第三話 ニートは消毒だ! ★
グラたん「第三話目です!」
グラたん「中ほどに挿絵を入れました! イメージが崩れそうという方は避けて――」
てゐ「中ほどを避けろって無茶言うな……」
グラたん「ちょうど区切りが良いのがそこだったんです……」
山という山を荒らし終わった霊夢が戻ってくる頃にはもう夕方になり、メンタは勝手に台所を整理して夕食を作っていた。
パルにこそ敵わないものの、メンタとて家事は出来る。
夕食を食べ終わり、霊夢とメンタは再度面と面を向かい合わせていた。
「とりあえず、自己紹介。私は博麗霊夢。この博麗神社の主よ」
「メンタです。お手伝い程度の事はしますので、しばらくよろしくお願いします」
むしろ使用人大歓迎の霊夢が断ることはない。これで金を入れてくれれば尚良いのだが……この博麗神社から麓先にある人里へ働きに出たらメンタは間違いなく過労死する。博麗神社自体、山奥の奥の奥にあるのだから。浮遊術が使えれば、もしくは瞬間移動が出来れば話は違うのだが……それ以前に霊夢が働けばこんなことにはなっていない。
「よろしい。じゃ、まずは貴方が何処から来たのか説明して貰いましょうか」
霊夢に問われ、メンタは自分が分かっていることをおおまかに話していく。
「というわけです」
「なるほど。珍しい事もあるものね」
人食いの妖怪が外の世界に出て人間を攫ってくることは幻想郷ではあまり珍しくないのだが、自力で生き残り、迷いの竹林で生き永らえていることが珍しい。
実際、人間の力で妖怪を退治するならば相応の武装や術式が必要だ。もしくは陰陽道に精通して尚且つ霊感がなければいけない。メンタはそのいずれも無いため、霊夢は驚いていた。更に言ってしまえば迷いの竹林は人間が入れば九割九部死ぬ魔郷と言われている。永琳たちに出会っていなければメンタはそこで生き途絶えていただろう。
「そうなんですか?」
それらを知る由もないメンタは首を傾げていた。
「この幻想郷へ来たということは何かまた異変が起きているのかもしれないわね」
「異変?」
「主に妖怪や世界征服を企む馬鹿共がワッショイワッショイすることよ」
異変を起こす妖怪は大抵何かしら事情がある者たちだ。例えば桜を咲かせたいから辺りから春を集めたり、プールを作りたいから人間が使っている川の水を持ってきたり。
最後は決まって霊夢が退治していくのがお約束だ。
「納得です。あと個人的意見ですが、世界征服は痛いし古いし何年代の悪役ですかって感じですね。あ、無視していただいて構いません」
誰もそんなことは聞いていないとばかりに頷いた。
「ええ。さてと、まずは情報収集ね。麓の里に行けば良いわ。そこには人間もたくさんいるし、次いでに屋根を修理するための木材を買って来て頂戴」
そう言って霊夢が棚の中からなけなしの財産を取り出してメンタに渡した。
幻想郷におけるお金は日本のお金が流通し、もしくは物々交換などで賄われている。ちなみに一番需要が高いのは米や野菜だ。
「了解です! 霊夢さんは?」
「私は友達に声をかけてみる」
魔理沙さん辺りかな? とメンタは思う。実際霊夢の知り合い兼友人で最も先に来るのが彼女だ。
「分かりました」
メンタもそう思いつつ頷き、博麗神社を勢いよく飛び出た。
博麗神社付近の人里は人数もそれなりに多く、ちょっとした街並みが出来ている。その他にも小規模な村や里が幻想郷に点在しているが、あまりにも山奥や妖怪が多い場所に人里は無い。一番規模が大きいのは守矢神社の付近にある村だ。この守矢神社と博麗神社は対立している間柄ではあるが、神社同士自体の仲は良い。しかし幻想郷の世間一般では対立さえしていない。勝負にすらなっていないと認識されている。それと、守矢神社も博麗神社も妖怪住むの山の中に建っているため人間が来るときはよっぽど急用の時か熱心な参拝客かのどちらかだ。守矢神社に参拝しにくる人間や妖怪はここの神である八坂神奈子と洩矢諏訪子を崇めに来るのではなく、主に東風谷早苗という少女を信仰しきにている。そのためか、神奈子や諏訪子は時折立腹している。
