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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
34/119

第X話 紅魔のバレンタイン

グラたん「バレンタインです!」


 冬もそろそろ終わろうかという二月十四日。

 メンタは珍しく博麗神社の巫女仕事を休んで永遠亭に来ていた。今日は紅魔館でレミリア主催のチョコレート試作会があり、メンタもてゐも主に食べる専門で参加しようと試みていた。

 そんな二人とは別に永琳や輝夜はお菓子作りの方に興味があり、今は出かける準備中のためメンタたちは外で待っていた。


「てゐ、地球にはバレンタインデーの時に必ず流れる某有名ソングがあるんです」

「へー、どんな?」 


 メンタは数年前に参加した『あのイベント』を思い出して右手を高く掲げ、叫んだ。


「チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い! チョッコレート、チョッコレート。チョコレートがほ、し、い!」 

「止めろ! 止めてくれ、メンタ! 虚しい!」 


 あまりにも切実かつ非リアを強調する歌詞を聞き、てゐは見るも耐えなくなってメンタを押さえた。

 少しして興奮も収まり、メンタは血の涙を拭いて階段に座った。


「そういや今日のチョコパーティー……というか試作会は結構な人数が来るんだろ?」


 てゐに問われ、メンタはポーチから一枚のプリントを取り出して見せた。

 プリントには手作り感満載のチョコを作っている女子とチョコレートの姿が書かれており、チョコレート試作費1000円と書かれている。その周囲にはレミリアが自身満々に書いた動物ばけものの絵が描かれており、作・パル。絵・咲夜&レミリアと書かれている。どちらが書いたのかは見れば分かりそうなものだ。


「はい。元々はチョコレートを作れない人たちのために開かれる料理教室みたいなものだったらしいのですが、年々材料が余るため今年は身近な人たちを呼んで夜にホームパーティーしましょうということみたいです」


 バレンタインの試作会は紅魔館の臨時収入の一つであり、毎年五十人以上は集まるイベントでもある。また、彼氏彼女や家族で参加することもあるため規模は百人を超える。

 今年は講師役の咲夜だけでなく実質無料で働けるサポート役のパルと試作費と引き換えに助力を買えた早苗、妖夢、イナバがいるため労力は段違いと言っても良い。藍は橙と共に参加し、可能な限り周りを見てくれるらしい。


「へー……メンタもサポートに回れば良かったのに」


 そうすれあパルと一緒にいられる時間も多いだろうとてゐは考えたのだが、メンタは人差し指を立てて否定した。


「ちっちっち、甘いですよ。それでは妨害が出来ないんですよ」

「……妨害?」


 メンタは勢いよく立ち上がり、拳を固めた。


「イエス! 手作りチョコレート、アイスボックスクッキー、トリュフ等々、その気になればオレ一人でも作れますがそれは平行作業で作れます! それよりも重要なのは如何にしてパル姉たちの監視を掻い潜り、幸せそうなリア充共を不幸せに出来るかが大事なのです!」

「――ッ! そうか、そういうことか! 幻想郷にも『リア充爆発しろ』って言葉がある。文字通り爆発させれば良いんだな!」

「物理的にではなく精神的に爆発させます! オレたちはそれが出来るはずです!」


 イエス! と馬鹿二人はハイタッチを躱して調理場に急ぎ、塩、片栗粉、薄力粉、強力粉、ナツメグ、粉状サプリメント、パッピーホワイトパウダー、粉状八意製薬品をポーチに詰め込み玄関に戻って来ると準備を終えた輝夜たちが待っていた。


「てゐ、遅いですよ」

「早く行きましょう」


 永琳も輝夜もいつもの服装ではなく冬用のコートを羽織り、動きやすい半袖と長いスカート姿だ。試作会は紅魔館の野外でするが、ある程度はパルが気温調節をするのを分かっているため半袖でも良いのだ。


