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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
39/119

第三十五話 やわらかっ!

グラたん「第三十五話です!」

 日が完全に昇り切った後にようやくシンも起き、木刀を振るっていた枢と対空瞑想していたメンタは一度訓練を切り上げた。 

 枢とシンは食堂へ向かい、メンタは自室に備え付けたシャワーを浴びて汗を流し、髪を乾かす。腐女子であっても女子であることに変わりはない。

 メンタの髪はショートボブカットで先端がウェーブになっているが、水で濡れた時は素直なショートヘアになる。

 ――まるで別人ですね。

 と、自分で思うくらいに印象が変わる。


 朝食を済ませた枢たちが戻り、いよいよ本格的に授業が始まる。

 午前中は実技、午後は座学なのが陰陽道の授業風景であり、枢はシンの専属講師でもあるが他の授業も受け持っているため日中は付きっきりと言う訳にはいかない。特に週に二回、他の陰陽生徒と合同で行う一般座学はどうしても目が離れてしまう。

 その点でメンタという友人が出来たことは枢にとっても心落ち着ける出来事だった。

 実技前には体のストレッチをし、体の血流を良くすることから始まる。


「いだだだだだだ!!!」


 シンの悲鳴が上がるのはいつものことだが、メンタは一切容赦なくシンの背中に蹴りを入れて押しつぶして行く。


「固すぎませんか? はい、交代です」


 今度はメンタが座り、シンは先程の仕返しにとメンタの背を押すが……普段からお風呂上がりに柔軟体操をしているメンタの体は柔らかい。


「やわらかっ!」

「毎日やっていればこんなもんですよ」


 次にスフィンクスを真似るように背筋を伸ばして同時に足も上げ、そのまま真上を通り過ぎて額と足の裏がくっつき、後ろで見ていた枢が数歩後退った。


「俺でもそんなとこには届かないんだが」

「これは体の構造上、男性には無理ですね」


 メンタが笑い、枢は苦笑いを浮かべた。



 柔軟が終われば基礎体力を付けるため陰陽門の周囲を走り込む。壁沿いに走っても一周10km以上ということもあり大抵は一周で充分だ。 

 枢はこれを毎日熟し、時には自主的に2周、3周と走り込む。


「ぜぇ……はぁ……」


 シンは毎日倒れ、息を切らして死にかける。


「なんか、ぬるくないですか?」


 逆にメンタは普段から野山を駆けずり周り、妖怪をどつきまわすのが日課のためたかだか10km程度では息切れもしない。


「全く持って通常の量なんだが」


 ちなみに陰陽寺院内ではシンの反応が普通であり、枢の方が鍛え過ぎという評価だ。そのためメンタが枢のペースに付いて来られるのが異常だ。

 少しの休息が終われば武術の訓練だ。主に腕立て腹筋などの基礎的な事から素振り、古武術の動きを取り入れた訓練をする。陰陽寺院でも理事長が実戦で作り上げた型がいつくかあり、教員たちはそれを必修して生徒たちに教える。


「ひぃ……ひぃ……」


 シンは型こそ憶えても体が付いて行かない。そもそも型に入る前の基礎体力メニューだけで力尽きる。


「ハッ!」


 メンタは型こそ憶えてもそれを使わない。霊夢から直接肉体に叩き込まれた武術があり、超えるべき天才姉パルがいるため使う必要が無い。

 そして何よりも勝つために手段は選ばないのがメンタだ。例えショーツが見えようが相手を殺せばそれで勝ちという霊夢と魔理沙の教えを受けたため一瞬でも隙を作れれば程度の気持ちで枢の顔面に向かって連続して蹴りを放つ。


「――おっと」


 枢も教師である以前に男だ。白とか黄色とか縞々とか見えれば動きは鈍くなるし、視線も自然とそこへ吸い込まれて行く。

 だが、枢は意地と理性で欲求を抑え込み、一歩下がって上体を引いて蹴りを避け、鼻先を掠めた足を腕で払う。


「ふっ!」


 メンタは軸足を跳躍させ、跳ね上げる所謂いわゆるノーモーションからのサマーソルトキック。しかしそんなことをすれば今度こそ完全に見えてしまい、枢はもうなりふり構わず上体を逸らして腹筋と背筋に物を言わせてブリッジを決め、そのまま腕を沈めて勢いをつけてバク転して後退した。

