第二十話 今日のメインは半妖のモツ煮込み
グラたん「第二十話です!」
同日、馬車を走らせていると昼間には目的の里に到着し、里というにはあまりにも大きい規模にパルも咲夜も首を傾げた。
「ここが……さ、里?」
「里というよりは町ね」
ほんの数年前までは復興不可能とまで言われていた里だが、守矢神社の経済支援と近くの里人たちの活気によって里は復興し、今では守矢を信仰する人々のための町と化していた。
「宿は……あれかな? というか旅館?」
パルが見上げた先にあるのは観光客用の旅館だ。旅人や旅行客が寝食をするのに事欠かないように町の至る処に旅館はあるが、その中でも守矢神社が直々に支援している所の人気は他と一線を画していた。
「大きいですね」
「行ってみよう!」
旅館に馬車を寄せると、パチュリーが事前に部屋を取っていたこともあり中から従業員が出て来た。馬車を渡し、二人は荷物を持って先にチェックインを済ませた。
「この荷物はどうしますか?」
鍵を貰って部屋に向かおうとすると先程馬車を渡した従業員に呼び止められ、霖之助の荷物を持って来ていた。
「あ、霖之助さんの荷物は馬小屋で良いですよ」
咲夜のあんまりな物言いに従業員は困惑した。
「え、でも……」
「こっちの貴重品は持っていきますので」
「分かりました」
咲夜の笑顔と気迫に負け、従業員は一応ということでカウンターの方に荷物を置いた。
――何か恨みでもあるのかな?
他のお客にまでそう思われるのは仕方のないことだった。
旅館、『守矢の宿屋』は全五階建ての旅館であり町の中で最も繁盛している場所だ。守矢神社の支援を受けているという箔もあり、何より徹底した男女分けがされており、一階のエントランスと三階以外で男女が会うことが無いとまで言われている。
階層は、一階は説明した通りであり、二階が男性専用、三階が男女混合、四階、五階が女性専用となっている。
この内、パチュリーが取ったのは五階。眺めも衛生面でも最高峰なのは咲夜の眼からしても間違いない。
「わぁ! 広い部屋だね!」
「パチェにしては良い部屋を取ってますね。でも……」
咲夜の視線に釣られてパルもちょっと困る。
「あ、でも、ベッド一つしかないね」
パルの視界では大きめのベッドが一つあるだけだが、レミリアの性で色々知ってしまっている咲夜は溜息を吐きそうになった。
――なんでダブルベッドにしたのかしら……。
しかしこれは同時に仲を深めるチャンスでもある。レミリアと違って咲夜には邪な意図は無い。
「一緒に寝れば良いのよ。その方が寝る間で話も出来るでしょ?」
「なるほど~」
パルも納得し、部屋に荷物を置いて、また景色を眺めている。
――……ま、明らかに恋人用のベッドなんだけど、黙っていれば良いわね。
もしもレミリアがこの場にいたのなら、キタコレ! と叫び、一緒に寝ましょう、咲夜! と興奮することだろう。
少し微笑み、次いでレミリアの事を思い出して唾棄した。別に今そんなことを思い出さなくたって良いと思い直し、落ち着いたのを見計らってパルに声をかけた。
「そろそろ里を見て回りましょうか」
「うん」
「貴重品は最低限だけ持ってね。スリに遭うから」
無論、町の規模ともなれば警備は多くなるし人さらいや強盗、窃盗に対する監視の目は一層厳しくなる。特にこの町でそういう不埒なことをする輩は余程の恐れ知らずか命知らずだ。
「そうなの?」
「そうよ」
――嘘だけど。でも、そうしないと私がパルに奢れないからね。
咲夜の言葉を真に受けて必要最低限しか持って行かなかったパルは数刻の内に後悔することになる。
宿を出た二人は町を見回りつつ食べ歩きつつ、人生を謳歌していた。周りを歩いている人々もカップルが多いが、咲夜とパルが並べば一目も自然と其方へと向かってしまう。その度に野郎共は頬や腕を抓られて気を引き締めることになる。
