表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
35/119

第三十二話 余は……

グラたん「なんでここにいるのですか?」

???「ククク……第三十二話だ」

 その後、昼食を食べ終わると雨も上がり、家事も急いで行われた。

流石に出来る女性が五人いれば仕事もあっという間に終わり、夕食も凝った物が出せた。

 夕食は洋食にすることに決まり、一番食べる幽々子のために『業務用』と書かれたシチューを妖夢が担当した。

本来であれば包丁を使ってジャガイモやニンジンを切っていくのだがそんなチマチマしたものを作っていたら幽々子に怒られる。やるならば豪快に、自前の牛一頭を丸ごと捌いて骨も溶かして鍋に入れるくらいしないと足りない。

 藍は自前の食材でちらし寿司や稲荷寿司を作り、特に中にいれる米を五目にしたりと色々工夫していた。

 早苗はサラダを作り、パルと咲夜はパンを捏ねて焼き、食卓に上がったのは夜七時を超えたくらいだった。

出来上がった順に紫たちに食べさせて終われば風呂へ直行させる。皿と鍋も洗い終わった後でパルたちはのんびりと夕食を取っていた。

 一日が終わり、就寝する時間に迫るが、パルの提案により咲夜とパルは客室の方へ移動して主のいない至って綺麗な女子会が開かれていた。


「結局、お手伝いして貰っちゃいましたね」

「いえ、此方こそご迷惑をおかけしました」

「それに加えてお泊りまで……」

「わ、私も良いのかなぁ?」

「勿論だよ! レミリア様たちはもう寝ちゃってるから色々出来るね」

「例えば?」

「定番の恋バナとか?」


 パルの提案に全員が押し黙る。その九割は彼氏など考える余裕もない毎日を過ごしているためハードルはかなり高い。そも、彼を連れて来た日には主が食い殺すのではないか、と藍は考える。