 シンや他の女性徒もスカートだが、武術の訓練時は袴や長ズボンを履いてくるため動くと言えば胸部なのだがそこは教員の矜持で対応できる。しかしメンタのように魅せて攻撃してくる者はいないため枢は酷い動悸を覚えていた。


「なんか手加減してませんか?」


 メンタもそれを自覚した上でニヤニヤと笑いながら枢に問いかけた。


「お前の……神経がおかしい……!」


 そう答えるのが精いっぱいで、その後も羞恥と戦う方が精神を削っていた。


 体術の訓練が終わると通常の授業が開始される。現在の地球ではもはや使われなくなって久しい、紙を束ねた教科用図書――通称『教科書』――をメンタは手にとっていた。


「教科書77ページ。基礎から教えるぞ」

「はい」

「分かった」


 地球の物資もある程度は幻想郷に来ているとしても、現在の地球は技術力が高くなり過ぎており幻想郷の認知度が追い付いていないため持ち運んでくる紫が制限している。

 ――懐かしいですね~。

 授業中の必要以上の私語は厳禁のため、メンタはニヤリと一瞬笑っただけに留めた。枢はそれを目ざとく拾ったが変に問うと酷い解答が帰って来るのを分かっているためスルーした。


「陰陽師の基本は五行から連なる術だ。その五行とは? シン」


 陰陽の授業は生徒に自主性を持たせるため『聞かせる』だけでなく『答えさせる』ことを重要視している。そのため予習復習をしっかりと行っていなければ恥を掻くことになる。


「火、水、風、雷、金」

「その通りだ。ではそれらが相対した時の相性が良い物と悪い物は? メンタ」


 枢としては無茶振りが過ぎたか、と思う。メンタにしてみれば初日の授業で陰陽の五行すら知らなくても当然なのだ。シンも同様に枢を視線で訴えていた。

 ただし当の本人は得意げに答えた。


「基本的には反時計回りの順番に効果が良く、時計回りの方向に効果が悪いですね。火は水に弱く、水は風に弱く、風は雷に弱く、雷は金に弱く、金は火に弱いです。しかし厳密に言えば火は水で消せますが油を混ぜることで勝つことが出来ます。水と風、風と雷は相互不干渉とも言える状態であり、良くも悪くもありません。雷が金に弱いのは避雷針と同じ原理です。金が火に弱いのは鉄を溶かすのと同じ理由です」


 枢ですら唖然とする説明と注釈を終え、メンタは不敵に笑った。


「それ言われたら今日の授業終わるんだが……」

「メンタは凄い」


 何とか持ち直した枢とシンの褒めにメンタは照れながらも謙遜する。


「そうですか? 一般教養程度ですよ?」

「違う……絶対」


 これが一般教養なら幻想郷に妖怪は存在していないだろう。



 午前の鐘が鳴り、昼食と休憩に入る。

 昼食は教室を出て食堂へと向かい、枢は次の授業の準備をしてから昼休みのため後から来る。いつもなら気が重いだけの昼食もメンタと一緒ということもあり――ただしメンタのマシンガントークを聞く羽目になる――先日とは違い、楽しそうにしていた。


「ごちそうさまでした! あと左奥の鍋底が焦げてますよ」


 一言を加え、メンタは意気揚々と去っていく。シンもその左奥の鍋を見てみるが、特に焦げてはいないと思う。

 食堂のおばちゃんも不思議に思って鍋を開けると、黒い煙が噴き出して火災報知器が鳴り響いた。

 


 休憩も終わり、午後の授業が始まった。

 午後一番は座学であり一番眠気を誘う内容になっている。シンはあくびをかみ殺し、枢もつられてあくびをしかける。


「午後は術符の書き取りだ。これが出来なければ陰陽師として自立することも活躍することも出来ない。メンタはシンと同じく五行の書き取りだ」


 五行、火水風雷金を正確に発動するための術式札の紋様を教科書を見つつ書きとる授業だ。一見つまらないように見えるが自立している一人前の陰陽師はこれを毎日綴り、時には自身の必殺技へと昇華する。


