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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
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第十一話 霖之助は血の涙を流した

霖之助「これが私の絶叫だぁぁぁ!」

グラたん「変態之助ですね」

 霖之助を見送った後で霊夢たちは香霖堂へと戻ってきていた。相変わらず雑多としており狭苦しいが埃は一つとしてない。座る場所も最低限確保されており霊夢たちも適当に座りつつ辺りを見回して溜息を吐いた。


「しかしまあ汚いわね」


 霊夢の一言を待っていましたとばかりにメンタと魔理沙が立ち上がった。


「これは酷いですね。ちょっと片付けますか」

「それが良いぜ。私も手伝うか」

「珍しいわね、魔理沙がそんなこと言うなんて」


 霊夢が茶化すと魔理沙は可憐に笑って告げた。


「霊夢、私が真面目に働くときは対価が付き物だ。おっと、茶葉発見。貰い」


 魔理沙が手に取ったのは如何にも高そうな小鼓に入った茶葉だ。魔理沙にしろ霊夢にしろお茶葉飲めれば何でもいいため無駄も良いところなのだが、気分なのだろう。


「そうだったわね。あ、インスタント食品もあるわ。霖之助は最悪霞でも食べていれば生きていられるから貰っていきましょうか」


 いつもの床下を開けるとそこには『美味しい妖怪パスタ』『業務用カップ麺』『高級和牛入りレトルトカレー』と書かれたインスタント食品が綺麗に並んでおり、特にカレーは霖之助も好物のため床下の一番奥に隠していることが多い。勿論、その癖を霊夢は知っているため発掘して適当な袋に詰めていく。


「あ、この銃とか良いですね。弾幕も良いですけど護身用に一丁くらいあっても良いですからね」


 メンタもメンタで修理仕立てと思われるアンティークな銃を手に取った。護身用などと嘯くが今のメンタにはまるで必要のないものだ。それでも欲しいと思ったのは『恰好良い』からだ。

 しばらく物色して一通り落ち着いた頃に霖之助が帰って来た。そのあまりにも予想通り過ぎる光景に頭痛を憶えつつ、やはり、というべきか霖之助は落胆した。


「何だかんだで物色されてますね」


 霖之助が帰って来たことに気付いた魔理沙が背中を向けつつも答えた。


「どうせ使わないガラクタばっかだろ? 回収してやるだけありがたく思え」

「恩着せがましく言ってますけど、普通に強盗ですからね? あとさり気に茶葉持っていくの止めてくれますか? 霊夢さんも私の生命線のレトルトを物色するのは――」


 その言葉が最後まで続くことは無かった。霊夢たちとて自分たちがやっていることが窃盗強盗なのは良く分かっていたため、そしてそろそろ通報されそうなのを分かっていたため一つ暴挙とも言える手段を取り、とあるブツを探していた。


「あ、見つけました!」


 メンタが古めかしい棚の二段底から取り出したのは男性であれば誰でも一冊は持っているいかがわしい本だ。メンタは自分でそういう本やイラストを書くため手に取ることになんら抵抗はなく、鬼の首を取ったかのように喜々として高々と上げていた。

 逆に霖之助は全身の血が沸騰するような感覚を憶えていた。生まれてより味わったことのない絶対的な恐怖と唖然とした寒気が一度に脳を揺さぶっていた。これが同じ男性に見つかってしまうならまだ笑い話で済ますことも出来ただろう。しかし女性に、よりにもよって薄い本の中にいる二次少女たちに近い年齢の少女たちに発見されるなど絶対にあってはならないことだ。霖之助は今、死地に立たされていた。


「おっ、こっちにもあったぜ」


 次いで魔理沙も天高く掲げ、霊夢も『へぇ……』と少々軽蔑を含んだ声を上げてから適当に捲ったページを霖之助に見せていた。


「あら、巫女服少女がメインの薄い本なんて良い趣味しているわね」


 霖之助に逃げ場は無い。特に霊夢の持っている本は冗談無しに軽蔑されること間違いなしの一品だ。だから、せめてもの抵抗に霖之助は血の涙を流しながら叫んだ。


「――勝手に持ってけドロボー!」


 その悲しい叫びは里中に響いたとか響かなかったとか。

 薄い本をすべて回収し終えた霖之助はこれでもかと下手に出て、出す予定のなかった玉露と午後のおやつに取っておいた甘いブルーベリーの乗ったタルトケーキを霊夢たちに献上していた。

