第二話 竹林に出会いを求めるのは・・・
グラたん「不定期と言いつつも第二話目です!」
黄色の四本腕の化け物に掴まってしまったメンタは黒い穴に入ると気絶してしまい、気付けばそこは青い空と白い雲の真っ只中。
「うわあ!」
自由落下していき、着地したのは柔らかい草の生えた森の中だった。
幸いにも木々のしなやか草や枝をバキバキに叩き折りながら落下したため、背中が痛い以外に目立った外傷は無かった。
「いてて……」
腰の辺りをさすりながらメンタは視線を上げていく。
「何処ですか、ここは?」
チュンチュンと雀の鳴く声が聞こえ、涼しい風が吹いている。
「竹が生えてますし、舞台的に中国か日本とかですかね」
周りには竹の他にも筍、春菊、菘、蘿蔔、御形、それから松や紅葉の木もあった。
今はどれも緑の葉をつけていることから時期は春過ぎくらいを指していたが、メンタがそれに気付くことは無かった。
メンタは立ち上がり、辺りを見回して声を上げた。
「おーい、誰かいないですかー? パル姉ー」
声が何処までも虚しく木霊し、メンタは一つ溜息を付いた。
「むむむ……困りましたね」
3秒経過し、メンタは辺りに散らばっている物を見た。
「とりあえず今持っている物を確認しますか」
鞄を開けて中に入っている物を取り出しつつ、飛び出てしまった物を拾い集めていく。
「ハンカチ、お財布、飴、携帯、家の鍵、鏡、アニメイトで買った漫画、小さいハサミ、お裁縫セット、絆創膏、携帯の充電器、筆箱セット一式、メモ帳、パスモ」
見事にこの竹林で使うことが無い物ばかりがそこには入っていた。
メンタはもしかしたら、と携帯を取り出して電源を入れてみるが、それはやはり想定内のことになっていた。
「携帯は当然の如く圏外ですし、今ここで使えそうなものは無いですね」
分析を終え、そう結論付ける。
「仕方ありません。移動しましょう」
どうせここに居てもRPGは始まらないと考えたメンタは竹林を歩き出した。
そうして辺りも暗くなってきた所でメンタは一度足を止めた。
「適当に歩いていたら迷ってしまいました」
はぁ、と溜息を付いて、次の瞬間には目を輝かせて顔を上げた。
「ハッ、これはもしや何かのフラグですか!」
事実、フラグだろう。動物はおろか、人一人もいない上に水も流れていないのだから。そうする間にも辺りはドンドン暗くなり、いくらメンタと言えども不安が心を掻き立てた。
「出て来てください、出て来いです、何か出て来いなのでございくれやがりくださいます!」
メンタは必死に叫ぶが、その叫びは夜空に消えて行った。
それから三日という時間が経ち、辺りに生えていた水菜や山菜を生で食べて飢えを凌いでいたが、歩き疲れ、孤独に精神をすり減らしていた。
いくらメンタが重度の腐れヲタと言っても元はJCである。
「一週間彷徨いましたが、遂にオレの人生に終止符が打たれようとしています」
声は掠れ、衣服もだいぶボロボロになったその姿を誰が責められよう。
「竹林に出会いを求めるのは間違っていたようです」
最後の最後までネタに走り、メンタは力付きて倒れた。
しかしその努力は偶然という形で報われ、赤と紺の一見ミスマッチとも思える服装をした女性がメンタを遠目に見つけていた。彼女の傍にはもう一人、兎耳の少女がおり二人はメンタに近寄っていく。
「あら? 誰か倒れていますね、人間?」
彼女、永琳は自分と同じ人間に久しぶりに出会い、驚く。
この竹林、迷いの森は普通人間が単独で入り込むことなどあり得ない。
竹林には化け物――妖怪と呼ばれる存在が住み付いており、近くの人里の人間は絶対に案内無しでは近寄らない場所だ。
「てゐ」
てゐ、と呼ばれたのは兎耳の少女だ。彼女は少し面倒くさそうに返事をした。
「はいはい」
「見捨てるのもアレなので連れていきますよ」
基本、永琳は人間だろうと妖怪だろうと助ける。それが医師であり薬師である自分の生きがいだと感じているからだ。
しかしそうなのは永琳を含めるごく少数で、特にてゐは人助けに興味はない。
「えー面ど……」
と、言いかけると永琳から鋭い視線が飛んでくる。