「面倒くさい……」


 しかしこの年頃ほどその重要性を理解し得ない。枢も経験があるため深く頷いて続きを促す。


「え、楽しいですよ?」


 メンタは両手に筆を持ち、秒間十枚ほどのペースで書き上げていく。


「嘘ぉ……」


 シンも流石にそれは無い、というように半眼した。


「嘘ぉ……」


 枢は、『両手で正確に術符を書き上げる』などと曲芸じみたことをやらかしているメンタに対して驚いていた。


「では楽しくなるコツを教えてあげましょう。まずは上部に火の模様を描くつもりで書いてみてください」


 そこでメンタが教えるのは『落書き』だ。シンはとりあえず言われるままに筆を動かし、適当に術式の紋様を描いていく。火であれば上部に火をイメージした模様を描き、水であれば泡でも水流をイメージしたものでも良い。


「次に下部に二重丸を書いてください」


 言われた通り、雑に二重の丸を書く。


「ハイ、完成です!」


 教科書通りとは言い難い、下手をすれば暴発すらしない術符が完成した。


「……」


 シンは、流石にこれで終わりではないだろうとメンタの次の言葉を待った。


「後は火の術符を発動させるイメージをして、術符を空中に投げてください」


 イメージはマッチ棒に火がつけばいいな、くらいの弱々しい火。適当に上に投げ――ボウゥと音を立てて燃える。


「えっ?」


 術符は一瞬ではあるが発動し、シンも枢も驚く。

 次いでシンは微笑んだ。


「面白い」


 こんな落書きで術符が出来るのならそれに越したことは無い、と。


「ですよね! ぶっちゃけスペルカードと同じ要領で良いんですから!」


 要はイメージしつつ描けば術符は完成する。教科書に書かれているモノというのは火というイメージを固定化させるための装置に過ぎないのだ。

 そしてそれを実現化させるのが魔力。目に見えない大気の中にある魔力は常に人々のイメージによって姿を変える。

 例えば指を鳴らして火を起こすとする。そこには『大気中には魔力がある』『魔力があるなら火をイメージしてみる』『指を構える』『指を動かす』『音を鳴らす』『摩擦によって大気を揺らして火花を起こす』『つまり火が起こる』。そういう原理を大人は考えて発動させる。

 メンタの場合は『そこに火を起こす』『だから燃えろ』。この暴論とも言える単純な理屈を他ならない火というイメージを以て現象を引き起こす。

 事実上スペルカードも似たような原理で作れるため、発想力豊かなメンタにしてみればこの程度は児戯に等しい。


「なるほどな……そうやって教える方が良いのか」


 長年教師をやっている枢もメンタを教えを見て考えを改める。表面上は取り繕ったとしても内心は激しい動悸が収まらない。何せ、目の前で歴史ある陰陽師の攻撃手段が改良されたのだから。


「枢はクソ真面目だから面白くない」


 シンの言葉には苦笑いしつつも訂正する。


「授業だからな。手を抜くつもりも遊ぶつもりもない、が、教え方は別だ。ところでメンタ。やけに書くのが早いが何処かで習ったのか?」


 幻想郷では陰陽に適正がある人間は里や町に在中する陰陽師にある程度教えを受けてから門を叩くのが一般的だ。メンタの場合は霊夢や魔理沙にでも教わったのかもしれないと枢は思う。


「いえ、昨日合間の時間に書いてましたから。多分目を瞑ってでも書けますよ」

「マジか……」


 メンタは笑みながら答え、枢は不意に意識が遠のくのを感じた。



 時刻は夕方。陽もそろそろ落ちて来ようとする刻に枢とシンは自主的にトレーニングを始める。何せシンは陰陽門の中でも下の下に属するほど弱い。日々修練に励まねばいけないのだ。


