第三十四話 ロリBBAですか?
メンタ「ご注文は……」
グラたん「ロリBBAですか? ……って、なに言わせるんですか!?」
理事長「第三十四話だ」
幻想郷において妖怪と陰陽師の関係は切っても切れないほど歴史的にも長く、深い。妖怪に銃や爆撃機と言った現代兵器はほとんど効かないのは幻想郷の人間であれば誰もが知っていることだ。加えて剣や槍を使っていた古代、それ以上前ともなれば人間に抵抗するすべは無いと言っても良い。
そこで妖怪に対抗するために生み出されたのが大気に漂う魔力を『術符』と呼ばれる木札や紙札に込めた武器だ。これを開発したのが陰陽道の開祖、安倍晴明。その手腕は歴代の陰陽師の誰よりも優れており対妖怪の専門家としても名を馳せていた。
これによって人間は妖怪に対抗するすべを持ち、妖怪は徐々に数を減らして行った。同時期に神頼みをしなくても良くなったため神様たちも神の世界、『神界』へと帰り始め、やがて地球上からは神も妖怪もいなくなり、人間の時代が到来したと言われている。だが、共通する敵がいなくなったことにより人間の武装は術符から科学へと変化し始め、魔法・魔力と呼ばれた存在も消え始める。
西暦にして1600年を超える頃には陰陽師も魔法使いも完全に姿を消し、代わりに人を効率よく殺すための兵器として銃と毒ガスが開発され始めた。
やがて始まるのは海を赤く染めるほどの人殺しの歴史――そこに神はいない。
話は戻って陰陽道。現代兵器が一切合切通用しない現代妖怪が地上を闊歩する幻想郷世の中で陰陽道は生き続けていた。
メンタの目の前にあるのは現代ではよく見かけるコンクリートの壁に多人数による対妖怪の防護結界。正面の門は古めかしい檜で作られた木製の門。額縁には堂々と『陰陽道』と書かれていた。
「着いたー」
「おおっ! めっちゃ辛気臭そうな所ですね! 頭の固い弟子が多そうです」
その弟子の一員にお前もなるんだぞ、と枢は言いかけて無駄だろうと思って飲み込んだ。
「……行くぞ」
陰陽道の門を一歩でも潜ればそこは陰陽生の漂う異世界――というわけでもなく、まるで常時学園祭でも開催しているかのようにコスプレした生徒と生徒が談笑し、前庭や中庭で昼食を食べている姿が見受けられる。
「お帰りなさいませ!」
「お帰りなさいませ!」
その中にはメイド服や執事服、果ては着ぐるみといったおかしなものまで存在し、地球でコスプレを嗜んでいたメンタにしてみれば色々疑問は尽きない。
「なんでメイドなんですか?」
「人の趣味はそれぞれだ。そして習得の仕方も人に寄りけりってな。こっちだ」
この場所、通称『東の陰陽寺院』では門下生に対して制服となる胴着を配布しているのだが基本的には私服も許可されており、風紀が乱れない程度にコスプレも許可されている。それで成績が上がったという実例もあるため、教師としてはある程度眼を瞑るしかない。
理事長室にやってきた枢は扉を叩き、中へと入っていく。
そこにいるのは身長130cm程度の少女だ。その少女に対し、枢は騎士として右拳を胸に当てて会釈する。メンタはそれを見て先程の枢が言った言葉の意味をよく理解した。
――ようするに教師でありながらも騎士でありたいという精神的コスプレイヤーなんですね。ふはっ。
「理事長。和布枢及びシン、ただいま戻りました」
「ご苦労だったね。何事も無くて良かったよ」
薄い青色の髪の少女の声は高く年齢もそうとってはいないのではないかと思わせるが、雰囲気は相当に年期の入っており、メンタはそれとなく気が付いた。
着ているものは陰陽師の制服である胴着と袴であり、上には赤い刺繍で『陰陽』と書かれた黒のローブを羽織っている。
「それで、そっちの娘は?」
理事長がメンタの方を見つつ問う。
「陰陽道の門を叩いた者です。この者は博麗神社の巫女見習いでありながらもあの博麗霊夢と霧雨魔理沙の教えを受けた者です」
