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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
22/119

第二十一話 簀巻き、目隠し、猿轡

グラたん「第二十一話です!」


  ――咲夜が良い笑顔だ……!


 自分の勧めに乗ってくれれば嬉しくなるのは必然だろう。何の運命の偶然か……咲夜は勇み足でパンチマシーンに向かっていく。


「おっと! ここで饅頭の交代の様です! 次は――香霖堂の店主だ!」


 香霖堂の店主。聞き覚えのある言葉にパルは咲夜から視線を外してパンチマシーンにセットされた霖之助を見る。


「かふっ……」

「霖之助さぁん!?」


 今にも死に体の霖之助を確認し、パルは初めて饅頭の意味を理解する。

 ――確か、戦国自体の生贄に人の首では無く牛肉を捏ねて人の首を模したのが始まりだったって美鈴先輩が言ってったっけ?

 そこまで思ってから、先に咲夜を止めないといけないことを思い出し――時すでに遅く、霖之助の体は宙を舞って行った。



 先程、脳天唐竹割こと覇斬を諸に食らった霖之助は永遠亭のお薬の力で九死に一生を得たが、地獄のような痛みがまだ続いていた。


「げ、げはっ…………はぁ……ひ、酷い目に遭いました……」


 気付けばいつの間にか猿轡が無くなっており身体も自由だ。


「シュシュシュ、シュシュシュ」


 何処からか聞き覚えのある声が聞こえ、正面に当てられてたスポットライトが霖之助を照らした。


「ああ、明るい光……そうか、私は遂に天に召され――」


 あまりの眩しさと心地良い浮遊感。先まであった痛みが嘘のように消え失せており、眼を細めればそこには白い悪魔の面が――――霖之助の意識は急激に覚醒する。

 ――ち、違う……ここは、これは――!


「覇ぁぁ!!」

「地獄だ!!」


 ガツンと良い音を鳴らし、霖之助が宙を舞う。視界の声さえ遠くに感じてしまう。


「おっと! まさかの一発KO! 流石は優男と名高い香霖堂店主――――!」


 そしてただ地面に落ちるのではなく華麗に二度、三度とバウンドして場外に飛んで行く。


「何故……私は……ここにいるのだろう……」


 そこへ通りかかったのは紫の招集に応じて町に来ていた永琳とてゐとイナバだ。今のご時世薬品だけでは食っていけないため時折こうして町で出稼ぎ(人身売買の司会役)をすることもある。

 飛んでくる霖之助にいち早く気付いたのは串焼きを食べてご機嫌なてゐだ。


「んあっ、師匠、危ない」


 とっさの事に永琳は加減を忘れ、スカートが捲れ上がるのもいざ知らずに蹴り上げる。


「覇ッ!」


 霖之助の長身が空を舞い、飛竜の如く垂直に昇っていった。


「どうして……私だけが……」


 その呟きは誰にも聞こえることは無い。

 代わりに此方も紫の招集に応じてやってきた守矢神社の巫女、東風谷こちや早苗と二柱、八坂神奈子と洩矢諏訪子が空中を飛んでいた。


「あ、神奈子様! 地上から何かが!」


 早苗が気付き、昨晩は徹夜でゲームしていたためボーっとしていた神奈子の代わりに諏訪子がその場でかかと落としをくれていた。


「ふぇ?」

「そぉい!」


 霖之助は最後の意識と自身の最後を悟り、眼を閉じてパルを思い浮かべる。

 ――せめて死ぬ時は柔らかい膝の上で死にたかった。

 その真下には偶然にも咲夜とパルがおり、空の露と消えていった霖之助のことを思って泣いているパルを咲夜が役得顔で慰めていた。


「霖之助さん……」

「もう忘れなさい。あんな男のことなんて」


 ――あ、これ、恋愛小説みたいで良いかも。

 そんなことを咲夜は思いつつ、パルの背中を擦る。


「でも……」


 そこに、近くの広場で遊んでいた子供たちの野球ボールが飛んでくるのが咲夜の眼に止まりパルを守ろうと手を伸ばして自身に引き寄せる。その過程でパルの頭部が咲夜の胸に埋まってしまい大変な絵面になっているのだが、二人ともに気付かない。


