持ってこないで欲しいわ。全体の収益を見越した上で少し黒字になるくらいが本来丁度良いのだから」
「良かろう」
先にスルトが必要分のお金を作ることになり、後でさとりが元手を払うことで合意し、スルトは計画書をコピーして転移した。
「それではオレたちも行きましょう!」
「ええ、期待しているわ」
メンタとさとりも地底へと向かい、下準備が始まった。
ハロウィンと言っても地上と地底ではだいぶ違う。
地上の場合は稲や野菜の収穫時期がある程度決まっているため、秋の半ばに豊作を祝う収穫祭とまとめて行うのが通例だ。
しかし地底では日夜の感覚が適当なため祭はその場その場で行われることが多く、一か月に何回も行うこともある。そのため地底では大規模な祭りというのは何かの記念か余程おめでたいことがないと行われない。
故に、『祭・開催! 主催、魔王』と書かれた看板が立てば町は一瞬でお祭りモードに入り、一次会、本番、後夜祭、二次会、三次会と最低でも三日は続く。
「祭りだ、祭りだ!」
「ハロウィンだ!」
「仮装するぞー!」
半日もすれば古明地の町は準備を終え、一次会が始まっているようだ。
「ハーローウィーン!」
地霊殿ではメンタが急ピッチで仮装を整え、こいしたちを着せ替えていた。
ちなみにさとりは大魔王衣装で整えられており、こいしは本人の希望通りにミイラ衣装だ。尚、包帯の下は水着を着用しているため万が一包帯が解けても問題ない。
「お菓子寄越せにゃー!」
「お菓子くれないと砲撃するぞー!」
物騒な売り文句で遊ぶのはフランケンシュタイン衣装のお燐とゾンビ衣装のお空だ。とりあえず四人分の衣装を合わせ終えたメンタはソファーに倒れた。
「お疲れ様」
さとりがお茶を出し、無気力ながらもメンタは手に取って一気に呷った。
「ありがとうございます、ぷはー」
横目で時計を見れば時刻は午後8時を回っており、予定ではそろそろスルトが地霊殿に来る予定になっている。
そこへ地霊殿の玄関を叩く音が聞こえ、さとりはお燐を連れて玄関に向かった。
「時間丁度ね」
「うむ。町の下準備と監修、および資金の調達は終わったぞ」
スルトから小切手を渡されて金額を見ると元の約5倍になっていた。
「……このチート」
「ククク、この程度チートをする程でもない」
さとりは元の予算額の小切手を出して交換し、スルトはそれを受け取って空間に仕舞った。
「ああ、言い忘れていたがハロウィンパーティーには霊夢たちやパルたちも来る予定だ。無論、余たちも参加するため騒がしくなるぞ」
その言葉にさとりはあからさまにゲェ、という表情になる。当然ながら霊夢たちが総出で地底に来ても皆が祭を楽しむため宿は無い。つまり地霊殿に強制的に居座ることに他ならない上に祭は最低でも三日は続くことを考えれば頭が痛くなるのも当然だろう。
「……まあ良いわ。どうせ部屋は余ってるわけだし、嫌な騒ぎ方はしないからね」
暴力沙汰は多々あれど霊夢たちが殺伐とした空気を後々にまで引きずることは無いことは良く知っているため溜息を吐きながらも了承した。
「無論、食料事情と金銭等々の面倒は全て余が引き受けよう」
「そう言うと思ったわ。とりあえず上がったら? お茶くらいは淹れるわよ」
「いや、今日は遠慮しておこう。先約があるからな」
「……そう」
スルトはすぐに転移して去ってしまい、さとりたちは居間へと戻ってきた。
夜になれば霊夢たちが少しずつ集まりだすためその準備もあり、お空とお燐も食材の買い出しに向かわせる。その間にお茶請け――紅茶には手作りのケーキと相場が決まっているためラズベリーケーキを4ホール作り、冷蔵庫に入れておく。
18;00になるとタダ飯を狙った筆頭クソニートである霊夢は到着と同時に地霊殿に向かって叫んだ。
「酒飲みに来てやったわよ!」
予見していたかのように扉は開かれ、正面にはオンバシラ砲をMAXチャージしたお空が仁王立ちしていた。
「マテリアル・バースト!!」
無論、さとりの指示だ。