「夕方もトレーニングだ。今度は実践形式でな」


 シンは朝方のトレーニングより夕方のトレーニングの方が好きだ。


「つまり、弾幕ごっこ」


 通称、模擬戦闘。シンの言う通り殺し合いを『相手を可能な限り殺さない』という安全と保障で固め、遊戯と化したスペルカードルールを適用した戦闘のことだ。


「身も蓋もないこと言うな。使えるのは陰陽師の札だけだ。自前の弾幕やスペルカードは使うなよ」


 後半はメンタに忠告する。普段の喧嘩や試合ならそんなことは言わないのだが、メンタは仮にも現役の博麗の巫女の教えを受けた身。陰陽門でも理事長以外は持っていない弾幕やスペルカードを持っていたとしてもおかしくはない。


「確かに敷地ぶっ飛ばしたら怒られそうですね。怪我人もでますし」


 腐腐腐……とメンタは笑うがシンは持っていることそのものに驚く。

 術符と弾幕との違いは二つ。一つは実戦に耐えうる高度な理論と実証。二つ目は術符を介さないで即座に撃てる実用性だ。半人前以下の陰陽生では所持することは無く、一人前の陰陽師ですら術符を介さねば術の使用は出来ない。

 最高位の陰陽師であれば所持し使用することも出来るが大抵は大妖怪と死闘を演じて殺されるか相打ちになるかの二択のため陰陽師で弾幕持つことは最大の名誉を得られ、理事長のように陰陽一門を開くことも出来る。

 一枚でも所持していれば名誉と名声を得られる其れを事もなしげに言って見せ、枢を逆に呆れさせた。


「……なんでそんな威力の弾幕を持っているんだ」

「魔理沙さん直伝です!」


 事実、『連鎖する(アプダクション・)雷轟爆裂(ヴィーナス)』は魔理沙のマスタースパークの着弾時に起こる爆発をイメージした弾幕だ。


「……ともあれ、まずはシンからだ。どう使うのか見せてやれ」

「分かった」


 シンが術札を取り出して人差し指と中指の二本で抓み、腕を引いて頬の位置まで沿わせ、前方に向けて飛ばした。


「術符・火」


 枢はそれを見て下方投げで同様の火の術符を投げて相殺する。


「相殺」


 火が消え、メンタを見やる。

 お~、とメンタは思わず拍手をし、枢は少々照れくささを覚えた。一度咳払いをして気を取り直して身構える。


「と、こんな感じだ。いきなり二人でやるのは難しいだろうから最初は俺が相手をしよう」

「分かりました!」


 メンタの元気な返事を聞き、何が来ても良いように五行全てを一枚ずつ構える。


「よし、ではどこからでも来い!」

「行きますよ~、術符・雷、水、そして~火!!」


 一度に百枚近く放出しなければ枢とて対応出来ただろう。


「おまっ――」


 敷地に爆発音が響き渡り、空には黒煙が立ち昇り、生徒たちだけでなく教師たちもこぞってその方角を見ていた。

 その元凶であるメンタは満足気に頷き、シンは質問した。


「死にましたかね?」

「凄い派手。どうやったの?」

「単純な化学反応現象ですよ。まずは魔力の水を雷で水素に分解し、その後で火を付けると水素爆発による爆発が出来るんです。枚数で言えば水が五十枚、雷が四十枚、火が十枚ですね。ただしあまり規模が大きいと水爆と呼ばれる化学兵器並の威力になってこの辺り一帯が消し飛んでしまうため注意してくださいね」