「恋……」

「うっ――」

「うーん……」

「それはまた……難易度が高いですね」

「よし、まずは早苗!」


 指名され、しかし図星っぽいような反応をされれば咲夜たちだろうと気付く。


「うえっ!?」

「……うえ?」

「これはまさか……」

「脈ありですか?」

「え、ええ……言わないと駄目ですか?」


 いる、と皆で確信するが無理に聞き出すのは避けるべきだろうと総意し、早苗に告げた。


「あ、無理はしなくて良いからね」

「う……ん。……います」

「どんな人?」


 早苗の脳裏に居るのは黒い着流しに黒の仮面を付けている男性。


「く、黒い髪の人だから日本人……かな? 和服が凄く似合っていて、長身……」

「里の人?」

「ううん。異世界から来た、とは言っていたよ。今は神社で働いているよ」


 神社で働いている――それはつまり、と全員が身を乗り出して早苗に迫った。


「同居!?」

「同居だね」

「お付き合いしているのですか?」


 女子らしく、恋の話題に食いつきは良い。


「う~ん……まだ片思いかなぁ」

「こういう場合はじっくり行きましょう」

「そうだね。特にメンタたちに知られたらロクなことにならないだろうし」


 パルの言葉に、こっち側で良かった、と早苗は心底思う。あの馬鹿共に聞かれた日には号外新聞くらいは出して社会的な抹殺対象になるのは間違いない。

 その点で言えばここにいるメンバーは良心かつ常識と遠慮を知る人物ばかり。


「では次はパルね」

「ふぇ!?」


 話題が一度切られ、次いで咲夜のキラーパスがパルに炸裂した。 

 ワイワイガヤガヤと聞こえる話し声をレミリアたちはそこらかしこから聞き耳立てていた。




 時間は戻って早朝。スキマによって何処かへ飛ばされたメンタたちはとりあえず雨宿り出来そうな場所を探して山脈を彷徨っていた。

 唯一の救いは近くに洞穴があったことだろう。奥も深くないため熊や動物が住んでいる気配もない。別に居た所で彼女たちの胃袋に入るのは決定事項なのだが。


「クッソだるいわ」


 洞窟内部に入った霊夢たちは適当な岩に腰かけ、髪の毛を絞り、服を脱いで水を絞る。


「そもそも情報無しにやらされているに等しいからな」

「幻想郷って思っていたより広いんですね……」

「しかも雨まで降ってくる始末。最悪」

「幸いにも洞窟があって良かったぜ」


 ああ、良かった良かった、と魔理沙が言うと霊夢が半眼で二人を見た。


「さり気にあんたたちが濡れてないのが腹立つわね」

「これぞオレのスペルカード「雨を弾くは神速の刃(ガード・オブ・レイン)」です。ちなみに二人用です」

「使えないわね……」


 そう言いながら巫女服を絞り、傍らで魔理沙が自身の髪の毛を数本抜いて足元に置き、木々代わりにして火をくべた。一見髪の毛程度だとすぐに消えてしまうと思うかもしれないが魔理沙は髪に魔力を注いでいるため火が付いている間は髪の毛の魔力を媒介にして燃やすことが出来る。とはいえ、あまり多用すると剥げるため緊急時以外はしたくない手段だ。

 魔法空間から取り出した箒に巫女服をかけ、霊夢自身は外から見られないように魔理沙たちに肉盾となって貰い火に当たる。

 雨の音が聞こえること数刻。服もある程度乾燥する最中、人の足音が外から聞こえてきた。


「あれ、誰か来るみたいですよ」


 メンタが指差す方向にいるのは道場着に袴を履いている男性だ。頭には上着を被っているが雨水に濡れて水除けにもなっていない。


「はぁはぁ……くそ、今日雨が降るなんて聞いてないぞ……」


 洞窟内に駆け込もうとするのを魔理沙は率先して止めた。


「誰だ!」


 そこで男性もようやく気付いて雨に濡れない辺りまで来て止まった。


「むっ! ……女の子?」


 顔を上げるが、その視線の先にあったのはよく手入れされている赤い髪の毛と不気味に笑っている相貌。


「うは! 見てくださいこの陰陽師みたいなコスプレ! 中々完成度高くて是非とも剥いで獣の餌にしてやりたいですね!」

「こいつが一体何をした?」


 魔理沙の冷静なツッコミに乗じて彼も少し落ち込む。


「出会いがしらに獣の餌にするとか言われたのは初めてだぞ……」

「ハッ! 所詮男なんてガムみたいなものですよ!」

「ガム!?」


 ガム如きと一緒にされるなどと――と、男性は内心で憤るが先んじて魔理沙が問う。


「とりあえずお前は何者だ?」


 その問いに彼は背筋を正し、右手を拳にして腹部に当てて会釈した。明かりを近くで照らしてみるとそれなりに整った容姿に体格。身長も170以上は確実にありそうで、道場着の胸と肩には陰陽師の紋様が入っている。上着の背にも同様の紋様が入っていることからそれなりに位の高い人だろうと魔理沙は推測する。


「俺は和布あかめかなめ、陰陽師だ。菅原道真という奴を追っていたのだが見失い、急に雨が降って来たのでここに立ち寄った。これで良いか? 俺としてはそっちの素性を明かして貰いたい。もし妖怪の類であれば――」