「パル! 危ない!」

「ふぇわっ!?」


 咲夜の急な行動に美鈴にこれでもかと叩き込まれた脊髄反射が発動し、鮪包丁を取り出して咲夜を守るように峰を振り回す。


「こんなべにっ!?」


 そこへ霖之助落下し、無残にも野球ボールと鮪包丁の峰に挟まれた。


「あっ……」

「へっ?」


 嫌な音の先を確認した咲夜の声にパルも顔を上げて冷たい地面に横たわっている血まみれの霖之助を見て血の気が引いた。


「完全にとどめ刺したわね」

「霖之助さぁぁぁぁん!?」


 咲夜の一言がトドメとなり、それを聞きつけた永琳や早苗たちが奇しくも一斉に集まって来た。

 臨時の病院に運ばれ、早苗の『奇跡を操る程度』と永琳のお薬、イナバの縫合術と紫の『境界を操る程度』の能力によって霖之助は本当に奇跡的に一命を取り留めていたが、それをやってしまった当人たちは視線を下げて申し訳なさそうにしていた。


「……何をどうしたらこうなるのかしら?」


 紫が発するとてゐが内心面白がりつつ、永琳は苦い表情で呟いた。


「くぅ……私がもっと注意していれば……」

「……まあ、その一端は私にあると言いますか……」

「し、師匠のせいではありませんよ!」


 イナバのフォローに合わせ、霖之助を地上に落とした諏訪子が顔に手を当てた。


「いや、私も落下地点を考えてなかったし……」

「まあまあ……」

「私が受け止めていれば……」


 しかし早苗の言葉には咲夜が待ったをかけ、パルは自責の念でいっぱいだった。


「それは駄目よ。こんな男のために早苗さんが犠牲になることはないわ」

「せ、せめてあの時買ってあげられればこんなことには……」


 後悔後先立たずという言葉があるように、紫が『ともかく』と続けて反省会を打ち切った。


「霖之助のおかげで招集する手間が省けたのは確かよ」

「まあ、少しは役に立ったわね」


 紫の言葉に咲夜が辛辣に頷き、皆が苦笑いした。続けて紫が集まている皆を見回した。


「さて、まずはお互いに自己紹介を――と言いたい所だけど半数以上は知っているのよね?」

「そうですね」


 早苗が頷き、知らない人たちのために紹介を促した。


「パルさんが初見なのは永琳さん、諏訪子様、神奈子様ですね」

「うん」


 率先して手を上げたのは神奈子だ。


「じゃあまず私から。私は八坂神奈子。早苗ちゃんの神様よ」

「そしてあたしが洩矢諏訪子。早苗ちゃんのご先祖様なのだー」


 特徴としては神奈子は背中に巨大な注連縄を付けていて、諏訪子は眼玉のような飾りが付いた巨大な帽子を被っている。

 続いて永琳が粛々とお辞儀した。


「私は永遠亭の主、八意やごころ永琳です。てゐとイナバは私の助手です」

「よろしくお願いしますね」


 イナバも後に続いてお辞儀し、てゐは雑多に手を上げて爆弾を投下した。


「よろしくなー。でもやっぱりメンタには似てないなー」


 てゐの言葉にパルが今までにない必死の形相でてゐの首を掴み上下に振り始める。


「め、メンタ? メンタを知ってるの!?」

「ぉう!? そ、そりゃーマブダチだからな……ぐえええええええ!!」


 知っている、生きている、この世界の何処かに居る。今まで知り得なかった情報にパルの手は自然と力が籠り、てゐの首を容赦なく締めあげた。


「ど、どど、何処にいるの!」


 流石に見かねて早苗がパルの両手を優しく掴み、てゐを離させる。


「ぱ、パルさん、落ち着いて落ち着いて!」


 パルもかなり興奮してしまったことに気が付き、てゐに謝った。


「え、あ、うん……ごめんね……」

「いや、大丈夫だ。メンタは今、博麗神社にいるぞ。でもまあ近い内に会えるとは思うけどなー」

「そうなの?」


 パルの疑問にてゐはアレ? と首を傾げる。


「紫から聞いてないか? その博麗神社にも今回の作戦の援軍を頼んでいるらしいぜ」

「ああ~、そう言えばそうだったね」


 首肯するが確約出来ない約束をするほど紫は馬鹿では無い。


「しかし大乱戦になると思いますので、会えるかどうか保証はしかねますよ?」


 そうでも構わないとパルは頷き、続けた。


「ま、メンタなら何処にいてもやっていけそうだから心配はしてないんだけどね」

「だろーな」

「流石お姉さん。良く分かってますね」


 パルの問題も一つ片付いたので紫が改めて言葉を発した。


「オホン。さて、作戦会議と行きましょうか」

「ぶっちゃけこの面子なら火力ごり押しで良いんじゃね?」


 紫の後に続いて、てゐが発言して永琳を呆れさせた。


「それでは誰が妖怪から市民を守るのですか?」


 永琳の言葉にてゐは自信満々に永琳を指差した。


「そこは師匠が素手で妖怪を引きちぎって――」

「引き千切って?」 


 次の瞬間、永琳はてゐの頭部を鷲掴みにし、引き寄せて両手で掴み、砕こうと試みる。


「アババババッババアアアアアアアア!!」


 てゐの絶叫をBGMにしながら会議は続けられる。


「永琳さんの言う通り、いくら貴方たちと言えども大多数の妖怪を一気に殲滅は出来ないでしょう。そこで今回は各門を2~3人で守り、討ち損じは他が処理するということになります」