陰陽師でも博麗の名前は妖怪討伐の専門家としても轟いており、倒せない妖怪はいないとまで言われるほどの人物だ。最もその博麗霊夢を見た者はほとんどいなく、清潔で、純情で、可愛く、しかし強く気高い少女――というとんでもない誤解が広まりつつある。しかし妖怪退治をしている時の霊夢を見るのならば、あながち間違っているとは言えない。
「へぇ、あの馬鹿二人が、ね。珍しいこともある物だ。しかし巫女見習いである以上誰かの推薦が必要になるのだが……」
「それであれば俺が推薦人となります」
枢が懐からしたためた書類を取り出し、理事長は薄く笑った。
「面白い。お前が推薦するなんてシン以来かな?」
「はい。此方が入学費等々になります」
ほう、と理事長は呟いて書類を受け取り――スルトが直筆した小切手を見て眉をひそめた。
「――あいつの小切手か……分かった。二人は下がって疲れを取ると良い」
枢たちはそこに追求はせず、再度会釈をして一歩下がった。
「はい。では失礼します」
「では」
枢とシンが退出し、扉が完全に閉められてから十数秒後にメンタは尋ねた。
「一つ聞いて良いですかね?」
「何かな?」
小切手を傍において書類を取り出し、それも傍においた理事長は改めてメンタの方を見て、教師として目を細めた。
何処でも第一印象というのは大事であり、普遍的に見るならばメンタはそこらの陰陽生や町人とそう変わらない。しかし霊夢と魔理沙に鍛えられた腕や足の筋肉は内側に濃縮されており魔力の質、霊感、人としての質の高さを理事長は見抜いていた。
「ロリBBAですか?」
ただし第一印象は『最悪』となった。
「言うな! 私のコンプレックスを突くな! しかもロリ言うな!」
理事長が割と本気で怒り、しかし罵声はご褒美であるメンタにとってはテンションを上げる材料にしかならない。
「ロリッ娘は正義ですよ!」
これも爆弾発言であり理事長は机を数度叩いて抗議し、一旦深呼吸して冷静になる。こういう手の輩にペースを掴ませてはいけないと長年の経験則から知っている。
「そんなわけあるか! ええい……ともかく面接を始めるぞ。まずは名前と住所、年齢、電話番号、経歴を洗いざらい吐いて貰おうか」
「警察ですか? ま、良いですけどね。オレの名前はメンタです。住所は博麗神社で年は15で電話番号は持っていません。経歴は地球出身でデスゲーム生還者と言った所ですね」
またしても理事長は軽く息を吐いた。
「地球……外来人か」
地球から幻想郷に来る人間というのは『何かしら事情がある人間』か『適当な妖怪に拉致されてきた』の二択になる。メンタの場合は後者だ。
「イエス!」
「なるほど……では次に自身の能力とその使い道について話してくれ」
陰陽道の面接において重要視されるのは自身の経歴と霊感の高さ、そして能力と使い道だ。町人どころか里人に聞いても『能力と使い道は面接で出るぞ』と言われるほどであり、就職するに当たっても無能力者と何かしらの能力者では当選具合が違う。
当然答えるのが義務であると幻想郷では思われているが、メンタはあからさまに嫌な顔をして断った。
「え、嫌ですよ。あって間もない人に自分の切り札話すとか馬鹿なんですか?」
普通に考えてそんなこと言えば落第確実なのだが、理事長基準では合格だ。
「正解。最近の若者は面接官なら話して当然という傾向があるため試させて貰った」
「その若者ってもしかして……」
「無論、我が門下生だ」
メンタは数秒絶句し、理事長も薄く微笑んだ。
「――馬鹿ですね」
「ああ、馬鹿共だ。いっそ可愛さすら憶えるよ。では次の質問だ。君は過去につらい経験をしたことがあるか? 例えば誘拐や拷問でも何でも良い、話してくれ」
これは外来人だけでなく幻想郷の面接としては妥当な質問だ。妖怪によって怖い思いをしたから陰陽道を学びに来た、友人や親家族を殺されたからその復讐をするために陰陽道の門を叩いた、と答える者は多くおり教員も一度はこの質問をされる。
