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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
36/119

第三十三話 懐かしい

グラたん「第三十三話です!」

 

時刻は次の日のお昼頃。霊夢たちも近くの里の飯店で昼食を済ませ、パルたちも今しがた昼食を終え、暖かな陽射しの中で日向ぼっこをしつつガーデニングでもしようかと思っていた所だ。


「戻ったわよー」


 霊夢たちは紅魔館の前庭に降りたち、その周りに皆が寄ってくる。


「おかえり~」


 そこへ、早苗が戻って来た霊夢たちの中に見知った顔を見つけて近寄った。


「あれ? スルトさんも一緒だったのですか?」

「ふむ、早苗もここに居たのか」


 それを耳聡く聞いた咲夜たちがネタを見つけた新聞記者の如く一斉に目を輝かせてスルトに視線を向けた。


「スルトさん? ってことはこの人が早苗ちゃんの――」

「わぁぁぁ! 言わないで!」


 パルの発言に早苗は頬を赤くして口を塞いだ。


「……今更だと思うけどね」


 咲夜が呆れ、背後にスルトの気配を察知したレミリアたちがテラスから降りて来た。


「騒がしいわね」

「あ、スルトー」


 そこには幽々子もおり、空中からスルト目掛けて自由落下し、スルトが受け止めると同時に首に手を回して抱きついた。


「フカ――――ッ!!」


 それを見た早苗が一瞬で沸騰し、パルと咲夜が正面と背後から抑え、藍と妖夢で幽々子を引き剥がした。それを横目で流しつつ、紅魔館に遊びに来ていた守矢の二柱、八坂神奈子と洩矢諏訪子が手を振った。


「やっほー、スルト」

「やはり来ると思っていたよ」

「其方たちもか」


 例え彼女たちが何処にいようとスルトは疑問に思わないし、さほど変なことでもない。神と言っても信仰心を集める以外はニートとさして変わらない。 

 スルトは苦笑いしつつレミリアたちの方を向いた。


「今度は霊夢と魔理沙を引っかけて来たのね」

「誤解だ。いつもいつもそうくっつけるな」


 スルトはレミリアの性癖を知っているし、別段差別も偏見もしない。しかし呆れはする。次いで、レミリアの背後にいたフランがスルトに近寄って聞いた。


「おじちゃん誰?」


 時に言葉は聖剣よりも鋭い威力を持って人を貫く。確かにスルトはオジサンと言われても反論できないような年齢ではあるし、それ以上の扱いを受けても文句は言えない。だが傷付きはする。


「おじっ……余はスルトという者だ。して君は?」

「あたしはフラン。フランドール・スカーレット!」


 ほう、とフランの頭を撫でつつレミリアに視線を向けた。


「スカーレット……ふむ、レミリアに妹がいたのか」

「隠してたけどね」

「知っていたがな」


 スルトの大体何でも知っているという態度をレミリアは嫌い、スルトも分かってそれを演じている。レミリアもそこを知っているが故に憎々しげに吐き捨てた。


「相変わらず憎たらしいわね」

「お知合いですか?」


 パルが聞くとレミリアは溜め息を付きながら答えた。


「超腐れ縁って奴よ」

「具体的にはスルトさんのお力でこの幻想郷に紅魔館ごと引っ越して来たのよ」


 いつの間にか現れた紫の補足も入り、パルは納得する。


「その割には嫌われてますね」


 藍もスルトのことは紫から聞いていたが実際に見るのは初めてだ。

 しかし、誰も彼もが彼を見る度に思う事が一つだけある。それは『怖い』という潜在的な恐怖だ。スルト自身は気にしておらず、慣れてしまえばどうということは無いのだが、スルトは常に少しだけ邪気を散らしている。そうするのは辺りへの警戒と慣れのためだ。