『オオオオオオオオオオオオオ!』
ふと、近くから歓声が上がり、パルと咲夜は其方を見た。
「ん? あれは何かな?」
「あれは……」
競売所、と書かれている札があるが立って居る位置の悪さも相まって何の競売所か分からない。
「何かの競売所みたいね」
「お魚とかお肉かなぁ?」
「行ってみましょうか」
「うん!」
二人は特に考えることもなく足を運び、ふと咲夜が顔を上げると看板にはこう書かれていた。
――人肉競売所。
鳴りやまない歓声と売られて行く人間や半妖怪。一種の狂気とも言える雰囲気と空気に飲まれそうになる中でパルは咲夜に尋ねた。
「……奴隷市場?」
それがパルの口から出るとは思っていなかったため咲夜は食べていた団子を喉に詰まらせてお茶を一気に飲み干して事なきを得る。
「――似ているけど、より具体的には奴隷兼食用販売所と言ったところね。大抵、悪さした人や悪い妖怪の捕まった先がここね」
「怖い……」
そんな凶悪な場所に来てしまったことにパルは怯え、咲夜は髪を撫でて落ち着かせる。
「大丈夫よ。妖怪や半妖は部位欠損しても、極論、核さえ残っていれば再生できるから。人間は無理だけどね」
それはあくまでも極論であり、再生するにも相応の時間が必要になる上、妖怪が持つ妖力も大幅に使うことになる。
ステージの方を見ると蝶のような仮面と赤と紺の合わさったドレスを着ている司会の女性が気合いの入った声を上げて次の半妖怪をステージに上げた。
「さあさあ今日のメインは半妖の肉と臓物セット! 煮るもよし、焼くもよし、はたまた刺身にするもよし! お値段3万円からスタート!」
半妖怪を売買するにはあまりにも安い値段だが、これはあくまでも競売。今日のメインということもあり値段は期待できる。
そんな声に釣られてパルと咲夜もステージを見て、眼を丸くした。
「嫌だぁぁああああ!」
白い髪の毛に際立つアホ毛、罅割れた眼鏡と上半身を剥かれて半裸になった男性。その彼を二人は良く知っていた。
「って、霖之助さぁん!?」
昨晩から行方知れずになっていた霖之助を見てパルが叫び、霖之助もパルに気付いて縋るような目で命を乞うていた。
「おお! あれって香霖堂の店主じゃねえか!」
「一度食べてみたいと思っていたのよね!」
「俺は5万出すぞ!」
「こっちは6万だ!」
「今日は奮発して10万行くぜ!」
しかし現実は無常であり、値段が見る見るつり上がっていく。
パルの手持ちは必要最低限ということもあって一万円ほど。咲夜が持って来た五万円を合わせても既に足りていない。
「はわわ……! さ、咲夜、どうしよう……!」
困り果てたパルは咲夜を見上げるが、その咲夜の表情は愉悦に浸っていた。その原因はパルがしっかりと抱き着いているからに他ならないのだが、パルの眼には咲夜が『ざまあ』と言わんばかりの表情に見えていた。
「放っておけばいいのよ」
「えええ!?」
その予想は裏切らず、咲夜の放置宣言にパルは再度驚いた。
「13万! 13万でどうだ!」
そうしている内に競売もラストスパートに迫っていた。
「13万! 他はいませんか!? 落札おめでとうございます!」
迷っている内に落札され、パルが全身を硬直させた。
「よっしゃあ! 今日は店主鍋だ!」
「飲むぞー!」
「ぎぃぃやぁぁああああぁぁぁぁぁ!」
辺りから『やれやれ!』との歓声が上がり、ステージには口元が三日月につり上がった兎耳の童女がチェーンソーを持って歩いて来ていた。
「パル、あっちに甘味処があるわよ。行ってみよ?」
この後のスプラッタな現場を見せるほど咲夜は鬼では無い。パルの手を引き、会場を後にしようとする。
「え、あ……うん」
――ごめんなさい、霖之助さん。今、手持ちのお金があまりないんです……。