話は戻り、博麗神社の麓里。……いや、その手前にある獣道と山道にメンタは大変苦戦していた。なにせ道がほぼ無いのだ。地図は全く役に立たないため一度博麗神社に戻って目印を付けるための薪割り斧を手に道を作る所から始めた。
そうして苦行とも呼べる道を切り開き、メンタは人里へとたどり着いた。
「着いたー! マジ死ぬかと思いましたけどたどり着きましたー! アイラブヒューマン!!」
両手を上げて喜ぶメンタを里の入り口で一服していたお爺さんが見つけ、近寄って来た。
「おやおや若い娘さんが一人で歩いていたのかね?」
「おお! 言語が通じます! はい、霊夢さんに頼まれて木材を買いに来ました」
お爺さんは呆れた表情で溜め息を吐いた。
「やれやれ、博麗のお嬢ちゃんにも困ったものだ。見た所、博麗神社から徒歩で来たのだろう?」
「まあ、そうなりますね」
お爺さんはうんうんと頷いてメンタの手を取り、少し力を込めた。
するとメンタのお爺さんの手が煌めいた。
「浮遊術が使えば多少は移動が楽になるだろうて。幻想郷を歩くのも乙なものだが、年寄りにはいかせん厳しくてのう」
「……結構若く見えますけどね」
メンタが苦笑いしつつ答えるとお爺さんも頷いた。実際、お爺さんの容姿は白いひげこそはあっても肉体は二十、三十代の男性だからだ。
「ワシは半妖だからの。こう見えても300近い時を生きている」
それを聞いたメンタは、いつも通り頭のネジが飛んだ。
「おお! 半妖ですか! ということはうら若い女の子を片っ端から食い荒らして歳を取るにつれてゆくゆくは幼女限定にまで行くというアレですね! はっ! ということはオレも圏内!? 駄目ですよ! オレの体はパル姉だけのものなんですから!」
「……酷い偏見だのぅ!? まあ、ハーレムを形成したことはあったが……」
「ロリコンですね。分かります」
「違うわい! 全く……。それよりもちょっと飛んでみなさい」
お爺さんの指先から魔力の塊が放出され、メンタに当たる。浮遊術が使えるかどうかはさておいても素質さえあれば使えるようにはなる。
「カツアゲは勘弁してください」
「違うわい! 浮遊術のことじゃ!」
「分かってますよ。ふんぬっ」
メンタの意志に合わせて体がフワリと浮き、宙を舞った。初見で成功させるとは思っていなかったためかお爺さんも驚いた。
「お~」
「フフフ、どうじゃ飛び心地は?」
「良いですね! あとさり気に覗こうとしていますがスパッツなのでドロップキック出来ますね!」
「な、なんのことやら――」
「ま、それよりもありがとうございます! これで帰りが楽になります!」
「そうだろう?」
「それじゃ、用事を済ませてきますね!」
「気をつけての」
幻想郷の人間というのは地球よりも温かい心を持ち、ボロボロの人をみれば助けるようなお人良しが多い。そういう空気や土地柄もあるのだが、一番の要因はやはり天敵である妖怪の存在があるからだろう。人間というのは人間以外の敵がいれば手を取り合える生き物なのだ。地球にはそれがないため同族を嫌悪し、迫害し、その命を常に脅かしている。だからこそ人の手による平和は無かった。
――話がずれたが、メンタは人里の人間たちに迎え入れられていた。
木材を調達したメンタは里の人や子供たちに姉のパルの事を聞き回っていた。
「どんな人なの?」
「ラベンダーみたいな薄紫色の髪でアメジストみたいな深い紫の目で肌の色は白くコスプレが良く似合っていて、あと髪はポニーテイルですね。地球だと結構珍しい突然変異の色彩なのですぐに分かるんですけどね……」