「それよりも遊んで~スルトー」


 流れを全て切って、フランは両手を上げてねだり、スルトも機嫌よく頷いた。


「良かろう。何をする?」

「弾幕ごっこ!」


 フランの無茶振りにパルは疑問に思う。


「えっ? スルトさん出来るの?」

「出来なくはない」


 弾幕とは言うが基本的にはスペルカードルールが適応されるため戦えるのは女性限定となっている。そこに男性が介入する場合は容赦のない戦場と化す。

 フランの脅威を身を持って知っているパルはスルトの事を気に掛けるが神奈子と諏訪子が茶化すように答えた。


「スルトは攻撃特化だからね。その気になったら強いよ~」

「強い……」


 パルの目が怪しく輝き、諏訪子が更に悪乗りする。


「(攻撃が)強くて、(防御が)硬くて、(スピードが)速くて激しいのだ~」

「注釈がないと激しく誤解がありそうだな」


 魔理沙の言う通りここにメンタが居れば脳内で台詞を改ざんすることくらい何てことなくやってのける。


「ゴクリ……」


 ただ、てゐとレミリアはいるため二人ともに今のやり取りは勝手に脳内変換されている。そう、『(○○が)強くて、(■■■が)硬くて、(手が)速くて(夜が)激しい』そしてパルがそれを聞いて興味あり気にしている――くらいの妄想をしていた。

 半分以上腐っている二柱に対し、スルトもそういう妄想の類は予想出来てしまうため注意するのだが――。


「あまり変なことを言うな。そもそも余が戦うこと自体あってはならんのだから――」

「つ、次、フラン様の次にお手合わせしてください!」


 パルの言葉にスルトは苦いものを食べたような引き攣った笑みをした。


「――彼女、戦闘中毒狂者バトルジャンキーなのよ」


 レミリアの注釈にスルトは天を仰ぎつつ頷いた。


「まあ、良かろう」

「やったぁ!」


 パルは喜び、胸の前で拳を固めた。



 スルトとフランが少し離れた場所で対峙し、パルたちは更に離れた場所で観戦することにした。しかしスルトのことを良く知っているレミリア、紫、早苗たちは何時でも動けるように身構えている。