霊夢は受け身を取ることもなく地底の遥か彼方まで吹き飛ばされ、続いて早苗、諏訪子、神奈子は一条流星を横目に見ながら地霊殿へとやってきた。さとりも比較的まともな客ならば普通に受け入れる。
「お久しぶりです、さとりさん」
「ええ、待っていたわ」
「ちなみに今さっき誰か吹っ飛んで行ったけど、アレは誰だったのだ?」
「さあね。そんなことよりも上がって頂戴な。とりあえず飲み物とお菓子は山のように用意しておいたから」
「ありがとうございます! あっ、これはお土産です」
早苗の手から渡されたのは如何にも高級そうなマカロンだ。
「あら、そんな高いものじゃなくても大丈夫よ?」
「いえ、これは私とスルトさんの合作です。味も保証します」
「それは楽しみね」
さとりとしては高価な品よりは安価な品や手作りの方が好みだったりする。
中へ促されると仮眠から立ち直ったメンタがこいしたちとババ抜きをしており、何とも勝負師な雰囲気が立ち込めている。
よく見るとババ抜きの数字は1から13と変わらないが絵柄が処刑の図になっている。今回用意されているのは地底名産の仮装実現トランプというものだ。
絵柄は火炙り、釜茹で、落下死、串刺しと比較的優しい。ルールは至って単純に上がり損ねた人が最後に持っていたカードで処刑されるだけだ。1から13はレベルを表示しており、13を残しておくと妖怪でもショック死すると言われている。
ちなみにこの絵柄は上級バージョンがあり、ファラリスの牡牛、アイアンメイデン、ギロチン、車裂きの四種類がある。
参加者はメンタ、こいし、お燐の三人に加えて勇儀、萃香の鬼二匹だ。
「上がり!」
「上がりです!」
「上がりにゃ!」
「あーがりー!」
かなり接戦だったのか順番上がりで今回は終わったようだ。敗戦したのは勇儀、手元に残っているのは12の串刺しだ。
「ぬぅん、えいやぁぁ!!」
勇儀の目がカッと見開かれ、気合の入った雄たけびが上がる。
処刑は本人の脳内で行われており、強靭な精神力を持つ者ならば持ち前の技を繰り出して処刑構造を破壊することも可能だ。
しかしあの勇儀でさえも冷や汗が噴き出すレベルなのは早苗たちが見ても明らかなため、絶対やるまいと心に誓った。
「あっ、早苗さんたちも来たんですね。一緒にトランプしましょう!」
これがシャッフル中や休憩中だったのならば早苗たちは何も知らずに参加していたことだろう。
『全力で遠慮しておきます!』
「では普通のトランプにしましょう!」
それならば、と早苗たちは席についてマカロンを広げた。メンタも一瞬高そうなブツであることを見抜き、遠慮することなく一つ目を口に入れ、あまりの美味しさに意識が飛んだ。
その後も続々と人数は集まっていき、飲みあけた次の日。
「ぷっちぃ」
メンタは過労死した。
「そりゃまあ全員分のペインティングしたら疲れるわよね」
メンタが出来過ぎるというのもあるが、まともに仮装を作れる人材がメンタしかいないというのもまた事実だ。
「……そろそろレミリアさんや早苗さんにも教えるべきですね」
家計を助けるという意味も兼ねて教えれば収入はグッと増えるはずです、とメンタは思う。
「ちょっと休憩したら行きましょうか。さとりたちはもう遊んでいるみたいだし」
「はい」
メンタと霊夢も既に着替え終えており狼少女とリッチーの姿でソファに座っている。
「お疲れ様、メンタ」
パルも地霊殿に残っており黒タキシードと赤いマント吸血鬼姿でお茶を運んできていた。ちなみにレミリアたちはゾンビ衣装で祭に参加している。
「ありがとうございます、パル姉」
お茶を受け取ると外からドーン、ドーンと花火が撃ちあがるような爆音が鳴り響き、窓から街並みを眺めた。
外には巨大なカボチャが大暴れしており、それに向かってこいしたちが攻撃をぶつけている最中だった。
「ごぐり。げふげふげふっ!?」
そのハロウィンのカボチャを見てメンタは思いっきり咳き込んだ。
「大丈夫?」
パルは事前に知っていたかのような対応だが、メンタが外に向けて指を差すと傍で闘気が燃え上がるような音がした。
「魔物かな?」
「さあね。どうせ誰かのいたずらでしょ」