 そう聞かれ、メンタの両目が見開かれる。


「妖怪? 仮にも女の子のオレたちを妖怪扱いですか! ハッ! とんだクズ野郎ですね。消されたくなければとっとと消え失せやがれデス!」


 枢は微妙な表情をしつつ、魔理沙の方を見た。


「こっちはほっといて良いぜ。私は霧雨魔理沙。私たちも紫の頼みで道真とやらを追っていたんだ」


 その『いつもああだから』というような視線に枢は納得し、魔理沙の方が話しやすいと考えた。


「紫様から……ということは君たちが協力者か」

「みたいだな。ああ、それとこっちが霊夢とメンタだ。ただし霊夢は雨に濡れて服を乾かしている最中だから見ないように」


 背後では弾幕を構えている霊夢がおり、その姿を確認するや視線を魔理沙へと戻した。


「了解だ。……ところでその奥にいる男性も君たちの知り合いか?」


 枢の予期していなかった言葉にメンタたちは一斉に洞窟の奥を見た。


「は?」

「え?」

「ふぁ?」

「ふむ、ようやく気付いたか」


 すると洞窟の奥から青白い炎が灯り、魔理沙たちは身構えた。


「なっ――! 一体何時からそこにいた!」

「お前たちが入って来る前からだ。用心して気配は消していたがな」


 ククク、と着流し姿の黒仮面の男性は笑う。


「貴様、その悪しき気配! 菅原道真か!」


 枢も術符を構えて前に出るが、仮面の男性は否定した。


「残念ながら違う。余はスルトという者だ。まあ……悪しき力に否定はしない」

「ならば人々のため、ここで浄化する!」


 仮面の男性、スルトは不敵な笑みを浮かべ、数歩前に出て枢を威圧した。ただそれだけなのに枢も、メンタと魔理沙も動けない。圧倒的な存在感とヒシヒシと感じ取れる危険な気配。