 今回は相手が男性ということもありスペルカードルールは適応されず、一回五分のみという時間制限を設けている。


「いくよー、レーヴァテイン!」


 先手を取ったのはフランで、魔法を使ってその手に赤い炎を纏い、剣状にした。


「ほう。ならば此方も――来い、レーヴァテイン!」


 対してスルトは元から持っている『魔剣』を召喚して見せる。此方は青い炎を纏っており、その炎が何を意味するのか知っている幽々子は微笑みを消して目を細めた。


「一緒だー! えーい!」


 そんなことを知らないフランは無邪気にレーヴァテインを振るい、スルトも振るって相殺した。


「焔裂き」

「きゃー! くらえ「禁忌:クランベリートラップ」!」


 フランドールの弾幕の一つであるこの技は超密度の弾幕。しかし作っても使う事が無かったためか実戦で使われるのは今回が初めてだ。

 スルトは空中に上がり、最小限の動きで躱していく。


「ふふふ、当たらんよ」


 上下から当たれば人間も妖怪も弾ける大玉が振り注ぎ、左右と前後から小規模の弾幕がスルト目掛けて放出されるが、かすり傷一つ付かない。


「「禁忌:フォーオブアカインド」!」


 業を煮やしたフランが自身の影を三体作り、スルトを囲むようにして弾幕や炎系統の魔法を発射し続ける。当然、元であるフランは一人しかいないため疲労も魔力消費も四倍だ。


「まだまだだな」

「くぅ~! 「禁忌:フォービドゥンフルーツ」!」


 兎にも角にも当たらず、フランは意地でも当てようと包囲を狭めていく。


「ハハハハハ!」


 が、スルトは両手を広げてピースサインを作る余裕があるらしく動いてはポーズを変えて見せるという挑発をフランに繰り返していく。

 その戦い方を地上から見ている早苗たちは目を輝かせていた。


「わぁぁ!」

「凄い、全く当たってない!」

「でも何故攻撃しないのでしょう?」


 妖夢の疑問にはレミリアが答えた。


「それは単純にあの人の性格よ」

「え?」


 ただ、その答えが予想外過ぎるものだったが。


「貴方たちは知らないと思うけど、アイツ、戦闘時の性格が最悪だから」

「まさか、相手が悔しがる顔を楽しんでいるとか?」


 それこそまさか、と思いながらも霊夢が聞くとレミリアは溜息を付きながら頷いた。


「正解。おまけに相手の戦意が無くなるまで終わらないから」

「ゲスじゃねぇか!?」 


 てゐが叫び、だからよ、とレミリアは深く息を吐いた。


「折れる奴はそこで終わりよ。だけどそれを逆にバネにする人は後々手強くなるわよ」

「あんたは?」


 霊夢の問いには『あんたは戦わないのか』という意味があり、レミリアも理解した上で否定した。


「嫌よ。勝てる訳ないわ」

「吸血鬼のあんたが珍しく弱気ね」


 霊夢の言葉に咲夜と早苗たちを覗いた全員が頷いた。レミリアは妖怪の中でも最上位の存在であり、幻想郷最強と謳われている霊夢と互角に戦える存在だ。そんな彼女に勝てないとまで言わせれば驚きもする。