もうどうしようもないため、パルは止む無く諦めてその場を後にした。その背後では眼前で蜘蛛の糸を切られて驚愕と絶望の表情に染まった霖之助がおり、その頭部にチェーンソーが振り下ろされた。
背後から悲鳴が木霊した。
少しして霖之助の末路を綺麗さっぱり忘れ去った咲夜とパルは再び食べ歩きに興じていた。
「絶対にこっちだよ!」
「いえ、此方です!」
そんな二人も偶には意見が分かれることもある。美少女二人の押し問答に露店の店主は役得顔で品を売り捌き、その決着を見届けんとばかりに観客が寄せていた。
ちなみにその内容は守矢ポテトをマヨネーズで食べるかケチャップで食べるか、だ。他にも塩、砂糖、オイスターソース、唐辛子、ヨーグルト、からし等があるが二人が選んだのは永遠の宿敵というべき味だった。
これは見物人の間でもバッサリと分かれ、多数いるはずの混ぜる派が消えるという不思議な事態になっていた。
「それなら両方食えば良い」
数分の口論は店主の対応によって解決され、前日より大幅に売り上げが増えたのは別の話。
「美味しい~」
「もぐもぐ」
そんな二人もお互いに味を食べ合いつつ、また町中を歩き始めていた。
「さあ、今日も楽しく饅頭割り! 挑戦する方はいませんかー! 一回500円です!」
何処からか飛び交ってくる司会の声に咲夜が顔を上げて辺りを見回すと見慣れた頭部があった。
――あら? あの羽ッ毛は……。
その声を聞いていたパルは西瓜割りの方を想像していたのだが、饅頭とは如何に? と首を傾げた。
「饅頭割り? 西瓜じゃなくて?」
「人間は西瓜、妖怪や半妖は饅頭。饅頭と言っても甘味の方じゃないけどね」
「それなら何だろう?」
「実際にやってみたらどう?」
しれっと、この上なく残酷で残虐な行為をパルに勧め、パルもパルで絶対の信頼を寄せる咲夜の言葉に頷きかけた。
「良いの?」
パルの疑問を払拭するように咲夜は清々しい笑顔で頷いた。
「勿論。すみません、この娘やります!」
司会も咲夜のことに気が付いて視線を向け、手招きした。
「おお! 人間のお嬢さんですか! 皆さん拍手でお願いします!」
野郎が壇上に上がるよりは下手でも美少女がやった方が映える。それは何処の世界でも変わりなく観客たちは一斉に沸いた。
『わー! やれやれ!』
観客たちの多大なる声援に少々緊張しつつもパルが壇上に上がり、説明を受けていく。
「やり方は西瓜割りと同じくこの釘バットで饅頭を叩くだけ! 簡単でしょう?」
簡単だ。しかし咲夜はそれを断った。
「いえ、それには及びません。パル、武器の使用を許可します」
「良いの?」
「ええ」
咲夜のそれは、例えるのなら封殺寸前の獲物を真綿でじわじわと甚振り殺すような、そんな笑みだった。
「分かった!」
そんなことにパルは気が付かずに頷き、何処からか鮪包丁を取り出して元に近い大きさまで肥大化させた。美少女×巨大刀という絵面に観客たちはこれでもかと沸き立ち、拳を振り上げる。
「うおお! こ、これは凄い!」
「行けー!」
「殺れー!」
パルが握りを確かめるように素振りし、その合間に司会と咲夜が細かな打ち合わせをして、パルを呼び寄せて着せ替えた。
「まずは目隠しをして……衣装は……」
「あ、それならこちらのメイド服とロングスカートを――」
「グッジョブです」
着替えも終わり、司会も観客も完全に熱を持った状態で饅頭割りが始まった。
「さあ、準備は良いですか!?」
「が、頑張ります!」
『ヒェァ! ヒェァ!』
一方で少々気を失っていた霖之助は靄がかかる意識の最中起き上がり、状況を確認する。
――あれ? 私は一体……。
「右だ!」
「前、前、前!」
物騒な声を耳にしながら、霖之助はゆっくりと目を開けて眼前にいる少女を見た。
「……もがぁ!?」
――な、何故パルさんが!? というか何故処刑用のメイド服!?