 彼が火元まで近づいた時、霊夢は動いた。


「やれやれ……人を気配で判断するとはまだまだ青いぶっ!?」


 顔を真っ赤にし、遠慮無用の拳をスルトの顔面に叩き込み、枢の方にも拳を入れた。


「何をぶっ!?」


 何故彼女が両方を敵にしかねない行為に及んだのか、魔理沙とメンタは遅まきながらに手を打った。


「あんたたちはこっち向くな!」

「だな」

「そうですね」


 霊夢が下着姿だからだ。



 霊夢の命令によって二人はメンタの手に寄って大人しく簀巻きにされ、洞窟の外に捨てられて雨に打たれていた。


「待遇の改善を要求する」


 と、枢がほざき、


「この不当な行為は断じて許されない」


 と、スルトが嘯いた。


「乙女の肌見といて良くそんな言葉が吐けるわね!」


 まだ少し湿っている巫女服に着替えた霊夢は構わず怒鳴り散らした。


「そうですよ! ご馳走様です!」


 これにはメンタも賛同――いや、美味しそうな表情でガッツポーズを取っていた。


「あんたもしばいた方が良さそうね」


 霊夢の冷たい視線もメンタにとってはご褒美でしかない。魔理沙はそれをスルーしてスルトの方に向き直った。


「で、枢の方は分かったがお前の素性の方がまだ良く分かってないんだが。大人しく吐いてくれると此方としても助かる」


 ふむ、とスルトは迷ってから答えた。


「余は……――ビーターだ」


 この時、メンタたち三人の脳裏に浮かんだのは黒いコートに黒い剣を担いでいる少年。その隣には細剣使いの嫁とNTRを狙うヒロインたちの姿があった。

 それならば、と魔理沙は答えた。


「お前に黒の剣士は似合わないぜ。って何言わんじゃぁ! 真面目に答えろ!」


 ノリ突っ込みを敢行した後でスルトは笑い、真面目に答えた。


「余はここ数年守矢神社で働いている者だ。主に金を生成して生活費を稼いだり農業を嗜んでいる。妖怪の討伐なんかもよくやっているぞ」

「金!?」


 金、ゴールド、マネー。霊夢にとってはとてつもなく聞き逃せない内容だったが魔理沙はスルーして聞き返した。


「守矢で? 初めて聞いたんだが」

「ふむ、里や町では割と知られているんだがな」


 と、スルトが言い、メンタはハッと大事なことに気が付いた。


「ちなみに霊夢さんを何処から見ていたんですか?」


 スルトはメンタたちの背後を指差し、ポケットから小さなブツを取り出した。


「そこの岩陰からじっくりとな。何ならフィルムがあるから見るか?」


 次の瞬間、霊夢は鬼の形相でそのフィルムを掴もうと跳ねる。


「死ねぇ!!」


 が、身長差というのは厄介なものでスルトは高く手を上げ、メンタに向かってフィルムを投げた。


「パス!」

「ナイスです!」

「お前等一瞬で意気投合すんなや」


 スルトからブツを受け取って素早く懐にしまい、魔理沙は呆れつつも続けた。


「それはどうでも良いんだが――」

「良くない!」


 霊夢の抗議が入るが無視して続けた。


「スルトはどうやって縄を解いたんだ?」

「そう言えばそうだな」


 未だ簀巻きにされている枢とは違い、スルトの身は自由だ。霊夢はまさか、とメンタを見るが当人は否定した。


「メンタ……あんたが解いたの?」

「いえ、解いてません。肉が食い込むくらいきつく縛っておいたはずです」

「あの程度ではまだまだだな。どれ、本場の縛りを見せてやろう」


 枢の縄が一瞬緩まり、次いで思いっきり締め上げた。


「ぐぁぁ!!」

「なっ――」


 その鮮やかな手際にメンタは驚愕し、スルトは講習するかのように教えていく。


「縛るのであれば手足に加えて肩を逸らして骨を軋ませるように縛るのがコツだ。それに加えて首にも縄をかけて置けば動く度に自分の首が締まる」


「プロですね」

「プロだからな。あと手足に刺さっていた針だが、これらは人体に最も効果的な点結と呼ばれる箇所に刺すのが効果的だ」


 メンタは拷問から人体についての知識は一般教養程度はあるが実行したことはほとんどない。あっても昆虫や小動物くらいだ。そのため人間に対してのノウハウは実に興味深かった。


