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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
38/119

第X話 博麗ひな祭り

グラたん「ひな祭りです!」

グラたん「本日は二話投稿しています。一つ前は本遍になります!」


 寒々しい冬もいよいよ終わり、桜や草木が蕾をつけるこの頃。

 博麗神社の桜も満開とはいかずとも四割くらいは咲き乱れており、春の妖精プリズムリバーたちも春の訪れを告げていた。

 その博麗神社で巫女見習いをしている赤毛の腐女子、メンタは日本から幻想郷へ来ているため必然的に日本の文化に倣ってひな祭りをしようと蔵を漁っていた。

 だが何処を探しても雛人形すらないというのは落ち込む。


「霊夢さん、何故ひな人形が無いのです――か!」


 霊夢に文句を言おうと居間に戻るとメンタは一瞬言葉に詰まり、言い切った。

 その理由は目の前にいる霊夢、魔理沙や橙、レミリアとフラン、パチュリーに美鈴、が藍と咲夜の手によって三次元ひな人形にさせられているからだ。より具体的には十二単じゅうにひとえを着せられて身動きが取れなくなっている。


「あ、ちょうどいい所に来たわね。喚くより先に着替えなさい」

「うんうん」


 霊夢に促され、背後から追加を持って現れたパルに背を押されてメンタは居間に入らされる。


「あの、説明貰っても良いですか?」

「着替えた後に、ね。はい、服脱がすよ」

「へっ!?」


 今日に限ってアグレッシブなパルに一瞬にして巫女服を脱がされ下着状態となり、次の瞬間には咲夜が時間を止めて着付けをすまされており、全身の重さに負けて座り込んでしまう。


「わぁ、可愛い!」

「……この歳頃で可愛いと言われるのは複雑なんですけど」


 メンタの抗議も取り合わず、パルはカメラを手に写真を撮り始めた。


「諦めなさい」

「はい……」


 珍しくレミリアに諭されてメンタはいつもの四割増しで生気の無い瞳をカメラに向けてパルは無邪気にメンタの姿を写真に収めていく。


「こんにちは~」


 と、そこへ次の被害者となる守矢神社の巫女、早苗と庭師の妖夢が玄関のインターホンを鳴らしてそのまま中庭の方へ回って来る。

 中庭には等身大の姫を座らせるための台座が三段置いてある。


「早苗、妖夢、こっちこっち!」

「はい!」


 パルに促されて居間に上がり、先程同様に瞬時に剥かれて着せられる。


「……あの、これは……?」

「ナイス妖夢!」


 居間でお茶を飲んでいた幽々子が親指を立てつつ鼻血を出し、ティッシュを鼻に詰める。その幽々子も十二単を着せらせて身動きどころか飲食制限を食らっていた。


「これで全員だね。後は藍と咲夜が着替えれば完了だね」

「先に藍からやりましょうか」

「お願いします」


 藍たちが着替えている間にレミリアがメンタたちを呼び集めた。



 事の発端は咲夜たちが大図書館の大掃除をしている時に見つけた一冊の写真集だった。


「全く……あら?」 


 いつもならすぐに処分行きになるのだが豪華な衣装に身を包んでいる少女たちに眼を引かれ、片付けの手を一旦止めて写真集を開いてみる。


「パチェが魔導書以外を集めるなんて珍しいわね……」


 そう言いつつページを捲っていく。

 そしてある程度した後に咲夜は写真集を手に持って立ち上がり、パルが片付けている方まで駆け足で走っていく。


「パル」

「咲夜? どうしたの?」


 咲夜は上機嫌な笑みのまま手に持って来た写真集を開いてパルに見せる。


「これ、私たちで出来るかしら?」

「あっ、これってひな祭りの写真集だ」


 そういうと咲夜の眼は一層輝いてパルに詰め寄った。


「知っているの?」

「う、うん。これは日本の伝統行事だったものの一つで三月三日にお祝いする女の子のための行事なんだよ」


 女の子の行事。今まで女子会やお泊り会、ゲーム大会にチョコレートパーティー等々をしてきた咲夜だがそれはあくまでレミリアとフランのためであり咲夜が自身のために何かをするということは無かった。