霊夢は我関せずだが、さとりとしてはこのままでは被害が拡大する恐れもあるため原因の究明と解決をしたいところだ。
「じゃあボクが倒しても良いよね? ね?」
「パル姉がいつになくやる気ですね。どうしますか、さとりさん」
「とりあえずアレを町の外に出すわよ。自爆なんてされたら堪ったもんじゃないもの」
「了解!」
パルが急いで玄関へと駆け出し、メンタたちも急いでその後を追った。
時刻は今日の朝まで遡る。
地底のハロウィンパーティーが開かれると知ったのは霊夢たちだけではない。
古明地の町の中央では今日の前菜、闘牛が行われている。リングは神奈子が作った特注の骨組みに諏訪子の鉄でコーティングした超特別製の闘技場だ。
周囲の席には観客が集まり、司会は仮面をしてはいるがアスタロトという神様が行っている。
「さあ、諸君! 今年もやるぞ! 闘牛祭だあああぁぁぁぁぁ……」
そう言って異次元転移魔法から入場してきたミノタウロスに挽かれた。
「ブルオオオオオオオ!!」
某ダンジョンで出会う系の物語では通称ヒロインと呼ばれている牛の魔物が入場し、会場は絶句した。
そも、ミノタウロスという生物は幻想郷でも見ない幻獣の類だ。地底の住民は『なんか凄くヤバそうな生物』という認識でしかない。
挽かれたアスタロトに変わり、猫神バステトが司会のマイクを握った。彼女を見た瞬間、会場は大沸騰。何故ならバステトは常に胸当てとパレオ以外装備していない露出狂だからだ。
「このミノタウロスと戦うのは地底の戦士、お燐ちゃんにゃー!」
別の出入り口から入ってきたのはお燐だ。武器は鉄の鍵爪を装備しており、牛なんぞ解体してくれるにゃ! と言わんばかりのドヤ顔で入場してくる。
余談だがお燐は相手がミノタウロスであることは知らされていない。
「ブルオオオオオオオ!!」
悲しいかな。ミノタウロスは四足歩行体勢になり、その猛々しい角をお燐に向けて突進し、お燐を跳ね、フェンスを突き抜けて闘牛場の外へと走って行ってしまった。
この責任をどうしてくれると神々は議論し、出した結論は『もっと暴れさせよう。その方が楽しい』というロキの斜め上を行く提案に乗り、巨大化させたのだ。
そこまでいくと流石にスルトと紫が動いて、ミノタウロスは何処かの次元に放りこみ、その影響で起きた魔力の塊がカボチャに変化し、町中に出現することになった。
周囲にはハロウィンらしく蝙蝠が出現し、町の子供たちからお菓子を奪っているということだ。
現在。
町中でスルトたちと合流して事情を聞き終え、メンタたちは非常に困った。
「激しく運動したらオレが丹精こめて塗ったペイントが汗で落ちるので汗だけは掻かないでください!」
「そっちかい!」
「ゲラゲラゲラ!」
魔理沙の拳骨が頭部に炸裂し、現共犯のロキも対神の鎖に囚われつつも大笑いした。そのロキの頭にも天照大御神の拳骨が落ちた。
「痛いです……」
「痛いぞい」
「全く……それで、そのお菓子は何処に?」
「あのカボチャの中だ。カボチャ自体は動かないがどうにも固くてな」
スルトも溜息を吐いて肩をすくめ、それがメンタには少々以外だった。
「スルトさんでも壊せないんですか?」
すると紫がスキマに腰かけて深いため息をついた。
「スルトさんに攻撃させると町も吹き飛ぶので攻撃させられないんです。貫通特化の攻撃でも余波で町が壊滅しますし……」
「それは……確かに攻撃できませんね」
うむ、とスルトは答えて空間から計画書を取り出した。
「そこで神々会議で決まった作戦を実行しようと思う」
受け取り、タイトルを見てメンタは酒を片手に騒いでいる神々を見た。
タイトルには『オンヤシマ作戦』と大きな黒字で書かれている。
「実は実写化してみたかったことNo1を決める会議で、人工人間が使徒を倒す例のアニメをやってみようと可決されたって言って良いんですよ」
「良く分かったね」
ロキがニヤニヤとしつつ内心では感心してメンタを見ていた。
代わって紫は溜息を付きながらも口惜しそうに扇子を広げた。