「か、化学反応……?」

「あっ、そこからですか」


 地球に居た頃ならまだしも、魔法や術式札のある幻想郷で化学反応をわざわざ調べようとする学者はいない。元素名称を言ったところで理解はされない。 


「ぐっ……はぁ……こ、殺す気か……!」


 黒煙が晴れ、その中から黒ずんだ枢が出て来た。


「まあ死なない程度に加減した威力ですからね。本気で爆殺する気なら十万枚くらいは使いますよ」

「お前……なぁ……」


 枢は幾つ言っても足りない小言を言おうと前に進み、気絶した。それを見たシンがハッと顔を上げた。


「枢が気絶……ということは今日は終わり?」

「ですね。では山に行きましょう!」


 何故、山? とシンは思ったがもうすぐ暗くなるというのに妖怪の住む山へ入るのは危険極まりない。


「もう結構暗い。危ない」


 無論、その理屈はメンタには通用しない。


「その危うさの中で訓練する方が効率が良いんですよ。獣並の危険感知スキルが習得出来ますよ」

「……危ない」

「ほら行きますよ!」

「わぁぁぁぁぁ…………」


 その手を掴まれ、容赦なく飛翔して二人の姿が山の奥へと消えていく。

 夜中、何処からか少女の悲鳴が聞こえて来たとか――。




 そんなこんなで早くも一週間が経ち、疲労半分感心半分と言った様子の枢は理事長室を訪れていた。


「枢からここへ来るとは珍しいね」


 今日も今日とて高椅子に座り、日々更新される書類を片付け終え、お気に入りの湯飲みに緑茶を淹れて飲んでいた理事長はそんな枢を気遣うと同時に面白げに視線を上げていた。

 枢の手にも湯飲みがあり、ホクホクと湯気が立ち昇っていた。


「……ええ、まあ。色々思う所がありまして」

「メンタのことかい?」


 理事長の言葉に枢は深く頷いた。


「はい。あいつ、かなり異常ですよ。体術、魔法力をあの二人に鍛えられただけあり、自活力も相当に高いです。そしてかなり知らなくて良い知識まで持っています」

「例えば?」

「術符で化学反応を起こして爆発させるとか」


 ああ……と思い当たる節を見つけた理事長は湯飲みを置き、湯気を追って視線を天井へと向けた。


「ここ数日爆破が起きるのはその性か……」

「陰陽師自体、前々から知っているみたいでやけに飲み込みが早いんです」

「元々知っている知識を引っ張り出せばそりゃ早いだろう。で、それだけを報告しに来たわけでは無いのだろう?」


 その問いに枢は表情を変え、至極真面目な視線で理事長を見据えた。


「はい。……正直に言って、次の大会でメンタたちを出せば優勝も狙えるのではないか、と思われます」


 枢の言葉に引っかかりを覚え、理事長は首を傾げた。


「たち? ということはシンにも教えているのか?」

「はい。それはもう仲の良い姉妹みたいに……寒気すら憶えますけどね」


 理事長は、ふむ、と呟いて緑茶を啜る。


「それは良い事だ。しかし公式戦に出すにはまずはウチの門下生を叩き伏せないといけないね」

「とは言ってもメンタの能力だけは未知数ですから……」


 陰陽寺院の門下生になるということは当然その教師たちにも生徒を知る権利が与えられ情報共有が成される。しかしメンタは面接時に能力を隠し、持てる爪を全て隠しているのだ。それが教師たちの合間では不安を呼び寄せてもいる。


「確かにねぇ……普通は『魔法を操る程度』なんだけど彼女は別みたいだから……」


 理事長の感付きに枢は問う。


「何か心当たりが?」

「少し不可解な噂を耳にしてね。一週間前ほど編入生と会った少女の記憶が一部飛んでいるそうだ」


 枢は眼を細め、記憶を探る。一週間前と言えばメンタが入学したての頃だ。

 ――確かに初日はメンタの姿は見えなかったが……。


「記憶が……それに編入生って」

「間違いなくメンタの仕業だ。記憶が飛ぶとなれば何か精神制御された可能性もあり得る」


 ゾクリ、と枢の背筋に寒気が奔った。

 幻想郷において『精神能力者』とはイコールで『化物』と括られる。それがほぼほぼ人智を超える怪物であり、人の形をしていても実は全く別物なのだから。

 彼女たちからしてみれば『比較的一般人』に括られる枢が畏怖を覚えた所で何らおかしくはない。


「精神系の能力者……厄介ですね」

「お前も十分に気をつけよ」

「了解です」


 不穏な空気を纏ったまま枢は退出し、理事長も眉間に皺を寄せて次のお湯を沸かした。


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