 そうなれば当然余りが出てくることになりてゐが文句を付けた。


「それって外れた奴が貧乏くじじゃねーかよ」

「そういうと思って予め霖之助と一緒に考えて来たわ」


 それも織り込み済みであり、紫はスキマから配置を決められた用紙を取り出した。


 南、霊夢、魔理沙。

 西、早苗、諏訪子。

 東、イナバ、てゐ。

 北、霖之助。


 その配置と人選は妥当であり、しかし……と全員が思った。


「悪くはないと思います。ただ……」

「うん、そうだね」

「うんうん」


 皆の煮え切らない返事を聞きつつ、早苗が無自覚の爆弾を落とした。


「北門、霖之助さんだけで大丈夫なんですか?」


 これには諏訪子と神奈子も黙り、苦々しい視線を早苗に送った。


「……」

「早苗よ、何故今皆が言わなかったのか気が付かなかったのか?」


 永琳たちも同様に思案していたため首肯した。


「ええ、皆分かっていて黙っていました。紫さんのことなので何かしら策があると思っていました」

「……ご、ごめんなさい」


 折を見て紫が会議を続け、全員が安心する内容を告げた。


「その点は大丈夫。一応私が援護するから。それに、咲夜さんにパルさん、あとアリスさんや幽々子さんも手伝ってくれるみたいなのでこの布陣で十分です」


 それでも不安は払拭されない。


「いやでもね……霖之助だよ?」

「雑魚の妖怪にすら負けるような負け犬が通常の妖怪と戦えるのですか?」

「そうだ! 雑魚は大人しく引っこめとけー!」

「霖之助の実力は折り紙付きで弱いからね」

「弁解のしようもないわね」


 ほぼ全員の非難に今まで寝たふりをして黙っていた霖之助が起き上がり抗議した。


「黙っていればいけしゃあしゃあと言ってくれますね!? 私だって当日のために装備一式整えてきたんですからね!」

「はいはい。霖之助の戯言はおいといて次行くわよ」

「ざ、戯言!? 戯言って言いましたね!? いくら紫さんと言ってもそれはあんまりでしょう!? 私だって戦闘以外では結構貢献できる身であって――」


 紫のあんまりなスルーに霖之助は抗議を続けるが取り合うことはない。


「より具体的にはパルさんと咲夜さんには北門のバックアップに入って貰いたいと思います。霖之助さんはアレなので」

「妥当ですね」

「うん、里のためにも頑張るよ」


 全員に無視された霖之助はそっぽ向き、不貞腐れる。


「そーいや、四天王が出てきたり親玉が出てきたらどーすんだ?」


 てゐが聞くと紫が割りとどうでもよさそうに答えた。


「それは適宜対応してください。ぶっちゃけ殺っちゃってください」

「えっと、確かパルさんが一人打ち取っていて、霊夢さんたちが二人倒しているんですよね?」


 今のところ三人倒し、残る一人も顔が割れているため討ち漏らすようなことはない。


「そうよ。最後の一人はサキュバスだから……まあ、同姓の貴方たちなら大丈夫でしょう。霖之助以外は」


 霊夢の辛辣な言葉に合わせ、女性陣の白く冷ややかな視線が霖之助に突き刺さる。


「このクソスケベ」

「最低優汁豚男」


 そこまで言われる謂れは無い、と霖之助は叫ぶ。