「酷く遺憾ではありますが、現状これが最善の策です」
パラパラとページをめくって内容を頭に入れ、砲撃主のページで手が止まった。
「え……砲撃主がさとりさんとお空さんですか」
「オンヤシマ作戦において必要なのは砲撃主と観測だ。砲撃においてもアレを一撃で破壊できる強力な攻撃は必須だ」
「それがお空さんのオンバシラ砲というわけですね」
「如何にも。ただ、神奈子のオンバシラも検討されたが満場一致で『ロマンが無い』と否決されたと言っておく」
「乙です」
単純な威力砲撃であれば神奈子の御柱で攻撃する方が手っ取り早く、そも、お空が装備しているオンバシラ砲は神奈子が与えた御柱の一本だ。同時に何本も発射出来た方が強いのは自明だろう。
「そして今回の作戦は別世界でも報道予定なので録画と編集を頼みたい」
「アニメ調ですか?」
「可能であれば映画風味で頼む」
「了解です!」
スルトから録画用の水晶玉を渡され、ついでに前金も渡されて受け取る。
「さて、あまり時間も無いことだし歩きながら今回の作戦の内容を話そう」
スルトの後に続いてメンタ、パルたちも歩き出し、目的の場所――地霊殿の前庭に向かった。
今回のオンヤシマ作戦は大きく二つの課題がある。
一つは住民の安全。巨大カボチャ――仮名パンプーキンは町の中に鎮座しており、攻撃すれば周囲に甚大な被害が出る。しかし祭を中止するわけにもいかないため余興の一環として撃破する必要がある。
二つ目は何処で撃破するか。これは上空に飛ばして一撃で撃破することで可決されている。空中に飛ばした後は欠片で被害を出さないように対物理防御結界を張ることで対処される予定だ。
砲撃主、お空は地霊殿の前庭で砲身をチャージ。隣ではさとりが狙いを付ける。
パンプーキンは手下の蝙蝠は出現させるが本体が攻撃することはないため、”映像上の都合”でスルトがパンプーキンの上から地霊殿に向けて攻撃する予定だ。
その上で今回の作戦を纏めると以下のようになる。
まず、お空とさとりが地霊殿で待機。側には盾を持ったお燐が待機する。
チャージする魔力は神々から供給され、その間に霊夢たちが古明地の町で対物理防御結界を用意する。
メンタ、射命丸、椛、こいしはカメラ係だ。色々な角度から撮影し、後に編集する作業を行う。
パンプーキンの傍には萃香、勇儀、パルの三人が待機し、合図と共に上空へ投げ飛ばす。その後、落ちてくるだろう欠片をの対処をする。
上空へ投げられたのを確認したら先にスルトが攻撃。地霊殿ではお燐が前に出て盾で防ぐ。その後にお空がマテリアル・バーストを発射し、撃破する。
「以上が作戦の全貌だ。何か質問はあるか?」
地霊殿の前庭で説明を終えたスルトはさとりたちに問い、お燐が手を上げた。
「これ、イレギュラーが発生したらどうにゃるかにゃー」
お燐が心配するのは万が一、盾が攻撃を防ぎきれなかった場合、自分も死ぬのではないかという懸念だ。
「案ずるな。ロキもそこまでヤワではない。万が一の場合は余が短距離転移させる」
「にゃら大丈夫かにゃ」
よっこらせ、と肉盾を担ぎ上げお空の前に座らせる。ちなみにロキは未だ鎖で縛られており能力は全て使えないためスルトの攻撃を直撃はしたくなかった。
「いや、あの、俺の意思は?」
「にゃい」
にゃー、とお燐が身構え、スルトもそれを見て転移した。
町に戻ってみれば霊夢たちが各所で待機しており、住民たちには催し物の一つと言い訳を早苗が述べている最中だった。
探知魔法を展開してメンタたちの様子を見てみると既にカメラは回っているらしく、地霊殿では神々の一斉チャージが行われ、通信符で連絡を受けたパルたちがパンプーキンの下部を一斉に持ち上げて上空へと投げ飛ばした。
「ふむ、良い眺めだ」
隠蔽魔法を使用してカメラに映らないように姿を消し、空間から先端に直径30cmはある紅の宝玉が填まっている長杖を取り出し、先を地霊殿に向けた。
僅かばかり邪神の魔力も使用し、先端には白と黒色の魔力が集中して溜まっていく。元は小さな球体だが外側から魔力の塊が収束され、直径は大きくなっていくばかりだ。