普通なら妖怪であるてゐは人間如きに命令されることは無いが、永琳は不老不死の怪物であり、月の民であり、蓬莱の力を操る人間である。その上、そこらの妖怪では手足が出ないほどに体術に優れている、一種の化け物である。
その永琳を怒らせるとどうなるのか、身を持って知っているてゐは永琳に逆らうことは無い。
「やりなさい」
「はい。よっこらせい」
てゐに担がれ、メンタは竹林の奥にある館、永遠亭に拾われることになった。
メンタが眼を覚ましたのはそれから二日後のことだった。
最初に見えたのは木材の天井と、木と薬の混じった香り。
「あれ、ここは?」
「ようやく目を覚ましたみたいね」
メンタの顔を覗き込んだのは兎耳をつけた人間だった。
近年稀に見るほどの美人にメンタは思わず起き上がった。
「うっわ、兎耳獣人な超美人さん!」
だが、その反動で痛んでいた体が悲鳴を上げて、もう一度床に伏せた。
その患部をさりげなく撫でて痛みを和らげる辺り、兎耳の少女の性格が悪くないことを示していた。
「あら、ありがとうございます。とりあえず、意識はあるみたいですね。私は鈴仙・優曇華院・イナバと言います。貴方は?」
そこまで言われてメンタはああ、っと気が付く。
「オレの名前はメンタです! それなりに2次元LOVEなオタクで腐ってるけど中学生なのでぇす!」
その独特な自己紹介を受けて紫髪兎耳の少女、イナバはそっと視線を逸らした。
――ああ、これ関わるとロクなことがないパターンの人だ……。
そう良く分かっているが故にイナバはさっさと退散することを決め込んだ。
「とりあえず師匠を呼んできますね」
きっと師匠である永琳も同じことを思うだろうと思って。
「はーい」
一人部屋に残されたメンタは体が痛むのも忘れて両腕を天井に伸ばした。
「やばい来ましたコレ! 異世界転生……いや、転移ですね! トリップですよ! しかも運が良い事に、餓死というもし自分が異世界転移した時の最初の心配事は、無事回避されて拾われたらしいですね。しかもさっきの人、超美人さんでした。もしオレが男だったらここで暮らしてドゥフフな展開になっていたんでしょうけど、まあオレとしてはあの美人さんをめぐっての修羅場をじっっくりごっってり傍観させて貰うのも全然ありですけどね」
虞腐腐腐、と不気味な笑いを浮かべ妄想に浸る。
そう、メンタは何度も言っている通り『腐っている』。
しばらく妄想に浸っていると永琳がイナバともう一人を連れて部屋に入って来た。
「おまたせしました」
「昼食をお持ちしました」
イナバが手際よく机を並べて昼食を配膳していく。
流石にメンタも何か手伝おうとすると永琳に手で止められた。
「さっさと食べたい」
しかしそんな中でも手伝わない奴がいた。
「てゐ、お客様の前ではしたないですよ」
イナバと同じ兎耳を持っているが此方は黒い髪の少女。みてくれも性格もイナバと真逆なのが彼女だ。
「へーい」
そんな彼女にメンタはシンパシーを感じてしまっていた。
あ、この人私と同じタイプかもしれませんね、とメンタも同じことを考えていた。
「まずは自己紹介を。私はここ、永遠亭の主で彼女たちの師をしております、八意永琳と申します」
「えーりん…………」
メンタの呟きと視線に永琳は少し首を傾げた。いくら幻想郷で知られている顔だとしても外来の人が知っているとはあまり思えなかった。
「先程も自己紹介しましたがあらためて、鈴仙・優曇華院・イナバです」
「因幡てゐだ。よろしく」
「メンタです。この度は助けて頂きありがとうございます」
「どういたしまして。さて、てゐも待っていることですし、先に頂きましょうか」
「此度の食物に感謝を」
永琳の祈りが終わると共に少し騒がしい昼食が始まった。
昼食を食べ終えた後、永琳はてゐとイナバを下がらせてメンタと面談していた。
「さて、昼食も終えたことですし、そろそろ本題へと入りましょうか」
「まず、貴方は何故この森で迷っていたのですか?」
メンタは少し唸って、思考してから答えた。
「ええっと……最初は見た事のない妖怪みたいな物に襲われて沢山の人たちと一緒に連れて来られたんですけれど、オレは途中で落とされてしまい、実の姉とも離れ離れなのです。一応お聞きしますけど、オレの姉らしき人物知りませんか?」