大抵は怒気や哀愁を漂わせながら話すが……メンタに怒気も哀愁は無く、代わりにドス黒い殺意を理事長に向けて答えた。
「何ですか? 自分で自分の傷口抉れって言っているんですか? 眼玉抉って鼻に詰めて臓物引きずり出してからぶち殺しますよ?」
しかしそれも許容範囲内であり、理事長は涼し気に受け流して頷いた。
「それで良い。君の概ねが分かった。では次は少し面白い質問をしよう。そうだね……今、君の目の前には実の母と父がいる。その背後には強盗犯が居て助けられるのはどちらか一人だとする。さて、君はどっちを助ける?」
「どっちも見捨てて逃げます。ぶっちゃけオレはパル姉が居ればそれで良いのです!」
即答。続けて理事長は質問した。
「……ではその姉が囚われていたら?」
理事長の予想では『姉』と答える未来が想定されていた。過去にも兄弟や姉妹で陰陽門を叩いた者もおり、彼らは総じて兄と、弟と、姉と、妹と答えた。
「むしろどうやって囚えることが出来るのか教えてください。想像力豊かなオレでも想像できないんですけど」
メンタの答えはその斜め上を行き、理事長の思考を止めた。
「待て待て。仮にも君の姉は人間だろう?」
そう、理事長の目の前にいるのは紛れもなく純粋な人間であり半妖とかの類では無い。ともなれば血縁者も必然的に純粋な人間となるはずだ。
「え、普通に化け物ですけど?」
理事長も流石に絶句し、問いを変えた。
「……では、君が囚われていたら?」
「パル姉が時間止めて助けてくれると思います」
実際そのパターンが濃厚であり、それ以前に自分が囚われることがあるのでしょうか、とメンタは逆に疑問を抱いた。
「むしろ君の姉に興味が湧いたよ。さて、では最後の質問だ。君は何のために陰陽師の門を叩いたのかね?」
この問いに対する答えは二つ。自分のためか、誰かのため。それ以外の目的でここに来るものは居ない。
「霊夢さんに陰陽師を乗っ取って来いって言われました」
メンタは特に考えることなく霊夢に言われたから、という理由を理事長にぶつけた。本当の霊夢を知っている理事長にしてみれば納得のいく答えだった。
「……彼女らしいな。良く分かった、では君を合格とし、明日から授業に参加して貰う」
それで良いのか、とメンタは思う。
「良いんですか? 目の前で乗っ取り宣言したんですよ」
「それくらいの気概が無ければ陰陽道は続かんよ」
理事長が机の上にある紙の式神を一枚手に取って空中に放り、式神は扉のスキマを抜けて何処かへ飛んで行った。
実際、陰陽道の修行は厳しい物が多く、対妖怪の技術だけでなく陰陽師になるための知識も必要となってくる。更に色々とお金もかかるが、東の陰陽寺院では奨学金制度を実施しており将来的に返してくれればそれで良いという制度もある。
最も大抵は妖怪との戦いで死んでしまうため赤字にしかならないのだが、この陰陽寺院は博麗神社とも提携しており、幻想郷の均衡を保つためということで紫が資金を出してくれているためお金の問題は気にしなくても良い。
少しすると理事長室の扉が叩かれ、開かれた。
「枢です。お呼びでしょうか?」
「うむ。彼女は合格だ。今日から彼女をシンと同室にし、師範は君だ」
陰陽寺院の序列は理事長が実権を握っており、基本的には教員たちが提案して理事長が判を押すが、最終的な決定権は理事長が持っている。そのため理事長が決めたことであれば教師は逆らえない。しかしこの場合は顔見知りである枢とシンと一緒の方が良いだろうという理事長の配慮もあった。
「了承しました。それじゃ、ついて来い」
枢が会釈し、手を差し伸べるとメンタはニヤリと笑った。
「そう言って路地に連れ込むつもりですね」
「誰がやるかそんなこと!」
枢も弄られているという自覚はあるが、続ければ続けるほどメンタの口撃は加速する。
扉が閉じられ、理事長は書類をみつつ溜息を吐いた。
「やれやれ……今年は騒がしくなりそうだ」