「くっ!?」


 てゐたちは反論したいのを飲み込み、首肯した。





「さあ、今日は忙しくなるわ!」


 紅魔館の前庭ではレミリアが楽しそうに試作会の準備を手伝い、パルと咲夜は手分けして夜のパーティー準備と昼間の試作会の準備を整えていた。


「次はこの段ボールお願い!」

「はい!」


 手伝いに来ている早苗はパルの指示を受け、前庭に食材や段ボールを運び、親衛隊も陰ながら応援している。


「せっせ、せっせ」

「お、重い……」


 イナバと妖夢は庭を整えたり荷出しを手伝い、美鈴は門番をしない代わりに調理台や大量の材料を運ばされている。


「それ、もうちょっとこっちよ」

「はーい!」


 前庭で調理するためパチュリーは周囲の風除けの魔法や火災を発生させないために湿度を調節する魔法陣をいくつも展開し、フランも魔力を使って手伝っている。 

 荷物整理が終わればパルと小悪魔たちは受付の方を担当し、試作に来てくれた人たちに愛想を振りまいていた。


「受付と集金は此方です!」


 紅魔館の門前は長蛇の列になり、危険そうな人物は親衛隊が集金し、そっと引き抜いて何処かに売られて行く。 


「パールー姉ー!」


 と、そこへ聞き覚えのある声と赤い頭が見え、パルも手を振った。


「いらっしゃい、メンタ! 永琳さんたちも待ってたよ!」

「今日はよろしくお願いします」


 永琳に釣られて輝夜もお辞儀し、パルも倣って返す。

 番号の札を渡し、小悪魔に移動をお願いしようとしてパルはメンタたちを見た。


「あっ、メンタ、てゐ」

「何でしょうか?」

「何だ?」


 二人ともにパルを見上げ、その隙にパルは二人のてんこ盛りになったポーチを取り上げた。


「こういう余計な調味料はいらないよ?」

「返してくださーい!」

「非リアの武装がぁ!」


 パルの両手に手を伸ばしては跳ね、やがて二人とも永琳に頭を捕まれて引き摺られて行く。

 予定していた人数も集まり、パルは小悪魔の一人に後を任せてサポートに入る。咲夜たちも準備を終え、イベント用のハート形の刺繍が入った咲夜特製のエプロンを着用し、適当に散っていく。

 今回の試作で集まったのは三百人くらいで、材料も少し余分だったかしら、と咲夜は思いつつマイクとスピーカーを設置し、電極を繋いでいく。

 三階テラスではレミリアが同様に水色チュニックの上にハート形エプロンを着ており、威厳も無いのに腰に手を当てて演説を始めた。


「よくぞ我が紅魔館に来た。毎年恒例ながら今年も美味いチョコレートを作るが良いわ!」


 可愛い、微笑ましい、と小さな騒めきがあるが三階にいるレミリアの耳にまでは届かない。世間的にレミリアは紅魔館の主として認識されているが容姿も身長も幼いためエプロンを見つけると途端に子供っぽくなってしまう。

 咲夜に司会を代わり、そのレミリアは一番前の台所に立ってフランと一緒にチョコレートを作成する予定だ。


「メイドの十六夜咲夜です。今日はお集まりいただきありがとうございます。早速ですがチョコレート制作を始めていきましょう。お手元にレシピと材料はありますか?」


 一応は聞くが事前に配布したのは妖夢たちのため大丈夫だろうと思っている。

 案の定問題は無く、咲夜は一度頷いて進めた。


「では、始めます。分からないことがあれば周囲にいる緑の腕章をしたスタッフさんたちから聞いてください」    


 パル、早苗、妖夢、イナバの四人が手を上げ、手伝いの小悪魔たち数人も手を上げた。

 メンタたちの方は各自ではなく五人分を一つで作る予定のため一つのシンク台に固まっている。


「今回作るのはバレンタインにぴったりなチョコレートケーキです」


 用意してある材料は薄力粉30g、コーンスターチ23g、ココアパウダー15g、卵3個、グラニュー糖67g、牛乳15g、バター15g。形はロールケーキ型で生地はココア味となっている。加えて高級感を出すために薄切りにしておいたオレンジがおいてある。