「ぐぎゃぁ!?」


 当の枢はたまらず悲鳴を上げた。


「止めてやれ、マジで」


 魔理沙が両者を止め、枢の縄も解いて火の近くへ座らせてはぁ、と一息ついた。肩や手足を回し、真面目な表情で続けた。


「痛たた……さて、本題だ」


 その前に、と霊夢が割った。


「先に謝罪して貰えるかしら」

「まあ、今までの流れを全てなかったことには出来ないからな」


 魔理沙も弁解する気はないらしく、メンタは面白がって言ってみる。


「ちょっとふざけて謝ってみてください」

「誠に申し訳ない」


 枢はそれで良いなら、と霊夢に頭を垂れる。


「二の腕、腰、背中、太ももに贅肉が付いている。運動不足だな」


 しかしスルトは全く逆に面白半分で棘を突いた。


「あっ?」


 霊夢の絶対零度の視線を浴びても笑みを浮かべているのを見て、メンタは同類に近い感覚を味わった。


「真剣に褒めてください」


 しかしこれ以上は霊夢にも悪いと考えた。謝罪を要求しない辺り良い性格をしている。それに乗るスルトも悪い性格をしていると言える。


「中々良い肌と髪をしている。しっかりと手入れしている証拠だな。それに加えて肌には染み一つない。まるで磨かれた宝石のようだ」


 まるで本心から言ったかのような言葉に霊夢はキョトンと目を丸くし、頬を少々赤らめた。


「そ、そんな誉め言葉聞いたって騙されないわよ!」


 今までの殺気はどこへやら。枢とメンタが『はっ』と嘲笑した。


「チョロい」

「チョロいですね」


 スルトは立ち上がり、全員がどうするのか興味深く見ていると霊夢を壁際にまで追い込み、壁に詰めて押した。


「あんまり謙虚になるなよ。その美しさと可愛さを持ち合わせている女性は少ないんだ。自分にもっと自信を持って良い」

「え、ええ……えっと……」


 普段どころか紫にすらそんなことを言われたことのない霊夢は戸惑い、助けを求めて魔理沙たちを見るが三人は視線を逸らし、面白がる。


「ちょ、ちょっとぉ……!」


 霊夢の弱々しい声が聞こえて来た所でメンタが終わりを宣言し、スルトも座っていた場所に戻って腰かけた。 



 一息ついた後、枢は本題を切り出した。


「それじゃ本題だ。敵の名前は菅原道真。顔は良いが性格がクズなためすぐに分かる。それに加えてウチの生徒も誘拐された」


 うわぁ、と霊夢たちが嫌そうな顔をしてメンタは疑問を聞いた。


「生徒?」

「名前はシンという少女で陰陽生だ」


 今度はメンタもうわぁ、と嬉しそうな顔をした。


「何ですかそれ。諸にエロゲー街道まっしぐらなシチュエーション持ちですね」

「で、あんたはそのどちらも追っていると」

「そうだ。奴のことだ、そろそろ近くの里にでも入って豪遊するはずだ」

「ほう。放浪者であるのに豪遊できる金があるのか」

「顔は良いからな。言葉巧みに女性たちを操って貢がせるんだ」


 ケッ、と霊夢がから唾を吐いて捨てた。


「クズね」

「最初からそう言ってるぜ」

「か~ら~の~、最後は襤褸雑巾のように捨ててやる、ですね」

「その通りだ。あいつの手口はいつも通りだからすぐに分かる。雨が止めばすぐにでも近くの里に行ってみるつもりだ」


 外を見れば雨も小雨ほどになってきており、もう少しすれば止むだろうと霊夢は思う。


「なら、私と魔理沙と枢で里の中を捜索。メンタとスルトは外で良いわね」


 現時点では枢もスルトも味方だが、いざという時に裏切られたりしたらたまらない。特にスルトの危険度は先程の邪気からでも充分過ぎるくらいに伝わっていた。仮に、三人でかかろうとも返り討ちにされるのが簡単に浮かぶ。

 メンタが手を上げ、勢いよく抗議した。


「異議あり! こんないたいけな少女をこんな見知らぬ男と一緒にして良いのですか? 否! 危険です! 絶対に襲われます! 山奥とか連れて行かれてエロいことされる未来が簡単に想像できます」


 それを簡単に想像するお前の方が別の意味で危険だ、と霊夢たちは思う。そう言われたスルトは……特に不快な表情をするわけでもなく、大人びた視線でメンタに告げた。


「案ずるな。余は遊びで女性に手を出しはしない」


 かと言ってそれだけで信用するほどメンタは伊達に修羅場をくぐってない。


「根拠は何ですか?」

「それをやると諏訪子と神奈子にメッタ刺しにされる未来が見える」


 はて、と霊夢たちは首を傾げる。


「あの馬鹿神たちに? どうして?」


 スルトはふむ、と何かを察したようで聞き返した。


「あの二人から聞いていないのか?」

「何にも」


 霊夢の率直な返答にスルトは一つ頷いた。


「ふむ……ならば俺から言うのは野暮だろう。メンタはもう分かったみたいだな」


 メンタの視線が厭らしく、口元はへの字に曲げられていた。


「ええこのリア充が。爆ぜて切り落とされてしまえば良いんです。次いでに修羅場になれば良いんです。例えば間違って神奈子さんの着替えを覗いたとか諏訪子さんと一緒にお風呂に入ってしまったとかもしくは紫さんや藍さんと一緒に温泉に入ったとか……いくら何でもそんなハイパーリア充では無いですよね。というかそんなことしていたらいくら顔が良くても死んでいそうですね。でも修羅場になれば良いんです」


 自身の脳裏をよぎった超絶美味しい展開を思ったままを告げるとスルトは不意に晴れ晴れとした外を見上げて呟いた。


「もうなった」


 メンタはスルトの何処か達観した表情と声色から『本当マジだ』と確信した。


「――何かすみません」


 普通はないはずのシチュエーションが当たった時、人は誰も素直に謝る。


「メンタが負けた……だと……」


 魔理沙たちもメンタのあり得なさそうな行動に驚いていたが、雨が完全に上がったのを見て行動を開始した。


「じゃ、決定ね。雨もちょうど上がったみたいだし行くわよ!」

「おう!」


 五人共に外へ飛び出し、霊夢たちは里へ――向かおうとして枢が普通に飛べない人間だということが判明し、魔理沙の箒の端に乗せて里へ向かった。メンタとスルトは見晴らしの良い山頂まで来て、遠くを見渡した。


「ふむ、居ないな」

「開始五秒で挫折しないでください」


 メンタの揶揄い口調にスルトはやはり落ち着いて言葉を返した。


「残念ながら余は広範囲探知が出来るためこういう人探しは得意だ」

「でもどうやって分かるのですか? 熱探知とか言って間違って見逃したら怒られますよ。はっ、もしかしてシバかれたい人ですか? あのクソニートに足蹴にされたいのですか? まあ確かに霊夢さんは見てくれは悪くありませんので分からなくもありませんが……」