 パルが紅魔館に来て以来、女子力が高まりつつある咲夜にとって女子と名の付くものは欠かすことの出来ない存在だ。


「やるわよ」

「へっ?」

「ひな祭り、是非とも開催しましょう! 私が主役で!」


 咲夜がそんなことをいうのは珍しいことなのでパルも驚き、しかしこれも咲夜にとっては良い兆候と思うことにして賛同した。


「分かった。やってみよう!」

「ありがとう、パル!」

「……何の騒ぎ?」


 昼間過ぎに起きてくるパチュリーが咲夜とパルの声を聞きつけて欠伸をしつつ歩き寄って来る。


「あのね――」


 パルが今のことをパチュリーに説明すると彼女は『へぇ……』と感心した声を漏らした。


「咲夜がやりたいと思うのは良いことだわ。協力してあげるわ」


 でも、とパチュリーは続けた。


「それ、美鈴はともかくレミリア様たちはダダ捏ねると思うわ」


 それも尤もな意見のためパルは頷き、咲夜は微笑んだ。


「大丈夫、説得して見せるわ」


 ゾクリ、と二人の背筋が震えた。咲夜は本心から微笑しているのにも関わらずその笑みは随分と危険なものに見えた。



 先に図書館の整理を終え、二人は紅魔館の門へと来ていた。

 美鈴は今日も自作の簡易ハンモックを木に吊るして寝ている。普段ならハンモックごと切らされて背骨と腰、打ちどころが悪いと後頭部も痛めるのだが今日の咲夜はその肩を揺すって起こした。


「美鈴、美鈴」

「ふぇ……咲夜さん……?」


 寝ぼけ眼を擦りつつ美鈴は起床し、数瞬後に意識を切り替えて空中に飛び上がって四回転アクセルして地面に着地すると同時に膝と腕を畳んで額を地面に打ち付けた。


「ナイフは勘弁してください!」


 それはいつものことであり、いつもであればパルがそこに居ようが居まいが関係なく額にナイフを刺してから用件を告げている。今日もそうだろうと思い込み身構える。


「賛成しなさい」

「はい! 反省しております!」 

「違うよ!?」


 見事なボケとツッコミが合わさったところで美鈴は気付いて顔を上げ、立ち上がった。


「えっと、何をですか?」

「それはね――」


 咲夜に変わってパルが説明し、聞き終わった後で美鈴は意外そうに咲夜を見た。


「咲夜さんが? 意外ですね」

「そうかしら?」

「でも人間味があって良いと思います! やりましょう!」


 ナイフが刺さっていないためか美鈴は我がごとのように賛成し、咲夜は少し照れる。


「で、これからレミリア様たちを説得するんだけど一緒に来て欲しいんだ。美鈴先輩」

「イエス・マム!」


 立場上、美鈴を先輩と呼んでくれるのはパルだけだ。そのパルも最近になって美鈴が門番をすっぽかしても退職クビにならない理由を知り、それは美鈴にしか出来ないことだ、と尊敬している。

 美鈴が隙あらば寝ているのは基本的に夜間の合間に紅魔館に侵入しようとする輩を片っ端から殺害して回っているからだ。紅魔館自体、町や里から見れば裕福な方に入るためその財を狙う輩は後を絶たない。

 無論、たかが人間や下位妖怪が紅魔館を襲撃してもパチュリーの結界を破れはしないため無駄なのだがそれでも小癪なことをしたり咲夜たちが外に出るのを見計らって襲撃しようとする者は多い。それを美鈴は事前に潰して回り、時には紅魔館の畑から野菜を窃盗しようとする妖精を追っ払ったりもしている。

 だが最近は『パル姫親衛隊』なる妖怪の大集団が紅魔館周辺を守っているため美鈴が動いても先回りされてギタギタになっていることが多い。

 では昼間は、というとそれこそ咲夜やパル、レミリアたちも起きているため自分が門番をしていなくても異変を起こさない限りは紅魔館に入ることすら出来ないと分かっているからだ。