「まずは天板にクッキングシートを敷いてください」

「クッキングシート?」

「これですよ」


 調理などしたこともない輝夜がいきなり固まり、それっぽいという理由で永琳が天板に薄力粉をぶちまけかける。


「ぎゃああ!? 待ってください!」 


 ケーキを作れるメンタが慌てて止め、永琳の手を留める。


「クッキングシートはこれです! というか使ったことありますよね!?」

「ふふっ、冗談です」


 メンタは永琳が料理出来ることも知っているし、永遠亭で宿泊する時は台所に永琳が立っているのを見ているためボケるとは思っていなかった。


「ほっ」


 メンタが一息付き、鉄板にクッキングシートを広げるのを見て次の準備をし始める。


「次は薄力粉、コーンスターチ、ココアパウダーを網ボウルに入れて混ぜ合わせ、振るってください」


 咲夜の指示に従い、下準備を終えていたメンタが輝夜にボウルを渡し、永琳が見張る中でクッキングシートの上に粉を振るい落としていく。

 その間にてゐは動き、少し離れた所にいるカップルのボウルに適当に奪って来た卵を割って入れようとする。


「へへへ、食らえ――……手が動かない……だとぅ……」


 自身を握っている手の主を見上げ、そこにはイナバがいた。イナバは笑んだまま無言で縄を取り出し、てゐを縛り上げて担ぎ上げ、紅魔館の三階テラスに跳躍して逆さづりにし、その首に木札をかけた。


「てゐ……」


 メンタはそんな親友を見上げ、泣いた。

 木札には『私は馬鹿です』と書かれていた。

 咲夜は呆れつつもマイクをヘッドマイクに切り替え、出来ていない人たちのフォローに回っていく。


「次にオーブンを180度に余熱してください。オレンジを入れる人は水気をしっかりとキッチンペーパーで抑えてから入れてください」


 メンタは手順を分かっているため既にオーブンを回しており、オレンジの水気も抑えてある。永琳はボウルを泡だて器を用意し、輝夜に卵を割らせて湯せんにかけ、グラニュー糖を少しずつ加えながら混ぜてさせていく。


「これって卵黄と白身は一緒で良いの?」

「はい、混ぜてください」


 輝夜は卵かけごはんもゆで卵も白身ごと食べるため一応気にしたのだが永琳が頷くのを見て安心して泡だて器で混ぜ始めた。 

 シャカシャカと子気味良い混ぜる音が鳴り、ある程度まで進めると永琳が湯せんを外し、耐熱容器を用意した。

 周りも同じくらいのスピードで進行しているため咲夜が次の説明を始めた。


「耐熱容器を用意しましたら刻んだバターと牛乳を入れ、サランラップを張ってレンジに入れてください。温度は60度くらいに設定し、取り出す時は人肌では火傷をするため必ずミトンを着用してください」


 容器をレンジに入れてしばらく待ち、その間にメンタはハンドミキサーを用意して輝夜の泡立てでは甘いため素早くかき混ぜて人肌の温度にしてみせる。


「この合間に先程混ぜたボウルをハンドミキサーで混ぜていきます。この時、ボウルをしっかりと押さえないと中身が飛び散ります」


 メンタは永琳たちの反対側に周り両手でボウルを押さえ、輝夜がハンドミキサーを持ち、永琳がその腕を支えてスイッチを入れる。


「わっ……!」


 轟音が鳴り、輝夜は驚いて手を離しかける。


「輝夜、支えてますのでしっかり持ってください」

「は、はい」


 時計回りにハンドミキサーを回して行き、乳白色になるまでかき混ぜていく。混ぜ終わる前には速度を落として回し、気泡を細かくすると良い。

 出来上がるとレンジもチンと音を鳴らし、ハンドミキサーのスイッチを切ってシンクに置く。


「容器のサランラップは外さないでください」


 咲夜の忠告を守り、輝夜はミトンを手に嵌めて容器を取り出し、これもシンクに置く。


「出来上がったらボウルの中に薄力粉とココアパウダーを振るって入れ、ベラで切りつつ底から混ぜください」


 咲夜がゴムベラを手に持ち、それを見て輝夜もゴムベラを持ち、メンタと永琳で素早く粉を振るって落とし入れる。振るい終わったボウルの中身を混ぜていく。


「ここで先程の容器の中身を入れて混ぜてください」


 輝夜が混ぜ、邪魔にならないようにメンタが手早く中身を注ぎ込む。


「生地を掬い、落とした時に粉気が無くなっていれば大丈夫です。必要以上に混ぜると固くなります」


 咲夜が説明し、ここで何組かがトラブルを起こしてはパルたちが駆けつけて何とか処理している。


「どう?」

「ちゃんと出来ていますよ」

「よし」


 ここは永琳が確認し、出来上がっているのを見て輝夜はベラを置いた。


「混ぜ終わりましたら天板に生地を流し込み、ベラで表面を平らにならしましょう。それが出来たら天板を軽く持ち上げて二回ほど落とし、気泡を少なくしてください。出来たらオーブンで15分ほど焼きます」