「私が……私が一体何をしたというんですかぁぁあああああ!!」

「傷に響くから叫ばない方が良いですよ?」


 パルが善意で言ったのに対し、霖之助は趣に怒り返す。


「時に優しさは人を多大に傷つけるって知ってますかね!?」


 まさか怒られるとは思っていなかったためか、パルは少々泣き目で咲夜にしがみついた。


「ひぅっ!? 咲夜ぁぁ、なんか怒られたぁぁ……」


 ――役得ぅ、と咲夜は思ったが顔には出さなかった。

 その後に続いて早苗たちが一斉に霖之助を批難し始めた。


「あー、パルさんを泣かしたー」

「ひどーい」

「最低ですね」

「こんな良い娘を泣かせるなんてなんて奴かしら」

「よしよし、おねーさんの胸にも飛び込んでおいで」

「渡しませんよ」

「はっ、野郎の風上にも置けないとはこのことだな」


 一部、欲の強い者たちがいたが割愛。

 霖之助もそこまでするつもりはなかったため、すぐに我に返って謝った。


「私が悪いんですか!? あ、いやでも泣かせるつもりはなかったんです。本当に本当です。ごめんなさい」


 パルは咲夜から少し離れて、小さく頷き、すぐに咲夜が頭部を抱えてしまった。


「そうねぇ……罰は何が言いかしら」


 しかし謝ろうが謝るまいが処罰されることに変わりはない。


「紐無しバンジー」

「里内引き摺り回し」

「南門に逆さ吊りはどうでしょうか?」

「服は剥いて良いよね?」

「手足を縛って亀のような縛りはどう?」

「ちょっと試してみたい薬品がいくつかあるのでそれも加えて貰えますか?」

「蝋燭を頭に付けるのもありですよね?」

「あらあら……悪乗りが始まったわね」


 流石にそれをすべてやられたら霖之助自身の身も持たないため身を引いて紫に頼む。


「あの、真面目に謝るんで止めてもらえます? 流石にそこまでされると……」

「残念だけど、あの娘たち聞いてないみたいよ」

「私、引き篭もりますよ?」


 それを最後の言葉にし、てゐが拳を振り上げた。


「よし、それで行こうぜ!」

「――あれ?」


 ふと、霖之助の視界が暗くなり全身を締め付けるような感覚が襲う。

 外見から見れば目隠し、簀巻き、猿轡の三コンボを瞬時に食らい、神奈子に俵担ぎにされて連れ去られようとしていた。


「さよなら、霖之助さん。貴方のことは忘れません」

「もがむがむがもがぁ!?」


 ――ちょっと待ってください! 何のことですか!?


「ヒャッハー!」

「イヤッホウ!」

「ヒャッホウ!」

「さ、行きましょうか」

「そうですね」

「あらあら」


 霖之助の叫びは届くことなく室内には静寂が訪れた。


「……あれ? 皆は?」


 パルが辺りを見るとてゐたちの姿は無く、咲夜だけが手を引いていた。


「貴方は何も知らなくて良いのよ。さ、温かい温泉に入って夕食にしよ?」

「う、うん……」


 きっと知らない方が良いんだろうなぁ、と思いつつパルは病室を後にした。

 こうして迎撃態勢の整った町と、妖怪との大決戦は間もなく始まる。


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