 スルトはその先を手で制した。


「余にそんな特殊性癖は無い。ともあれ里に向かうとしよう。奴もそこにいる」

「怒られても庇いませんからね」


 そうしてメンタたちも里へ向かい、霊夢たちと一悶着あってから合流し、スルトに促されるまま里の繁華街付近へと来ていた。

 この里も規模的には町と言って差し支えなく、常駐している陰陽師や僧侶の数も多い。近くには畑や工房があり、子供たちの通う学校もある。


「うわっははは!」


 と、子供たちの教育にひたすら悪そうな声が聞こえてくる。


「道真様ー!」

「道真様ぁ!」

「道真様……」


 その後をついていくのは三人の少女たち。二人は完全に目がイッているが、背後を歩く茶髪ショートヘアの少女は幽霊のような歩き方をしている。首には赤いマフラーをつけており見る人から暑そうだと思わせている。


「あれだ」

「分かりやすっ」

「まさか本当にいるとは……恐れ入りました」

「良い。当然のことだ」


 スルトの証言を一切信じていなかった霊夢たちはそこに探していた奴がいたことに驚き、メンタに至っては尊敬さえしていた。


「よしメンタ、やれ」


 魔理沙によって能力使用命令が出され、メンタはニヤリと笑って両手を前に出した。


「今日も今日とて腐海が絶叫調デース! 能力発動!」


 メンタの両手から不可視ではあるが、あまりよろしくない波動が放出されて少女たちに当たる。


「うへへへ」


 道真はそれに気が付かないまま少女たちに手を伸ばし――。


「きゃっ!」

「な、なにコイツ!」

「えっ?」


 少女たちから張り手と拳骨を顔面に頂いた。


「ぐ、な、なにが……」

「現行犯逮捕ね」


 無様に地面に倒れた道真に弾幕を向け、しかしこの馬鹿は霊夢を見るなり立ち上がって優しく手を取った。


「おおぅ、これはこれは美しいお嬢さん。お茶でもどうですか?」

「黙れこのナンパ野郎!」


 固く握られた下段突きが綺麗に鳩尾にクリティカルヒットした。次いで、骨が数本折れたような音もしていた。

 その頭の中を覗いたメンタは大量の埃でも被ったかのように右手を大きく左右に振るった。


「うわ、コイツ金と酒と女のことしか考えてないですよ」


 ああ、と魔理沙も渋い顔をしてメンタをみた。


「引くわー。お前と同じじゃねえか」

「失敬ですよ。オレは同人誌にじげんとお金とうら若い女の子が大好きなんです!」


 つまり同じじゃねーか、と突っ込みを入れる。

 傍らで枢がマフラーの少女、シンの肩を掴み、心配そうな表情で確認していく。


「シン、大丈夫か?」

「無論」

「変なことされなかったか?」

「無論」


 全て無論と返され、枢も大丈夫そうだと判断して立ち上がった。


「ふむ、こやつが元凶か」


 スルトが見下す先に簀巻きにされた道真が転がっている。


「ぐぬぬ……」

「全く、そんなにもてたいんですかね?」


 傍で魔理沙が宝玉を光らせると能力鑑定の結果が出た。


「能力は精神系か。彼女たちにも精神系能力を使われた跡があるな」


 その女性二人は顔を完全に紅くして腕を組んだ。


「最低!」

「どうしてやろうかしら!」


 彼女たちの怒りは最もだが、メンタは少し離れ、思いっきり走り出した。


「こーすりゃいいんですよ!」


 そして、鋭く踏み込まれた左足に重心を傾け、右足は可能な限りの力を込めて前方に突き出した。その先にあるのは股間――。


「――――ッ!?」


 グチャっという音と『パキューン』という何かが割れるような音が辺りに響いた。

 それを見て女性二人も片足を上げ、踏みつぶすという凶行に及んだ。


「ヘイ! ヘイ! ヘイ! ヘイ!」

「もういいわ」

「なんかスッキリしたわ」


 女性二人は背伸びをしながら去っていき、白目を剥いて泡噴いている道真を憐れに思いつつ霊夢は紫を呼んだ。