陰陽寺院は寮制であり男子寮と女子寮に別れている。敷地の内、四分の一は寮で占められており、残りは教室や実験室に割り当てられている。また周囲の山々は東の陰陽寺院の領地ではあるが基本的に妖怪がいるため実質的には陰陽寺院の壁の中が敷地となっている。
しかしながらシンと枢だけは陰陽寺院内でも例外であり、教室兼私室となっている。所謂『離れ』と呼ばれる隔離場所であり別名『特別教室』。シン以外に使われることは無いと思われていた場所だ。
離れには部屋が三つあり、中央を教室として使い、右側をシンの部屋に、左側を枢が使っている状態だ。部屋の一つ一つに鍵が掛けられており特にシンの部屋はセキュリティが固くつけられている。
その三つの部屋を案内し、私室にメンタを迎えていた。
「ここが部屋」
「お~、中々広いですね」
「当然。格が違う。で、基本的に必要な物は自分で何とかする」
「ということは布団や食事、着替えに筆などもですね」
メンタが身の回りを調べ、頷く。
「良く分かってる。とは言っても――」
「あ、ちなみに山の中とか里に下りるのはありですか?」
「問題ない。一応購買もあるから後で案内する。で――」
「それなら何とかなりそうですね! ではまずは羽毛布団を作るところから始めますね。それに筆――この場合は羽ペンもよさそうですね。木を軽く燻せば炭は確保できますし火と水はスペルカードでどうとでもなりますね。着替えは木材の繊維や動物の皮で何とかなりますね。ついでに食料にもなります。そうと決まればちょっと山に行ってきます! 色々収集するのでしばらく帰りませんので枢さんによろしく言っておいてください!」
メンタは勢いよく立ち上がり、シンの部屋を飛び出して行く。
「――行っちゃった……」
文字通りあっという間に姿を消し、シンは少々途方に暮れた。
時刻も夕方となり、メンタの転入手続きのための書類整理が終わり私室へと戻って来た枢はシンが作った夕食の席に座り、辺りにメンタの姿が無いのを見てシンに尋ねた。
「あれ? メンタはどうした?」
「山」
そう言われて枢は少々言葉に困る。
「……なんで山に行った?」
「自給自足するため、らしい」
シンの端的な文言も慣れてくれば概ね理解できるようになり、長い付き合いになる枢はそれだけで大体の理由を察して両手で頭を抱えた。
「そうならないためにお前に金渡したよな?」
シンの傍には枢が用意していた金があり、それを理由にメンタには自由に行動させないように試みたのだが失敗に終わっていた。
「それを言う間のなく出てった」
「……はぁ……」
枢は深く溜息が付きながらも両手を合わせて黙礼し、夕食の焼き魚に箸を伸ばした。
深夜になってもメンタは帰って来ず、明日の授業準備を整えて待っていた枢は外を見た。野外はもうすっかり暗く、遠くからは野良狼や妖怪の唸り声が聞こえてくる。
「帰ってこないな」
「おやすみ」
シンはメンタなら大丈夫だろうという謎の確信を得ており、一つあくびをして自室へ戻っていく。
「おいっ」
枢も更に一刻ほど待ったが、帰って来ないのを見てランプの電気を落とし、コンセントを抜いて就寝した。
そうして朝。
教員たちの朝は早いが枢は特に早く、朝の5時には眼を覚まし、布団を畳んで廊下に出た。外はまだ少し薄暗いが徐々に日の出が出てきていた。
枢はこの朝日が昇る瞬間を見たいがために毎朝起きていると言っても良い。
「ん~、良い朝だ。で、結局あいつは帰って来なかったな」
まず最初に思うのはメンタのことだ。博麗神社に居たと言っても陰陽寺院周辺の地形はまだ不慣れで何処かで迷っているのかもしれないと思い、昼ぐらいには捜索願いを提出しようかと思っていた。
白いタオルとたっぷりと水の入った桶を持ってサンダルを履き、庭に出る。普段は眼を完全に覚ますためにも外で顔を洗い、縁側に立てかけてある木刀を振るい、己を鍛える。しかし今日はいつも通りとはいかず――。
