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第2話

アメリアとクロエはゴブリンから逃げ出してから数時間走り続けていた。今現在彼女達の周囲に何もいなくても2人の心は完全に一致していた。


(立ち止まったら、死ぬ‼︎)


だが、可笑しい。2人は森の入り口付近でゴブリンに遭遇したはずだ。ならば、疑問に思うのも無理ないだろう。


(なんで、なんでまだ外に出ないの?)


この疑問を口にしたら心が折れてしまうかもしれないと思い、我慢していたアメリアだったが、その横を走るクロエが先ほど考えたことを言ってしまう。


「なんでまだ森の外に出ないの?もしかして…」

「言わないで!」


その先を聞いてしまうと本当に心が折れてしまいそうな気がして全力で走りながらも必死で叫び、クロエの言葉の続きを言わないようにさせた。


「ご、ごめん…」

「あ、ううん。こっちこそごめん。クロエは私が連れて来てしまったのに…」


本心から絞り出された悔恨の念を聞いたクロエはその言葉に同意し、アメリアを責めることなく、逆に今までとは打って変わり、まるで聖母のような慈しみを込めた微笑みを顔に浮かべ、アメリアに言った。


「ううん。アメリアが1人の時にこんなことが起こらなくてよかったよ」


クロエの表情と言葉に巻き込んでしまったのにも関わらず、自身への心からの思いやりが込められていることに気づいたアメリアは思わず涙ぐみ、そのまま泣いてしまいそうになったが、現在の自分が置かれた状況を思い出して、必死に我慢した。


そこから更に1時間。様々な魔物に遭遇しては逃げてを繰り返している内に段々と敵が強そうになり、自分たちが森の奥に向かっていることを認めざるを得なくなった。


そうして2人が絶望しながらも走り続けていると、2人の目にはあり得ないものが飛び込んで来た。いや、普通の森ならば、おかしくはない。だが、この森にはあるはずがない。

そんな気持ちが2人の心を覆い尽くす。

そう、2人の前にはなんの変哲も無いログハウス(・・・・・)が建っていた。


それをこんな場所で見かけると、普通は恐怖か気味の悪さを感じるだろう。だが、2人は今、極限状態と言ってもいい精神状態だった。それはいつまでも森から抜けられないという絶望からか、もしくは自分たちはもう助からないという諦観からか、はたまた自分たちが助かるかもしれないという根拠のない一抹の希望からか、あるいはその全てだろうか。あらゆる要素が重なり、2人の心を埋め尽くすその感情は、まるで幼子のような一片の曇りもない好奇心だった。


「ねえ、入ってみない?」

「うん。ここで躊躇しても何も生まれないしね」


今の2人からは恐怖という感情が完全に欠落していた。危険地域で恐怖を失うというのは文字通り命取りであろう。だが、この状況では誰も2人を責められないであろう。そう思わせるほどの何かがその小屋にはあった。


2人は自分の欲求に従い、なんの躊躇いもなく小屋のドアを開け放った。

ドアを開けた2人の目に映ったのはなんの変哲も無い普通の家の風景。

その中心で(・・・・・)座っている男(・・・・・・)を除けば。


男は瞑っていた両目を開き、2人の顔をゆっくりと見渡した後に言い放った。


「こんなところに何の用だ?」


だが、2人は答えられなかった。それもそうだろう。何故なら2人は男の持つ歴史上のどんな偉人でも敵わないであろう覇者(・・)の雰囲気に完全に呑まれていたのだから……


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