「えっ、ちょ、ま、それガチな奴じゃん!?」
何処からか肉盾の悲鳴が聞こえてくるがスルトは素知らぬ顔でチャージを終えて発射体制に入った。
「壊滅する白と黒の花束!!」
一見すればパンプーキンが極大の一撃を放つようにも見えただろう。白と黒の奔流が地霊殿に向かって伸びて行き――その間、0.000000001秒以下にも満たない時間の中でお燐は動くことすらできず、ロキは真面目に身の安全を確保するために自身の魔力を全て防御に回した。
「次元断裂!」
ロキが使用したのは敵の攻撃を全て別次元に受け流す技だ。空間に巨大な裂け目が出来、そこに向かって花束は投げ込まれていく。
「ぬおおおおお!」
ミシリ、と次元の裂け目が嫌な音を立てて閉じ始める。
いくら最上位神とはいえども別次元を無理やり開いておくのは非常に魔力と労力が居る行為だ。ちなみにゲートは許可された次元への移動手段のため長時間でなければ魔力消費量は少なくて済む。
およそ1秒が過ぎた後。次元断裂は完全に閉じ、余波の爆風が周囲に吹き荒れた。
「うわあああああ!?」
「っ! 何が起きたの!」
自身の全魔力を消費したロキはその場に顔面から崩れ落ち、最後の力を振り絞ってさとりに指で合図を出した。
さとりもそれに気づいて砲身を定め、チャージが完了したのを見越してお空の背を押した。
「発射承認!」
「マテリアル・バースト、発射ァ!」
最大威力にまで高められたオンバシラ砲が発射され、パンプーキンに向かって光の槍が伸び、その胴体に直撃した。
直撃と貫通を見届けたスルトは短距離転移を使用して町へと降り立ち、霊夢たちもそれを見て結界を起動させた。
パンプーキンが空中で爆散し、破片が町へと降り注いでいくが防御結界に阻まれ、結界が半球体の形であることも相まって町の外へと落ちていく。
「おー!」
「すげー!」
「流石は魔王様だ!」
「もう一回やってくれー!」
住民や祭の参加者たちから声援と好き勝手な言葉が飛んでくる。
少しばかり時間が経つと破片は無事に全て町の外へ流れ落ち、周辺待機していた神々が山盛りに積まれたカボチャの台車を町の中へと運んできた。
本来であればこのカボチャは圧縮魔法で消しても良かったのだが、料理神クックルPAD(仮)が料理すると断言したため無償でパンプキンスープが振舞われることになったのだ。
「なんで私まで」
「はいはい、文句言わないで運んでください」
配膳には霊夢たちと早苗たちもエプロンを装着して加わり、町の中央に設置された厨房ではスルトやパルたちも調理に参加して作り続けていた。
完全に終焉を迎えたのはそれから六時間後の午前零時を回った所だった。
普段からメイドをやっているパルたちはともかくとしても、霊夢や早苗たちは地霊殿に戻ってくるなりエプロンを外してソファーに倒れこんだ。
こいしやフランたちはまだまだ元気が余りあるようでジュースを片手にトランプを広げているが、そのトランプが例の地底産であることを発端のこいしも参加者たちも知らない。
「皆、お疲れ様」
「お疲れにゃー」
余波で吹っ飛んだ前庭の修復を終えたさとりたちは全員分のお茶を配り終え、空いている椅子に座った。
「さとりもお疲れ様~」
「うむ、大儀である」
スルトも余ったスープを飲みつつさとりを労い、ふと外を見ると前庭で神々がスープを片手に持ち、さとりに向かって献杯していた。
『カレオツっす、パイセーン!』
分からない人のために注釈しておくと『お疲れ様っす、先輩』を一昔風味で発言したものだ。さとりもメンタのおかげである程度翻訳できるため適当に手を振り、お茶を口に含んで飲んだ。
「出来ましたー!」
部屋の扉が乱暴に開けられ、肩で息を切らしながらメンタが乱入してきた。外では射命丸がプロジェクターの準備をしており、窓から電源プラグを接続していた。
しかし忘れてはいけないのがまだ六時間前ということだ。元の動画があると言っても編集したりテロップを入れたりするのは非常に時間が掛かる行為だ。その上、二時間ほど前までメンタはパンプキンスープの配膳を手伝っていたこともあり、主にチェイルズの同人誌を描いているさとりは呆れて溜息を付いた。