そう、最も大事なのは姉のパルだ。それが最優先であり、妖怪や自分がここへ連れて来られたのは二の次である。
返って永琳はどう答えたら良いものかと考える。そもそもこの辺りで人間を見かけることや、ましてや人間が落ちてくることは滅多にない。
「この辺りには結界が張られていますが、貴方以外の人間の反応はありません」
そう、ここら一体はてゐとの契約によって結界が張られ守られている。その中に人間や妖怪が居れば永琳はすぐに分かる。
「…そうですか」
「そもそもここに人間がいること自体が珍しいのです」
――そういえば人間があまりいませんね。
そう、メンタは思う。別段元いた地球のことを考えれば変な話ではないのだが……。
「しかし妖怪ですか……」
永琳はメンタを他所に少し考える。
「何かご存じなのですか?」
「いえ。妖怪と言ってもピンからキリまで沢山いますから……しかし、最近は妖怪や魔物も静かに暮らしていますし、この辺りを通過出来る妖怪となりますと……」
この世界に置いて妖怪という存在は単純な本能のみを持つ者から言語を操り、また能力やスペルカードを使う者まで幅広い。
メンタが知る限り、てゐやイナバも妖怪であり、妖怪の上位に相当する。
永琳も分類上は人間だが、不老不死故に妖怪と大差ない。
「ともあれ、貴方も聞きたいことはあるでしょう」
永琳に聞かれ、待ってましたとばかりにメンタは頷く。
「はい。まず、ここはもしかして幻想郷という場所でしょうか?」
「知っていらしたのですか? 正解です」
幻想郷。ヲタの間では異世界転生やVRMMO世界と同じくらい行ってみたい価値を持つ世界であり、『存在するならば』そこは至高の世界だ。
そして幻想郷は『存在した』。
故に、メンタのテンションは有頂天を限界突破してスーパーハイテンションを天元突破した危ない領域へと足を踏み入れた。
「よっしゃー! 2次元、もとい女の園に来ましたー! 男と女同士のアレコレは見れないけど、女同士の禁断な関係もアリですよね!! ついに女同士の聖戦が幕を上げるんですね!? 種族違いの恋ですか? 年齢100以上超えたものですか? 宿敵同士や主従関係、友達から始まったり、全く関わりが無かったけどふとした瞬間に気になり始めたり、犬猿の中だったり、姉妹同士、姉コンビ、妹コンビ、ライバル同士、知人に、教師と生徒の仲だったり、すれ違い、ストーカー、遠距離恋愛、趣味が合う同士、金づる、同居人、憧れの人、先輩後輩、タメ、師弟、弟子同士、仕事仲間、青春、叶わない恋、両想い、片思い、行き過ぎた愛、歪んだ愛、博愛、隣人愛、慈愛、情愛、人類もとい人外愛、溺愛、偏愛、略奪愛、真っ直ぐな恋、純水で穢れようのない恋、幸せな結末、悲しい結末、何処か腑に落ちない結末、笑える結末、つまらない結末、愚かな結末、ツンデレ、シュンデレ、ヤンデレ、デレデレ、S、M、ただ何となく傍にいるというのも美味しいですよねー!!? ちなみに俺が最も求めるのは、醜く酷く歪みぐねって180度折れ曲がって修復不可で救いようのない愛し方しか知らない人の嫉妬に狂い我を忘れ愛を求めても求めても求めても求めても求めても決して実らず叶わず救われないような滑稽(最高)な物語なのですよーーーー!!!!」
そんなメンタに永琳は完全にドン引きした。
ああ、この人、てゐと同じ種類の生物ですね、と永琳は達観した。
てゐも性格はメンタと大差なく、嗜好性も似ていることから永琳は『同族』の評価を与えた。
ちなみにメンタが幻想郷を知っていた理由は、自宅の保護者たちが会話しているのを聞いてしまったり、テーブルに放置されていたレポートを見たためだ。
更に余談ではあるがこれらは意図的に置かれていた物でもある。
「と、とりあえず貴方のこれからを考えましょうか」
永琳の言葉が届いたのか、メンタは完全にイった表情から戻って来た。
「そう言われてもどうするのが一番良いんですか?」
どうするこうすると言われてもただの人間であるメンタが外に出れば妖怪に惨殺されておやつになるのは永琳とて目に見えていた。
ともなれば面倒なものは面倒な場所へ押し込んだ方が良いと永琳は考えた。