「ん? アイツから聞いてないの?」


 しかしレミリアは意外そうに聞き返した。


「何を?」


 唐突な問いに霊夢は素で答え、レミリアはそう、と頷いた。


「……なら言わないでおくわ。言ったところで別に害があるわけじゃないし」

「地味に気になる言い方だな」


 魔理沙の問いには答えず、レミリアは空中を指差した。


「それより次始まるわよ」

「え、もう終わったのか!?」


 魔理沙が空を見上げるとフランを抱えたスルトが降りて来ていた。


「うえええん! あーたーんーなーいー!!」


 ガチ泣きしているフランを咲夜が預かり、慰める。


「精進あるのみですよ」

「フラン様の仇はボクが討つ!」


 代わりにパルが威勢よく鮪包丁を取り出して構えた。


「パルの表情がやけに嬉しそうだな」

「……そうね」


 こうして全員がパルに対しての共通認識が芽生えた瞬間だった。


「ほう……」


 スルトはパルを見るなり小さく吐息を漏らした。

 ーーまあ、あんまり戻ってないから覚えてなくても仕方ないか。


「どうしたの?」


 パルが聞くとスルトは目を細めて優しく微笑んだ。


「いや、其方を見ると懐かしい感じがしてな」


 その言葉は嘘ではない。昔も教え子や子供たちにこうして稽古をつけることは多々あったからだ。

 そんなスルトの言葉にパルは首を傾げるが神奈子たちは違った。


「ハッ! これはまさか!」

「記憶が思い出すフラグ!?」


 神奈子と諏訪子が一斉に喚き出し、眼を見開くと今まで幽々子を取り押さえていた早苗がそっちのけで食いついた。


「それは色々困ります!!」


 だろうな、とスルトも思い直して早苗にアイコンタクトを送り静まらせる。


「否、余計なことを言ったな。来ると良い」


 スルトは不敵に笑みを浮かべ、掌を返して指先だけ動かして挑発した。


「来ると良い」

「じゃ、行くよ!」 


 初撃は僅かに引いての刺突。斬撃はどうしても大振りになるため最短最速の刺突でスルトの頭部、首、胴を狙う。


「鮪包丁か。剣戟の軌道もブレが無いな」


 スルトは下がるのではなく、逆に距離を詰めて剣戟を躱していく。距離が開けばパルはその分詰め寄るが、逆に詰められると下がらなければ鮪包丁の刺突がしにくくなる。


「うわっ! 本当に当たらない!」


 連撃を凌がれ、パルは嬉しそうに微笑んだ。


「うむ、その程度では何時まで経っても当たらんよ」

「それなら!」


 スルトの挑発にパルは一か月前に咲夜との戦いで使った技を見せる。

 時間の停止。絶対的では無い物の、これは防げまいとパルはスルトの背後に移動して右から薙ぎ払った。


「むっ!?」


 が、当たる寸前にスルトは右足を軸に半回転し、反射的に左足で周り蹴りを繰り出していた。靴の側部と鮪包丁の刃が衝突し、金属音をまき散らした。


「うわぁ!?」


 弾かれたことでパルも完全に余裕を掻き、スカートが上がってしまうのも構わず大きく後方に跳躍して逃げた。

 その一瞬の攻防を見ていたレミリアたちは思いっきり拳を固めつつ反応した。


「嘘ッ!」

「パルの奇襲が――」

「止められた? マジか!?」


 スルトも表面上は何てことないと落ち着いているが内心では少々焦っていた。


「これは驚いた。そんなことも出来るのか」

「び、ビックリしたぁ……まさか反撃が飛んでくるとは思わなかったよ」

「余も其方のことを少々侮っていたようだ。其方、名は?」


 スルトは言葉を出そうとして、まだ自己紹介していなかったことを思い出す。


「自己紹介してなかったっけ? ボクはパル。よろしくね」


 パル、という名前に引っかかりを覚えて記憶を探り、笑む。


「パル、か。ククク……もよやあの娘の姉が其方とはな。余はスルト。其方を好敵手と認め、余も相応を持って戦おう」

「えへへ、嬉しいなぁ」


 見る人が見れば一発でノックアウトしそうなくらい蕩けた笑みをパルは浮かべ、スルトは少々口をきつく閉じた。

 ――やはりパルも変人だな。

 幻想郷に常識人は居ても、まともな人はいない。


「では、行くぞ」


 スルトは諦めの境地に達しつつも魔剣レーヴァテインを地面に突き刺して両手を左右に広げた。

 スルトの全身から威圧――邪気が迸る。

 邪気と言っても基本的に魔力を乗せた威圧であり、そこに敵愾心を乗せれば殺気になり、邪気は生物の恐怖心を煽る気だ。


『――――ッッ!!』


 それは戦っていないはずのレミリアたちが無意識に自らの威圧を展開するくらいにはおぞましく、咲夜に叫ばさせた。


「パル! やりなさい!」

「てやぁ!!」


 それよりも早くパルは鮪包丁に気を溜め、飛ぶ斬撃を繰り出した。最上位妖怪ですら当たればただでは済まない威力を誇るその斬撃は、スルトには届かない。

 スルトの正面には薄い緑色の障壁が展開され、斬撃を霧散させた。


「ククク……これを出すのは早苗たちと出会った当初以来だな」

「あれは!」

「絶対防御!?」


 諏訪子と神奈子が驚き、早苗も歯を食いしばって見張る。 