 霊夢たちもそこまでして貰えば文句の言いようはなく大人しくおやつを食べていた。そして一息ついたところで魔理沙が本題を切り出した。


「で、霖之助。今回の事変についてだが、何か知っているか?」


 霖之助は今すぐにでも自殺したい思いを必死に押しとどめつつ答えた。


「さて……私とて万能ではないので。今回の防衛も偶々未来視出来る程度の道具を使っていたら見えた未来でしたし」

「ならそれを使えば今後の対策が立てられるんじゃないか?」

「一日一回限定なので明日で良ければ見ますよ?」


 使えはするが、霊夢は舌打ちした。


「……強力過ぎる能力の代償ね」

「一応この事は早苗さんや咲夜さんや妖夢さんにも伝えておきますね」


 霖之助が言うと魔理沙が先の事を思い出して手を打った。


「ああ、その事なんだが今回の犯人はレミリアだ」


 魔理沙の答えに全員が唸る。


「レミリアさん、ですか?」


 無論、メンタはレミリア・スカーレットのことを知っている。霊夢たちもそれをある程度察してか無用な説明は省き、霊夢は続けた。


「無縁塚に居た妖怪を拷問して聞き出したらしいわ」


 そんな霊夢の言い様に魔理沙は肩を竦めつつ訂正した。実際、拷問と尋問では全く異なる上に目の前にいるメンタの瞳が怪しく揺らいだせいでもある。


「尋問にしておいてくれ。と、まあそんなわけで数日中には紅魔館に殴り込みに行こうと思っているぜ」


 この里と香霖堂は比較的、紅魔館の傍にあるため霖之助もレミリアや咲夜たちとは時折顔を合わせているため知り合いと呼んでも差し支えないくらいの仲だ。レミリアの人柄を知っているからこそ霖之助は眉をしかめ、薄く笑って思う。

 ――あり得ない、と。


「レミリアさんが……」


 その表情を愉悦と性欲と捉えたメンタは笑みを浮かべて言い放った。


「幼女趣味ですか?」

「――ボブッ!」


 湯飲みに口を付けていた魔理沙が噴き出してお茶を顔面に直撃されつつも霖之助は必死に訂正する。


「違います! 紅魔館の人たちには何かとお世話になっていますからあんまり悪く言いたくないんですよ」


 霊夢は分かってはいるが視線を逸らし、嘲笑する。


「そう……分かったわ。……ハッ、霖之助ロリコン

「何か酷い名称付けましたねぇ!? ……オホン、ともかく私としても事変収集は望むところです。紅魔館が元凶ならば協力しますよ」

「たいした戦力にはならないけどな」


 魔理沙の言う通り、霖之助は戦闘という面においては無能も良い所だ。彼の本職は商売人ということもあってか後方支援物資補給バックアップを任せたのならば比肩する者はいない。しかし霖之助とて男で矜持がある。