メンタたちの地球では髪の色は基本原色が多く、赤、青、緑、黒の四色のどれかに振られ、肌の色も白、黄、黒の三種に分かれる。一番多い人種が白と黄の間の肌色だ。一部の人間は先進科学によって受胎直後に遺伝子操作を受け、他者よりすぐれた上位種にさせられる。しかしメンタもパルも遺伝子操作は受けてない。それなのにパルは薄い紫色の髪と深い紫の瞳を持っていた。幼少の頃は病院で検査を受けることも多かったが、結果的に異状は無いということで診断を終えた。それでも小学校、中学校、高校とその髪のせいで目立ち続けていた。しかしパルの人の良い人柄で嫉妬こそあっても差別や虐めは無かった。
「見てないわぇ……幻想郷でもそんな人みたらすぐうわさになると思うよ?」
「他の人もそう言ってました」
「気長に待つしかないと思うよ。私も何か良いネタ仕入れたら教えるからさ」
「お願いします」
「腐腐腐、良いのよ」
「腐腐腐」
余談だが、里の一部で『腐』が広まり始めているのもまた事実だった。
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聞き込みを終えて森の木々を伐採しつつメンタは博麗神社に戻って来ていた。
買って来た木材を庭に置き、居間の方へと移動する。
「ただいま戻りましたー。6時間ほど情報収集を頑張りましたが、何にも得られなくって軽く心が折れかけてまーす」
居間へやって来ると中では扇風機の前でお茶とミカンを食っているクソニートと、その正面でサブレを食べている金髪モノクロ服の少女がいた。こちらの金髪少女も半袖膝丈スカートと涼しそうな恰好をしている。
「あら、思ったより早く帰って来たわね」
霊夢がミカンを食べる手を止めて顔を上げると金髪少女もメンタの方を見た。
「おお、こいつが例の少女か」
そしていつも通りメンタのネジは飛んで行った。
「魔女っ娘来ましたー! 乾ききった心が一気に潤ったですよ。…ではなく、此方の方は?」
しかし今はさておき、と脳内プラスドライバーでネジを止めていく。
「彼女は霧雨魔理沙。魔法使いよ」
メインヒロイン来たー! とメンタは心の中で叫ぶ。
「魔理沙だぜ。最近は暇だったから丁度良かった」
「ありがとうございます」
「まー、座って座って」
魔理沙に促されてメンタは腰を下ろしていく。
それを見て魔理沙は本題を切り出した。
「でも、妖怪がいるってことはまた何か事変が起きているのか?」
事変、と聞くと災害か何かを大抵は思い浮かべるが幻想郷においては大抵が妖怪の仕業と相場が決まっている。とはいえ、その内容は災害と同じかそれ以上に酷いのが通例であり、あまりにも酷い場合は霊夢が動くことになっている。
「さあ? でも、外来者が来るときは大抵何かが起きている時よ」
面倒くさいわね、とクソニートが小さく呟いた。しかし博麗神社の資金もそろそろ尽きかけている……むしろ尽きているため霊夢も依頼主であるいつもの金色九尾、八雲紫から金や食料を貰おうと考えていた。むしろいっそ魔理沙が倒してきてくれないかと思っている。
「他人ごととは思えないぜ」
魔理沙の言葉にメンタも頷く。というより完全に自分が事変に巻き込まれていることに楽しくなってき――否、大変だとメンタは思う。
そんなメンタを霊夢はじっと見つめ、問う。
「そうね。ところでメンタ、あんたは弾幕使えるの?」
もし、メンタがスペルカードが使えるのならコイツを行かせて事変解決して貰ってあわよくば報酬は欲しいと完全引き篭もりクソニート思考の視線をぶつけていた。
「フフフ、自慢ではありませんがスペルカードは一枚もないのです! というか地球生まれ地球育ち魔力値少なめのオレに何を期待しているんですか?」
「だろうな」
メンタと魔理沙の冷たい視線に霊夢はチィ、と舌打ちした。