 かつてスルトが幻想郷で来て間もない時に見せた力の一端。一定以上の貫通力が無い限り、この防御を突破することは出来ない。


「なら――これで!」


 太腿に括り付けられているコルセットからナイフを取り出し、スルトに向かって投げ、数を増やす。数にして百万本のナイフが絶対防御に衝突し、弾かれて行く。


「面白いっ」


 スルトもパルの所業を見て深い笑みを刻んだ。


「まだまだ! 崩拳!」


 大気の壁を殴りつけて罅を入れ、しかし絶対防御に当たっても砕けずに衝撃音を鳴らすだけに終わった。


「つ、通じない!? ならっ、覇斬!!」


 パルの持てる必殺の一撃、鮪包丁に全霊の気を込めて一気に振り下ろす。

 またしても弾かれ――ここで初めて絶対防御に罅が入った。


「何ッ!」 


 スルトも弾くと思っていたがために、その結果に驚愕した。


「私たちですら破れなかったアレを破るの!?」

「いっけー!」


 諏訪子と神奈子たちも応援し、格上に勝利するための斬撃が再び収束する。


「もう一回、覇斬!!」


 全力で振り下ろされた刃が絶対防御を突破し、全員の目が見開かれる中、スルトは地面に刺さっていた魔剣を抜き放ち、覇斬を弾き返した。


「うわっ!」


 覇斬を弾かれた衝撃でパルの体が宙を舞い、パルは空中で体勢を整えて着地して追撃に備えるが攻撃は来ず、代わりに言葉が飛んできた。


「――いやはや、ここまでとは恐れ入ったぞ。これならば余が手を出しても問題無かろう」


 その言葉にパルは少しだけ頬を膨らませた。


「むっ、今まで本気じゃなかったの?」

「相手がただの少女では殺しかねないからな」


 スルトの答えに諏訪子が頷き、神奈子が嘆いた。


「うんうん」

「そのただの少女に私たちも混ざっていないのが残念だ」


 片やロリ神で片やBBA神。どちらにしても少女というのには無理があるだろう。


「なら、今度はちゃんと戦ってくれるのかな?」


 パルの問いにスルトはこれまでにない残虐な笑みを浮かべた。


「うむ。良かろう」


 言うと同時にパルの周囲に魔法陣が展開し、小規模な岩が発射される。


「不意打ち!?」

「コラ、スルト!!」


 パルは迎撃しつつ、姑息な手段を取ったスルトに対してレミリアは叫んだが、それはもう戦闘に集中したスルトの耳には届かない。


「光の束縛!」


 パルが迎撃する前に仕掛けた別の魔法陣から光の鎖が伸び、足の止まったパルの身体に巻き付いて行動を封じる。


「しまった!」


 パルは壊そうと全身に力を籠めるが鎖はガシャ、ガシャ、と音を立て、壊れそうもない。光の鎖は神獣や幻獣すら動けなくする鎖。また、妖怪や悪魔であれば壊すことは不可能となる拘束具。今のパルでは壊すことは出来ない。


「さあ、どうする? チャージ……」


 スルトがレーヴァテインを構え、パルに突きつける。その刀身から先端に向かって赤い炎が迸り、青く、そして白く、最後に黒く輝く焔となって先端に集中する。


「あ、まさか――!」

「スルト!」


 最初に神奈子と諏訪子が立ち上がり、叫んだ。


「凄い力……あれ、もう人の次元を超えてる……」


 妖夢が呟き、レミリアが怒声と飛ばした。


「ば、馬鹿!! パルを殺す気か!」

「ダメ! 聞こえてない!」

「なら――」


 早苗の恐怖している悲鳴に咲夜が飛び出そうとして、その腕をレミリアが掴んだ。今は構っている暇では無いと厳しい表情でレミリアに視線を向ける。


「行くな咲夜! 死にたいのか!」

「ッ!?」


 レミリアの怒気と恐怖に歪んだ表情と悲鳴にも似た声を聞き、咲夜は立ち止まる。掴まれた腕は握りつぶされそうなくらいの力が込められていた。


「レミリア様が声を荒げるなんて……」


 早苗がレミリアたちの方を見て、諏訪子と神奈子が神力を高め始める。


「早苗、奇跡準備しておいて!」

「は、はい!」


 諏訪子の有無を言わせない声に早苗は頷き、手を震わせながらも精神を集中し始める。

 幽々子も密かにパルの魂が霧散しないように妖気を集中させ、同時に紫がパルとスルトの合間に向けて指差きを向けてスキマの準備をした。


「くっ……」


 パルは動かない体を置き、正面にある死の焔を睨んで必死に考える。


「食らえ、神滅焔レーヴァ・ブラスト!!」


 スルトが全てを焼き尽くす焔を放ち、全員が僅かに動く中でパルも動いた。

 鎖からは逃れられないが、この一撃を躱すために全身を数値と化して辺りに分散させる。神滅焔レーヴァ・ブラストがパルが居たところを通り過ぎ、外壁にぶつかるということころで紫がスキマを開けて何処かへと飛ばした。


「……ほう」


 スルトは面白げな眼光で元に戻ったパルを見つめた。


「かはっ――あ、危なかった……」


 神滅焔レーヴァ・ブラストとて原理的には数値化することは出来るがあれだけの時間で解析できる代物でも分解できる物でもない。パルに出来たのは無意識領域下で演算出来た所だけ数値を合わせて体を粒子化して逃がしたに過ぎない。