「くっ、私だってこの天下無双剣が使えれば……」


 視線を向けた先にあるのは壁に掛けてある巨大な大剣だ。道具の使い方が分かる程度の能力者である霖之助が『斬れない物は無い』と言わしめる程の剣だ。


「無駄にでかくて硬い剣ね。能力は無双出来る程度だったかしら?」

「そう! これさえあれば紫さんにも負けないくらいの力が手に入るんですよ!」


 実に使われれば紫でさえも瀕死になりかねない聖剣の類でもある。ただし、霖之助自身に武の才は無いため宝の持ち腐れ、店の肥やしになっている。


「めっちゃ闇落ちしそうな人ですね」


 メンタの追撃に霖之助は畳に手を突いて落ち込み、代わりに霊夢がフォローを入れた。


「あ、それ言わないであげて。ほら、泣いちゃうから」

「うう……どうせ貧乏くじ役ですよ。何時か……何時かきっと……」


 霖之助の女々しい泣き声が聞こえ始めた所で何もない空間に巨大な目が出現し、中から八雲紫が音もなく姿を現して霊夢の持っていた羊羹に手を伸ばした。


「それは楽しみにしておくけど、皆、また事件よ」

「あ、私の羊羹とお茶!」


 もしゃもしゃと美味しそうに頬張る紫に霊夢が取り返そうと必死に手を伸ばす。


「次は何でしょうか?」


 霊夢がそんな状態のため代わりにメンタが聞き返した。紫はもう一口頬張って飲み込んだ後に小さい串を揺らしながら答えた。


「今度は別の里が襲われているわ。スキマで送ってあげるから準備して頂戴」


 それを聞いて霊夢が明らかに嫌そうな表情をする。


「げぇ……」

「今までサボっていたツケが回って来たと思いなさい」


 霊夢は一度溜息を付いてから紫を見上げた。


「じゃー、一回博麗神社に送ってよ。このレトルト品邪魔だから」


 レトルトカレー、レトルトシチュー、レトルト牛丼……果てはカップラーメンに至るまで搾取された品が紙袋の中に入っており、紫は苦笑いし、霖之助は頭を抱えて絶叫した。


「私の生命線ー!」

「しょうがないわね。ほら入って入って」


 紫がスキマを開き、各自その中にレトルト食品を放り込んでいく。ややあってから霊夢たちは面倒くさそうに立ち上がり、別のスキマに入っていく。


「よいしょっと、さ、行くわよ」

「面倒くさいなぁ……」

「頑張りましょう! 張り切ってレッツ爆砕!」


 メンタの狂気的発言を最後にスキマが閉じられる。それを確認してから霖之助は深い溜息を吐き出した。紫は苦笑いしながら霖之助の肩に手を置いて慰める。


「いつも以上に騒がしかったですね」

「全くですよ。しかもまた変人が増えてますし」

「ふふふ、彼女――メンタさんは巫女としての素質も持っていますから……贔屓してくれるかもしれませんよ?」

「そうだと良いんですけれど……はぁ、あの娘が唯一の癒し……」


 そんな霖之助の声が聞こえたかの如く玄関で薄紫色の髪が揺れた。


「霖之助さーん、食材の御裾分けに来ましたー」


 誰が見ても可憐というだろう容姿に半袖のメイド服。胸元はやや大きめに開けていて男性であれば自然とそこに眼が行ってしまうだろう。表情は常に明るく、見る人を元気づける。霖之助も例に違わずその一人であり、霊夢たちを見た後では尚の事心が癒されていた。


「噂をすれば何とやらですね」


 彼女、パルが手に持っているのは木の籠だ。中には地域特産の紅魔ジャガイモ、紅魔ニンジン、レタスなどの野菜が詰められている。紅魔館ではこれで生計を立てていると言っても良い。里、主に香霖堂を中心に売って回っており咲夜と美鈴が丹精込めて育てているため品も良いため買い手は多い。


「こんにちは、霖之助さん。はい」

「今日もありがとうございます、パルさん。最近は妖怪の性で市場の野菜や肉が高くなって、その上不作続きですから助かりますよ」


 近年は博麗の巫女のおかげで妖怪の姿が格段に減っているが被害は未だに続いており、商業のルートにも妖怪は現れるようになっている。

博麗神社に依頼すると報奨金をものすごくぼったくられるので大抵は陰陽師に依頼する。しかし陰陽師は博麗の巫女程の力は無いため返り討ちに遭うことの方が多く、中には命惜しさに逃げる輩もいるため依頼も格段に減っている。そうなれば当然治安も悪くなり――というのが現状だ。


「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。あ、今日は部屋を片付けていたんですか?」


 パルが雑多になってしまっている部屋の中を見て聞くと霖之助は半分笑いながら答えた。


「いやはや。先程まで妖怪の襲撃がありまして、そっちの対応をしていたんですよ。片付けの方は霊夢さんたちがやってくれました。ただ……レトルト品とか茶葉とか拳銃とか持っていかれましたけど」


 パルは霊夢たちのことを知らないが何か凄い事が起きていたことだけは分かった。


「あはは……大変ですねぇ」


 それくらいしか言えることは無く霖之助も話題を変えることにした。


「あ、そうそう。魔理沙が言っていたんですけど、今回の事変の首謀者はレミリアさんだって言っていましたよ」 


 霖之助はパルの反応で何か分かるかもしれないと少々期待する。もしも本当にレミリアが首謀者ならばパルから咲夜に伝わり、何かしらやってくれるかもしれないとも考えていた。


「ええ!? それ、初めて聞きましたよ!?」


 しかしパルも知らないようで驚いていた。それを聞いて霖之助もやはりと確信する。


「やっぱりそうですよね、私も何かの間違いだとは思っていたんですが……もしかしたら明日にでも紅魔館に霊夢さんたちが襲撃するかもしれないので注意してくださいね」


 霖之助の注意を受け取ると同時くらいに外から咲夜の呼ぶ声が聞こえてくる。パルとしてはもう少し情報を集めたい所だったが咲夜を優先して切り上げることにした。


「ありがとうございます、霖之助さん。そろそろ行きますね」

「ええ、お気をつけて」


 パルが笑顔で手を振り、霖之助と紫も笑って彼女を見送った。

 パルの姿が完全に見えなくなり霖之助は畳に座って肩肘を突いて呟いた。


「ああ、やっぱり良い娘だ。メンタさんとは大違いですね。……ぶっちゃけお嫁に欲しいくらいですよ」

「本当、あの娘、従者に欲しいわ」


 霖之助に続いて紫もあまり融通が利かない藍の事を思いつつそんなことを口にしていた。しかし――。 


「ま、そんなこと言っただけで咲夜さんのナイフが――飛んできましたね」


 玄関付近で聞き耳を立てていた咲夜が時間を止めてナイフを投げ、紫は余裕の笑みで避け、霖之助の額には二本のナイフが突き刺さっていた。



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