「紫ー」


 呼ぶと紫がスキマの中から出てきた。


「はいはい紫ちゃんです」


 そのあんまりな登場の仕方にメンタたちが冷ややかな視線を投げかけた。


「自分が年増だってこと自覚ありますか?」

「言ってやるな」


 魔理沙がメンタを制し、その合間に紫は道真を捕獲してスキマの中に入れた。


「ハイ捕獲~。じゃ、お疲れ様~」

「一応そいつは精神系能力者だから注意してね」

「はいはい」


 適当に手を振り、紫が去っていく。

 その姿が見えなくなってから枢は霊夢たちの前に立って頭を下げた。


「恩にきる」

「感謝する」


 シンも続いて会釈し、霊夢は笑顔で両手を差し出した。


「そう思うならお賽銭でも入れに来て」

「いずれ」


 枢の簡単な回答を聞いて霊夢は微妙な顔をした。枢は特に思う事なく場所を聞いた。


「場所は何処だ?」

「博麗神社よ。メンタのおかげで通行路も出来てるから行き来しやすいわよ」

「了解した」

「じゃ、行こう。枢」


 今すぐに、とシンが言い、その肩を掴んだ。


「行かせないぞ。俺たちも帰って勉強だ」

「うげぇ……」


 余程嫌なのかシンが逃げようともがく。それを見た霊夢がメンタの方を見つつ問う。


「あんたも行って来たら?」

「オレですか? というか何故ですか?」


 霊夢が自らの使いを手放すということもさながら、メンタは送り出す理由の方が知りたかった。霊夢は腕を組んで呆れつつ答える。


「パルに瞬殺されたからよ。枢とシンの服に描かれている紋様は陰陽道の道場。確か博麗神社からもそう遠くなかったから通えるわ」


 メンタも思う所があったらしく頬を掻きつつ答える。


「陰陽道ですか……面白そうではありますけど、そうすると巫女仕事とか家事とかどうするんですか? 霊夢さんがやってくれるんですか?」

「それは大丈夫よ。あんたが同時進行で操って掃除してくれれば良いわ」


 霊夢の無茶振りに、いやいや、と首を横に振った。


「あのですね、オレの能力は燃費こそ良いですが使役系能力者ほどでは無いんですよ。範囲も博麗神社の敷地ギリギリが限界です」


 霊夢は一つ唸ってからメンタに向き直る。


「ん~、まあ何とかなるわ。当てもあるしね。住み込みでも良いわ」


 それでも行かせるというからには霊夢なりに目的があるのだろうとメンタは思うが、意外の方が強かった。


「良いんですか?」

「枢、頼める?」


 枢の方を向くと、すぐに頷いた。


「陰陽師になるにも適性があるから俺が出来るのは推薦書を書くまでだ」

「枢はそれなりに偉い人なのか?」

「枢は師範。騎士」

「騎士ですか? 陰陽師なのに?」


 そこは色々と事情があるらしく、枢は答えなかった。メンタも察して頷いた。


「現代の陰陽道では紙札と木札だけでなく体術や剣術も教えているんだ。どうする?」

「一緒に学ぶ?」

「なるほど。お札で一晩を買うアレですね。体術とか剣術とか言っていますが良いですよ、オレはちゃんと分かっていますよ。遠慮しておきます」

「ちがうわ!!」


 メンタも分かって言っているため、笑みを浮かべてからお辞儀した。


「では、改めて。お言葉に甘えますね。お願います。ってかお金はどうしましょうか。オレは一銭もありません」


 そういうとスルトが前に出た。


「これも何かの縁、余が出そう」


 メンタたちが少し黙り、怪訝そうな表情をした。


「スルトさんは会ってすぐの人にお金渡すんですか?」

「否、これは博麗神社への貸しだ。特に神奈子と諏訪子が泣いて喜ぶだろう」


 スルトの予測に霊夢も明確にそれを幻視してしまった。


「否定できないわね……。ちなみにいくら?」


 聞くと枢は懐からそろばんを出して金額を弾いた。


「入学費、試験費、学費、保険、その他諸々合わせて年間二千五百万円ほどだ」