そして数瞬後に真面目な表情をしてメンタたちを見た。思ったよりも真剣なその表情に魔理沙は少し感心し、メンタも姿勢を正した。
しかし二人とも心の中ではメンタと魔理沙にやらせて事変解決を図り、最後の美味しい所だけを持って行こうとするその欲の滾った思考を先読みしていた。だが、ここで霊夢の真面目の欠片を奪うのもアレだと考え、黙っていた。
「じゃあまずはスペルカードを作る……以前に、体を鍛えることから始めないとね。あと、ここに来たからには最低限何かしらの能力が発現しているはずよ」
「能力キタァ!」
幻想郷で言う能力とは『何々する程度』や『何々を操る程度』と言った具合に能力が発現する。無論、外来や地球から来た人間や妖怪には特に発現しやすい。ただし必ずしも破格やチート性能の能力が出るとは限らず、その人に合った能力が発現する。なので中には『少量の水を出す程度』や『右手を飛ばす程度』と言ったことも起こり得る。
「じゃ、診断するんだぜ」
魔理沙が手際よく香霖堂特製の脳力診断水晶を取り出して机に置いた。
それと同時にもう一枚診断表を出した。
「これは?」
「能力っても色々種類があって利便と危険度を総合評価してその人の能力ランクが決まるんだぜ。更には能力も大きく分けて六種類ある。戦闘系、肉体系、魔法系、精神系、万能系、特異系だな」
より具体的に言うと、と魔理沙は続けた。
「戦闘系は武器や物質の強化が主だな。刀身を伸ばして攻撃したりナイフ飛ばしを誘導するのも戦闘系だ。肉体系は自身の強化や相手の弱体化。魔法系は基礎五行に光、闇等々がある。基本的に使い道は便利な物が多くて飛行魔法も含まれる。精神系は相手の脳や心理を揺さぶるのが一般的だな。万能系は文字通りなんにでも使える能力者の事だ。それに加えて能力使用時に余計な制限がないのも条件だ。で、特異系はこれら以外を指す能力だな。あ、ちなみに治癒や自然を操等も魔法だぜ」
霊夢も表を手に取って興味深そうに眺めた。
「へぇぇ、あんたそんな表作っていたのね」
「能力と言っても分かりにくいからな。こういう表があった方が診断しやすいだろう?」
それからメンタの方を見ると、もう待ちきれないというようなワクワクした視線で魔理沙を見ていた。
「さ、先に言っておくけど絶対に良い能力とは限らないぜ。手から水を出す程度かもしれないし、カエルに変化する程度かもしれないからな?」
「それはそれで使い道がありそうなのでバッチオッケィです!」
そうか……、と呟いてから魔理沙は水晶玉の方にメンタを促した。
「手を置いてみてくれ」
「はい!」
魔理沙の言葉が終わるよりも早くメンタは水晶に手を置いた。
そうして少し待つと水晶に文字が浮かび上がってきた。
「出たぜ」
「何の能力?」
メンタが手をどかし、魔理沙は水晶を覗き込んだ。
そして……あまり良いとは言えない表情で顔を上げて告げた。
「『他者の理性を操る程度の能力』……」
「……よく聞こえなかったわ」
「『他者の理性を操る程度の能力』だぜ」
「……」
「……」
酷く重い沈黙が場を支配し、メンタは急に居たたまれなくなる。そのメンタを見て、霊夢は呟いた。
「こいつが元凶だと思うんだけど?」
「私もそんな気がしてきたわ」
「酷!? 確かに敵役の能力だけどオレはそんな人でなしじゃないですよー!」
「冗談よ」
「冗談だぜ」
「ほっ……」
こいつらに命を狙われたら確実に死にますからねぇ、とあながち本気でメンタは思った。実際、この二人に命を奪われ、妖怪としての尊厳や威厳を奪われた妖怪は多く、人間に対しても同様の事が起きている。
「ともあれ、味方なら十分に強い能力よ。さしあたっては、肉体強化とスペルカード習得、そして能力の制御ね」
「ちなみに霊夢さんと魔理沙さんはどんな能力なんですか?」