 さて、そんな上機嫌な美鈴を伴って咲夜はレミリアの部屋を訪れていた。


「お嬢様、今はお時間よろしいでしょうか?」


 すると中で腐本の執筆を進めていたレミリアは落ち着いて机のモノを片付けつつ答えた。


「ええ、構わないわ」

「では失礼します」


 咲夜は扉を開け、レミリアの様子を観察する。

 テーブルには少し冷えた紅茶と『チェイルズ・オブ・アヴィス』と書かれた小説が置いてあり、レミリア自身は凄く落ち着いた態度で肩肘まで付いていた。


「咲夜が来るなんて珍しいわね。もしかして何かやらかしたのかしら?」


 フフッとレミリアが冗談紛れに笑い、咲夜も笑った。


「はい。実はお嬢様のことを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 咲夜が真面目な表情で言うとレミリアは笑みを消して立ち上がり、腕を組んだ。


「ふぅん。先に聞くけど()()()()()()()?」


 これがフランドールであれば面白半分のままに不届きな輩と決戦を決めただろう。だがレミリアは全てを聞いた上で最も重要な部分を咲夜に問う。


「パル」

「はい! 先に説明しますと――」


 と、何度も繰り返したひな祭りの説明をしてレミリアは口元に手を当てて頷いた。


「なるほど。面白そうね、咲夜」

「はい」


 で、とレミリアは告げた。


()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 それは吸血皇女としてのプライドに触った者を決して許さない笑みで応え、咲夜も深く微笑んでナイフを構えた。


「いいえ、()()()です」


 咲夜が答えると同時にレミリアは前方に跳躍し、咲夜に飛びかかった。一瞬前まで居た位置にはパルが鮪包丁を振り下ろしていた。

 近くにあった椅子と机等々が飛ばなかったかのはパルが風圧を意図的に調節したからだ。だが剣の殺気は本物で判断を間違えていれば脳天に直撃し、そのまま二枚に卸されていただろう。


「シャァッ!!」


 だが予断は無い。いくらレミリアが全力で応戦したとしても咲夜、パルの二人を相手にし、更には背後に控えている美鈴までも相手すれば死ぬ。

 ――加えて『私たち』と言ったからにはパチュリーや小悪魔たちも懐柔済みという可能性が高いわね。

 爪を振るい、咲夜がナイフを交差して迎撃しつつも後方に跳躍して壁を破砕しつつ廊下に立ち、レミリアに向かってナイフを飛ばした。

 レミリアはそのナイフを片手で弾き、フランが今いるであろう場所を考える。

 ――このままだと私は負ける。そうならないためにもフランを味方に付ける必要があるわね。

 だがそれは時間との勝負であり咲夜たちがそれをさせるわけがない。


「あれ? 皆何しているの?」


 しかしレミリアには『運命を操る程度の能力』がある。その能力を使ってフランを私室付近までおびき寄せ、偶々来たという形に納める。


「フラン――」


 私の味方をしなさい、とレミリアが言う前に美鈴は叫んだ。


「フラン様! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 これ以上なく簡潔に的確にフランを味方に出来る言葉を口にし、フランは硬直した。


「う、嘘っ」


 姉はそんなことしないとばかりに思っていたフランは驚愕し、紅魔館の中では信頼できる咲夜に視線を向けた。


「さ、咲夜……っ」

「はい、()()()


 咲夜に否定されて安堵すると同時に酷い嘘を吐いた美鈴に対してレーヴァテインを投げた。


「レーヴァテイン!!」

「ぎゃー!」


 美鈴はそのまま戦線を離脱し、その後をフランはどつきまわす。そうなってしまえば必然的にフランはこの場を離れることになる。

 結果的に咲夜にとっては良い結果となった。


「ちっ!」 


 レミリアはすぐに次の手を考えつつ窓ガラスを割って外に出る。前庭に出れば蝙蝠のような翼を広げ、そのまま博麗神社へと向かえる。現状でレミリアの味方は紅魔館にいない。ならば増やすしかないとレミリアは考える。