「そうですね……人間であるのなら博麗神社に行ってみるのがよろしいかと思われます」
メンタの目が一瞬輝いたのは気のせいではない。
「ああ、霊夢さんが居る場所ですね」
「はい。勿論、道中はてゐをお付けします」
「ありがとうございます」
「ですが、貴方はまだ衰弱している身です。今日はここで休んで行かれる方が良いでしょう」
「お言葉に甘えさせて貰います」
「永琳様、終わったよー」
「丁度良い所に来ました、てゐ。貴方は明日彼女を博麗神社まで送ってもらいます」
永琳の言葉にてゐは明らかに嫌そうな表情で答えた。
「えー……あのクソニート巫女の所に?」
「行ってもらいます」
「へーい」
「私は仕事が残っていますのでこれで失礼しますね。代わりにてゐを付けておきます」
「師匠、私もまだ仕事残ってるんだけど」
「明日からの一週間分はイナバに変わって貰います」
「ラッキー!」
「あまり無理をさせないでくださいね」
「りょーかいです!」
「それでは、ゆっくりしてくださいね」
永琳が立ち上がり、残してはいけない二人を残して去って行った。
その後、メンタとてゐが意気投合するのに時間は必要なかった。
次の日。
永琳の薬のおかげで復活したメンタはてゐと共に永遠亭の玄関に立っていた。
「お願いしまーす」
「いくぞー!」
すっかり意気投合した二人を永琳とイナバと兎たちはそっと視線を逸らしつつ見送っていた。
永遠亭から博麗神社までは結構な距離がある。
永遠亭が竹森の奥深くだとすれば博麗神社は山の奥の奥。
徒歩時間にして五日近くかかる。これがてゐだけならば日帰りで住むのだが、隣にいるのは貧弱な人間のため相当ペースを落として更に時折休憩を挟む必要がある。
はずなのだが『同士』に逢ったテンションからメンタは一日中歩いて尚疲れを見せない猛者と化していた。その甲斐もあってか博麗神社の麓までは人間徒歩最速の二日で到着していた。
博麗神社は妖怪の山奥にある。山は緑の木々が生い茂っていることから春過ぎということが分かる。それと妖怪の山と言ってもそこらに妖怪の姿はない。知能があろうが無かろうが、全て駆逐されているからだ。
そんな何もない山を登っていくと神社が見えてくる。
階段を昇り、神社の本殿の前には巫女服を着た少女が寝っ転がっている。
幻想郷は妖怪のおかげで温暖化現象は無いため、少女の服装も巫女服というよりはワンピースに近い。もっと言ってしまえば袖はなく、少し贅肉が出て来た腰が見え、同じく脂肪がついて来た太ももが見えている。
「ああ、動きたくない。働いたら負けよ」
彼女こそがこの山の主、博麗の巫女こと博麗霊夢。普段からやる気無し、クソニートと呼ばれるほど何もしない少女だ。
「ヒャッハー! ニートは消毒だー!」
そんな霊夢を見ててゐがドロップキックを繰り出し、霊夢が寝っ転がったままてゐの足を片手で掴んで放り投げた。
メンタとしては流石ぶっ壊れ性能の巫女、と思っていたが正にその通りだ。
その霊夢が面倒くさそうに体を起こしててゐとメンタを見た。
「うるさいわね。何の用よ、てゐ。また永琳のお遣い?」
「いやいや、今日はちょっと相談に来たの」
てゐの言葉にあからさまに嫌そうな表情をして霊夢は帰れ、と手を振った。
「嫌よ。帰って。面倒くさい」
無論、てゐも永琳もこのクソニートを動かす方法は既に会得している。
メンタも霊夢がどうすれば動くのか分かっているため、財布からピン札と五円玉を取り出した。
「その気持ち分かるけど、はい『お賽銭(謝礼金)』。さんぱーい」
チャリンチャリンパサパサと音を立てて賽銭箱に金が入っていく。
パンパンヘコヘコと欠片も祈る気のない適当な参拝に霊夢は辟易しながらも姿勢を正した。
「仕方ないわね……ちょっと上がって行きなさい。お茶淹れてくるわ」
要するに、ヒキクソニート故に金で動くのだ。現金で現金にも。
ぶっちゃけ百万円賽銭箱に突っ込んだら何でも言う事聞いてくれそうですね、とメンタがそう思うほど、彼女は現金なのだ。
一室に案内されたメンタたちが待つこと数分後、超インスタントなお茶が出て来た。