「あのね、普通二時間ちょいで動画編集なんて出来ないのよ。凄いけど」
「イエス! 頑張りました! さあ早速鑑賞会と参りましょう! さとりさん、大型TV借りますね!」
オッケーとさとりが許可を出すよりも早くメンタは電源を入れ、その間に機材を立ち上げてプロジェクターとの連動を確認した。
こいしたちも一度トランプを中断して最前列に体育座りし、咲夜と妖夢に少し引き摺られて下がらされた。
「電気落とすよー」
お空が声をかけて電気を落とすと外で騒いでいた神々もシーンと黙り込み、町からの喧噪だけが聞こえてくる。
メンタも空気を読んで静かに再生ボタンを押した。
画面が黒くなり、左端からローマ字変換を模したテロップが流れ始めた。
――幻想歴40XX年。地底――
――古明地の町――
ナレーター「地底には百年に一度、神代の次代から受け継がれている風習がある」
ナレーター「それは祭。そして大いなる敵との闘いでもあった」
このナレーター誰だ、とパル以外の全員が思った。勿論、メンタの裏声だ。
さとりの要望により古明地の町のハロウィンの風景もバッチリと撮影されており、今回の主役のお空を中心に町案内が始まった。
地霊殿も映像になって映し出されており、何時の間に撮影したのかヒューマンドラマが始まった。
早苗「お空さん、貴方しかいないんです」
お空「私は戦いたくない! オンヤシマ作戦なんて他の人がやればいい!」
さとり「ではお燐がやりなさい」
お燐「了解にゃ……」
早苗「司令!」
さとり「本日1900より作戦を開始する。以上よ」
神々の要望もしっかりと聞き届けられた形を保ってあり、ほぼ原作に近いプロット通りの進行だ。元ネタを知らない神も次の展開を楽しみにした表情でプロジェクターを見上げており、酒を飲む音は何処からも聞こえてこない。
神A「祭だ祭りだ! さあ、諸君! 今年もやるぞ! 闘牛祭だあああぁぁぁぁぁ……」
ミノたん「ブルオオオオオオオ!!」
それは一瞬の出来事だった。司会者は一瞬で挽肉となり、参加者も跳ね飛ばして彼はその体を震わせ、使徒となった。
パンプーキン「パンプーキィィィィン!」
ブッ、と誰かが吹いた。誰がアテレコしたのか一発で分かるほどの声の高さ。そう、レミリアの声だ。
映像は地霊殿を中心とした場面になり、オンバシラをお空は構えていた。その隣には偽装魔法をかけられて大楯と化したロキと、それを構えているお燐が立っている。
パンプーキン「パァァァァァ!!」
映像は射命丸と椛が超遠距離から撮影したもので、スルトとロキがほんの一瞬で行った攻防を超ハイパースローで引き延ばして使用し、そこに後で取り直したお燐の演技を挿入して合成している。
余談だがロキが叫んだ際の言葉はカットされており、代わりに砲撃音やその他の効果音で補強されている。
お燐「にゃぁぁぁあああああ!!」
防御に成功した様子を映し、お空の方に画面が向かった。この時撮影していたのはこいしだ。
お空「マテリアル・バースト、発射ァ!」
発射の瞬間、距離、角度、撃破の瞬間と四カメで撮影した部分が編集されて入れられており、直撃した際の音は原音を大きくして流され、神々に鳥肌を立たせた。
爆散後の様子や上空から撮影した町の人たちの様子も映し出され、最後にはパンプキンスープをお空とさとりが一緒に飲むシーンも加えられて大団円でエンディングへと入った。
『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
神々は熱狂した。
「おー!」
「ふむ、良いな」
「燃えますね!」
「流石は同士ね」
レミリアやさとりも満足げに頷き、早苗やパルたちも余韻を楽しんでいるようだ。フランたちも拍手しており、メンタは笑みつつもエンドロールをしっかりと眺めていた。
その視線につられてレミリアもエンドロールに視線を向けると丁度アテレコ担当が流れている最中だった。
――CV――
