始まりと覚醒
2年1組女子が体育中の体育館には、教師の怒りのこもった声が響き渡った。
「智優さん、いつになればアクセサリー類の着用は禁止ということがわかるんですか!」
声の向かう方向は黒髪で短めのミディアムヘアの少女、智優 流美がいる方向だった。彼女の右手には、数珠のようなアクセサリーが付いている。
智優 流美は成績は中の下、運動能力もほぼ平均値というごく一般的な女の子だ。
「いやぁ、すみません。でも、勘弁してくださいよ。これ、両親の形見なんです。ひと時も離したくないんです。両親と繋がるものがなくなっても嫌だから。」
そういうと流美の顔は少し暗くなった。
「あとですね!外れないんですよ、これ!すごくないですか?離したくないっていうか離せないんですよね!」
この言葉を境に流美の顔はまた明るくなった。
「そんな訳がないじゃないですか!ほら!右手を貸しなさい!」
教師は力一杯アクセサリーを引っ張ったがまるで固定されているかのようにビクともしなかった。
「ほら言ったじゃないですか。私はいつかこれの理由を探し出すんです。では!」
そう言うと流美は運動をしている生徒の集まりに混ざっていった。
「流美ちゃん、またそのアクセサリーの話?」
そう流美に話しかけたのは流美のクラスメイトで親友の桐谷 詩乃だった。
「そうなんだよ。ったく、なんなんだろうな、これ。」
流美は右手を見つめながらそう言う。
「外れないってことは何かあるんじゃない?絶対そのアクセサリー何かなる日が来ると思うよ。」
「だろうな。まぁ、待つしかないかな。」
その時だった。上方、天井からの大きな音が教室に響いたのは。体育館にいた全ての人はそっちに集中した。そして彼女たちは見た。本来青いはずの空が真っ暗に染まっているのを。黒い人型の炎の大群がこちらに向かってきているのを。
体育館内がざわつく。奴らには確実に敵意がある。黒い炎が着地した瞬間、生徒たちは一心不乱に出口に走り出した。全員の心の中には確実に同じ感情が渦巻いていた。それは、恐怖だ。皆が理解していた。捕まれば、死ぬということを。
「詩乃!私たちも逃げよう!」
「だめ!扉は全部開かないみたい。どうしよう……もう……」
詩乃は扉を指差した。扉についているというのに誰も外に出ない。詩乃の言う通り、開かないのだろう。
黒い炎が人混みの中の1人に近づいた。黒い炎が彼女に触れるとたちまち彼女は燃え始め、恐怖と絶望が混じり合った叫び声をあげた。彼女がどんなに足掻こうとも炎はうろたえることなく燃え続けている。少しして炎が消えると、そこには彼女と見て取れない黒く焦げた塊が落ちていた。
「捕まったら、私たちもああなるのか?くっそ!どうする!?何か目的があるはずだ!目的がわかるまで逃げるしか……」
しかし、その時にはもう遅かった。流美たちはもう複数の奴らに囲まれ、じりじりと迫られていた。
「もうだめだよ流美ちゃん……死にたくないよぉ……」
「諦めるな詩乃!くっそ母さん!父さん!助かるなら今だろ!?ほら今死にそうなくらいピンチなんだよ!助けてくれよ!なぁ!」
流美は右手を握りしめ叫んだ。その時、アクセサリーは大袈裟な音をたて粉々に割れてしまった。
「なんでだよ……なんだ助けてくれないんだよ……ちくしょう!てめえら覚悟しろ!私だけでなく!私の友達まで巻き込んだことを!私が死んでも恨んでやる!絶対に、後悔することになるぞ!」
そんなことを叫んだ時、上方から何かが落ちてきた。棒状のもの。それはボロボロになった刀だった。
「これは……刀か?」
「流美ちゃん!それを取って戦って!みんなを助けるにはそれしかないよ!」
「おう……やってやる!てめぇら!覚悟しやがれ!」
流美は刀を抜いた。その瞬間、流美の心の中にはある感情が渦巻いた。それは、怒りだった。
ふと手の方を見ると右手の方にスイッチのようなものがあった。
「これを押してあいつらを助けることができるなら……やってやる。」
流美はスイッチを押した。すると流美の体の中から何かが吸い取られていくような気がした。その時、流美の怒りの感情は最高潮に達した。刀には、奴らと同じ黒い炎が灯っていた。