「高ッ!? え、何それ! いくらなんでもぼったくり過ぎでしょ! 二千万円って私を一生養える額よ!」


 今度は魔理沙が苦笑いした。


「安い女だな……」


 傍らでスルトは懐から小切手を取り出して金額を書いて枢に渡した。


「ふむ、今は手持ちがないためこれで良いか?」

「小切手でも大丈夫だ。……これ、正気か? 本当にあるのか?」


 そこに書いてあるのは1と0が八個の金額だ。

 事がことのため枢は疑わしそうに見つめ、スルトは自信たっぷりに押し付けた。


「何か間違いでもあれば守矢神社に来ると良い。追加分を払おう」

「俺としては助かるが……あんた一体何者だ?」


 それを待っていたとばかりにスルトは黒い外套をはためかせて告げた。


「家事と料理が趣味な居候だ」


 情けない、要はニートか。と魔理沙は思いつつも小切手の方を覗いた。


「何々?」

「どれど――……」

「え、何ですか? どうしたんですか? って、憶!? マジですか!?」


 しかしただの居候がこんな金額を出せるわけもない。


「枢が疑問視したのも頷けるな。こんな額をぽんっと出せる人間なんてそうはいないぜ」


 そうであれば考えられるのは超が付くお金持ち。毎日鮪を吊って帰って来る人か、石油王か、何処かの国の王様か、くらいだろう。


「ねえスルトさん、私も養ってくれない?」


 霊夢は全力で媚びた。外聞などお金の前では完全に無意味と言わんばかりに媚びた。


「お前に恥という文字はないのか」


 流石に見苦しいため魔理沙が霊夢の肩を掴んで引き離し、スルトは腕を組んで頷いた。


「構わんぞ」

「即答!? って、待て霊夢! このままだと博麗神社が守矢に乗っ取られるぞ!」


 魔理沙の最もな意見にスルトは笑みながら舌打ちした。


「ちっ」

「お主も中々悪い人ですね」

「性分でな」


 ククク、とスルトは悪い笑みで笑い、メンタは確信した。この人なら間違いなくやってくれます、と。

 そのメンタの視線に気づいたスルトは懐から名刺を取り出して渡し、メンタはグッと拳を固めて握手した。

 傍では霊夢が暴言を吐き、魔理沙が突っ込みを入れていた。


「良いじゃないもう博麗神社なんて」

「オォイ!!」

「冗談よ。養ってほしいのは本当だけど乗っ取られるのはちょっと困るわ」


 そうだろうとスルトも思っており、無理強いはしない。


「致し方ないな」


 会話が一段落付いたのを見越して枢が割って入った。


「そろそろ出発したいのだが……」


 メンタも気付いてシンの傍に駆け寄った。


「そうでした。それじゃ霊夢さん、行ってきます」

「ついでに陰陽を乗っ取って来ても良いわよ」

「それは困る。私が継ぐから」


 色々と危うくはあるが、枢は飲み込んで踵を返した。


「――……では行くとしよう」

「今すぐにですか?」

「何か準備がいるのか?」

「いえ、大丈夫……ですよね?」


 メンタは一旦霊夢の方を向いて聞くが、特にないと霊夢も思い手を振った。


「大丈夫よ。行ってら」



 メンタたちを見送り、その後で魔理沙は霊夢に聞いた。


「にしてもお前が許可出すなんて珍しいな」

「まあね。それに少し興味もあったのよね」

「陰陽道にか?」

「ううん、姉の方に」


 そう言って向いた方向は紅魔館のある方角だ。


「……おいまさか」

「妹のためと言えばあの娘は断れないわよ。くふふ……」


 スルトも興味を持ち、口元に手を置いた。


「ふむ、アレの姉か……」

「ロクでもないのを想像しているのならそれは間違いよ」

「パルはこの変人の中では常識人だからな」


 二人の言葉により強い興味を抱き、スルトも付いていくことを決めた。


「ほう。では余もついていくとしよう」


 三人は飛翔し、紅魔館へと飛んで行く。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