「せやぁぁ!!」


 パルの声がすぐ近くで聞こえ、次いで背骨に鈍痛が響いた。

 落下している最中に上空を見上げればパルがそこにいて足を降ろす動作をしていた。そこから踵落としを食らったのだろうと推測をする。

 前庭に落ち、レミリアは背の痛みと羽の骨子をやられた激痛に呻く。

 ――状況は最悪ね。

 羽以外の方法で飛ぶことが出来ないレミリアにとって未だ空中戦が可能な咲夜とパルを相手にするのは厳し過ぎる選択肢だ。


「ハッ!」


 地上に降りて来た咲夜が能力を使って数十本のナイフを飛ばし、能力が解除されると同時にレミリアは近くして数歩下がって躱し、爪で弾いて迎撃する。

 その足止めは狙った通りで、上空にいるパルが両手をレミリアに向けた。


「発貫衝!」


 両手で大気を押し出し、気功と共に繰り出す大技の一つで直撃すれば妖怪でも木っ端みじんになる威力を誇っている。

 故にレミリアは全力を出すことを決めた。


「ガアアッッ!!」


 咆哮。周囲の大気を揺らして発貫衝を霧散し、全力で跳躍してパルに牙を剥いた。


「わっ!?」


 そこまで跳躍するとは思っていなかったため驚き、しかしホルスターからナイフを取り出して能力を使って三千本に増やしてレミリアに投げつけた。

 それを動体視力をむき出しにして致命傷になるもの以外は可能な限り避けて被弾前提で突撃していく。

 レミリアは紅魔館の、引いては幻想郷の中でもパルは度を超えて危険な生物だ。紅魔館の中で言えばフランよりも、幻想郷であれば霊夢や紫よりも危険だ。

 もし彼女たちに反逆されたら――とレミリアは全員に対する対策を怠ったことは無い。一対一、二対一、もしくは全員対一。その場合の対処法と攻略法を思考し、誰も見ていない中で己を強化するのがレミリアという人物だ。

 ――故に、パルに対する最善手は全力の特攻と必殺の一撃! 

 かつて博麗の巫女、博麗霊夢と本気で戦った時は自身を最強と疑わなかったため強者として敗れた。後に数戦を重ねて油断を無くしても互角という結果が出た。

 レミリアは自身を圧倒的に倒せる相手を知らない。幻想郷の最強は霊夢の一強だったからだ。

 では、もしもその相手が現れた時は――?


「ハァァ!!」


 レミリアは腕を思いっきり引き、腕を突き出す。

 パルはそれを見てとり迎撃を選択して()()()()()()()()()()()()()。同時に、レミリアの腕は影を使って無理やり伸ばされ、甲高い音と共に鮪包丁の先端に刺さる。


「ダメか……」


 誰にも見せた事の無い完全な初見殺しを迎撃され、レミリアは改めてパルの天武の才に嫉妬した。もしもパルが刺突以外に、逃げや回避、防御を選んでいれば確実に胴体を貫いて致命打を負わせられただろう。

 レミリアはズタボロになりながら落下し、パルはすぐに下降してレミリアを救いあげた。ここでパルを刺すような真似をレミリアはしない。それは吸血鬼のプライドに関わり、殺し合いならともかく勝負事でそこまで卑劣にはなれなかった。

 レミリアを地上に降ろすと同じく焼け焦げた美鈴がフランに掴まれて前庭に放られ、フランも前庭に降りて来た。


「お嬢様方――」


 咲夜が改めてお願いしようとするとレミリアは手で遮った。


「良いわよ。今回は咲夜の好きにさせてあげるわ」


 レミリアの意外な反応を見て咲夜は驚き、パルは微笑んで救急箱を取り出して消毒液を噴射した。


「ありがとうございます、お嬢様」

「え、ええ……。ただし私たちにもあの衣装を着せること、良いわね?」


 レミリアが悶絶する痛みの中で答え、咲夜は嬉しそうに頷いた。


「はい!」  

「何の事~?」


 その後フランにも再度説明することになり、三月三日に向けて咲夜たちは準備を進めることになる。



 そして現在。博麗神社、守矢神社、白玉楼を巻き込んでひな祭りは開催され、レミリアたちはひな壇に座らされていた。


「なるほど、そういうことでしたか」


 メンタも納得し、早苗たちも頷いた。


「終わったよ~」


 見れば咲夜と藍の準備も終わり、パルは今回はシャッター係を担当しているため十二単は着ていない。

 咲夜がメインのため最上段に昇り、隣には藍が座ってカメラを待った。


「はい、取るよ!」


 パルがカメラ前に立ち、レンズを開いた。

 写真を撮られることに慣れているメンタたちはともかく、咲夜や藍はあまり映らないためシャッター音がする度に驚いてしまい、何度もやりなおすことになった。

 およそ一時間ほどするとようやく満足のいく写真が取れたらしく、メンタたちはげっそりと疲れた表情で着物を脱ぎ始める。十二単は咲夜が魔法空間の中に納めてまた来年もするらしく丁寧に収納していく。