ガタンと桶を落とし、視線は庭の左手側にある一軒家。基本的な素材は木造だが、壁と屋根はコンクリートを塗って作られており玄関には何故か門松が立てられている。
カコン、と音がする方を見て見れば一軒家の傍に鯉の住む池と小さな水車があり、その水車を通じて返しに水が注がれている。
しかしよく見れば家の外部四隅には防御用のスペルカードと迎撃用の弾幕が配置されており『入口以外で入ったら殺す』と言外に言っている。
「……なぁぁ……」
枢が就寝したのは夜の十一時。そこから戻って来て作ったとしても六時間。
そんな計算をしているとガララと玄関が開き、中から陰陽道の胴着と短めのスカート、その上から『博麗』と文字通り陰陽寺院に喧嘩を売っている刺繍入りの外套を羽織ったメンタが顔を覗かせた。
「おはようございます! どうですか? 会心作ですよ!」
無事だったのは良いことだが枢としては知りたいこと聞きたいことは山ほどあり、結果として口ごもる事になってしまった。
「な、なんで家が……しかも地味に凄い」
家を見て、池を見て、最後にメンタ自身を見て感嘆した。
「なんでってそれは必要な物は自分で揃える、ですよね? 結構ギリギリになってしまいましたが必要な物は一通り揃えたつもりです!」
「……そ、そうか。あと購買についてなんだが――」
あ~、っとメンタは言ってから両手を目の前に伸ばした。
「それは必要ないと思います。昨日山を見回ったら色々と豊富でしたからオレ一人なら一生生きるのに困らないと思います!」
本人が良いというのならもうそれで良いかと枢も若干投げやりになり、しかし授業を受けるにあたって一番必要な物はどうにもなるまいと思い、聞いた。
「……さいですか。ま、まあ教務用図書とかは流石に――」
「教科書とかノートは門下生の娘に聞いて必要な物を強請って貰いました。ちょうど大量に買ってしまって要らなかったみたいです」
ならもう言う事はあるまい、と枢は放り投げて最後に朝食について説明することにした。いくらメンタと言えども今までは博麗神社で世話になっていた少女だ――と、枢は認識している。
「……そうか。それと食事は食堂で食べられるが6時半から20時までだ。基本的に俺たちと一緒に行動していれば食い逃すことは無いぞ。……まあ、人数が人数だから自炊出来る者は自炊した方が良いけどな」
陰陽道と言っても陰陽だけを学ぶわけでは無い。一般教養や算術も会得し、その上で陰陽にまつわる歴史や背景を学び、術符を書いて実戦へと至る。
「朝食ならもう済ませましたよ。自炊は大事ですよね!」
この時点で枢は色々言いたい事はあったが、全て飲み込んで一つだけ聞いた。
「早くないか?」
枢でも体調を崩さないために朝食は毎日6時半に取るようにしており、シンもそれに合わせて食べる。現在はまだ5時過ぎくらいであり、それ以前に朝食を食べていたとすれば寝ていないのではないかと疑ってしまう。
「え、普通ですよね?」
しかしメンタにとっては午前0時から4時間ほど睡眠をとれば充分であり、それが普通だ。余談だがパルは22時から朝6時までしっかりと睡眠を取っている。
「……お前は色々とおかしいな。まあ良い。とりあえず俺は早朝訓練するがお前はどうする?」
「オレはオレでいつも通りにやりますよ」
「分かった」
いつも通り。つまり霊夢直伝の近接格闘術と魔理沙直伝の魔力総量と魔力質の強化訓練だ。陰陽道にも、いざと言う時のために護身術は必修科目となっているため枢は特に疑問を覚えなかったが……大気を振動させるような音が聞こえれば話は別だ。
「ハッ! ハイッ!」
其れは型も何も無い格闘方法だが、見ている者にすらまるで目の前に自分では勝てない誰かがいるような幻覚を魅せる。
しかしメンタの行動はキレはあってもどれも当たってないように思える。大気なのだから――ではなく、メンタが見ている中では本当にどれも当たらないのだろうと枢は思う。
――お前は一体誰と戦っているんだ?
そう思わせるほど、メンタの表情は苦渋していた。