 つまり、五体満足とはいかず全身がボロボロになるほどの傷を負うこととなったが、早苗の奇跡が降り注いで癒えていく。


「な、何が起きたんですか?」


 妖夢の問いに紫が答えた。


「パルが自身の体を粒子化して分散したのよ。でも消耗具合が激しいからそう何度も使える訳ではなさそうね」


 パルの傷が回復したとはいえ、能力による精神的な損耗は計り知れない。失敗すれば死ぬという中で一生を得るという賭け。滅多に遭うことではないが、パルは生き残った。


「はぁ……はぁ……」


 パルは肩で息をし、紫とレミリアがパルに駆け寄った。


「うむ、ここまでとしよう」


 スルトもそれを見て一つ頷き、威圧も邪気も消し、パルを縛っていた光の鎖も消していた。


「ま、まだやれるよ!」


 パルは強がるが誰よりも先にスルトが止めた。


「否、今の其方ではここが限度だ。これ以上は命の削ることになるだろう」


 次いでレミリアも強い口調で制した。


「スルトの言う通りよ、パル。これ以上は許可出来ないわ」


 パルは口惜しそうにしながらも自身の限界を感じ、渋々頷いた。


「……分かりました。スルトさん、ありがとうございました」

「余の方こそ礼を言うぞ。此度は中々楽しめた」


 割と本気でな、とスルトは口の中で含んだ。


「はふぅ――」 


 戦闘が終わった安堵と精神的、肉体的限界を超えたパルは気を失ってスルトの方に倒れる。


「パル!」

「おっと。やはり限界だったか」


 スルトが駆け寄って支え、寝息を立てるパルに微笑む。


「くー」

「むむむ……」


 しかしそれに嫉妬するのが早苗だ。


「そう睨むと可愛い顔が台無しだぞ」


 その対処方法もスルトは知っており、早苗は別の意味で頬を赤くした。


「むぅぅ」

「こ、これが噂に聞く修羅場?」

「さ、さあ?」

「いいや、実際はもっとえげつないよ」

「へ、へぇぇ……」


 霊夢と魔理沙の問いに神奈子が答えつつ、霊夢が咲夜に対して本題を切り出した。寝ているなら猶の事都合が良い。


「終わったならそろそろ用件言っても良いかしら?」

「何?」


 咲夜が振り返り、霊夢はパルを指差した。


「パルを貸して頂戴」

「何故?」

「注釈すると、メンタを陰陽師の修行に出したから人手が居なくて困っているからパルを貸し出してほしいということ、だよな?」

「そういうこと。あ、これメンタから」


 そう言って渡されたのは前払いの報酬の腐本。


「……」


 報酬があると分かればレミリアは別に構わないのだが、咲夜の視線がどこまでも冷徹にレミリアを睨んでいる。


「咲夜、目が怖い」

「私はレミリア様のメイドですのでレミリア様がお決めになってください」

「ねえ、どうしてナイフを手に持っているの?」


 咲夜が手に持っているのは吸血鬼にも効果がある純銀のナイフだ。いざと言う時はこれでレミリアたちを殺害出来るようにと、いつも持ち歩いている。


「どっちなのよ」

「さあ、どちらですか?」

「あれも一つの修羅場ね」


 我ら関係なしと神奈子たちが高みから見物してニヤニヤと笑っている。

 そしてレミリアが出した答えは――。


「か、貸しても良いわ。でもメンタが帰ってきたらパルは返してもらうわ」

「ま、それで良いわ」


 霊夢もそれで妥協し、咲夜は無言で純銀のナイフに水銀を塗りたくりレミリアの頭部に突き刺した。


「痛い痛い痛い痛い!」

「これがヤンデレか」

「はー、交渉成立ー。明日から扱き使ってやるわ」 


 霊夢はやれやれと背伸びし、スルトたちはパルを連れて一足先に紅魔館の居間へと戻り、咲夜は時間を停止して門の前にやってきた。

 先程から尋常ならざる殺気を前提から感じていた美鈴は眠気を吹き飛ばして直立不動で厳粛たる屈強な門番として立って居た。


「……美鈴」

「名前で呼ばれた! で、何でしょうか」

「チェーンソー貸して」

「はい」


 何故、と問うことは自殺行為だと美鈴は知っている。伐採用に置いてある妖怪にも良く効くチェーンソーを咲夜に渡し、刃を回しながら咲夜は前庭に戻って来た。


「あら、レミリア様は?」

「とっくに逃げたぜ」


 咲夜は微笑み(ただし目が笑ってない)、魔理沙はレミリアが逃げた方向を指差した。


「何処に?」

「あっち」


 屋根の上に隠れている小さな吸血鬼を見つけるや咲夜は跳躍し、レミリアは全力で紅魔館の外に逃げ出した。


「人でなしぃぃ!!」

「待ちなさい!!」


 それから夕刻までレミリアは追いかけられ、スルトは再びフランの遊び相手をすることになり……その過程で妖夢や藍とも戦うことになり、美鈴もついでにと手合わせすることになったとか。

 


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