――察しの良い人はもう分かっている通り、博麗神社は山奥にある。つまり参拝客など年に一人二人来たら良い方。……博麗神社は貧困だ。
それでも少女が切り盛り出来るのは参拝客以外の客が何十人も食材やら窃盗品やらを置いて行くため生きて行けるのだ。中には憐みではなくそういう能力で生活力皆無と分かっているため霊夢の世話を焼く者もいる。
「それで、何の用なのよ」
「この娘なんだけど――」
てゐが話題を切り出すと同時にメンタも頭のネジを外した。
「ウポッ! 霊夢さんマジ来ました! 現実に諦めず、アニメとゲームと漫画などの娯楽で生き繋いでいてよかったーです!」
余談だがメンタは黙ってさえいればそれなりに優良な物件だ。黙っていれば。
霊夢がドン引きするのも構わず、メンタのテンションは際限なく上がっていく。
「何この狂った娘」
「数日前に何処からか来た謎の少女で、ちょっと預かってほしい」
「嫌。働きもしないグータラを置いておくほど敷地は広くないの」
『ニートのお前が言うのか(言うんですか)』
二人が声を揃えると霊夢はチッと舌打ちしてそっぽ向いた。
「チッ、それで相談はそれだけ?」
この話は分が悪いと判断して話題転換を試みるが、メンタは当初の目的を思い出して霊夢に尋ねた。
「いやいや。実はパル姉……一緒に連れて来られた実の姉を探していて、何か手がかりがあればと思ってきました」
その言葉に霊夢は片眉を上げて反応した。
「連れて来られた? 誰に?」
「謎の妖怪です」
「妖怪ね……」
腕を組み、最近の心当たりを思い出す。
「前に霊夢が夢想封印無双して以来悪さをする奴はいなくなったと思っていたんだけどね」
事実その通りに霊夢はここ数年は動かなくても良い位に半年前まで働いていた。
そのおかげで人里に妖怪が出ることは無くなり、妖怪たちの間では博麗のクソニートを怒らせるな、動かすな、顔を合わせるな、という暗黙のルールが作られていた。
「でもウチの方関係ないし」
霊夢がはぁ、と溜息を吐いて呟く。
実際このクソニートは自分の利益もしくは金になる仕事以外を慈善事業する気はさらさらない。ついでに言えば博麗神社の掃除や家事もしていない。これでインターネットがあれば引き篭もり完全形態へと移行できるだろう。
そんな霊夢に対してメンタたちが溜息を吐き、霊夢が何かを言おうとする。
しかしそれを聞くことなく天井が崩れ落ちて、天井に妖怪の姿が現れた。
ここらではあまり見かけない妖怪だが霊夢の敵ではない。
「ウハハハクソニートクソニート」
「ゲヘヘヘ博麗の引きこもり」
「ブッハ、ちょーウケルー」
一体何処でその言葉を覚えたんだとメンタは思う。
それに加えて外見もチャラチャラした金髪や深いコスメをしている。
「タイミングが良過ぎると言う前に、てめえらみたいな目の保養にもなんねえモブっぽい化け畜生が来て誰得なんですか」
メンタがヘッと馬鹿にする言葉を吐き、その隣では霊夢の何かがはち切れる音がしていた。
「神技「八方龍殺陣」!!」
『うぎゃぁぁぁぁ……』
妖怪たちが一瞬で溶け、ついでに天井も消え失せ、先には少しオレンジ色の空が見えていた。
「実害出たね」
「さっきの妖怪でなく霊夢さんに対しての得をしました。ご馳走様です」
その二人の言葉も、もはや霊夢には届かない。
「私の敷地に土足で踏み込み、あまつさえ舐められた……」
額には何本も青筋が並び、その拳は固く握られていた。
「あ、これはスイッチ入ったやつですわー。でもその気持ち分からなくも無いから困りま」
す、と言い終わる前にその首を霊夢が掴み、アマゾネス状態になる。
「てゐ。ちょっとこの娘借りるわね」
霊夢が至って冷静な声を出しつつ、笑顔でてゐに断りを入れる。
「どぞー」
てゐは視線を逸らしつつお茶を飲んでいた。
「それと永琳にあいつは私の獲物だって伝えて頂戴」
「はいな。ではではー」
話も一応まとまり、てゐは脱兎の如く逃げ出した。
それほどまでに今の霊夢はおっかない顔をしていた。
そう、例えていうなら――阿修羅。
グラたん「夜のテンションです!」
メンタ「ハイ!」
てゐ「ヒャッホイ! つまり?」
グラたん「設定は後から考えます!」
※要するにこの東方の話は特に深く考えず書いています。