目の前にいるのは血が飛び散らないようにロングスカートとエプロンを着ているパル。目はアイマスクで隠されており、最上段に構えられているのは霖之助も数度しか目にしたことが無い鮪の包丁の超巨大版。
「うう……難しいよぉ……」
――ま、鮪包丁!? 殺す気ですか!? って、まさか咲夜さんが!?
背後にいる咲夜と視線が合い、物騒にも咲夜は笑顔で右手の親指を下に向けた。間違いなく咲夜が首謀者でありパルは謀られている。だが、声を出そうにも猿轡を噛まされており手足には錠が成されている。こんな状況で霖之助が出来ることはただ一つ、祈ることのみ。
――あわわわわ……は、外してください! どうか外してください!
「う~」
パルの可愛い唸り声に安らぎを覚えつつ、背後から死神の叫び声が聞こえて来た。
「右2cm、一歩前で大きく踏み込んで振り下ろす!」
「はい! 覇斬!!」
パルの数少ない弾幕スペルカード『覇斬』。名はレミリアから、力は美鈴から貰った記念すべき一枚目のカード。
最上段に構えた鮪包丁に全身全霊の気を乗せてから振り下ろす一撃であり、当たると山一つを切り裂く威力がある。ちなみに構えは別に最上段である必要は無いため縦横無尽に乱射することも可能だ。
「――あ……っ」
振り下ろされた瞬間、霖之助は人生初めての走馬燈を見た。思い出されるのは霊夢たちに奪われて行ったレトルト食品たちと打ち直しに失敗して鉄くずとなった名品たち。そしてパルの笑顔。
――床下の隠し扉の奥にしまってある高級レトルトカレー食べたかった……。
その牛肉入り高級レトルトカレーは先の霊夢たちの強盗によりとっくに無くなっているのだが、霖之助はちょっと後悔して逝った。
戻り、確かな感触と破砕された壇上を見てパルは満足そうに咲夜の元へ帰還した。観客たちは恐れ慄くと同時に賞賛をパルに送っていた。
「お見事!」
「おめでとう、パル」
「えへへ。でも、結局饅頭って何だったんだろう……?」
パルの唯一の疑問は解消されること無く、咲夜に手を引かれていた。
それから更に一時間程した後の事だ。
「次はどうしますか?」
パルは、そろそろめぼしい出店も無くなってきたため咲夜に聞くと、咲夜は辺りを見回して面白そうなモノを発見した。
「そうね……あれはどうかしら?」
饅頭パンチマシーンと書かれたパンチングマシンを見てパルは再び首を傾げる。
「パンチマシーン?」
「正確には人体を模したパンチマシーンみたいね」
下手したらR18制限が掛けられてもおかしく無いような遊具を見て、パルは咲夜に勧めてみる。
「今度は咲夜がやってみたらどうかな?」
「私が?」
さっきは自分がやったのと、咲夜のことを思ってのことだ。
「うん! ストレス発散にもなると思うからさ」
パルが言った後で迷っていた咲夜は人体が入れ替わるのを見てしまった。
「……あれ? あの羽ッ毛は……」
血で赤く染まっている白い頭、羽ッ毛、溢れ出る血流と裸の上半身。眼鏡は壊れて無いが、あれは間違いなく彼だ。
「……なるほど。面白そうですね」