「二階から落とせば良いのね!」

「あっ、ちがっ、ま――!?」


 見ればフランが二階くらいの位置まで天板を持ち上げ、落としていた。咲夜も能力を発動して生地が地面に落ちる前に何とか別の天板に乗せ、姉妹喧嘩が勃発した。

 この合間にパルと早苗は事前に作っておいたチョコレートソースを冷蔵庫から取り出して各所に配布していき、粉砂糖も配っていく。

 十五分が過ぎた頃にレンジが終わり、テーブルを用意し終えた咲夜がヘッドマイクをオンにした。


「焼き終わったらスタッフさんが取り出して行きますので冷えているチョコレートソースを加え、大冷蔵庫の方へお持ちください」


 パルたちが一斉に動き、手早くシンク台を回ってケーキを引き出していく。


「こっちは大丈夫ですよ~、というかオレも手伝いますね!」

「助力します!」


 自分の所を終えたメンタと藍も加わり、作業はあっという間に終わっていく。

 チョコレートケーキを大冷蔵庫に持って行き、奥から詰めていく。


「あたいの力、思い知れぇ!」


 中には簀巻きにされて厳重管理されているチルノがいる。外にまで冷気が伝わるほどの勢いでケーキを冷やしていき、数分もすれば冷たくなったケーキが出来上がっている。

 それを取り出して活躍したチルノもケーキ一つと共に解放して席に座らせる。

 三階から逆さ吊りにされていたてゐも解放され、出来上がったケーキを渡される。


「では、実際に食べて見ましょう」


 咲夜もヘッドマイクを外してレミリアとフランを席に座らせ、ケーキと紅茶を置く。メンタたちにも紅茶が注がれて砂糖とミルクはお好みで入れていく。

 フォークを入れて一口サイズに切り分けて、いざ食してみる。


「甘っ!」

「甘いですね!」

「そうですね!」

「甘ぇ、甘すぎるぜぇぇ!!」


 久しぶりにチョコレートケーキを食べた輝夜と永琳はチョコレートの香りと甘さに舌鼓を打ち、メンタたちも満足そうに頷いた。ただしてゐだけはゲス顔で別の何かを食しているらしく後に行儀が悪いと永琳から拳を貰っていた。

 一方でレミリアは咲夜とパルのおかげで舌が結構肥えているため少々首を傾げた。


「こんなものかしら?」


 そんな姉を見てフランは本心から首肯した。


「美味しいのに? 要らないなら食べちゃうよ」


 自分の分を食べ終わり、もっと食べたいとばかりに冗談でレミリアの分に手を伸ばす。


「半分ならね」


 レミリアが自身の分を半分に分け、フランの口に向ける。


「良いの?」

「食べたいんでしょう。良いわよ」

「わーい! ありがと!」


 一つ断りを入れるとフランは喜んで半分を食べ、満足そうに紅茶を飲み干す。レミリアも微笑し、空になっている紅茶カップを手に取った。


「あら……」


 中身が無いことに気が付き、カップを一旦ソーサーに置くと今度はフランが目ざとく気付いてティーポットを持ち上げた。 


「お返し!」


 咲夜よりは下手だが、フランに何かをして貰うということがあまり無いためレミリアは驚きつつもソーサーを前に出し、注いで貰う。


「ありがとう、フラン」

「えへへ~」


 そんな仲の良い姉妹を見ているのは前庭のテーブルの一角で試作を食べている咲夜たちだ。談笑しつつ食べているためケーキも紅茶もまだ少し残っている。


「随分仲良くなりましたね」


 妖夢が告げると咲夜は嬉しそうに頷いた。


「ええ、本当にそうね」

「咲夜が頑張ったからだね」

「うんうん」


 パルの言葉に早苗たちも賛同し、咲夜は少し照れる。それというのも『フランと仲良くしたい』とレミリアに前々から頼まれており、こうして機会があるごとに二人を隣り合わせにしたりそこはかとなく助言したりしている。