勿論メンタは知っていたが、知らずに誤爆するよりは確認して置こうと思い、聞いた。ちなみに幻想郷において自分の能力を他人に話すということは余程仲が良い証として見られるかもしくは相手の能力を故意でないにしても知った時だ。能力を知るということは同時に自分の弱点や対策を取られることを意味し、弾幕ごっこや実戦で不利になることを意味している。
今回は後者が霊夢と魔理沙の中で適応され、メンタに答えを返した。
「宙に浮く程度の能力よ」
「魔法が使える程度の能力だぜ」
「そっちの方が良かった……です……」
メンタとしてはそういう普通に凄い能力の方が欲しかった。幻想郷において能力は自分を表すことが多い。メンタの能力は……実質腐っていた。
こうして、メンタは霊夢と魔理沙にしごかれる日々が幕を開けた。
それから数日して、トンテンカンカンと子気味の良い音が博麗神社から鳴っていた。
「んー、良い天気ねー」
博麗のクソニートが神社のお堂に上がり、超珍しく木彫りの紫仏像を崇めていた。
「お狐様様」
そしてその仏壇の前には野菜やお肉、米、洗剤、生活用品諸々が置かれていた。
それらを回収し、霊夢は去って行く。
その後に入って来たのは一匹の子狐だ。その頭には小さなバケツと雑巾が入っており、驚くべきことに子狐がせっせと床や仏壇を拭き始めた。
そしてトテトテという音が響き始める。
それを背後から見ていた紫が呟いた。
「……全くもう」
そしてふと見上げた先にいるのは屋根に上って屋根の修理をしているメンタと魔理沙だ。メンタは体術を霊夢に、魔法を魔理沙に教わっているのだ。その一環として今日は物体を宙に浮かせつつ他の事をするという訓練を行っていた。この訓練は弾幕ごっこで使われる同時並行の訓練でもあり、形ある物質を使うことで戦略の幅が広がると魔理沙談。実際は木製札や紙を使うため重さはあまり無いのだが、メンタは一つ五kg近い木材を三つほど浮かべていた。その表情に余裕はなく、金槌を握る手は震えていた。
紫とて真面目に頑張っているメンタの邪魔はしたくないし、直接愚痴を吐きに行くつもりはない。ただ――。
「ただ、その能力で子狐たちを働かせるのは止めて欲しいわ」
メンタの理性を操る能力の最初の犠牲者は子狐たちだ。具体的には子狐たちの理性及び体に命令を与え、里の農家から作物を取ってきたり、博麗神社の掃除をさせたり、里から博麗神社までの通行を良くしたりしている。
そう、良い事半分悪事半分なのだ。
メンタの能力は理性を操る。しかしより具体的には生物の脳を直接弄って、生物が生きている限り出し続けている脳が体に伝える命令シナプスを書き換えているのだ。つまりメンタの毒牙にかかった生物は誰も逆らえない。
では理性がダメなら本能はどうだ、と普通は考える。しかしメンタが書き換えているのは脳が体に出す命令そのものだ。『本能』も元を正せば脳が生物に必要な欲求を要求する命令だ。つまりはメンタの能力に『理性』も『本能』も実は関係がない。だから例えば人間の三大欲求、食べる、寝る、遊ぶの内、食べるを『絶食』させ、寝るを『不眠』にさせ、遊ぶを『働く』に置き換えて死ぬまで――否、死後も動かせ続けることが可能だ。そう、そこに『生物』という概念は無く、有機物無機物妖怪人間不死体問わず命令できる。これを悪役と言わずしてなんと言おうか。
「はぁ……」
やれやれと紫は肩を竦め、働き終えた子狐に油揚げを咥えさせた。
子狐は満足そうに尻尾を振るいながらお堂を出て行った。
「ま、今は様子見ってところね」
そう言って目を開き、紫は姿を消した。
メンタ「このペースなら週一くらいでも大丈夫ですね!」
グラたん「切実に、もうストックありません!」
メンタ「書いてください!」
グラたん「リアルさえなければ永遠と書いてますよ……多分ですけど」