烏賊・李・シンジィ役 お空
怪波・レイ役 お燐
烏賊・李 司令役 さとり
御・里役 早苗
ヒロイン・ミノたん役 ミノタウロス
司会者 神アスタロト
司会者B 神バステト
パンプーキン役 レミリア
ナレーター メンタ
――特別協力――
偉大なる神々
古明地の町の皆様
紅魔館
博麗神社
守矢神社
――パンプーキンの攻撃協力――
神スルト
――防御協力――
神ロキ
――撮影――
射命丸
椛
こいし
メンタ
――編集・音響・エフェクト等――
メンタ
――監督――
メンタ
「貴方いつか過労死するわね」
「誉め言葉です!」
さとりは本当に呆れた。エンドロールを見るに、この動画編集のほとんどをメンタが一人でやっていることになる。映像の時間はおよそ1時間程度だが一体何時撮影されたものなのか検討が付かなかった。
プロジェクターを仕舞い、メンタは焼き増ししておいたDVDをさとり、レミリア、早苗、霊夢、神々の順番で配布していく。
「……本当、大丈夫かしら?」
レミリアもパッケージをみつつ心配そうにメンタを見て、もう一度パッケージのイラストに視線を落とした。レミリアも同人誌を描くことはあるが、こんな短時間でイラストを完成させられるものなのか、と考える。事前に連絡が行っていたと考える方がよっぽど理論的ではあるがそれが通用しないのが幻想郷というものだ。
夜は長い。その後も感想会が行われ、神々は休むことなく酒とスープを呷っていく。
早苗たち比較的人間勢は就寝し、片付けを終えたメンタは居間へと戻ってきていた。衣装はまだ仮装のままであり、暗くなって誰もいないソファーに座った。
「結局、今年はお菓子貰い損ねてしまいましたね」
年齢を考えるならばメンタは貰う側だ。地球に居た頃もこの時期はファンレターと一緒に山のようにお菓子が玄関に積まれているため、今年は少し寂しいように思えていた。
「トリックオアトリート」
小さくそう呟くとメンタの背後、側面、正面から大量のお菓子が投げ込まれ、部屋の明かりが付けられた。
「わぶっ!? な、なんですか!?」
「貴方にいたずらされて地霊殿が爆破でもされたら嫌だから大量のお菓子を持ってきたのだけど、要らない?」
「右に同じよ」
「今日は頑張ってたからご褒美だよ!」
「ほら、糖分取りなさい」
さとり、レミリア、パル、霊夢が微笑みかけ――何かに気づいたように一斉に飛びのいた。メンタも察知して前転しようとするが一瞬遅く、上空から降り注ぐお菓子に埋もれた。
見上げればスキマが開いており、中から紫が手を振っていた。
「はーい、メンタが寂しそうだからお菓子持ってきたわよー」
「ぶふぅ! 多すぎです! 一体どこから持ってきたんですか!」
正面からゲートが開き、中からスルトが大量のお菓子を抱えて出てきた。
「無論、其方のファンからだ。何、いつも通りであろう?」
つまり地球から持ってきたんですね、とメンタは察し――出来ればパルには知られなくないためスルトを恨めし気な視線で見上げた。
それを見るとスルトはニヤリと笑って人差し指を立て、メンタのことも察しているような素振りを見せた。パルの方へ顔を向けてみると気づいた様子はなく、事実パルは今回の地底騒動のファンか神々が送ったものだろうと思っていた。
それもまた当たりであり、紫が落としたお菓子こそ神々が調達してきたものだ。
「……こんなに食べきれますかね?」
ゲートとスキマにはまだまだお菓子が残っており、お菓子が好きなメンタでも流石にげんなりせざるを得ないが、さとりがその手を取ってお菓子の山から引っ張り出した。
「大丈夫よ。この量でも皆で食べたらあっという間だもの」
親指で神々を差し、確かにとメンタも頷いた。
「そうですね。皆さんで食べましょう!」
『おー!』
その声でフランたちも起きてしまい、徹夜したのは言うまでもないだろう。
この事件をきっかけに地底ではハロウィンの文化が始まった。
後に歴史収集家の阿求と慧音、地底の魔王さとりはこう記した。
『地底・灼熱のハロウィン事件』と――。