 それは咲夜だけでなくパルたちも協力しており、下準備を手伝って貰ったり根回しを手伝って貰ったりしている。

 最後のケーキを食べ終わり、紅茶も飲み干すと咲夜は立ち上がった。


「さて、そろそろ片付けを始めましょうか」  

「はい!」


 周りも各自片付けを始めており咲夜はレミリアたちを皿を取りに向かい、イナバと妖夢は機材の片付けに向かった。

 パルと早苗は食器の片付けと持ち帰り用の包装をして、メンタとてゐも永琳たちに片付けを押し付けられている。

 ある程度の片付けが終わるとレミリアがテラスに現れ、マイクを手に締めくくる。


「皆さん、今日は――」


 無難な終わりを見せ、町人や里人たちが包装したお土産を片手に帰宅していく。

 その合間に機材も全て綺麗に洗い終わり、ゴミの収拾も終え、知り合いばかりが紅魔館には残った。

 だが紅魔館はここで終わらない。この後は二次会が待っており、ただ飯を狙った霊夢や幽々子たちが一斉に押し寄せてくる。そのため咲夜と早苗は厨房に引き籠って大量のチョコレートを溶かして夕食を作っており、機材の運搬はパルの指示で行われていた。


「頑張って、メンタ」

「ぜぇぜぇ……」

「美味い話には裏があるってこういうことを言うのかなぁ……」


 パルは能力を使って機材を浮遊させて運搬し、メンタとてゐも一人一個ずつ頑張って何往復もしている。体力の有り余っている美鈴は特に重労働させられている。 





 そうして時刻はあっという間に夕方になり、このタイミングを狙ったかのように紫が腹ペコたちをスキマで連れて来た。


「食べに来てやったわよ」

「ご飯~」


 そんな霊夢たちを待っていたのはチョコレートのひたすら甘い香りだった。

 冥界では『暴食』で通っている幽々子もチョコレートだけの料理は食べた事が無い。いくらなんでもそんなに食べたら胸灼けはするだろう。

 否、それ以上に恐ろしいのは会場に置かれている巨大なタワーケーキだ。土台にはビスケット生地を使って固め、十段重ねになっているケーキの合間にはチョコチップや苺、バナナ、オレンジなどが薄切りされている。頂上にはレミリアを模したチョコレートが乗っている。 

 周囲のテーブルにはチョコレートフォンデュに始まり、ホワイトチョコレートのシチュー、チョコレートカレー、チョコレートパン等々入るのを躊躇うくらいには甘い匂いがしていた。