「つ、疲れました~」

「ええ、本当に……」


 早苗たちもぐったりと机にもたれかかり、気だるさをアピールする。


「皆ありがとうね」


 パルが良く冷えたお茶を配り、それを飲んでいくと疲れた体に沁み渡る。


「ええ、とても楽しかったわ」


 咲夜も凄く楽しそうに笑みを浮かべながら昼食の用意を済ませ、テーブルには事前に作っておいたちらし寿司やいなり寿司、甘酒等々が置かれて行く。


「何時の間に……」


 霊夢も博麗神社の中庭を借りることは聞いていたが昼食兼夕食兼明日の朝ごはんを用意されていることは聞いていなかったため驚きつつも甘酒に手を伸ばした。


「今日は皆に手伝って貰っちゃったからそのお礼だよ! いっぱい食べてね!」


 ――手伝ったというよりは強制ですよね?

 ――しかもこの量って絶対食べきれない……。


 メンタたちが一瞬だけ視線を交差して生唾を飲み、パルのお礼が終わると同時に宴会も始まった。  

 飯と酒さえあれば後必要なのは肴だ。それを提供するのは大抵メンタの仕事だ。


「そういえば霊夢さんたちは雛祭りってどんなものなのか知っていますか?」  

「ん? そりゃ飯食って酒飲んで騒ぐ祭だろ?」

「それただの宴会です。本来は日本の平安時代より伝わる遊びの一つで厄除けの意味もあるんですよ」

「厄除け、ねぇ……」


 メンタの話を聞きつつ霊夢は面白そうに食いついた。


「そこで、今日は由来にもなっている妖怪、雛さんに来て貰っています!」


 メンタが立ち上がって襖を開くとそこには真っ赤なゴスロリドレスを着たエメラルドグリーンの髪の毛の幼女が入っていた。


「初めまして、妖怪の山にひっそり住んでいる厄神の鍵山雛です」


 ペコリとお辞儀をし、彼女を知っている霊夢と魔理沙、レミリアは一斉に噴いた。


「よろしくね~」


 パルが立ち上がり、座布団とお茶を先に置き、その後に取り皿と箸を用意して雛を促した。だが雛は急におどおどしてパルから距離を取った。


「やっ、あの、私そういうことされると――」

「まあまあ遠慮しないで座って!」


 パルにその両肩を掴まれて座らされ、雛はきょとんとパルを見上げた。

「……何となくそんな気はしていましたがパル姉マジリスペクトです」

「へっ?」


 メンタの意味不明な発言にパルは瞬きし、メンタに眼を向けた。

 霊夢たちも揃って口元を引き攣らせておりそれらを代弁するようにメンタは告げた。


「雛さんって厄神――えっと、人の不幸とか怨み、厄を溜め込む神様なんです。そのため彼女に近寄ると不幸が襲い掛かってしまうのです。ちなみにオレはてゐの能力を付与して貰っているので相殺できます」


 雛はそういう神様であり孤独を好む妖怪だ。不幸を溜め込むが自身は不幸にならないという特徴があり『厄を集める程度の能力』を有している。

 霊夢たちも里で伝承を纏めている阿求という少女から聞いたことがあり、関わりたくない一人でもあった。


「ですが、パル姉は持前の超幸運リアルラックで厄を無効化してしまっているんです。これがどのくらい凄いか分かりますか?」


 メンタに問われてパルは少し返答に困る。


「ご、ごめん。分からない」

「イエス! それはもう霊夢さんが一生甘やかしてヒキニートを許容してくれる旦那さんを見つけて結婚するくらい凄い奇跡的な事なんですよ!」

「分かりやすい!」


 パルは手を打って頷き、背後では霊夢があんぐりと口を開けて固まる。


「ちなみに無効化というよりは浄化に近い感じですね。パル姉の傍に居れば存在意義がなくなるくらい普通の少女で居られます。そういうわけで出番を雛さんに譲ります!」


 どうぞ! とメンタが言うと雛は少々フリーズしていたがすぐに意識を戻した。


「は、はい。オホン。――ひな祭りというのは女の子たちの遊びの一つとして語られていますがその実は厄除けです。ひな人形を笹船に乗せて流す、雛流しと呼ばれる儀式でもあります。その起源はメンタさんもおっしゃられていた通り地球の日本、平安時代です。私も丁度その頃から存在しています」