「いらっしゃい、よく来たわね」

「いらっしゃ~い」


 迎えてくれたのは紅魔館の主レミリア。その顔は地獄に引きずり込もうとする魂胆が見て取れ、背後にはフランと美鈴が立っていた。


「待ってましたよ。霊夢さん」

「この量は流石に食いきれないからな、助かったぜ!」


 レミリアの背後にはメンタとてゐが何の邪気もない清々しい笑みを浮かべて手招きしている。


「紫――!」


 霊夢は素早く背後にいるはずの紫にスキマを発動させようと振り返り――紫は藍と橙の手によって羽交い締めにされていた。


「ぐっ――」

「紫様、逃げられると思わないでくださいね」


 ならば、と紫はスキマを発動させて援軍を呼び出した。


「おわっ!?」

「何なのだ!?」


 今日は一日中ゲーム三昧していたはずの神奈子と諏訪子がスキマから落とされ、紫自身は満足気に眼を閉じた。

 霊夢たちは逃げられないことを悟り、なれば残るは意地でも食らいつく勇気と努力だ。今までとてそうして強敵と戦ってきたのだから。

 加えて今日は何人気絶しようが代わりはいくらでもいる。自分に出来ることをするのが霊夢であり、無理を押しとおすのが博麗の巫女である。


「行くわよっ」


 その一歩は悲壮に満ちていた。

 今回は人数も多いため立食形式になっており、休憩できるように椅子が点在している。レミリアとフラン、パチュリーは椅子に座らされて咲夜の手によって給仕される予定だ。


「お待たせ~! お風呂と着替えの準備も出来たよ!」


 チョコレート料理を食べるとどうしても汚れるためパルは事前に服と風呂を沸かし、極力食べ続けられるようにするため紅茶やクラッカーも用意している。 


「お鍋の用意も出来ましたよ」

「幽々子様がたくさん食べると思いまして闇鍋風味です!」


 闇鍋。それはある種の悪ふざけの類であり、今回はスープがチョコレートで使う具材もチョコレートと合わせて食べられるものが多数用意されている。

 流石に幽々子も甘い物ばかり食べるのには抵抗がある。


「あ、あのね、妖夢。私も限度ってものが――」  


 そこで幽々子は気付く。妖夢を見てみるとその手は震えており、笑顔の奥で助けを求めているのが見えた。

 妖夢の主人として、助けを求められていれば助けるのが幽々子だ。


「あるのよ?」


 しかし例外はつきものだ。


「皆さん揃ったようですし、そろそろパーティーを始めましょうか」


 妖夢たちの背後から今回の元凶、咲夜が姿を現して鬼も逃げ出す宴が始まろうとしていた。

 そも、今日の夕食担当は咲夜であり、パルと早苗は甘すぎる香りに抵抗しつつも作っていたため事前に知っていたが妖夢とイナバは夕食に関しては何も知らなかったのだ。

 そして咲夜が常人の域を超えた甘党であることも――。

 人は、最初は甘さを美味しいと感じるように出来ている。中には甘いものが嫌いという人もいるがここにいるメンバーは甘さが好きな人たちだ。だが目下処理しないと危険なタワーが目の前にあり、汁物の危険性を霊夢たちは良く知っていた。


「総員、注目」


 霊夢を筆頭として幽々子、妖夢、メンタ、てゐ、紫の六人は作戦会議を行っていた。


「今回の敵はかつてないほど強敵よ。全員腹を括りなさい」

「おう」

「そうですね」


 全員が頷くのを見て霊夢も頷き、闇鍋、シチュー、カレーを指差した。


「まずは汁物を片付けるわよ。他は明日に持ち越せるにしても鍋は厳しいわ。量的に見て各3リットルはあるわね。幽々子と妖夢は鍋、メンタとてゐはカレー、私と紫でシチューを最低でも八割は削るわよ。その後、タワーを攻略するわ」

「……厳しいですね」

「圧倒的な数の暴力って奴だな」

「食事って……人を殺せるんですね」


 各自が喉を鳴らして皿に盛りつけていき、戦いは始まった。

 一方で早苗たちは周囲の皿を手分けして食していた。


「ふ、太る……」

「甘いのだぁ……」


 神々の胃袋をもってしても耐えることは出来ず、諏訪子たちは早くもダウンしようとしていた。


「う……ん……」

「早苗、大丈夫?」 


 早苗とパルも少量ずつ取り分けて食べているのだが勢いが良いのは序盤だけで、お腹が膨れるにつれて食べる速度も遅くなってきていた。


「美味しい~」


 咲夜は、レミリアたちを既にダウンさせたためチョコレート料理を片っ端から食べ進めていた。






 結局タワーケーキは四割程度しか無くならず明日に持ち越しになり、しかし霊夢たちの努力によってカレー等々は消えていた。


「オレ……もう一生分のチョコレート食べました……」

「私もだ……」


 お風呂を上がったメンタたちは紅魔館の居間で口直しの紅茶を飲み、全然甘さが消えない口内に辟易していた。   

 再び紅茶カップを持ち上げると扉が開き、お風呂上りで少し顔を赤くしたパルたちが戻って来た。


「メンタ~」

「はい、なんでしょうか。パル姉――……」  


 その手に抱えていたのは結構な大きさを誇るハート形のケースに入ったチョコレートだ。 


「……まさかですよね?」

「あれ? 要らなかった?」

「いえ、そうじゃなくて……いや、オレも用意してはいたんですけれど……」 


 さっきのチョコレート料理を食べた後ではいくら姉の作ったチョコレートとて食べられない。


「うん、ボクもちょっと厳しいんだけどやっぱり渡して置きたくってさ。バレンタインチョコだよ、メンタ」

「それじゃあ明日食べますね。お返しです、パル姉」


 お互いにチョコを渡し、二人ともに満足そうに笑みを浮かべていた。

 受け取ったチョコレートは冷蔵庫に保存し、メンタたちは口の中の甘さを忘れるためにも夜が更けるほど騒ぎ、甘すぎた一日が過ぎていく。

 

 余談だが次の日もチョコレートは残っており、援軍としてスキマ召喚された魔理沙たちも数日は胸灼けが止まらなかった。

 量が多すぎるためレミリアはチョコレートタワーケーキの一段を霖之助に与え、霖之助は泣いて喜ぶ代わりにその胃袋が破裂しかけるほど食べることになる。

 そして数日間は紅魔館からチョコレートの香りが消えなかったらしい。


※チョコレートは適切な量で食べましょう。食べ物で遊ばないでください。

メンタ「食べ物で遊ぶのはダメですよ?」

グラたん「はい……」

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