 幻想郷と地球の時間軸は一定では無いため雛が此方に来てから経過した時間はおよそ4000年。神としては若い部類に入る。


「厄は色々な種類がありますが、主は病気です。当時は現在のような医療文明が無かったため病気は祟りや神罰として捉えられてしまい、神頼みや生贄なども多くありました。疫病とかが流行するといっそ面白いくらいに元気な人が殺されて病人も死んでみやこごと滅ぶなんて例もありました。勿論、悪霊や屍もたくさんありますから陰陽師の皆さんはお仕事が山のように回って来ていました」


 雛は当時を思い出してクスクスと笑い、パルは疑問を覚えた。


「でもそれじゃ雛さんも討伐されかかったんじゃ……」


 すると雛は大きく頷いて立腹した。


「そうなんです! 私は厄を取り込んで都を綺麗にしていたのに陰陽師の人たちは私を見るなり元凶扱いして術符とか飛ばしてくるんですよ! 酷いです!」


 厄神だからある程度は仕方ないのだが術符を飛ばされる謂れは無い、と雛は思っている。その苦労も目に移るように分かり、霊夢たちはそっと視線を伏せた。

 雛の説明――苦労譚――は続き、小一時間立つ頃には終わりを見せていた。


「は~、久しぶりにこんなに話しました。愚痴も聞いて貰えてスッキリしました」

「おかげで七割くらい消えかかっていますけどね」


 メンタの言葉に雛も頷く。理由の半分はパルのせいであり、もう半分は溜め込んでいた鬱憤を晴らすと同時に神としての存在定義を保てなくなってきているからだ。


「さて、名残惜しいですが私はそろそろ帰ります。ここに居たら本当に消滅してしまいますから」


 雛の言葉にパルは本当に残念そうにしていた。


「そっか……もっと話して欲しかったけど……」

「ううん、パルさんたちのおかげで厄神を続けられそうです。私のことを知って貰えて、憶えていてくれる人がいるだけで嬉しいです!」


 彼女がそういうと体は更に透明感を増し、いよいよ消滅しかけていた。


「では、私はこの辺で御暇しますね。今日はありがとうございました~」


 雛が頭を下げると霊夢たちが一斉に拍手してメンタは庄子を開けて外への窓を開いた。


「雛さん、良かったら後で食べて!」


 パルがちらし寿司といなり寿司を手早く包み、お茶と割りばしを入れて雛の手に持たせる。すると雛は思わず泣いた。


「ぐすっ……ありがとうございます。私、こんな風にされたことなかったので……」

「妖怪の山にいるんだったらまた会えるよ! こっちに来ても良いし、ボクが会いにもいけるからね!」


 パルが無邪気にそう言うと雛の体がより薄まった。


「はい! また!」


 雛も別れ時を感じ、手を振って飛び去っていく。  



 宴会も夜になれば収まりを見せ、起きている者は片付けを始める。


「宴会って最後まで起きている人が割を食うんですよね~」

「今日くらいは良いのよ」


 主にメンタとレミリアの二人だ。他は皆雑魚寝してしまい、毛布やブランケットを引っ張り出してきて彼女たちの身体に乗せる。

 一通りの片付けと戸締りと結界の確認を終えるとメンタは居間に戻って来た。レミリアもまだ起きており、メンタが持っているモノを見てニヤリと笑った。それは霊夢が香霖堂から拝借した霊水と呼ばれる水から作った美味しい一本だ。

 その日本酒を器に注ぎ、レミリアも一杯貰う。

 外を見れば緋色の月に照らされた桜が風に乗って花びらを飛ばしている。


「月見酒ね」

「綺麗ですね~」


 二人共に風流を楽しむような趣味は無いが、偶にはこうして肩を並べて落ち着いて飲む酒も良いものだと感じている。

 酒の器に舞い込んできた花びらが乗り、レミリアは満足そうに一口煽る。


「ふぅ」


 と、息を吐けば芳醇な日本酒の香りが辺りに漂う。

 桜の花びらに混じって蝶が飛び、緋色の月へと昇っていく。

 

 暖かな風が吹き、春は芽吹こうとしていた。 


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